<<2001/7

 

受験生の「天王山」である夏休みまであとわずか。
この40日の過ごし方が志望校合格のカギを握ると言っても過言ではありません。
どうせやるなら、効果的な使い方をしたいもの。
そこで、最先端を行く現代脳科学の視点から記憶力を飛躍的に高める方法を紹介した、
最近話題の「記憶力を強くする」(講談社ブルーバックス)の著者、池谷裕二先生に直撃。
この夏、効果的な記憶力の鍛え方について語っていただきました。
受験生はもちろん、高2生・高1生の皆さんも必読です!

 夏休みを迎えるにあたり、皆さんにまず知っておいていただきたいポイントは、「自分の生活リズムを崩さない」ことです。ヒトの脳の働きと生活リズムは切っても切れない関係にあります。よく「自分は夜型人間だから、夜集中して頑張ればいいや」という人がいます。しかし、脳が最も活性化されているのは、実は午前中なのです。学校の定期テストや大学入試の本番も、午前中から試験がスタートしますよね。だから、この夏、朝早く起きて、午前中に集中して勉強することをお勧めします。また、朝・昼・晩と三食しっかりとることも大切ですね。

 生活リズムの話題をもう一つご紹介しておきます。最新の研究によると、新しい知識を身につけるためには、覚えたその日に最低6時間は眠ることが必要とされています。「覚えたあとにすぐに寝たら忘れてしまっているのでは?」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。現代の脳科学では、記憶と夢とが密接に結びついていることが解明されつつあります。それによると、脳に記憶されていない現象が夢に現れるはずがないので、夢とは一種の「記憶の再生」であるとされています。つまり、夢は脳にある情報を整えて記憶を強化する働きがあり、夢を見ることにより学習したものが「知識」として刻み込まれていくわけです。寝ている間に記憶が整理され、その後の学習がスムーズにはかどるのです。「自分は夢を見ないのに…」という人も安心してください。それは起きたときに夢の内容を覚えていないだけで、すべての人は一晩にいくつもの夢を見ているのです。

 単語などを片っ端から頭に詰め込んでいく「丸暗記」は、中学生まではある程度効果的ですが、高校生の年齢に達すると、徐々に非効率な記憶法となります。これは脳の性質によるものです。「丸暗記」による勉強法は自分の過去の経験や出来事に関連していない記憶を蓄積する作業となります。この「意味記憶」と呼ばれる能力は中学生の年齢を越えた頃から徐々に衰えていくのです。それに対し、高校生の年齢からは「いつ、どこで、何をした」というような、自分自身の体験や記憶した時の状況などと連合して蓄積される「エピソード記憶」が優勢になります。これは物事をよく理解し、その理屈を論理的に捉えながら系統だてて覚える能力です。

 したがって、覚えたい対象に興味をもって意欲的に臨むことが「エピソード記憶」によって学習効果を高めるポイントになります。皆さんの中には、例えば、Jリーグのチーム名や浜崎あゆみの曲の詞などをすっかり覚えてしまっている人も多いことでしょう。これは、興味をもった対象に臨むと脳内でθ(シータ)波という脳波が出現し、これが発するθ(シータ)リズムによって記憶しようとする力が増強されるからです。

 同じ勉強をするにも「なるほど! それで次はどうなるんだ?」というような積極的な姿勢で取り組むとよいでしょう。例えば、「1582年 本能寺の変」という教科書的な知識も、明智光秀に奇襲されて無念そうな織田信長の様子を実際に頭に思い浮かべたり、彼の死を、自分の身内が亡くなったかのように悲しく思えば、脳は自然に記憶しようとします。さらに、教えることが上手な先生は、このことを体験的に分かっており、先生の教え方次第で、学習効果が変わってくることがあります。

 最後に、勉強と成績の関係の本質は「努力の継続」にあります。一般的に、記憶には「累積の効果」(左図参照)がありますが、こうした成果が現れるまでに時間がかかります。早い人で約三ヶ月と言われています。しかし、忍耐強く勉強を繰り返すことのできる人ならば、その後成績は急カーブを描いて上昇していきます。夏の成果がすぐ成績に反映されないからといって、悲観する必要はありません。「繰り返し努力すること」を忘れずに、この夏頑張ってください!




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