プラントエンジニア編

私たちを取り巻くあらゆる社会生活の基盤となる電力。その電力を安定供給するための施設である発電プラントは、蒸気タービンや発電機などの多様な機器の集合体であり、最先端技術の結晶でもある。そこで今回は、株式会社東芝 電力システム社火力プロジェクト部で発電プラント計画に携わる俵盛勝博氏にご登場いただく。巨大発電プラント建設の醍醐味と、仕事を通じて社会に貢献することの意義をお伺いした。

世界中に安定した電力を! 高性能で自然と共生可能な発電プラントを設計

株式会社東芝 電力システム社 火力・水力事業部
火力プロジェクト部 プラント計画担当

俵盛 勝博 (ひょうもり かつひろ)

1975年 神奈川県生まれ
1994年 東京都 私立 海城高校 卒業
1998年 慶應義塾大学 理工学部 機械工学科 卒業
2000年 慶應義塾大学大学院 理工学研究科 機械工学専攻 修了
     株式会社東芝 入社 京浜事業所 蒸気タービン設計課 配属
2011年 火力プロジェクト部 プラント計画担当に異動
現在に至る

プラント建設は巨費を投じる大プロジェクト ベストプラント設計を提案せよ!

 明治8年創業の東芝は、言わずと知れた日本屈指の総合電機メーカーである。一般に馴染み深いのは家電製品だが、それ以外にも「デジタルプロダクツ」「電子デバイス」「社会インフラ」の分野で、多角的な事業を展開している企業だ。とりわけ東芝では、我々の生活に欠かすことのできない電気を供給する発電システム、いわゆる発電プラントの計画から建設・運転も手掛けており、創業以来培ってきた高い技術力で、より良い社会づくりに貢献している。

 「発電プラントの建設は、多額の費用と時間をかけて行う一大プロジェクトです。他社との競争を経て受注を勝ち取り、その後は与えられた仕様に即して基本計画を立案します。プラントは、膨大な数の機器の集合体です。それら一つひとつを設計・製造し、ときには外部から調達するなどして、一つにまとめあげることで初めて巨大なプラントができあがるわけです」

 そう語るのは、東芝の社会インフラ事業を担う電力システム社でエンジニアを務める俵盛勝博である。俵盛の仕事は、発電プラントのプロジェクト受注の際に、あらかじめプラント全体の見積を立てることだ。

 「プラントを建設する場合、まず電力会社からさまざまな条件が与えられます。それに応えるかたちで、我々は性能や費用を見積り入札するわけです。この成否によって受注できるかどうかが決まりますから、他社との競争の最前線に立つ仕事であるといえます」

 世界では今、増え続ける電力需要に対して、より発電効率の高いプラントが必要とされている。それと同時に、環境への負荷をいかに減らすかということも、現在のプラント設計においては重要なポイントとなる。

 「熱効率を高めれば、結果的に二酸化炭素の排出量や化石燃料の消費量を減らすことができます。先進国では環境に配慮したタイプのプラントが多いのですが、その分、費用がかかります。一方、石炭価格の安い国などでは、まだまだ従来型のプラントが必要とされる場合があります。そうしたさまざまな条件の中で、最も適切な性能や費用を満たすプラントを算出していくわけです」

泥臭い仕事がイノベーションを生む大学時代に学んだ基礎力が生きた

 俵盛が東芝に入社して14年。父親がエンジニアだったこともあり、漠然と自分も同じ道に進むのだろうという思いはあった。

 「もともと、全体のシステムを作りあげるような、大きなモノを作る仕事をしたいと考えていました。あとは、エネルギーや環境といった、生活の基盤になるような仕事をしたいという気持ちがありましたね」

 大学では理工学研究科で機械工学を専攻。大学での研究そのものは「直結していなかった」というものの、院生時代に培った経験は現在も役に立っているという。

 「大学での研究はモノづくりとは離れていたのですが、設計では流体力学や熱力学を使うことが多いんです。ですから、大学で学んだ知識を実際に使っていますね。研究そのものではありませんが、大学で学んだことはそのまま生かせていると思います。やはり基礎が重要になってくる仕事ですから」

 入社後10年以上は、原動機部で火力発電プラントの蒸気タービンの設計に携わった。蒸気タービンとは、蒸気の圧力を利用して羽根(タービン)を回転させて発電機を駆動させる外燃機関のことである。火力発電の場合、ボイラーでお湯を沸かし、そこから生じた蒸気の熱エネルギーを蒸気タービンによって回転エネルギーへと変換させて発電機で電気を起こす。仕組みはシンプルだが、熱エネルギーから回転エネルギーへの転換効率をいかに高めるかが、プラント全体の性能を大きく左右することとなる。形状や強度、材質といった多くの要素を、一つひとつの部品を細かく検証しながら設計を進めていかなければならない。

 「例えば、蒸気が外に漏れてはいけませんから、蒸気の通り道を囲うものが必要となります。ケーシングと呼ばれるものですが、その厚さを何ミリにするかとか、そういう細かい計算をやっていきながら、少しずつ図面に仕上げていきます。けっこう泥臭い仕事かもしれません」

入社4年目で任されたマレーシアでの蒸気タービン設計

 そんな俵盛に大きな仕事が舞い込んだのは、入社4年目の春だった。マレーシア第二の都市ジョホール・バルで、700MWという大容量の発電機3台を擁する石炭火力発電所のプロジェクトが始動。そこで使用する蒸気タービンの基本設計を任されたのだ。このとき、俵盛は基本設計に数カ月をかけた。その後、別働隊に細部の設計が引き継がれ、全体の図面が完成するまでさらに数カ月を要したという。

 「東芝の場合、入社数年目ぐらいから大きな仕事を任せてもらうことが多いんです。大変ですが、とてもやりがいがあります。そのときは十回ぐらいマレーシアに足を運んで、実際に作業をする人たちにタービンの構造を教えたりもしました」

 このように、設計が終わったからといって俵盛の仕事が終わるわけではない。運転開始までには数多くの試験項目をクリアしなければならず、しかも、初めからすべてうまくいくとは限らない。ときには現地で課題が浮かびあがることもある。そのたびに少しずつ調整していきながら、本稼働までに万全の態勢を整える。俵盛は設計の責任を担うが、タービンの製造や据付、試運転はまた別のグループが担当するため、彼らとのコミュニケーションも欠かせない。

 「発電プラントは、最初の見積から実際に稼働するまでにたくさん人たちが関わって作りあげるものです。このときも基本設計は一人で行いましたが、上長や社内の多くの人たちにサポートしてもらいました。プラント開発は、さまざまな人々の協力があって初めて完成するということを改めて感じたプロジェクトでした」

 こうして完成したジョホール・バルの発電所は、隣接するシンガポールにも電力を供給。俵盛の設計した蒸気タービンは、マレーシアのみならず、他国の人々の生活の向上にも貢献したのだった。

100%の要求には120%で返すプラスアルファの仕事が生み出した大型プロジェクト

 こうしてエンジニアとしての経験を積んできた俵盛が、現在のプラント全体の見積を立てる部署に配属されて2年あまり。見える景色にも変化が表れているという。

 「蒸気タービンの設計を担当していたときは、与えられた受注案件に対して仕事を進めていくというスタイルでした。現在の仕事も、電力会社からあらかじめ仕様を提示されますが、それに対して自分たちでより良い性能を引き出すシステムを決めていく点が異なります。ですから、相手が望むことだけに応えるのではなく、主体的に取り組み、相手の要求以上のものを提示していかなければなりません」

 例えば最近、俵盛が携わった入札案件では、見積から受注までに1年程度を要したものもある。そのときは見積を提出したあとも、電力会社とコミュニケーションを取りながら、さらなる合理化ができないかを徹底的に詰めていった。

 「例えば蒸気タービンの中で、できるだけエネルギー損失を小さくできないかという課題に対して部品ごとに試作を行いました。それら試作のデータを解析しながら、実際に搭載できるかどうかの判断を短期間で行う。そうした試行錯誤を繰り返した結果、性能向上を果たし、受注にまで結びつけることができたのです」

 与えられた仕様を全うするだけでは十分ではない。与えられた環境の中で極限まで可能性を追求することで新しいものが見えてくる。俵盛はそう考えている。実際に東芝が受注したその案件は、世界最高水準の発電効率を持つガスタービンコンバインド火力発電プラントとして大きな話題となった。

 このように、エンジニアとして着実に成長し続けている俵盛だが、蒸気タービンの設計に入社後10年あまり携わったことが貴重な糧だったと振り返る。

 「なぜなら、設計者として培った技術や知識を使ってシステム全体の提案をしていけるからです。その意味では今、すごくいいキャリアを積めていると思います。発電所といってもおそらくほとんどの人はどんな構造になっているのかわからないと思います。けれども社会生活の一番の支えになる施設。安心して生活できる社会を作るために、これからも貢献できていけたらいいなと考えています」

Q&A

火力発電プラントの寿命はどのくらい?

 一般的には30年から40年です。仕様の段階で、その程度の年数は耐えうるものを作ると決めたうえで建設します。ただし、何もしなければ維持できませんので、例えば4年に1度といった頻度で定期的なメンテナンスを行います。各機器を細かく点検しながら、必要であれば少しずつ部品の改良を加えて維持していくわけです。

電力会社以外からの発注はあるの?

 基本的には、ほとんどの発注元は電力会社となります。ですが、例えば製紙工場で自家発電を行うといったケースもあります。紙を作るときに発生する熱を利用して水を温めて蒸気に変えて、その蒸気でタービンを回すというものです。そうした案件もあります。

英語を使う機会はありますか?

 私は長期の海外経験はありませんが、社会全体がグローバル化していますので英語を使う機会はあります。例えば、プラントに使用するポンプやガスタービンを海外メーカーから購入することがあります。そうした際、英文メールで設計条件などのやり取りを行います。国内にいても、グローバルな力は必要になっていると思います