大学受験|世界史

名人の授業


名人の授業シリーズ 荒巻の新世界史の見取り図 上

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「世界」とつながる,「現在」とつながる
~この本を手に取っていただいた方へ~


 はじめまして,荒巻です。
 この本は大学受験を目指す人のために書かれたものです。ただし,『新世界史の見取り図』シリーズ全3巻をすべて頭に叩き込んだとしても,早稲田や慶應義塾といった難関私立大では,6割得点できるかできないかといったところでしょう。
 歴史用語をいくら頭に叩き込んでも訓練しなければ,論述問題は高得点を取るのが難しいため,この本を読むだけでは,東京大学でも5割程度ではないでしょうか。
 試験で満点に近い高得点を取るということは,かくも難しいことなのです。これは何を物語っているかというと,試験で満点を取るための勉強というのは空しいということです。『こんなバカげたことを聞いてくる大学入試』なんて本でも書いてみたくなるほどです。
 だから,合格できるだけの点数をしっかりと取りつつ,試験勉強を通じて人間の幅が広がるような,そして知的好奇心が高まるような勉強をすることにつきます。
 何か“勘違い”をされている方に。この本は「効率よく勉強しよう」というような勉強の仕方については全く触れられていません。暗記ものといわれている世界史という科目で「ゴロ暗記」ひとつ登場しません。「こう聞かれたらこう答えよ」という想定問答もマニュアルもありません。「これだけ覚えたら合格点!」という精神安定剤的要素もありません。
 それは,ひたすら試験に出るであろう歴史用語を網羅的に,ただ羅列していくという叙述の仕方ではないからです。本書は「点を取りたい」ではなく「歴史を学びたい」という意欲を持っている方に向けて書かれています。
 だから,本シリーズは,あくまで受験生を対象として書かれていますが,受験勉強という視点から見れば「点数を取ることとは関係ない」ような知識がちりばめられています。その意味では受験勉強とは無縁の人にも読んでもらえたらという欲張りな気持ちもあります。
 私見ながら,世界史という科目は入試で8割を目指す(結果は問わない)ための学習が,もっとも実りあるように思えます。それ以上の点数を取るための勉強はかなり無意味な行為だと考えています。
 だからこそ,せっかく世界史という科目を選択したのだから,単に点取りゲームの道具としてこの科目を学ぶだけではもったいないと思いますよ,というのがぼくのおせっかいなところです。
 というより,入学試験での点の取りやすさから考えたら,世界史は決して点が取りやすいものではありません。その証拠に理系の生徒の選択科目を調べてみてください。国立大学で理系を志望している人はセンター試験で「地歴」「公民」から選択しなければなりませんが,世界史を選択している人は少数派です。
 少しおおげさな話をします。世界史という科目はエリートになるための科目です。大学生になれればいいや,というだけの低い志の人は,学んでいっても苦痛を感じるだけでしょうからやめたほうがいいと思います。
 ここでエリートといったのは,別に職業のことではありません。どんな職業に就いても,どんな社会的な地位に置かれていても,自分と自分を取り巻く社会,その社会と結びつく国家,その国家群からなる国際政治,様々な主体からなる世界,これらを考えていきたいという姿勢を絶えず持ち続ける人を,ぼくはエリートと考えています。
 この全体を捉えようとする「かまえ」を持つことは,とてもバランス感覚を必要とします。論理的に思考すること,記憶力,判断力,類推力など様々な力が要求されます。
 ぼくは別にエリートではありません。だからこそ,エリートになりたいという思いで,つまり,世の中のことを一生懸命考えていきたいという思いを込めて,その思いを共有してもらえればという気持ちで書きました。
 これからも皆さんが読書を積んでいく人生の中で,ぼくの本で学んだことが様々なことに使われればうれしい限りです。そして,この本が役に立たなくなったとき,逆説的ですが,初めて役に立ったといえるでしょう。
 本とは,読者の手に取られたとき,著者の手を離れるものです。だから,自由に読んでくださって構いません。ただ,ぼくからのお願いは,注釈や地図にもしっかりと目を向けてほしいということです。本文には太字や青文字の箇所がありますが,あくまで目安です。必要以上に気にしなくて構いません。

荒巻 豊志

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