午前11時。木々の葉も落ち、冬晴れの空が広がるグラウンドに部員たちが集まってきた。この日は期末試験期間中のため、全国大会出場を控えた2・3年生だけの練習だ。ボールを回して走りながら体を温める。平日は2時間あまりの練習時間。國學院久我山高校ラグビー部の練習時間は、全国レベルの強豪校としては驚くほど短い。花園での第一戦まであと20日を切ったこの日。当然、練習とはいえ本番さながらの集中力が求められる。額の汗を拭いながら、大きな声がグランドに響き渡った。
オフェンスとディフェンスに分かれてのパス練習中に突然、何かを感じた竹内監督が2年生だけを集めた。「3年生を負け試合で卒業させていいのか? 一つひとつのプレーに真剣に取り組め」。短く、鋭い檄を飛ばした。すると2年生たちの顔が一段と引き締まり、気合いの入った「はい!」という声と共にグランドに駆け戻る。昨年の花園では第3戦で惜しくも2点差で涙を流した。
「たとえ僅差で負けたとしても、結果がすべて」と語る竹内監督の部員を見つめる眼差しは、厳しくも温かい。
中高一貫校である同ラグビー部には、中学時代からの仲間も多い。そのため副キャプテンの吉本高寛くん(3年・センター)は、「チームワークには自信があります」と胸を張る。気心の知れた仲間同士ゆえ甘えが生じることもあるが、「厳しい助言でも、言わなければならないことは率直に伝えるように心がけている」と、大橋秀樹くん(3年・フランカー)はキャプテンとしての心がけを話す。
こうしたチームの団結力と共に強みであるのが、「ここ一番の集中力」だ。今年の東京都春季大会の決勝戦。東京第二地区の強豪校である東京高校との試合は印象深い試合だったという。「接戦でしたが、最後まで集中力を途切れさせることなく、一番苦しい後半残り5分で逆転できたことは、大きな自信となりました」と二人は試合を振り返る。また、チームならではの練習を聞くと「特別な練習はありません。パスやコンタクト(体を当て練習)など、基本に忠実に練習しています」と吉本くん。竹内監督も「一年中体力づくりです。まずは強靭な体を作ってから、技術はその次です」。強さの秘訣は団結力と集中力、そして基本に忠実な姿勢だった。
2007年11月18日、秩父宮ラグビー場で開催された東京都第一地区予選決勝。対戦相手は強力フォワード陣を誇る明治大学付属中野高校。試合は立ち上がりこそ少しもたついたものの、後半11分に下村真太朗くん(3年・スクラムハーフ)がゴール20メートル前から一気に抜け出し、本島厚くん(3年・フルバック)につないで得点。その後はフォワードとバックスがうまく連携した久我山ラグビーで畳み掛け、40‐3で圧勝、花園への切符を危なげなく手にした。けれども、試合内容についての彼らの分析はあくまでも冷静だ。「試合の初めから、気持ちの面で相手チームを圧倒できていなかったし、ミスも多かった。このままでは花園で勝てないと思いました」と副キャプテンの吉本くん。
しかし、「今年の3年生は体も大きく、実力も例年以上に高い」と竹内監督が期待するように、彼らの意気込みは最高潮だ。キャプテンの大橋くんは「萎縮せずに臨み、後悔のないよう初戦から相手を圧倒して全力で戦いたい。目指すはもちろん優勝です」と意気込みを語る。その言葉の節々には、実力に裏打ちされた自信が垣間見える。悲願の高校ラグビー頂点は、もう目前だ。

監督 竹内 伸光先生の言葉
ラグビーを通じて、人の痛みがわかる人間になってほしい
ラグビーは、対戦相手にどれだけ強く「当たる」ことができるかどうかが勝負です。どんなに技を磨いていても、思い切り体をタックルされて倒されれば到底勝つことはできません。そのために、久我山ラグビー部では一年中体力づくりを心掛けています。タイヤ引きやタックル、ダミー投げ、腕立て伏せを繰り返し、基礎となる体を徹底的に鍛えます。肉体が鍛えられれば自分に自信が生まれ、自信がつくと自然に精神力も鍛えられるんです。そうはいっても簡単なことではありません。「自分に負けないこと」も大切です。
イギリスでは、ラグビーはエリート教育の一つとして行われています。どんな厳しい状況でも的確な判断をすることの重要性を、身を持って体験できるので、人間形成の役に立つということなんです。部員たちにはこの先社会で活躍するために、ラグビーを通じて「人の痛み」がわかる人間になってほしいですね。そして同時に「勝つ喜び」も味わってほしい。練習過程が大切なことはもちろんですが、勝ってこそ苦労の過程が報われるものだと思います。