大学受験|数学


佐藤の数学教科書 微分編

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「微分編」について 

今日,「微分・積分」とよびますから,歴史的にも微分のほうが,積分よりも先に発見されたと思いがちですが,実は,これが逆なのです。先に,積分が考えられ,それから微分の考えが生まれて来たのです。
なぜ,積分の考え方のほうが早く必要になったのかといえば,それは人間の社会生活が発端にあるといえます。人間が増えて,定住者が多くなると,食糧を確保するための土地が必要になってきます。必然的に土地の面積を正しく計算する必要が生じます。面積を計算する際の基本図形は,長方形です。長方形から三角形が分割され,多角形はいくつかの三角形に分割されるので,面積が計算できます。
円の面積の計算に人類は苦労しますが,その壁を乗り越えると,円弧や扇形など単純な図形から複雑な図形へと関心が移り,それらが問題になります。そして,ギリシャの天才数学者アルキメデスはついに,放物線と直線に囲まれた部分の面積を求めることに成功します。これは人類史上画期的なことで,この方法が積分の考えの萌芽になりました。
一方,微分の考えは,デカルトが放物線の接線を求めるのに重解条件を用いましたが,同時代のフェルマは,現在の微分係数の定義とまったく同じものを考えて,曲線上の点における接線の傾きを求めたのです。彼はなぜ曲線の接線の方程式の傾きに関心をもったのでしょう。これには,やはり時代の背景がありました。
中世時代が終わりを告げ,近世ヨーロッパが開幕され,15 世紀の終わり頃,大航海時代は新大陸の発見がきっかけになったのです。航海術が進み,大洋上における船の位置や,寄港地の潮の満干の時刻等を正確に知るために,その時刻における月や遊星の位置をあらかじめ知る必要がありました。そして,遊星の方向を知るためには曲線に接線を引く必要が生じ,また遊星の運動を精密に観測してその軌道を定めるに当たっても,接線の一般的研究が要求されるようになりました。dx /dy がP(x,y)における接線がx 軸となす角の正接であることもわかりました。このdx /dyを求める演算を微分法とよんだのです。
数学上の定理や新しい考えの発見には,えも言われぬきっかけがあります。17 世紀になって,貧しいケプラーが新婚所帯をもちました。新妻と祝いのワインを飲もうと考えて,ワインを買いにワインを作っている農場に行き,ケプラーはびっくりしたのです。酒樽の容積がまちまちで一定でなかったり,容積が最大になる場合を呑口から樽の一隅Cまでの長さOC で測っていたことなどです。
ドイツのワイン製造業者の誰もがその方法でやっているとのことで,ケプラーは二度びっくりです。それで,容積が一定の酒樽をつくり,容積が最大になるように工夫してみようと話をもちかけ,うまくできたら報酬をもらうことにしたのです。これが積分と微分を発見するきっかけになったのです。
ケプラーは,直円柱の酒樽ではなく,弓形の楕円の形をした酒樽を考えます。そして,容積の計算をします。つまり,酒樽の体積の求め方を研究したのです。その方法は,食パンを薄く切って,それを再び加えて元通りの食パンの形になることに注目したのです。
このようにして,ケプラーは容積一定の酒樽をつくるのに成功します。さらに,底面の直径AB と高さBC の長さの比がどんな場合に容積が最大になるかを計算し,
BC/ AB=√2/1
であることを発見したのです。
ケプラーの方法は,「1つの事柄が連続的に変化するときは,最大最小の付近での変化は極めて微小である。従って,
AB :BC =1:1.5 =2:3
としても大差はない。したがって,その中央の部分を少し膨らませてAOD を楕円の弧状にしても,この割合を保つならば最大と見てよい」ということでした。
フェルマは,このケプラーの考えを使って,一般の関数の最大値および最小値を求めようと考えたのです。そして,最大や最小の点では接線がx 軸と平行になるので,
dx /dy = 0
となるのです。
ここまでは,微分と積分の間にどんな関係が成り立つのかまだわかりませんでした。結局,微分と積分の関係が逆演算であることを発見したイギリスのニュートンとドイツのライプニッツが,微分・積分学発見の栄誉を受けます。しかし,ふたりとも微分や積分を突然発見したのではなく,何世紀にもわたって多くの数学者の研究が積み上げられた結果だったのです。


数学を通して身につける力

私は長年にわたって大学入試の問題を作って来ました。同時に,毎年膨大な量の答案を採点して来ました。その立場から,ぜひ高校生の皆さんに伝えたいことがあります。それは,採点基準の背後にある,数学を通して身につけなければならない問題解決のための4 つの視点と12の力です。
それはまず,T 問題文を正確に読んで題意をつかむ力(読解・分析力)です。
これは,問題全体を見渡す働きをしている力で,この力をさらに分類すると,
1.その問題全体の構造を把握する力
2.問題の条件を把握する力
3.定義や定理を復元する力
になります。
与えられた問題に対して,これらの力が適切に使われるならば,解答は半ば成功といえるのです。
2番目は,U 題意を言い換える力(題意の翻訳力)です。
これは,正確につかんだ題意を目に見える形に翻訳し,客観化する役割を果たす力で,この力をさらに分類すると,
1.単純化・簡単化を行う文字を使いこなす力
2.視覚化・具象化を行う図やグラフなどを使いこなす力
3.機能化・具体化を行う文章または式を言い換える力
になります。
これらの力の特徴は,「〜化」といわれる,対象に働きかけその対象を変化させる力を意味します。
3番目は,V 当面の目標を定めて,解答までの手順を設定する力(目標設定力)です。
これは,解答への足がかりというか,具体的に解答の方向を定め,大きく足を踏み出す力を意味します。この力をさらに分類すると,
1.論理的・直観的な視点から目標を定めていく,数や式や図形などの目標を定めていく力
2.経験的・演繹的な視点から目標を定めていく,類似問題を連想し利用する力
3.実験的・帰納的な表現法を背景に目標を模索していく,具体化して様子を見る力
になります。
これらの力は,解答するに際して,筋道をつくるために当面のゴールを定める力です。

最後は,W 計算や式変形を遂行していく力(遂行力)です。
これは,数学の答案を実際に作成する場合の基本となる力で,さらに分類すると,
1.大局的な方針や解法を定める手法を選択する力
2.局所的には,計算力といわれる目標に向かって具体的に展開する力
3.問題全体の流れを見極める設問を活用していく力
になります。
これらの力は,実は数学だけでなく英語や国語の問題を解いていく場合にも必要な力なのです。また,大学に入ってからも,社会に出てからも役に立つ力となるのです。
そしてそれは,人生の途上でいろいろな問題に出会ったとき,その問題を論理的に解決するための力になります。じっくりと腰をすえて取り組んで下さい。

佐藤恒雄

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