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佐藤の単元別超教科書シリーズ 佐藤の数学教科書 数と式編

はじめに
「数と式」は数学の骨格
「数と式」は、数学を学ぶ上での根幹をなすものです。たとえてみれば、私たちのからだの骨格に相当するものと言えるでしょう。その意味で、絶対に不可欠なものなのです。
この「数と式」の形が整ってきた 17 世紀からは、数学の発展は目ざましく、その進歩には目を見張るものがあります。
しかし、この「数と式」がその形を整えるまでに、人類の歴史では、5千年から6千年の長い年月を必要としました。現在、私たちがこの単元を学習するのに、1年にも満たない時間が用意されているだけです。
ここで、注意したいことは、実際の数学の歴史的な発展の順序と、小学校や中学校そして高校で学ぶ教科書の順序とは異なることが多く、とても意外なのです。それは実際の数学の歴史的な発展は、その時代の要請によるところが大きいからでしょう。
つまり、必要は発明の母と言われるように、人間が生活を集団で行なうようになったとき、自分の土地を確保し、農耕や狩猟を通して、ものを数えることから始まり、土地を測量する必要が生じ、計測の方法を確立する重要さを知ったのです。これがいわゆる算数の始まりです。
最初に扱った数は、もちろん自然数です。まもなく、土地の測量や建築物の計測を通して幾何が発達し、相似比の考えから、分数が用いられるようになりました。古代ギリシャの数学者アルキメデス(BC287-212)は円周率πを正 96 辺形の周を正確に計算して近似値として3 10/71<π<3 1/7 を得ました。これは現在使われている π=3.14 という円周率の近似値ですが、アルキメデスは分数3 1/7を用いたのです。
ところで、この 3.14 という小数が数学の世界に登場してきたのは、16 世紀のことで、オランダの測量技師シモン・ステヴィン(1548-1620)が、小数を発明して以来のことです。実は、中国の数学者祖沖之(429-500)がすでに、円周率について 3.141592 と小数第6位まで正しく求めていたのですが、このことはあまり知られていません。
ステヴィンは、小数が測量には便利で計算しやすく、その上、きわめて正確で実用的であることを、社会に知らしめる努力を惜しみませんでした。残念ながら、アジアの数学者は閉鎖的でしたが、一方、西欧の数学者は開放的でかつ積極的でしたから、あっという間に、小数はヨーロッパ全体に広がります。
「数と式」の本質とは
さて、本書で学ぶ「数と式」の本質は、その抽象化と翻訳化にあります。
まず、ものを数えるということですが、クルマが1台、犬が1匹、小鳥が1羽、ボールが1個、ニンゲンが1人、エンピツが1本、……を表現する数字はすべて同じ「1」で代表できると知ったとき、知識の抽象化が始まったのです。
さらに、これらの数字を、文字 a、b、c、…で表現しようとしたとき、そこに対象の翻訳化が起こったのです。
このように、「数と式」は、抽象化に入る入口であり、抽象化に慣れる道具です。そして、「数と式」を通して算数から抽象化と翻訳化によって、数学へと上昇するのです。つまり、数学は「数と式」を学ぶことによって抽象化の階段を昇って行きながら、数学の根幹をなす翻訳力と遂行力(式変形の基礎)を修得していくのです。同時に、数と文章を式に翻訳することの意義も学習します。
すなわち、数と文章を式に翻訳することは、目に見えなかったものを抽象化することによって具体的に見える形をとることですし、特殊な場合だったことを普遍化して一般の場合として捉え直すことです。つまり、翻訳化と抽象化は数と式の学習において、表裏の関係にあることを認識する大切な知的作業なのです。
逆に言えば、抽象化という思考の働きに慣れて習熟してくると
文章や式→翻訳化→具象化→視覚化
という現象が起こります。より詳しく言えば、「数と式」を学習する意味は
文章と式→数と式(抽象化<翻訳化>)→目に見える形(視覚化<具象化>→答(演算<式変形>)
というフローチャートを熟練することです。
問題解決の4つの視点
本書では、数と式の定義から学び、具体例で理解を深め豊富な練習問題を通して、抽象化と翻訳化の意味について考えます。そして、数学の問題を解くために必要な4つの視点と12 個の力を絶えず意識することによって、確実な問題解決力が修得できるように執筆しました。では、その4つの視点と12 個の力とは一体何でしょうか。それは、問題を解く際に、私たちがとる行動の基準なのですが、
まず、問題を読み分析する力(読解・分析力)で、
1.問題の構造を分析できる力
2.条件を把握できる力
3.定義・定理を復元できる力
次に、解答に向かって目標を設定する力(目標設定力)で、
1.論理的に展開できる力
2.類似問題を連想し利用できる力
3.具体化して様子を見ることができる力
さらに、内容を自分の言葉に置き換える力(翻訳力)で、
1.文字を使いこなすことができる力
2.図・グラフ・表などを使いこなす力
3.文章または式に言い換えができる力
最後に、解答を作成する力(遂行力)で、
1.手法を選択することができる力
2.目標に向かって具体的に展開することができる力
3.設問を活用していくことができる力
です。
本シリーズでは、一貫してこの方法を学んでいきます。じっくりと腰を据えて取り組んでください。
佐藤恒雄