大学受験|数学
佐藤の数学教科書 個数の処理・確率編

日常生活の中の見えない数学
本書では、「場合の数」と「確率」を扱います。
まず、ここで扱う「場合の数」は、日常生活の中で起こる数学の現象をテーマにしたものです。私たちの身の周りに起こる数多くの「数学」を考えるのですが、その「数学」ははっきりと数学と意識されないものが多いのです。
昔から人々は、日常生活の中で起こる問題を数学とは意識しないで、素直に数え上げて来ました。たとえば、紫式部は「源氏物語」五十四帖のうちの52の名前を
(1)帚木 (2)空蝉 (3)夕顔 (4)若紫 (5)末摘花 …… (50)浮舟 (51)蜻蛉 (52)手習
とつけています。
この52という数字は偶然の産物ではなく、源氏香(げんじこう)と言われる香の焚(た)き方の種類の個数から来ています。詳しくは54ページのコラムを読んでほしいのですが、それは組合せの考え方を用いたものです。
このような複雑な組合せの問題を平安時代の作家が取り扱っていたことを思うと、順列、組合せなどの考え方は日常生活の中にかなり行き渡っていたように思われます。たぶん、それは法則として処理するのではなく、手作業できちんと数え上げてすべての場合を尽くしていったのだろうと思います。
時代が下がって江戸時代に入ると、吉田光由(よしだみつよし)が書いた「塵劫記」の中に、組合せを法則化したパスカルの三角形が登場しています。このような歴史の流れを見ますと、「数え上げたいものの集まり」の構成分子の間に何らかの相互関係を発見し、それがものの集まりがもつ構造となることを知ったのだと思います。そして、さらにその構造がもつ規則性を考察することによって、法則を創出するという作業を西洋の数学者たちやわが国の数学者(和算家)が行っていったのでしょう。
しかも、この日常生活に密着し頻繁に起こる場合の数の数え方は、数多くの人々が扱っているのですが、誰がこの法則を発見し、誰がこの方法を見つけたのかということはよく判っていません。はっきりしているのは、確率の問題を提示され、それを解くために計算し、事柄を数値化するという作業を明確に意識して、それを独創的に成し遂げた数学者ブレーズ・パスカルの名が記憶されているに過ぎません。
たとえば、ものを数え上げるのに役に立つ方法に「樹形図」というものがあります。これはとても便利な方法ですが、これとて誰が導入し始めたのか、浅学な私は知りません。しかし、その方法だけは広く広まっています。
本書の目的と構成
本書では、問題の分析を通して、条件や性質を吟味することによって、和の法則や積の法則をどのように適用するかを考え、複雑な手続きをより簡単な計算手段つまり
順列や組合せの個数の問題
として処理する仕方を学びます。
処理する仕方の原理は、数え上げるための事柄を具体的に整理することと分類することです。この行為を
具象化または具体化
と呼びます。この行為の目的は、対象とする事柄の
数量化または数値化
と言われるものです。そのためには、場合の数を漏れなくしかも重複しないで数え上げなければなりません。
そこで、本書では、まず、「場合の数を素直に数えた方がよい場合」を考え、表や樹形図などを用いて、数え上げ方のトレーニングを行います。ここで、具体的に2つの事柄A、Bに対して、和の法則と積の法則の使い方を学びます。この2つの法則は、本書を通して貫く数え方の基本的な考え方です。
次に、「やや複雑な場合の数の数え方」を考えます。場合の数に少しあやがつくと途端に難しく感じられます。その場合に、どう考えたらよいのか、基本に立ち戻るというか、数え方の原点に戻って考える姿勢を身につけてほしいのです。
それから、順列と組合せの公式化に移ります。公式はとても便利なものですが、正しく早く使えてこそ価値があるのです。大切なことは、
公式の作り方
です。出来上がった公式はどれも大切ですが、とりわけ個数の処理の場合の公式は、個数の処理に関する普遍的な数え方とその方法を抽出して個別的に具体化し数値化したものですから、その基本となる数え方がきわめて重要なのです。
また、確率はパスカルとフェルマによって創始された理論ですが、これは偶然と思われる事柄を具象化し数量化して、数値化に成功すると、偶然と思われる事柄の起こりうる蓋然性を測ることができます。ここでも、個数の処理が必要な手段であることを痛感します。そのことがスムーズに学べて、問題を楽しく考えることが望ましいです。
4つの視点と12の力
そのために、問題解決に必要な4つの視点と12の力をどのように活用すべきかを丁寧にわかりやすく解説しました。
では、その4つの視点と12 個の力とは一体何でしょうか。それは、問題を解く際に、私たちがとる行動の基準なのですが、
まず、問題を読み分析する力(読解・分析力)で、
1.問題の構造を分析できる力
2.条件を把握できる力
3.定義・定理を復元できる力
次に、解答に向かって目標を設定する力(目標設定力)で、
1.論理的に展開できる力
2.類似問題を連想し利用できる力
3.具体化して様子を見ることができる力
さらに、内容を自分の言葉に置き換える力(翻訳力)で、
1.文字を使いこなすことができる力
2.図・グラフ・表などを使いこなす力
3.文章または式に言い換えができる力
最後に、解答を作成する力(遂行力)で、
1.手法を選択することができる力
2.目標に向かって具体的に展開することができる力
3.設問を活用していくことができる力
です。
本シリーズでは、一貫してこの方法を学んでいきます。じっくりと腰を据えて取り組んでください。
佐藤恒雄