大学受験|数学
佐藤の数学教科書 三角関数編

■はじめに■
「三角関数編」について
三角関数の起源は,古代ギリシャの数学者ヒッパルコスが発明した三角比にさかのぼることができます。ヒッパルコスは直角三角形OAB を用いて三角比を考えました。それを右図のように,半径1 の円の中に描き,点B を円周上にとると,OB =1 ですから,角AOB をθとおくと,三角比の定義によって
OA =cos θ,AB =sin θ
と表示することができます。
したがって,この段階ではθが固定されていますから,三角形OAB は動くことはなく,OA ,OB も定数です。したがって,ヒッパルコスは変化しない三角形を扱ったのです。これが,ヒッパルコス時代の三角比でした。
ところが,デカルトが座標平面を考案すると,図形に対する見方と考え方が一変し,状況が複雑になってきます。動かない図形に動的な要素を加味して,図形の変化の様子と性質を調べようという気運が高まります。パスカル親子,デザルグ,フェルマなどの射影幾何学,デカルトの解析幾何学です。三角比について,どのように変化し発展して行ったかを見てみましょう。
直角三角形OAB において,角θの値をいろいろ変化させて,横の長さOA ,縦の長さAB の値の変化を調べてみると,右図2 のようになります。
つまり,x 軸とy 軸をとり,その原点を円の中心O と一致させます。そして,頂点B を,円周上を回転させて,B1 ,B2 ,B3 ,・・・というように連続的に変化させると,三角形の高さAB の値は,A1B1 ,2B2 ,A3B3 ,・・・と変化していきますが,y 軸に関して対称な三角形では,同じ横,縦の長さの値をもつことがわかります。
また,点B が円を一周して元の位置にもどり,そこから再び点B が動いて一周すると,辺に関して同じ現象が生じることになり,三角形の高さも横の長さも同じ値がくり返し現れることがわかります。その円周上の点B が回転する様子を目に見えるように工夫してつくった機械が左図3 のようなものです。これによると,sin x とcos xの値の変化がはっきり目に見えます。
この機械は,円周に0 °から360 °までの角度を目盛った半径1 の円をつくり,その中に半分の半径をもった円の直径の一端B が大きな円の中心O のまわりを回るようにしておきます。そのとき,x 軸と小円の交わりA が直径とx 軸とのなす角x の余弦(すなわちcos x =OA )であり,y 軸との交わりが正弦(すなわちsin x )になります。それは直径OB の上に立つ円周角ですから,いつでも直角ができるのです。角が360 °増すと,直線OB は元の位置に来ますから,sin x もcos x も同じ値になるはずです。つまり,sin x はx の360 °ごとの増減に対してくり返すことになります。
三角関数の特徴は,この周期性にあります。その形からわかるように,この曲線は理想的な波形になっています。この波が360 °ごとにくり返されるので,周期関数とよばれます。
サイン曲線は,いろいろなところに顔を出しています。例えば,円柱に紙を巻きつけて,それを円柱ごとに斜めに切って広げてみると,サイン曲線の形に切れています。
また,私たち人間の発病状態にも関係があります。ベルリン大学のフリーズ博士が,耳鼻科の診療に来る患者のための発病のカルテを調べてわかったことは,人間には周期性があるということで,これをバイオリズムといいます。
身体が23 日,感情が28日,知性が33 日を周期とするリズムで状態が変化しているのです。この様子を表現するのに適している曲線がサイン曲線です。また,2 次曲線といわれる円,楕円,放物線(数学C )は,アポロニウスの定義にもどって表現すると,コサインが顔を出します。つまり,焦点F と準線g を基にすると
FA +PB =FC
が成立します。ここで,
FA =rcosθ,PB =r/e,
eFC =FD =p
ですから,上式は
rcos θ+r/e=p/e
∴recosθ+r =p
∴r =p/1+cosθ@
と表示できます。このように,曲線上の動点P を2 つの変数(r ,θ)を用いて表現する方法を極座標といいますが,この方程式!は0 <e <1 のとき楕円,e =1 のとき放物線,e >1 のとき双曲線 になります。
このように,古代ギリシャの数学者たちが円錐曲線とよんでいろいろ研究していたものをコサインを用いて簡単な式に表現できてしまうことにcos の威力を見るのです。
このようにして得られたθの関数であるsin θやcos θなどの三角関数は,多くの数学者の努力によって飛躍的に発展します。
とくに,スコットランドの著名な数学者グレゴリーと英国の数学者ウォリスは三角関数の研究で有名です。グレゴリーは,逆三角関数についても考察し,tan −1 θの級数展開にも成功しています。
ケンブリッジのルーカス教授職にはじめて就いたバロウは,ニュートンの恩師です。バロウは英国の指導的な神学者であると同時に物理学と天文学にも深い造詣をもっていました。天文学の研究には三角関数を利用しました。
ニュートンはペストを避けるために故郷に帰りましたが,そこで接線の引き方,曲線の曲率半径の求め方,流率法の発展,方程式論の応用などの業績をあげたのです。師バロウは,彼の天才に驚嘆し,教授職を27 歳のニュートンに譲ってしまいました。
流率法とは微分積分学のことですが,これを利用して関数の級数展開,とくに二項級数を求めました。ニュートンの微分積分学をさらに発展させた多くの数学者がいましたが,とくに英国のテーラーやマクローリンです。
彼らは,画期的な定理——関数の展開定理——を発見しています。これらの定理は,関数の解析的な性質の研究,つまり関数の解析性の解明に大きな寄与を果たしました。同時に,ライプニッツの流れを継いだフランスのラグランジュ,ラプラス,フーリエも著しい貢献をしています。とくに,オイラーは,この関数の展開式を用いて,驚くべき等式
e^ix=cos x +iTJO x
が成り立つことを発見しました。これによって,三角関数と指数関数の間に密接な関係があることがわかりました。
フーリエは,関数がある条件を満たせば,その関数は三角関数の級数に表現できることを発見しました。二人の偉大な天才コーシーとガウスは,三角関数や指数・対数関数を用いて,関数論といわれる複素解析学の土台を創造します。これらは不朽の業績といえるでしょう。
数学を通して身につける力
私は長年にわたって大学入試の問題を作って来ました。同時に,毎年膨大な量の答案を採点して来ました。その立場から,ぜひ高校生の皆さんに伝えたいことがあります。それは,採点基準の背後にある,数学を通して身につけなければならない問題解決のための4 つの視点と12 の力です。
まず,T問題文を正確に読んで題意をつかむ力(読解・分析力)です。これは,問題全体を見渡す働きをしている力で,この力をさらに分類すると,
1 .その問題全体の構造を把握できる力
2 .問題の条件を把握する力
3 .定義や定理を復元する力
になります。与えられた問題に対して,これらの力が適切に使われるならば,解答は半ば成功といえるのです。
2 番目は,U題意を言い換える力(題意の翻訳力)です。これは,正確につかんだ題意を目に見える形に翻訳し,客観化する役割を果たす力で,この力をさらに分類すると,
1 .単純化・簡単化を行う文字を使いこなす力
2 .視覚化・具象化していく図やグラフなどを使いこなす力
3 .機能化・具体化を行う文章または式を言い換える力
になります。これらの力の特徴は,「〜化」といわれる,対象に働きかけその対象を変化させる力を意味します。
3 番目は,V当面の目標を定めて,解答までの手順を設定する力(目標設定力)です。これは,解答への足がかりというか,具体的に解答の方向を定め,大きく足を踏み出す力を意味します。この力をさらに分類すると,
1 .論理的・直観的な視点から目標を定めていく,数や式や図形などの目標を定めていく力
2 .経験的・演繹的な視点から目標を定めていく,類似問題を連想し利用する力
3 .実験的・帰納的な表現法を背景に,目標を模索していく力である具体化して様子を見る力
になります。これらの力は,解答するに際して,筋道をつくるために当面のゴールを定める力です。
最後は,計算や式変形を遂行していく力(遂行力)です。これは,数学の答案を実際に作成する場合の基本となる力で,さらに分類すると,
1 .大局的な方針や解法を定める手法を選択する力
2 .局所的には,計算力といわれる目標に向かって具体的に展開する力
3 .問題全体の流れを見極める設問を活用していく力
になります。
これらの力は,実は数学だけでなく英語や国語の問題を解いていく場合にも必要な力になるのです。また,大学に入ってからも,社会に出てからも役に立つ力となるのです。
そしてそれは,人生の途上でいろいろな問題に出会ったとき,その問題を論理的に解決するための力になります。じっくりと腰を据えて取り組んでください。
佐藤恒雄