銀行業界 国際法人 編

前回、前々回と銀行の法人営業の舞台裏をお届けしてきたが、銀行には法人営業の担当者だけではなく、彼らと一緒に企業のサポー トを手がけるプロフェッショナルがたくさん存在する。今回ご登場いただく三菱東京UFJ銀行の佐藤則行氏と田中咲氏は、外資系企業 を専門にサポートする国際法人部に所属。堪能な語学力と専門知識を駆使して、銀行と外資系企業とをつなぐ橋渡し役を担っている。 海外勤務の経験から学んだこと、異なる言語や文化を持つ人々とコミュニケーションを取るうえで大切にしていることなどをお伺いした。

外資系企業をアクティブにサポートする

株式会社三菱東京UFJ銀行国際法人部
グローバルサブシディアリーバンキンググループ調査役

田中 咲 (たなか さき)

1986年 海外生まれ
2005年 神奈川県立 平塚江南高校 卒業
2009年 早稲田大学 国際教養学部
     国際教養学科 卒業
2009年 三菱東京UFJ銀行 入行
     虎ノ門中央支店、虎ノ門支社、欧州審査部を経て現在に至る

お客さまは外資系企業銀行の国際法人部の仕事とは?

 1919年に設立された三菱東京UFJ銀行は、圧倒的な顧客数と拠点数を誇る国内屈指のメガバンクである。また日本のみならず世界約50カ国に約1170拠点を持ち、それぞれの国や地域に応じた多様なサービスを展開している。「三菱東京UFJ銀行は、邦銀の中でも外資系企業との取引が多い銀行です。私の仕事は、日本での彼らの取引が円滑に進むようにサポートすること。外資系企業と当行の担当者との橋渡しを担う仕事と言えるでしょう」

 そう語るのは、三菱東京UFJ銀行国際法人部グローバルサブシディアリーバンキンググループで調査役を務める田中咲だ。ちなみに「サブシディアリー」とは「子会社」という意味。もちろん、外資系企業の子会社にはそれぞれに銀行の担当者がついている。しかし、外資系企業が日本で大型の資金調達を行うとなったときなどは田中の出番だ。外資系企業との取引には特殊なルールがあり、田中のようなプロフェッショナルの知識が不可欠となるからだ。同時に、本社の意向などもしっかりとヒアリングする必要があるため、海外にある本社の担当者とも緊密に連携を取らなければならない。

 「例えばフランス系の企業であれば、当行のパリ支店の担当者とコミュニケーションを取ります。逆に、海外のお客さまが来日された際には、言葉の壁もありますので国内の支店のサポートにつきます。また、私たち国際法人部の人間は幅広い業界知識を持っています。そうした知見を生かしながら、本社と子会社の各担当者のサポートにあたるわけです」

 もちろんサポートばかりではない。案件の創出や外資系取引の傾向分析、それに基づく担当者向け勉強会の企画運営なども田中たちの仕事だ。

 

ボランティア活動に励んだ学生時代厳しい現実から銀行員の道へ!

 田中が銀行に興味を持ったのは大学時代。きっかけはアメリカへの留学だった。もともと社会奉仕に興味を持っていた田中は、留学先のロサンゼルスでもボランティア活動に積極的に励む。田中が取り組んだのは、現地の労働者たちに英語を教えるボランティア。田中が通う早稲田大学国際教養学部には留学生が多く、田中は日本でも彼らに日本語を教える活動を続けていた。しかし留学を終えて就職活動の時期を迎えた頃、田中の胸中に迷いが生じるようになる。それは「何をするにもまずはお金が必要である」という現実だ。たとえ崇高な理念を掲げたとしても、お金が無くなればすぐに立ち行かなくなる。そうした厳しい現実を前に、田中はひとつの決断をする。

 「であるならば、世の中にお金を回す役割を担っている銀行に進んだほうが社会に貢献できるのではないか。就職活動を通じて、そのことに気づかされたのです」

 こうして田中は、三菱東京UFJ銀行への入行を決意する。しばらくの支店勤務を経て、ロンドンに拠点を置く欧州審査部という部署に配属される。融資の審査という仕事はもちろん、海外での独り暮らしも初めての経験。「とにかくついていくのに必死だった」と述懐する田中だが、とりわけ苦労したのが外国人スタッフとの意思の疎通がままならない点だ。

 「欧州の人たちは、どちらかというと効率を優先させる傾向があります。一方で日本の場合は、意思決定にかかる時間がわりあいにゆっくりです。銀行業務は手続きやルールが多いのですが、彼らにとってはときにそれが非効率的に見えるときがあったようで、なぜそうした手順やルールが必要なのかなかなか理解してもらえませんでした」

 それでも田中は、自ら英語で資料を作って勉強会を開くなどして「なぜこれが必要か」「どうしてこの手順を踏まなければならないのか」といった説明を粘り強く続けていった。

 「日本では当たり前だと思っていることが、海外ではまったく通用しないことがたくさんあります。その点を理解したうえで、そこには理由があるんだということを丁寧に伝えていく。それが海外で仕事をするうえで大事なことです」

 

海外勤務から学んだ多文化コミュニケーションの秘訣「感謝されること」が大きなやりがい

 海外勤務の経験から田中が学んだことがもうひとつある。それは「相手の立場に立って考えること」だ。これは現在の仕事にも必要なことであり、案件を進めていくうえで「もっとも気を遣う点」だと田中はいう。

 「この仕事は、いろいろな人たちとコミュニケーションを取っていかなければなりません。日本人、アメリカ人、フランス人と国籍や年齢もさまざまです。ですから常に相手の立場に立って考えるようにしています。お願いごとをするにしても、言い方を間違えるとたちまち物事が前に進まなくなってしまいます。例えば若い人にうまく伝わらないときは、自分が新人だった頃を振り返って、言い方を変えてみたりしますね」

 さらにもうひとつ、田中が心がけていることがある。それは意思決定のプロセスがしっかりと決まっている銀行だからこそ「自分が早く動く」ということだ。

 「銀行というのは、意思決定までに数段階のプロセスを経ることが多いです。ですから周りをよく見たうえで最終期日から逆算し、自分から素早く動いていく必要があります。不測の事態が起こることはもちろんあるのですが、そのときは上司や先輩に相談します。それでも解決しなかったら周りを巻き込むようにしています」

 入行から9年。大きなやりがいは「人から感謝されること」だと田中はいう。

 「外資系企業と当行の担当者との間を取りもつ仕事ですから、お客さまだけではなく銀行内の人たちからも感謝されます。自分のやった仕事に対して感謝されることは大きなやりがいです。次もまた頑張ろうという気持ちになりますね」

 しかしそのうえでまだまだ自分に必要な力があると田中は考えている。それは「考える力」だ。

 「自分が求められていることは何か。それを誰の力を借りながら、いつまでにどう実現するのか。考えるとは、自問自答し続けることです。高校生の皆さんには今、考える時間がたくさんあると思います。日々楽しい時間を過ごすなかで、常に何かを考えることを意識してみてください」

 世界の企業と銀行とをつなぐ架け橋として、田中は今日も金融の最前線を走り続けている。(文中敬称略)

人種や文化の違いを乗り越えてプロジェクトをまとめあげるダイナミズム

株式会社三菱東京UFJ銀行国際法人部
グローバルサブシディアリーバンキンググループ次長

佐藤 則行 (さとう のりゆき)

1969年 東京生まれ
1988年 米国 ミシガン州 Anchor Bay高校 卒業
1989年 東京都立 久留米(現久留米総合)高校 卒業
1994年 上智大学 比較文化学部(現国際教養学部)卒業
1994年 東京銀行(現三菱東京UFJ銀行) 入行
     虎ノ門支社、ストラクチャードファイナンス
     部、マレーシア/ラブアン支店、欧州投資銀
     行部等を経て現在に至る

英語を学びたい!その一心で アメリカへ渡った高校時代

 三菱東京UFJ銀行の国際法人部でグローバルサブシディアリーバンキンググループの次長を務める佐藤則行は、高校生の頃から英語を生かせる仕事に就きたいと考えていた。英語を学びたいという一心で、高校生の佐藤が決断したのはアメリカへの留学。その一年間の留学経験で学んだことは「言葉の上手い下手ではなく、自分の言葉で伝えること」の大切さだ。そしてそれは現在の仕事にも通じていると佐藤は言う。

 「現在私は海外の企業とビジネスを一緒に組み上げていく仕事をしています。彼らは日本企業とは異なる文化や風土を持っていますので、ときには難しい交渉になることもあります。ですがそうした困難を乗り越え、共に信頼関係を築くことができたときの喜びは何ものにも変えられません。高校時代に、自分から積極的に関わって思いを伝えることの大切さを実感できたことが、今の仕事にも生きていると思います」

 佐藤の仕事はまさに、人種や言語、文化も異なるさまざまな人たちと渡り合いながらプロジェクトをまとめあげていくことだ。一筋縄ではいかない難しい仕事だが、そこから生まれる「ダイナミズム」が大きなやりがいだと佐藤は言う。

 「私たちの仕事には海外が必ず絡んできます。国境や時差、人種や文化の違いなど多くの壁がある。けれどもそうした壁が存在しないかのようなスピード感を持って打ち込む。それが成果に結びついたときに、大きな醍醐味が生まれるのです」

真摯な「思い」は言葉や国境を越えて必ず伝わる!

 一方で、仕事をするうえで必要なものは「柔軟な思考」「強い意思」「持続する力」だと佐藤は言う。

 「どんな仕事でもうまくいくときばかりとは限りません。そのときに柔軟に方針を変えられるかが大切です。また、厳しい局面にぶつかったときでも絶対に成功させるんだという強い意思も必要でしょう。さらにこれらが一週間しか続かないのでは意味がありません。強い気持ちを持ち続けることが大事なのです」

 例えば、佐藤がマレーシアに赴任していたときのことだ。現地の財閥系企業を担当したのだが、その企業が日本で手がけている事業のなかで、収益が思うように上がっていない子会社があった。銀行内でも協議した結果、これまでの融資を一旦返済してもらうことに決まったのだが、その事業の決定権を持つのは財閥のトップに君臨する人物。交渉が難航するのは火を見るよりも明らかだった。

 「取引停止も覚悟のうえで臨んだのですが、我々が長期的な視野に立って今後もお手伝いしていく意向を数時間かけて示したところ、そこまで私たちのことを考えてくれているのかと納得してもらえました。その後はそのトップの方から直接ご相談をいただくようになり、信頼関係を築くことができた。まさに銀行員冥利に尽きるできごとでした」

 真摯な思いは、言葉や国境を越えて必ず伝わる。高校時代から信じていたことを、佐藤が改めて実感した瞬間だった。

 「もうひとつ高校生の皆さんに伝えたいのは、好奇心が人間の行動の源であるということです。自分が興味を持てることを突き詰めれば、やがて強みになります。その力は社会人になったときに必ず役に立つと思います」(文中敬称略)

Q&A

仕事をするうえで手放せない「三種の神器」を教えてください。

「名刺入れ」「業務用携帯電話」「香水」です。名刺入れは、お客さまと初めて挨拶を交わすときに使うものですからとても重要です。素敵な名刺入れを使うと相手への第一印象が良くなります。携帯は、ちょっとしたスキマ時間や移動時間にメールを確認するために使います。香水は、自分のやる気を出すために使用します。

国際法人部ってどんなこところ?

 当行の国際法人部には約80名が所属しています。部内は3つのグループに分かれていて「グローバルサブシディアリーバンキンググループ」の他に「グローバルカバレッジグループ」「金融機関グループ」があります。前者は非日系企業の営業施策や業務推進施策を作っています。後者は海外の金融機関を担当しています。

海外の仕事で苦労したことは?

 一番難しいと思ったのは文化の違いでしょうか。例えば私が赴任していたマレーシアはイスラム圏で、人口比率がマレー系6割、中華系が2割強、インド系が1割と少しになります。例えば会食をするときも、マレー系の人は家族との団らんを重視しますので、夕食に招待してはいけません。中華系の人も違う文化や宗教的な背景があります。こうした違いを理解するのには時間を要しましたね。