患者と医師、医療チームの信頼関係が
最善の治療を実現する
医師とは指揮者でありプロデューサーである
医師とは、チーム医療における指揮者のような存在だと考えています。指揮者だけでは演奏が成りたないように、医師だけで病気やケガの治療を行うことはできません。ほかの医師や看護師、臨床検査技師、理学療法士などの医療スタッフや患者さんのご家族、そして患者さん自身もオーケストラの一員となり、メンバー全員が心を合わせ、それぞれの役割を全うすることで病気が快復に向かいます。
私が勤務している河北総合病院は、354の病床数(ほかに河北リハビリ病院135床・介護老人保健施設シーダ・ウォーク112床)を有し、1日平均900人前後の外来患者さんの治療を行っています。病院のある杉並区は半径5キロ以内に約52万の人々が暮らしています。52万人の方々の健康を守る当院ですから、地域医療も大きな使命だと思っています。2005年から稼動したER(救急部門)には夜間でも7〜8名の医師が待機し、365日24時間体制の医療を強化しています。
指揮者となる医師がどのような判断をくだすかが医療チームの動きを決め、一刻を争う救急医療では、その重要度がさらに増します。どのような状況にあっても冷静な態度を保ち、迅速で的確な判断をくだし、チームワークが最大限に発揮できるように方向づけすることは、医師の最も大切な仕事の一つといえるでしょう。
論理立てた検証の積み重ねが難題に立ち向かう解決策を導く
当院に勤務する前は大学で約20年間、肝硬変や肝障害の発症メカニズムを明らかにする研究を行っていました。研究には正解が用意されている訳ではありませんから、すぐに答えが見つからないこともしばしば。ただ、そこで諦めては新たな発見はありません。それまでに学んだ原理原則に従って、一つひとつ考えていくんです。不思議なことに、あるとき必ずといっていい程、道が開けてくるんです。そのような考え方は、内科の臨床医として治療にあたる現在に活かされています。症状や処方箋の判断においてはもちろんですが、患者さんとの関係において発揮されることも多いですね。
例えば、お酒を控えれば確実に症状が快復する見込みがあるにも拘わらず、一向に治療に協力的になってくれない患者さんがいたとします。このような場合、強制しても、やさしく言い聞かせてもまず効果はありません。では、どうするのか。
私は、患者さんと一緒に「今後、患者さんがどのような人生を送りたいか」を考えます。その過程で、自分の望む生き方を実現するには、お酒を控える必要があるのだと、患者さん本人に気づいてもらうのです。
内科医の場合、慢性の病を持つ患者さんの治療に当たる機会も多くなります。そういう患者さんにしては「病気を完治させる」という視点ではなく、「病気とどのようにつき合っていくか」ということを一緒に考えることも大事です。
このように、医師は高度な専門知識や医療技術を身につけていることはもちろん、医師と患者という立場を超えて、人間として、相手を尊重し相手のために何ができるのかについて考える力も求められます。

医師である限り勉強に終わりはない
父が医師の家庭で育ったので、自然と自分も医師を目指すようになっていましたね。子どもの頃から、熱中すると徹底的にやらないと気が済まない性分で、鉄棒に夢中になり、毎日2時間練習したこともありました。その結果、ついに蹴上がりに成功したときの嬉しさは今でもはっきり覚えています。その後、大車輪までできるようになっていました。
勉強も鉄棒に没頭したときと同じような感覚で、一所懸命でした。特に理系科目が好きで、数学は1,000題の問題集を10日間で終わらせたこともあります。問題をパッと見て頭の中で解答への道筋が思い浮かんだらどんどん次に進み、そうでない問題は手を動かしながら解きました。さまざまなことを吸収しようという向学心と好奇心は医師に必須の資質です。医療技術の進歩は目覚ましく、医療現場は日々変化しています。医師である限り、学びに終わりはありません。
私が受験した年は、学生運動による大学封鎖で東大入試を受けることができず、一旦はほかの大学に進学しました。しかし、あるときふと東大のキャンパスを見に行きたくなったんですね。そして歴史を感じさせる建物や緑の多いキャンパスにすっかり魅了されてしまい、翌年東京大学を受験し直すことにしたのです。
医師の立場でなく一人の人間の立場に立った治療を
現在の私は個々の患者さんの診療のほかに、「病院の質を向上させる」という病院運営に関する仕事にも取り組んでいます。河北総合病院は時代のニーズに対応し、患者さんの立場に立った環境整備をいち早く進めてきました。リハビリテーション病院や健康センター、ERの開設、さらに訪問看護などは81年から取り組んでいます。
地域医療とは新しい治療を確立することではなく、地域の患者さんが望むことを考え、それを実現していくことです。これから医師を志す人は、常に患者さんの立場に立つことの重要性を覚えておいてほしいと思います。患者さんの悩みや痛みを思いやれる心を持った医師こそ、今後求められる医師像ではないかと思うんです。
日本では高齢化が進み、医療のあり方も変化しています。さまざまな治療法が開発され、複数の治療法からどれを選択するかは患者さんの人生観によって決まってきます。今後は75歳まで現役で働くことを視野に入れた人生設計をするという人も増えてくるのではないでしょうか。
かつては「病気を治すのは医師」というイメージがありましたが、高齢化が進む今後、病気の快復は患者さん自身が病気や治療法のことを理解し、主体的に治療に参加することがより大切になるでしょう。そのために医師は日頃から患者さんとよく話をし、信頼関係を築いておかなければなりません。
患者さんの信頼に応えるために、一つひとつの仕事と誠実に向き合いながら医師の使命を全うしたいと思っています。
医師への道人々の健康を支える
医師とは
医師法に基づき、傷病の診察・治療を行う。主に、患者を診察して病気やケガを治療する臨床医と研究所で病気の原因追究や生理・薬理の研究に従事する研究医に分かれる。さらに麻酔医・スポーツ医など専門分野で活躍する医師もいる。人々の命を預かる仕事の責任は重大であり、多くの知識や技術を身につけると同時に患者さんときちんと話をし、気持ちを理解する豊かな人間力を備えていることが望ましい。
近年は医療の専門化が進んでおり、地域の開業医たちがデータをパソコンで共有し、共同で医療にあたるという新たなスタイルも生まれている。活躍の場は病院や診療所をはじめ、大学の研究室や保健所、一般企業、船、 ホテル、老人福祉施設など幅広い。
医師になるには
医学部や医科大学で6年間の医学課程を修了後、医師国家試験に合格し、医師免許の取得が必要。医師家試験は科目ごとの実施ではなく、基礎医学・臨床医学などを出題範囲とする総合問題形式。今年の2月に行われた第102回医師国家試験では8,535人が受験し、7,733人が合格、合格率は90.6%であった。医師免許取得後は各大学病院や厚生労働省が指定する一般病院などで研修医として2年以上の臨床研修を積む。研修期間は指導医のもと、内科、外科、救急部門(麻酔科を含む)、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療の7つの科を経験しながら専門に偏らない知識・技術 を修得。2年間の臨床研修を終えると、希望する専門の科で医師として仕事をすることができる。
医師国家試験とは
医師国家試験とは、医師として働くために必要な医師国家資格を取得するための試験。6年間の医学課程を修了後、医師国家試験を受験する。
科目ごとの試験ではなく総合問題形式であり、それぞれの専門分野から選出された医師国家試験委員が考案し出題する。4年に一度、試験範囲の見直しが行われ、「医師国家試験出題基準」が出される。そこに挙がっている項目、疾患、症候等に沿って出題される。
医師以外にも、歯科医師、保健師、看護師、助産師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師、臨床工学技士、診療放射線技師等の医療従事者について、それぞれ免許制度と国家試験が設けられている。
医師国家試験の構成
現在、試験は3日間で計500題の選択肢問題が出題される。それぞれ一般問題1点、臨床実地問題3点で計算される。厚生労働省は合格ラインを公表していないが、だいたい3分の2以上の得点が合格ラインといわれている。
以前は、面接や1年間の研修実習が課されていたこともあったが、試験の迅速化と評価を一定に保つ必要性から、現在の試験はすべてマークシートによる選択解答方式で、コンピュータによる採点が行われている。
医師国家試験の合格者は、医籍に登録され、医師免許証が交付される。これは、運転免許証のような携帯サイズではなく、表彰状サイズで交付される。