弁護士

弁護士といえば、颯爽と法廷に立ち、裁判官や裁判員を前に熱弁をふるう。そんな姿を思い浮かべる高校生も多いのではないだろうか。しかし実際の弁護士の仕事はそればかりではなく、実に多岐に渡る。とりわけ、企業の抱えるさまざまな問題を法律の専門家という立場からサポートするのが、「企業法務」と呼ばれる仕事だ。そこで今回は真法律会計事務所に所属する和田健弁護士と田中さわ弁護士にご登場いただく。M&Aを主に扱うお二人から、弁護士という職業を選んだ動機や求められる力をお伺いした。

人と、企業と向き合うのが弁護士、「法」を武器に、安心できる社会を支えたい

真法律会計事務所弁護士

和田 健 (わだ けん)

1982年 神奈川県生まれ
2001年 東京都 私立 麻布高校 卒業
2007年 東京大学文学部 卒業
2010年 北海道大学法科大学院 修了
2011年 弁護士登録 第一東京弁護士会所属
     国内法律事務所 入所
2013年 真法律会計事務所 入所
現在に至る

考古学から法曹界へ!異分野からの挑戦

弁護士は国民一人ひとりの強い味方であることはもちろんだが、企業にとっても頼りになる存在だ。企業が事業活動を続けていくには、会社法や労働法といったさまざまな法律が関わってくる。他の会社と契約を交わす際にも、その内容が法に則って正しいものであるかどうかを判断することも必要だ。そんなときに、法律のプロフェッショナルという立場からアドバイスをするのも弁護士の重要な役割である。「こうした仕事は、企業法務と呼ばれます。基本的には、企業からの相談に対してアドバイスしたり、必要があれば訴訟も行います。株主総会の書類の作成から運営指導までをお引き受けすることもありますね」そう語るのは、真法律会計事務所に籍を置く弁護士、和田健だ。実は和田は、弁護士としては異色の経歴を持つ。大学で考古学を学んだのちに法曹界へと進んでいる。「もともと歴史に興味がありました。とりわけ考古学は当時の人々の暮らしぶりが目に見えるかたちで現れます。何万年という時を超えて、まるで自分がその場に居合わせているかのような臨場感がある。それが魅力でしたね」そんな和田と「弁護士」という仕事を引きあわせたのも、やはり考古学だった。「考古学の分野で研究者への道を目指していましたが、実社会で人と関われるような仕事にも魅力を感じ始めていました。そんなとき、遺跡を守る活動をしていらっしゃる弁護士さんとお話をする機会があったんです。考古学は法律とは縁遠いものだと思っていましたから、法律はこんなに幅広い分野にも関われる仕事なのかとびっくりしました。法律を武器にすれば、もしかしたら私も、いろいろな分野の人たちの中に飛び込んでいけるのかもしれない。そんな可能性に惹かれて、弁護士になろうと決心したのです」

「知識」はあって当たり前人と真っ向から対峙できるかが勝負

こうして一念発起。和田は司法試験を受験し、見事に合格。一年間の司法修習もこなし、弁護士として新たなスタートを切った。そんな和田が弁護士としての仕事の本質を痛感させられたのが、ある刑事事件の裁判。そこで和田は、弁護士という仕事に必要なスキルが「知識」や「経験」だけではないことを思い知らされた。「当然のことながら、罪を犯した被告人と面と向かって会話をするという体験はそのときが初めてでした。相手も警戒していて、名前すら名乗ってくれません。右も左もわからない中で、このときはさすがに途方に暮れました」それでも和田はあきらめなかった。身寄りのない被告人のために奔走し、友人知人たちにその人柄などを細かく訊いて回った。現場に何度も足を運んで、物証も集めた。もちろん被告人とも根気強く対話を重ねた。気がつけば面会数は、二十回近くにもなっていた。そうしていくうちに和田は、被告人のみならず、自身の心の中にもある変化が起きていることに気づいた。「被告人はやがて自分の生い立ちや、どうして罪を犯してしまったのかを話してくれるようになりました。そうした中で、被告人が単なる事件の登場人物ではなく、一人の人間として目の前に立ち現れてきたのです」確かに刑事裁判の上では、罪を犯した者は「被告人」という「呼称」で括られてしまうことになる。しかし「被告人」という名前の人間は、この世には存在しない。「だからこそ基本的な信頼関係を築いて、相手、つまり人間のことをしっかり見つめなければならない。それが弁護士の仕事だと、そのとき改めて感じました」やがて判決の日。執行猶予付の判決が下され被告人は服役を免れることとなった。和田の提出した証拠を裁判所が考慮した結果だった。

ゴールはどこなのかM&Aは限られた時間で最短距離を走る!

弁護士として3年目の現在、和田が携わるのは、企業のM&A(合併・買収)だ。「M&Aが取り扱う対象は企業です。ただ、その企業を動かすのは人そのもの。現在、私たちが接するお客様も人なのです。M&Aの場合、買収先の企業に法的なリスクがないかどうかを精査する必要があります。例えば、ある企業Aがある企業Bを買おうとした場合。企業Bに隠れた負債がないかどうか、法令を順守して経営しているかどうか、どこかの企業と一方的に不利な契約をしていないかなどを調べます。これを法務デューデリジェンスと呼びます」M&Aには弁護士以外にも、会計士や証券会社、銀行などのさまざまな分野の専門家たちが関わることになる。精査すべき項目は、ビジネス面、財務経理面、資金調達面などの多岐に亘るため、各専門家が役割分担をして調査にあたるのだ。そのうちの法律や契約面を担当することが、M&Aの際の弁護士の役割となる。「とはいうものの、実際に買うかどうか決まっていない段階での調査です。買収検討中の企業に必要な書類はリスト化してもらえますが、企業秘密に関わることなどは、相手もあまり出したくはないものです。また、情報の開示期間が一週間という短い場合もあります。そのような制約の中で買うに値するかどうかを見極め、引き出さなければいけないわけですから、M&Aの調査は時間との戦いでもあります」そうした激務を乗り越えるためには「自分をマネジメントする力」が必要だと、和田はいう。「我々が手間取ってしまっては、お客さまの仕事が前に進まなくなります。限られた時間の中でも、自分の仕事をきちんと管理して、しっかりとサポートする。独立した自営業者のような感覚が弁護士には必要なのです」その感覚を磨くためにも和田は今、「たくさんの人に信頼される弁護士になる」ことを目標としている。「人と人との間をうまく取り持つ仕事をしていきたい。そう考えて、私は弁護士になりました。ですから私が関わったことで、お客さまの仕事や生活がスムーズに動いているのを見ると、少しはお役に立てたのかなと嬉しくなります。それが今のやりがいです」考古学という異なる畑からやってきた和田は、法曹界という新たな土地で力強い花を咲かせようとしている。(文中敬称略)

寄り添いながら俯瞰する 弁護士に必要な熱く冷静な姿勢

真法律会計事務所 パートナー弁護士

田中 さわ (たなか さわ)

1977年 千葉県生まれ
1996年 東京都 私立 白百合学園高校 卒業
2000年 一橋大学 法学部 卒業
2003年 弁護士登録
     第一東京弁護士会所属
     渉外系法律事務所 入所
2009年 アメリカ合衆国ヴァンダービルト大学ロースクー(LL.M.) 卒業
2010年 真法律会計事務所 入所
     現在に至る

個別の仕事から全体像をイメージする、仕事の力を上げる想像力

弁護士となって11年目を迎える田中さわは、駆け出し時代からずっと企業法務に携わってきた。その上で、弁護士に必要な力は「想像力」だと語る。「M&Aの場合、弁護士がチームで調査を進めます。業務が分担されているとはいえ、自分の担当ばかりに目を向けていているとうまくいきません。企業は一つの複雑な生命体のように動いているので、すべての仕事がつながっています。全体を見渡した上で、自分の仕事が契約全体にどのように関係しているのか。想像力を駆使して、自分の仕事と全体像を正確に見極めていかなければ良い仕事はできません」田中は一つのM&Aが終わると、必ず他の弁護士が担当した調査結果にも目を通してきた。読むだけでも相当な時間がかかるが、仕事と仕事のつながりが見えるとぐっと視野が広がる。とりわけ駆け出し時代は、数をこなしていくことが想像力を育む糧となった。「また、書類をいかにわかりやすく作れるかということも大切です。弁護士は、法廷に立って口頭で戦うというイメージがあるかもしれません。けれども実際には書面で依頼者や裁判所及び相手方を説得しなければならないんです」「丁寧にわかりやすく」は、田中が特に気を配る点だ。弁護士はときとして、相手の「痛い」ところを突かなければならないこともある。心ではつらいと思いつつも、どんなときにも丁寧に。それが田中のモットーだ

依頼者に寄り添いつついつでも冷静な判断を

もちろん「言動にも責任がある」と田中はいう。「例えばかつてこんなことがありました。企業の法務部に出向で常駐していたとき。隣の社員に質問されたので回答すると、すぐにどこかに電話をかけ始めたんです」。電話がつながると、その社員は「弁護士の先生はこう仰っていました」と会話の中で相手に伝えたという。「その方は、弁護士が言っているから正しく安心できる、と思ってしまったようです。そのときは自分が会社の意思決定に関わっているんだということに、とても重い責任を感じました」しかしどんなときでも、動じてはならない。沈着冷静さを保つのも弁護士の責務だ。「依頼者に寄り添いつつ、第三者として冷静に判断する。それが弁護士の役割です。とはいえ、あまり寄り添い過ぎてもいけません。弁護士はあくまでも第三者的な立場です。だからこそ、落ち着いて議論を進めることができるのです」最後に弁護士を目指す高校生へのメッセージを訊くと、意外にも「法律の勉強だけをしていればいいというものではない」という答えが返ってきた。「弁護士のなかには、一般企業から転身した人もたくさんいます。それは決して回り道ではありません。いろいろな経験を積んでおくことは、弁護士になったときに必ず役立ちます。この社会で生きるあらゆる人々と接することができるのが弁護士ですから、すべての経験は無駄ではありません。それが弁護士という仕事の特徴かもしれませんね」(文中敬称略)

Q&A

仕事をする上で手放せない「三種の神器」を教えてください。

「手帳」「弁護士バッジ」「目覚まし時計」です。現在は事務所に所属していますが、弁護士は各自が独立した事業主のようなものです。手帳は自分でスケジュール管理することの大切さを忘れないためにも必携です。弁護士バッジも常に身につけているのは当然ですが、早く先輩方のように、バッジなしでも弁護士らしい風格が出せるよう、今はまだ日々努力の最中です。目覚まし時計は、徐々に個数が増えていってますね。朝が苦手なので(笑)

どれぐらいの経験を積むと一人前になりますか?

一年目でも二年目でも、法廷に立てば同じ弁護士。新人だからといって、手加減はありません。たとえ一年目だとしても、一人前という意識を持って臨むことが大切です。新人にはベテランにはないバイタリティがあるので、それが武器になると思います。

初めて法廷に立ったときは緊張しましたか?

そもそも、法廷では私たちよりも被告人のほうが緊張しています。周囲は敵ばかりで、味方は私たちだけです。そうした中で、こちらの質問にきちんと答えてもらう必要があります。ですから弁護士が緊張ばかりしていると、良い弁護はできません。

英語力は必要でしょうか?

 現在の弁護士には、法律の知識プラスアルファが求められています。とりわけ企業法務の場合は、海外進出を目指す企業のサポートもしなければなりませんから、英語力は必要です。

仕事内容は誰にも話してはいけないのですか?

 守秘義務というものがありますから、案件の具体的な内容を口外することは絶対にありません。例えば、打ち合わせの帰りのタクシーの中でも雑談レベルでも話さないように注意しています。