大学入試センター試験解答速報2008
日本史A
全体概観

形式は昨年とほぼ変化はない。全体の難易度は昨年並みであったが、一部難易度の高い問題もあった。 


大問数 減少 | 変化なし | 増加 
設問数 減少 | 変化なし | 増加 
マーク数 減少 | 変化なし | 増加 
難易度 易化 | やや易化 | 昨年並み | やや難化 | 難化 

大問数6、設問が36題という形式に変化はない。昨年から登場した正誤の組合せ問題はリード文がXとYといった2文であり、なおかつ昨年同様「短文」であるため受験生は易しい印象を受けたのではなかろうか。しかし、今年度は易化した問題と難易度の高い問題の差が非常に大きかった。出題範囲は日本史A特有の近世から近現代であり、各時代まんべんなく出題されていた。政治史・外交史は相変わらず出題量が多かったが、センター試験の特徴というべき「庶民からみた歴史」に関する出題もやはりみられた。鉄道・交通・生活文化の分野で点差が生じてくるであろう。また、第2問にあったグラフの読み取りや、第5問にあった史料の読み取りなど、多角的視野から問われる問題も例年受験生の間で得点の差が大きく生じる問題形式である。グラフ・史料の読み取りや難易度の高い問題も昨年同様に目立ったため、全体的な難易度は昨年並みであったといえよう。易しく基本的な問題を確実に得点できたかが大きなカギとなろう。全体的に、分量・レベルともに適切であると評価できる。

【出題フレーム】

 

大問

出題分野

設問数

マーク数

配点

2008

第1問

交通・通信

3

3

6

第2問

近世から近代の政治・外交

8

8

23

第3問

近現代の社会・文化

8

8

22

第4問

明治前期の政治

4

4

12

第5問

尾崎行雄

8

8

23

第6問

近現代の文化・政治

5

5

14

2007

第1問

地形図の変化

3

3

6

第2問

江戸後期から明治維新

8

8

23

第3問

近現代の政治・経済・社会

8

8

22

第4問

近代の政治

4

4

12

第5問

近現代の社会

8

8

23

第6問

近現代の娯楽と政治

5

5

14

2006

第1問

古代から近代までの信仰・宗教

3

3

6

第2問

近世・近代の対外関係・学問

8

8

23

第3問

近現代の児童教育

8

8

22

第4問

近代の東京

4

4

12

第5問

近現代の対外関係

8

8

23

第6問

近現代の外交・経済・社会

5

5

14

2005

第1問

古代から近世までの貨幣・流通

12

12

33

第2問

近代の政治と外交

8

8

21

第3問

近現代の政治と経済

4

4

11

第4問

近現代の領土と人口

8

8

24

第5問

近現代の女性

4

4

11


過去18年間の平均点
2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999
51.53点 57.55点 54.77点 45.23点 42.88点 43.14点 46.46点 43.90点 47.85点
1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990
47.26点 48.62点 59.99点 57.37点 70.08点 73.37点 63.97点 66.22点 73.93点

設問別分析
第1問 交通・通信
明治初期を中心とした交通・通信制度のテーマに関する出題であり、絵画を駆使した会話文形式であった。会話文形式の問題は近年のセンター入試で比較的多くみられるようになった形式であるが、会話文形式の問題に慣れていない受験生にとっても、問1から問3まで全てストレートに正解を導き出せるものであった。問3にある時代並び換えはそれぞれの時期が大きく離れていたため、非常に解きやすかったであろう。

第2問 近世から近代にかけての政治・外交
Aが「史料」、Bが「グラフ」、Cは「通常のリード文」といった具合にバリエーションに富んだ出題であった。問1〜問3は基本的な問題が中心であったが、問2は「オランダ国王の開国勧告」と「日露和親条約」の時期をしっかり理解できていないといけないだけに、ここでやや差がついたであろう。問4〜問6のグラフの読み取りに関する出題は、開港後の経済的変動に関する予備知識と、グラフに記載されている数字をしっかり吟味すれば容易に解けたであろう。しかし、問6は本質を突く良問だが、改税約書の内容が細部にわたり理解できていないと正解することは難しい。問7・問8は第2問の中では最も易しかった。いずれにしても基本的な問題が多かっただけに、つまらないミスで差がつく出題内容と言えるであろう。

第3問 近現代の社会・文化
大正時代の大衆文化・社会運動、普通選挙法や戦後の諸制度の変化と、様々な範囲が広範囲にわたって出題された。問3・問4・問8などは設問のリード文を注意深く読んで時期や背景なども含めて多角的に吟味しなければならない。問3にある『サンデー毎日』や『週刊朝日』などの週刊誌の老舗は大正時代(1922年)に創刊された。このように大正時代の大衆文化は例年よく狙われやすい傾向にある。問4もやや難易度の高い問題であった。リード文の「時期」や「政策内容」を総合的に理解することが肝要。問6は年号の丸暗記では解けない、センター試験らしい良問。問8は下線部fの内容のみならず、その前後の問題文を読み取る力がなければ正解は導き出せない。これらのことから第3問は易しい問題と難易度の高い問題の差は大きく感じられた。難易度の高い問題は総じて正答率は低いだけに、昨年よりやや難化したといえよう。

第4問 明治前期の政治
明治前期の政治について、自由民権運動から憲法制定・国会開設と立憲国家の確立過程が流れを重視して出題された。いわゆる受験日本史の定石通りの出題が多く、高い得点率となっただろう。問2のYのリード文は「日本帝国憲法(五日市憲法草案)」とつなぎ合わせることができたであろうか。民撰議院設立建白書の署名者やその性格を理解していれば、消去法で解けるであろう。問3の内閣制度に関する出題は、受験生によってはやや難易度が高く感じられるかもしれない。太政官制を廃して内閣制度が創設されたのである。いずれにしても、いかにリード文が「短文」であっても最後まで注意深く読む必要がある。

第5問 尾崎行雄
憲政の神様と呼ばれた「尾崎行雄」からアプローチした問題で、大正から昭和の政治・外交が中心となって出題された。問1〜問3は易しいのでここは全問正解したいところ。問4はリード文Uを1936年の皇道派青年将校らが中心となって起した2・26事件と正しく置き換えることができるかがカギとなろう。問5は史料読み取り問題で、(注)を含めて吟味する必要があっただけに得点率にも大きな幅があったことが予想される。問7はやや難か。国際連合の設立準備は日本敗戦前からはじまっていた。この知識がある受験生は多くはないと思われるだけに、消去法を駆使して解く以外に解法はないだろう。問8は基本的な歴史的事象であり、「時期」を重視するセンター試験の基本姿勢が示されている。

第6問 近現代の文化と政治
近現代の文化と政治について、「正誤の組合せ」と「時代並び換え」の形式を中心に出題された。知識だけで対応できる問題と、丸暗記では解けない問題との差がはっきりしている。近現代の文化は日本史Aの場合必須事項であるので、問1・問2は確実に得点して欲しいところ。しかし、文化史は多くの受験生にとって盲点といえるテーマであるため、ここは大きく差がついたことが予想される。また、問3・問5の時代並び換え問題であるが、問3は流れがわかっていれば解けるのに対し、問5は非常に難しい問題であった。時代の並び換え問題は縦の流れを内閣とともに理解していれば解ける問題が多いのだが、問5のように軍隊に関する出題は時の「内閣」を理解していても、それを「軍隊」と結びつけることは難しい。
新高3生へのアドバイス
今年度の日本史Aはグラフや絵画、史料が例年以上に多く、まさに丸暗記では太刀打ちできない問題となっています。これらの問題に対処するためには、歴史を多角的視野から学習することが必要不可欠となってきます。それには一つの歴史的用語から、「背景・結果・時期・人物」などを総合的にイメージ化していく練習が必要になります。さらに、問題文にある下線部の前後をしっかり吟味しないと解けない問題も目立ちました。自らの脳内アンテナを「360度にわたって張り巡らせる」、そのようなイメージを持ち、問題文を注意深く読む必要があるのです。日本史は先手必勝です。これから受験生になる新3年生には、はやめの受験対策を推奨します。日本史は合理的に時間をかければかけるだけ非常に伸びる科目です。ただし、暗記に頼る学習法ではなく、繰り返しになりますが縦の流れとともに「背景・結果・時期・人物」を点と線で全て結びつけられるような学習を心がけて欲しいと思います。それには教科書のいわゆる「太字」で掲載されている歴史的用語の前後の文章の理解を繰り返ししっかり熟読し、それらの要点をはやめにノートにまとめていく作業が必要です。さらに、図説・グラフ・史料はセンター試験では必須項目であるため、同時に資料集を駆使しながら学習をすすめいくことも肝要です。ステップアップ、ジャンプアップと受験生諸君の実力伸張を大いに期待しています。
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