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東進タイムズ2008年8月1日号

憧れの職業を追え!

医師編

医療法人財団 河北(かわきた)総合病院
財団顧問 質向上部 部長
尾形 逸郎(おがた いつろう)氏


 人々の病を治し、健康的な生活を支えてくれる「医師」は、昔も今も高校生にとって「憧れ」の存在である。医師には、病気の予防や治療を行う臨床医師と、病理解剖や生理・薬理の研究に専念する医師の大きく2つに分かれる。今回ご登場頂く尾形逸郎先生は、大学で約20年間肝臓の研究に携わったあと、東京都杉並区の河北総合病院で、患者さんの診察・治療や病院管理に従事されている。豊富な経験を持つ尾形医師に、医師の仕事内容や現在医療が抱える課題、求められる能力などについてお話を伺った。

患者と医師、医療チームの信頼関係が
最善の治療を実現する

医師とは指揮者でありプロデューサーである

医師とは、チーム医療における指揮者のような存在だと考えています。指揮者だけでは演奏が成りたないように、医師だけで病気やケガの治療を行うことはできません。ほかの医師や看護師、臨床検査技師、理学療法士などの医療スタッフや患者さんのご家族、そして患者さん自身もオーケストラの一員となり、メンバー全員が心を合わせ、それぞれの役割を全うすることで病気が快復に向かいます。

私が勤務している河北総合病院は、354の病床数(ほかに河北リハビリ病院135床・介護老人保健施設シーダ・ウォーク112床)を有し、1日平均900人前後の外来患者さんの治療を行っています。病院のある杉並区は半径5キロ以内に約52万の人々が暮らしています。52万人の方々の健康を守る当院ですから、地域医療も大きな使命だと思っています。2005年から稼動したER(救急部門)には夜間でも7〜8名の医師が待機し、365日24時間体制の医療を強化しています。

指揮者となる医師がどのような判断をくだすかが医療チームの動きを決め、一刻を争う救急医療では、その重要度がさらに増します。どのような状況にあっても冷静な態度を保ち、迅速で的確な判断をくだし、チームワークが最大限に発揮できるように方向づけすることは、医師の最も大切な仕事の一つといえるでしょう。

論理立てた検証の積み重ねが難題に立ち向かう解決策を導く

当院に勤務する前は大学で約20年間、肝硬変や肝障害の発症メカニズムを明らかにする研究を行っていました。研究には正解が用意されている訳ではありませんから、すぐに答えが見つからないこともしばしば。ただ、そこで諦めては新たな発見はありません。それまでに学んだ原理原則に従って、一つひとつ考えていくんです。不思議なことに、あるとき必ずといっていい程、道が開けてくるんです。そのような考え方は、内科の臨床医として治療にあたる現在に活かされています。症状や処方箋の判断においてはもちろんですが、患者さんとの関係において発揮されることも多いですね。

例えば、お酒を控えれば確実に症状が快復する見込みがあるにも拘わらず、一向に治療に協力的になってくれない患者さんがいたとします。このような場合、強制しても、やさしく言い聞かせてもまず効果はありません。では、どうするのか。

私は、患者さんと一緒に「今後、患者さんがどのような人生を送りたいか」を考えます。その過程で、自分の望む生き方を実現するには、お酒を控える必要があるのだと、患者さん本人に気づいてもらうのです。

内科医の場合、慢性の病を持つ患者さんの治療に当たる機会も多くなります。そういう患者さんにしては「病気を完治させる」という視点ではなく、「病気とどのようにつき合っていくか」ということを一緒に考えることも大事です。

このように、医師は高度な専門知識や医療技術を身につけていることはもちろん、医師と患者という立場を超えて、人間として、相手を尊重し相手のために何ができるのかについて考える力も求められます。

医師である限り勉強に終わりはない

父が医師の家庭で育ったので、自然と自分も医師を目指すようになっていましたね。子どもの頃から、熱中すると徹底的にやらないと気が済まない性分で、鉄棒に夢中になり、毎日2時間練習したこともありました。その結果、ついに蹴上がりに成功したときの嬉しさは今でもはっきり覚えています。その後、大車輪までできるようになっていました。

勉強も鉄棒に没頭したときと同じような感覚で、一所懸命でした。特に理系科目が好きで、数学は1,000題の問題集を10日間で終わらせたこともあります。問題をパッと見て頭の中で解答への道筋が思い浮かんだらどんどん次に進み、そうでない問題は手を動かしながら解きました。さまざまなことを吸収しようという向学心と好奇心は医師に必須の資質です。医療技術の進歩は目覚ましく、医療現場は日々変化しています。医師である限り、学びに終わりはありません。

私が受験した年は、学生運動による大学封鎖で東大入試を受けることができず、一旦はほかの大学に進学しました。しかし、あるときふと東大のキャンパスを見に行きたくなったんですね。そして歴史を感じさせる建物や緑の多いキャンパスにすっかり魅了されてしまい、翌年東京大学を受験し直すことにしたのです。

医師の立場でなく一人の人間の立場に立った治療を

現在の私は個々の患者さんの診療のほかに、「病院の質を向上させる」という病院運営に関する仕事にも取り組んでいます。河北総合病院は時代のニーズに対応し、患者さんの立場に立った環境整備をいち早く進めてきました。リハビリテーション病院や健康センター、ERの開設、さらに訪問看護などは81年から取り組んでいます。

地域医療とは新しい治療を確立することではなく、地域の患者さんが望むことを考え、それを実現していくことです。これから医師を志す人は、常に患者さんの立場に立つことの重要性を覚えておいてほしいと思います。患者さんの悩みや痛みを思いやれる心を持った医師こそ、今後求められる医師像ではないかと思うんです。

日本では高齢化が進み、医療のあり方も変化しています。さまざまな治療法が開発され、複数の治療法からどれを選択するかは患者さんの人生観によって決まってきます。今後は75歳まで現役で働くことを視野に入れた人生設計をするという人も増えてくるのではないでしょうか。

かつては「病気を治すのは医師」というイメージがありましたが、高齢化が進む今後、病気の快復は患者さん自身が病気や治療法のことを理解し、主体的に治療に参加することがより大切になるでしょう。そのために医師は日頃から患者さんとよく話をし、信頼関係を築いておかなければなりません。

患者さんの信頼に応えるために、一つひとつの仕事と誠実に向き合いながら医師の使命を全うしたいと思っています。

尾形 逸郎(おがた いつろう)
医療法人財団 河北総合病院
財団顧問 質向上部 部長
1950年 福岡県生まれ
1969年 鹿児島県 私立 ラ・サール高等学校卒業
1969年 東京医科歯科大学 医学部入学
1970年 東京大学 理科III類入学
1976年 東京大学 医学部において肝臓病の研究に従事
2000年 医療法人財団 河北総合病院に勤務
財団メディカルディレクター兼分院院長などを経て、 現職
尾形医師に聞く!「私の学生時代」
高校時代に熱中していたことは?
1年生のときは卓球。2年次からは勉強ですね。1日の勉強時間は2年では4,5時間、3年では7時間くらいでした。
高校時代の得意科目は?
国語以外。特に物理などの理系科目が好きでした。どんなに難しく思える問題も実は基本の組み合わせに過ぎません。そこを見抜くことがポイントです。
大学時代に熱中していたことは?
東京大学に入り直した1年目は「毎日1冊本を読もう」と決め、片っ端からあらゆる文献を読みました。結果的には心理学の本が一番多かったようです。2年次はカリキュラムの一環であった栄養学教室で実験のおもしろさを知り、それからは暇があると実験室に行き、タンパク質精製等の実験に夢中になりました。
担当ライターよりひとこと!

「病気の治療は人生観に関わる問題」という尾形医師の言葉にはハッとさせられました。 人生は選択の連続であり、幸せはどの道を選ぶかで決まります。いざ局面に立たされたとき、どう決断するか。日本人は空気や流れに身を任せてしまいがちですが、これからの時代は日頃から自分自身の「人生哲学」を構築しておくことが必要だと実感しました。


医師への道人々の健康を支える
医師とは

医師法に基づき、傷病の診察・治療を行う。主に、患者を診察して病気やケガを治療する臨床医と研究所で病気の原因追究や生理・薬理の研究に従事する研究医に分かれる。さらに麻酔医・スポーツ医など専門分野で活躍する医師もいる。人々の命を預かる仕事の責任は重大であり、多くの知識や技術を身につけると同時に患者さんときちんと話をし、気持ちを理解する豊かな人間力を備えていることが望ましい。

近年は医療の専門化が進んでおり、地域の開業医たちがデータをパソコンで共有し、共同で医療にあたるという新たなスタイルも生まれている。活躍の場は病院や診療所をはじめ、大学の研究室や保健所、一般企業、船、 ホテル、老人福祉施設など幅広い。

医師になるには

医学部や医科大学で6年間の医学課程を修了後、医師国家試験に合格し、医師免許の取得が必要。医師家試験は科目ごとの実施ではなく、基礎医学・臨床医学などを出題範囲とする総合問題形式。今年の2月に行われた第102回医師国家試験では8,535人が受験し、7,733人が合格、合格率は90.6%であった。医師免許取得後は各大学病院や厚生労働省が指定する一般病院などで研修医として2年以上の臨床研修を積む。研修期間は指導医のもと、内科、外科、救急部門(麻酔科を含む)、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療の7つの科を経験しながら専門に偏らない知識・技術 を修得。2年間の臨床研修を終えると、希望する専門の科で医師として仕事をすることができる。

  
医師国家試験とは

医師国家試験とは、医師として働くために必要な医師国家資格を取得するための試験。6年間の医学課程を修了後、医師国家試験を受験する。

科目ごとの試験ではなく総合問題形式であり、それぞれの専門分野から選出された医師国家試験委員が考案し出題する。4年に一度、試験範囲の見直しが行われ、「医師国家試験出題基準」が出される。そこに挙がっている項目、疾患、症候等に沿って出題される。

医師以外にも、歯科医師、保健師、看護師、助産師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、臨床工学技士、診療放射線技師等の医療従事者について、それぞれ免許制度と国家試験が設けられている。

医師国家試験の構成

現在、試験は3日間で計500題の選択肢問題が出題される。それぞれ一般問題1点、臨床実地問題3点で計算される。厚生労働省は合格ラインを公表していないが、だいたい3分の2以上の得点が合格ラインといわれている。

以前は、面接や1年間の研修実習が課されていたこともあったが、試験の迅速化と評価を一定に保つ必要性から、現在の試験はすべてマークシートによる選択解答方式で、コンピュータによる採点が行われている。

医師国家試験の合格者は、医籍に登録され、医師免許証が交付される。これは、運転免許証のような携帯サイズではなく、表彰状サイズで交付される。


医師のお仕事に関する
仕事をするうえで手放せない「三種の神器」を教えてください
【尾形医師】一つ目は「聴診器」です。最近は種類も豊富で、押す力の強弱で同一面に低・高周波音を拾ったり、かなり聞き取りづらい音も忠実に再現することが可能です。二つ目は「最新医療の知識」です。日々進歩しているのが医学の世界。医学書や論文などは定期的に目を通し、現場の治療に利用できないかを考えます。三つ目は私自身の仕事への姿勢、「患者さんの目線での治療の実践」です。

ご自身が病気になった場合はどうされていますか?やはり健康には人一倍気をつけていらっしゃるのでしょうか。
【尾形医師】「体調が変だな」と思ったらまずは自分自身で診断し、必要があれば薬などを使って治療します。大きな病であれば別でしょうが、これまでのところはそれで済んでいますね。健康について特別に気をつけていることはありませんが、お酒はほとんど飲みません。
三人に一人は女性の医師というデータもありますが……。
【尾形医師】河北総合病院においても3割強は女性の医師です。性別によって仕事の取り組み方や成果に違いを感じることはありません。ただ産科や婦人科の場合は患者さんが女性の医師の診察を希望することはありますね。
最近は薬の投与についてさまざまな意見がありますが、薬とのつき合い方を教えてください。
【尾形医師】患者さんの価値観・ 考え方次第だと思います。病気や薬の情報をきちんと把握し、医師に相談しながら自分が納得のいくやり方で治療することが大事です。個人的には、例えば血圧を自分で下げるのはかなり大変な労力を要するので、薬を上手く使って調節しています。
相当ハードな仕事だというイメージがありますが、実際はどうなんでしょう?
【尾形医師】専門科によっても異なりますが、特に若いときは激務であり、体力必須の仕事であることは否定できません。しかし大変である分やりがいも大きいですし、現場の医療スタッフで協力し合うことで乗り越えられると思いますよ。