銀行業界 大企業法人営業 編

私たちのお金を預かったり、企業へお金を貸し出したりする銀行は、社会にお金という「血液」を送り出す「心臓」の役割を担っている。その血液を適切な場所に行き渡らせて、さまざまな経済活動を円滑に維持し、発展させていくために努力しているのが銀行員だ。そこで今回は、みずほ銀行営業第十三部次長として大手総合商社を担当する笹本尚宏氏と部長代理の三上英樹氏にご登場いただく。金融のプロとしてグローバル企業の巨大プロジェクトをサポートしていく醍醐味やチームをまとめていくためのリーダーシップの在り方、仕事を進めていくうえで求められる力とは何かをお伺いした。

グローバル展開する顧客の活動を金融のプロフェッショナルとして支えていく

株式会社みずほ銀行 営業第十三部 次長

笹本 尚宏 (ささもと なおひろ)

1969年 東京都生まれ
1992年 立教大学 経済学部 卒業
同年 入行 久が原支店 配属
梅田支店 支店長代理、営業第五部 部長代理等を歴任
2002年 みずほコーポレート銀行 営業第十七部 部長代理
    営業第二部 次長 
香港営業第一部 次長等を歴任
2015年より現職

総合商社とともに巨大プロジェクトを成功に導く銀行の法人営業とは?

 銀行といえば、ATMや窓口を設置した「支店」を思い浮かべる高校生が多いかもしれない。一方で、銀行の「本店」では日々どのような業務が行われているかイメージできるだろうか。そこではさまざまな金融サービスの企画立案を行ったり、あるいは企業の海外進出を支援する国際部門など、実に多様な仕事が存在する。

 大企業に特化した営業部門もその中のひとつだ。「私は現在、本店の営業部で大手総合商社を担当しています。商社では、食品や衣服から、金属や石油等の資源開発、発電所や鉄道等のインフラ事業、船舶、飛行機、不動産の取扱いまで、実に幅広いビジネスを展開しています。例えば南アフリカに発電所を造る、あるいは海底油田の掘削船を建造する。そうした大規模プロジェクトに対して金融のプロという視点からお手伝いをさせていただいています」

 そう語るのは、みずほ銀行営業第十三部で次長を務める笹本尚宏である。入行以来25年間、一貫して法人営業の道を歩んできたベテランバンカーだ。「銀行と聞くとお金を貸し出して金利をいただく、あるいはご預金をお預かりするというイメージがあると思います。法人営業の場合はそれだけではなく、海外展開を考えている日本企業に対して現地パートナーを紹介したり、具体的なビジネスプランを提案したり、ときには現地での交渉のサポートなども行います。そのなかで新たなニーズを形にしてお客さまにサービスとして提供する。これが私の仕事です」

お客さまのために、ときには厳しい意見も!?

 バブル崩壊以降、日本の都市銀行は概ね「三大メガバンク」に収斂された。みずほ銀行もその一角を担うわけだが、組織の巨大化によってサービスが拡充する一方で、利用者からは各行の差異が見えにくくなるという矛盾も生じた。それだけに「我々担当者次第で違いが生まれる場合が多い」と笹本は言う。

 「ですから仕事をするうえで大事なのは、常日頃から会話を積み重ねて、お客さまのことをきちんと理解することです。相手が何を考えて何を求めているかを常に把握しておいて、求められたら素早く対応する。むしろ求められる前にこちらから積極的に提案をすることが大切です。これはなにも銀行員だけに求められる力ではなく、人との付き合い方の基本でもあり、高校生にも必要な力だと思います」

 ただし、お客さまの言うとおりに対応するだけが「よい営業ではない」と笹本は断言する。「ときには厳しいことも言う必要がある」。笹本自身、過去にその重要性を肌で感じた出来事があったからだ。

 それは、以前担当していたある大手企業が、急激な業界の環境変化(国内市場はピーク時の90兆円から40兆円へ縮小し、50兆円の仕事がなくなった)と、リーマン・ショックに伴う金融業界の環境変化が重ねて押し寄せた際、「会社の業績見通しが厳しく、初めての赤字になりそうだ。他の金融機関からも厳しい対応が想定される。どうしたら良いか?」と、笹本のもとを訪れてきたときのことだ。「我々が支えなければ」そう直感した笹本は、すぐに手を打った。他の金融機関からの借入をすべて引き取る覚悟で銀行内を説得するための材料を整理し、お客さまとともに日夜を徹して資料を作成。行内の支援方針を固めた後には、他行への説明にも出向いた。みずほ銀行と共に今後の支援を依頼するためだ。その数は数十行に及んだ。新中期経営計画を立てる際には、遠慮なく厳しい意見も言った。

 「当時は相当に厳しい意見も申し上げたと思います。ですが結果的にはその会社を7年半も担当させていただき、その時の厳しい経験を共にした事がきっかけで、心から信頼関係を持ってお付き合いをさせていただくことができました。数千人規模の会社にもかかわらず、多くの方に私のことを知っていただき、とても頼りにしていただきました。思い出深い仕事のひとつです」

ビジネスの第一線で活躍するなら「世界人」であれ!

 しかし、顧客に対して自信を持って「NO!」と告げるには、よほど強靭な精神力が必要だ。笹本はどうやってその力を身につけたのか。仕事に求められる力を問うと「できるまでやれば、なんでもできる」という「強い気持ち」と「突破力」の二つを笹本は挙げた。「突破力」を養うためには「逃げない」ことだと笹本は言う。その考えは実は、高校時代のある経験に基づいているのだ。

 ラグビー部に所属していた笹本は、3年生の春に監督から驚くべき言葉を告げられる。「覚悟がない人間は、今すぐチームから去れ」というのだ。ラグビーのシーズンは秋から冬にかけて。ちょうど受験シーズンと重なる。その時期に学業不振で退部されては、チームメイトに迷惑がかかる。だからやるならば覚悟を決めてやれというのが監督の真意だった。その言葉を聞いた笹本は、逆に奮い立った。

 「私はそのとき、ラグビーも勉強も必ずやり遂げるのでチームに残りたいと監督に願い出ました。結果、最後まで試合に出場し続け、大学にも進学することができた。両方をやり遂げたことは、今でもかけがえのない経験として自分のなかに残っています。頑張ろうと思えばできる。すべて自分次第なのです」

 現在はリーダーとして部下を育てる立場にもある笹本。部下には「自分で考えて、自分の意見をきちんと持ってほしい」と願う。ときには我慢して任せることもある。一方で、違うと思ったらお互いに納得するまで議論を重ねる。そうして徐々に、彼らが大きな仕事を任されるようになっていくのを見ることが楽しみだという。

 「これからビジネスの第一線で活躍するためには、世界人であるという意識を持つことが必要です。そのためにも英語と、日本の文化や歴史をきちんと勉強しておくといいでしょう。海外の人から尊敬される日本人というのは、自身のアイデンティティをきちんと伝えることができる人です」

 仕事や人生には「必ず勝ち負けがある」という笹本。元ラガーマンのバンカーは、常にあきらめない強い気持ちを抱き続けながらビジネスというフィールドの最前線を駆けている。(文中敬称略)

知恵を絞って「人間力」で勝負することが営業の醍醐味

株式会社みずほ銀行 営業第十三部 部長代理

三上 英樹 (みかみ ひでき)

1984年 神奈川県生まれ
2007年 中央大学 法学部 卒業
  同年 みずほ銀行 入行 新宿支店配属
2012年 みずほコーポレート銀行 名古屋営業部
2014年 みずほ銀行 名古屋営業部 部長代理
2016年より現職

グローバルな視野を求めて大企業担当に志願!

 入行10年目の三上英樹が、就活時に訪問したおよそ100社の中からみずほ銀行を選んだのは「知恵を絞って人間力で勝負していく」銀行の仕事に大きな魅力を感じたからだ。

 「OB訪問などで先輩の話を聞くと、銀行ってほんとうに何でもやっている。企業に対して何を提案するかは自分次第。自分の働き次第で相手に何らかの付加価値を提供することができるとすれば、それはすごくやりがいがある仕事だろうと感じました。以来10年間ずっと営業職を続けています」

 本店の営業部に異動してまだ半年あまり。それまでは新宿支店を皮切りに、主に個人や中小企業、地方の有力企業を担当してきた。

 「大企業の担当を志望したのは、かねてから自分の視野を広げたいと感じていたからです。現在は企業の大小に関わらずグローバルに事業を展開する時代。お客さまはグローバルな視点でものごとを考えています。そうした中で自分にはその視野が欠けているのではないか、お客さまにもっと喜んでいただくには、自分自身をもっと成長させる必要があるのではと考えたのです」

家族の歴史をつなぎたい!営業の原点となった新人時代の出会い

 「大きな視点」を得るために現在の部署を志望した三上だが、もちろんその原点は入行当初からの地道な営業活動の積み重ねにある。「一番心に残っている仕事」として三上が真っ先に挙げたのは、入行一年目で経験した案件だ。

 「そのお客さまは新宿の雑居ビルのオーナーで、主な収入源はビルのテナントからの賃貸料と、家族で代々経営してきたという居酒屋でした。ところが事業を長男に継承するにあたって、ほかの兄弟に支払う相続資金が不足してしまったのです」

 融資を期待していたメインバンクに断られ、仕方なく三上のもとを訪れたときには、テナントも居酒屋の収益も芳しくない。それゆえ他行と同じように一度は「融資は難しい」という判断となった。しかし三上は「何かできることはあるのではないか」と思ったという。

 「そのお客さまには、戦後からずっと続けてきた居酒屋と、それにまつわる家族の歴史を子ども達へつないでいきたい。そんな強い思いがありました。そこで上司や本部、関連会社に状況を説明して回り、打開策を模索することにしたのです」 

迷っているなら今すぐ始めよう!

 当時まだ新人だった三上は、事業の問題点を洗い出し、グループ会社や関連会社と連携しながら、空きテナントの借主を探し、次世代へ円滑に事業継承するためのプラン作りに尽力する。その結果当初の判断を覆し、融資を具現化することができた。そのオーナーは10年経った現在も事業を継続しているという。

 「この案件をきっかけに、私は銀行の存在意義やほんとうの意味での役割を実感することができました。たとえ自分に力が無くても、やり遂げるんだという強い気持ちで臨めば、周りからの協力も得られます。あきらめずに頑張り続けていけば、それがお客さまや社会に貢献することにつながっていくのです」

 だからこそ三上は「できるできないの前に、まずやってみる」ことの大切さを伝えたいという。

 「高校の部活でスタメンを外されたとき、私はそこですぐにあきらめてしまいました。今思うと、もっとチャレンジできることはあったはずです。迷っていることがあるのなら、今すぐに始めたほうが絶対にいい」――高校生の頃の自分を振り返りながら、三上はそう断言した。(文中敬称略)

Q&A

仕事をするうえで手放せない「三種の神器」を教えてください。

「スマートフォン」「タブレット」「名刺入れ」です。スマホとタブレットは各一台ずつ支給されています。会議の資料なども、今はすべてタブレットで共有していますね。オフィスには固定電話がありませんから、名刺の電話番号にかけるとスマホに直接かかってくるようになっています。私用のスマホには愛娘の写真を毎日送ってもらっています(笑) 。名刺入れは結婚したときに妻が買ってくれたものです。交換した名刺の数は1000枚近くになりますね。

女性の営業職はどれぐらいいますか?

私のチームは9名ですが、そのうちの3名が女性です。彼女たちはいずれも10年前後のキャリアがあります。

海外出身の社員の登用はいかがでしょうか?

 チームには現在、インドネシア生まれのシンガポール国籍のスタッフと中国出身のスタッフがいます。海外出身のスタッフの中には、いずれ海外の拠点で活躍してもらうことを前提に、本店での仕事をしてもらっている場合もあります。お互いの文化はそれぞれ異なりますが、そうしたことをランチの時間に話したりするのは楽しいですね。