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正しい愛を考える看護・医療・福祉系小論文 三訂版

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医療や福祉の分野に進むと仕事に困らないのか?
 医師はお金持ちというイメージ、看護師は一生仕事に困らないというイメージ、これらは果たして本当なのでしょうか。医療や福祉が一生安定して仕事を得られる分野だとイメージされているのは、高齢化社会が到来する(すでに到来していますが)ことが根拠となっています。しかし、これはちょっと考えてみると奇妙な論理です。なぜなら、医療費は果たしてどこからきているか、という視点が抜け落ちているからです。

 国民所得に占める医療費の割合は年次を追うごとに高くなっています。つまり、財布の中から出ていくお金のうち、医療に使われる割合が高まり続けているということです。
 なるほど、これなら国民医療費が伸びるに従って、医療や福祉の分野にお金が回り、これらの仕事に就いている人は安定した収入が得られるように見えます。しかし、問題が一つ残ります。それは、国民医療費の出どころは、国、企業、自治体、そして個人の財布だということです。

 歯医者にかかるとき、保険証を出します。保険証を出せば、患者本人の負担は3割で(2003年5月現在)、残りの7割は国、企業、自治体などが負担します。ところが、この割合は1984年以前ならば0、つまり「ただ」、1997年以前なら1割、そして2003年以前なら2割だったのです。この、だんだん本人負担の割合が高まっている点が微妙なのです。

 虫歯を治すのに10万円かかるとしても、本人負担が1割なら1万円にすぎません。多くの人が歯科を訪れるでしょう。しかし、これが3割負担になったら、また国の財政が厳しくなり5割負担になったらどうなるでしょうか。虫歯を治すのに5万円、となると多くの人は次のような行動に出ます。

 虫歯にならないように必死に予防に努める。それでも虫歯になったら、自力で抜いてしまう。

 これは、昭和初期の日本の歯科医療の姿です。つまり、歯科は超高級品で、お金持ちしか通わなかったのです。こんな社会で多くの歯科医が必要とされるでしょうか。歯科医がだぶついているとしたら、だぶついた歯科医は単なる「失業者」です。


 また、雪の日に貧しい身なりの母親が医師の家の扉を叩き、「子供がひどい熱なんです」と嘆願するシーンは昔話の定番ですが、これは健康保険制度がない(=全額患者負担)社会ならではの姿です。当然ですが、このような患者ばかり診ていたら病院はつぶれます。すなわち、病院はかつてお金持ちのためのものだったのです。医師はそれほどの数を必要としませんでした。そして、患者の自己負担率が高まるということは、昔話の医療のあり方が身近なものになるということです。

 となると、医療の世界でこれから「絶好調」なのはおそらく薬――薬学の分野です。自己負担が大きくなると、人は病院で何万円も払うのはギリギリまで我慢し、まずは薬局に向かい、売薬で治そうとするでしょう。病院での薬の処方に対して厳しい目が光るようになった昨今ですが、この見通しに立てば、損得を考えて医療の世界を目指すなら断然、薬学です。

 さらに今、医療の世界では、専門家に対して厳しい目が向けられています。無駄な薬を処方して余分な医療費を請求していないか、この治療結果は医療過誤ではないか、
また薬害エイズやハンセン病の問題への対応など、将来が不安であるだけでなく、現在向けられる視線も厳しいものとなっています。もしかすると、そんなに良いことはないかもしれません。見かけの損得だけを考えると本当にそうです。

 しかし、医療や福祉の世界にはたった一つ得がたい報酬があります。それは、「やりがい」という非常に貴重な財産です。当たり前のことですが、弱っている人を支援するという仕事は、ダイレクトに人と関わり、触れ合うことを意味します。心や体の問題で困っている人がいる限り、この仕事では「感謝」という貴い見返りが得られます。もし、日本社会に活躍できるフィールドがなければ、資格をもって海外に出てみるのも一つの手です。どこかに困っている人がいる限り、専門家によるケアは絶対に必要です。

 さて、そうなると、これからの医療や福祉のケア専門家の心得として、対人コミュニケーション能力を高めるということがポイントとなります。ふんぞり返っていばってはいられない時代に生きる専門家に求められるのは、問題を把握する力、
それを解決する力、そしてそれを伝える力です。
 それ故、ぜひ本書を通じて、自己表現力を身につけて下さい。文章を書く力は、何も入試で必要だから身につけなければならない、というものではありません。これからのケア専門家の将来像を考えたとき、自己表現力は決定的に大切なものです。医療の専門家なのに文章把握力がない、福祉の専門家なのに文章が下手、というのはちょっと辛いものが、いや恐いものがあります。
 
 本書は、小論文の書き方からその中身の充実まで、あらゆる問題に対応できるように構成されています。大学に合格するということは決して小論文1科目で決まるものではありません。しかし、本書が、なぜ厳しく困難な医療や福祉の分野を目指すのか、ということに対する明確な答えを得るきっかけとなることができたならば、受験当日のその日まで、とにかく志望校合格に向けて精一杯の勉強をしようという強い推進力になるはずです。

 今がんばった見返りは、とても大きいものとして、何年も後に戻ってきます。辛いときには、来るべきその日をイメージしてがんばって下さい。

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