広告業界 編

 名実ともに世界最大の広告会社である電通。「いつやるか、今でしょ!」という、今や子どもから大人まで、あらゆる世代に浸透したとも言える東進講師、林修先生のCMとコピーを生み出したのもまさにここからである。そこで今回は、その生みの親である、株式会社電通のコピーライター、福井秀明氏にご登場いただき、CM制作の流れや、チームで進める仕事の醍醐味を伺った。

「なぜ自分は勉強するのか」と自分に問うきっかけになるようなCMを作りたい!

株式会社電通 第2CRP局コピーライター

福井 秀明 (ふくい ひであき)

1972年 神奈川県生まれ
1991年 神奈川県 私立 桐蔭学園高等学校 卒業
1995年 東京大学 農学部 卒業
1997年 東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命工学専攻 修了
1997年 株式会社 電通 入社 マーケティング局に配属
2000年より 現職

CMは長い時間、地道な作業の積み重ねで完成する

 テレビをつければ毎日目にするコマーシャル。15秒単位の短い時間で、観ている人の心をとらえる、インパクトある映像を作り出さなければいけないその現場は、想像より過酷だ。一つのCMが生み出されるまでどのくらいの時間を要し、またどれだけの人の手によって作られるのか。



 「東進のCMは、クリエイティブだけでも5名が関わっています。クリエイティブディレクター、コピーを考えるコピーライターが私を入れて2名、CMの構成を考えるCMプランナー、予算や進行管理を担うプロデューサー。ポスターや新聞広告をつくる場合には、さらにアートディレクターが加わります。こうしたメンバーがチームを組んで実際のCM制作を行っていますが、このほかにもストラテジー担当やメディア担当などのスタッフがいますので、総勢10名を超えるメンバーがこのCMに携わっています」。そう語るのが今号の林先生との対談にも登場してくれた福井だ。そして制作にかかる延べ時間数も膨大だ。「東進のCMについては実際の授業の映像を観るところから仕事が始まります。講師の先生方のいつもの授業から生まれる名言を拾い出し、選ぶことが大きな仕事の一つだからです。観るのは、1人の先生につき20講座ほど。CMに登場する先生が7人だとすると、一つのCMをつくるのに140講座は観ることになります。2009年から講師の名言篇を制作していてすでに4年やっていますので、今年で560講座、2013年分を入れれば700講座になる。自分でもすごい蓄積量だと思いますが、この仕事の一番大事な部分ですね」。しかも、先生の名言はどこで飛び出すかわからないため、90分の授業を最初から最後まですべて目を通すという。そして、授業映像を見始めてから約2週間、その作業は連日深夜に及ぶ。「授業を見始めてから約1カ月でオンエアになりますが、実際は今年も講師の名言篇で本当にいいのかどうかということなどを検討する時間もありますから、もっと長い時間がかかっていることになります」

自らの高校時代の経験が原体験として生きている

 講師の授業から言葉を選び出すというCMの特性上、〝先生?を意識し自らの高校時代を振り返ることもあると言う。「高校時代、すごく厳しい先生がいて、授業がとても怖かった思い出があるんです。その時は本当に怖くておびえながら授業を受けていたのですが、実際、その授業内容はとても身についていた。そしてそういう先生のほうが強烈な印象として残っていたんですね。この原体験が東進の仕事にも生かされている気がします。自分なりの物差しがその経験によって作られたように思うのです」。実際、福井が選ぶ言葉の数々は厳しさのなかにも次への行動へ導くための示唆や問いかけが多い。「教え方がうまいかどうか、それは実際に授業を受けてみなければわかりませんが、CMでできることというのは、講師の先生方の人間性をいかに伝えるかだと思っています。〝この先生は信頼できそうだ?とか、〝厳しいけれど愛がありそうだ?とか、その人の人間性が伝わるような言葉を選んでいますし、そういう観点から選ぶほうが強いCMになるはずだと確信しています」

 また、東進のCMをつくるうえで、そしてチームで仕事に取り組むうえで大切にしていることがあると言う。「東進はただの予備校ではなく、未来のリーダーを育成している教育機関?なのだということを、まずスタッフ全員がきちんと理解することを徹底しています。だからこそ、こういうコピーがいいのではないか、こういうビジュアルがいいのではないか、だからこういうストーリーなのではないかと。仮に迷ったとき、必ず戻ってこられるところを明確にしておくこと。まさに〝ミッションの共有?ということですね」

正解がないことを本気で自分に問う意味とは

 福井を含む東進のCM制作チームは、2013年、新たなCM制作に取りかかっている。先生の言葉を通して福井が高校生に問いかけたいことは「自分はなぜ勉強するのか」ということだ。「なぜ勉強するのか、という問いにおそらく正解はありません。でも、そのとき自分が本気で考えて自分なりに答えを出して勉強に臨む人とそうでない人とでは、勉強の効果が全く違ってくる気がします。勉強することは義務ではなく、実際、勉強しないという選択肢もある。高校生には勉強をする権利があるだけなんです。やってもいいし、やらなくてもいい。でもどうせやるなら、主体的にやるべきです。主体的に勉強するなかで、「なぜやるのか」はその時々で変わっていいと思います。むしろ変わるほうが自然です。ただ、まず、あなただけの「なぜやるのか」を探してほしいと思いますね」。(文中敬称略)