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トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2017年8月1日号

量子テレポーテーションを
用いた量子コンピューター

東京大学 大学院工学系研究科 教授

古澤 明先生

各界の最前線で活躍する研究者や経済人を講師に迎えて開催する「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は、量子テレポーテーション研究において世界を大きくリードする東京大学大学院工学系研究科の古澤明先生にご登壇いただいた。「量子力学」「量子コンピューター」「量子テレポーテーション」の仕組みについてご講演いただき、その後のワークショップでは「20年後の情報通信・コンピューターはどのようになっているか?」というテーマで討議。古典物理学とは大きく異なる量子力学とは?量子テレポーテーションの可能性とは?驚くべき最新研究の舞台裏をお届けする。

講演者プロフィール

東京大学工学部物理工学科卒業ののち、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。(株)ニコン、東京大学先端科学技術研究センター研究員、カリフォルニア工科大学客員研究員、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻助教授を経て現在に至る。2004年に、三者間の量子テレポーテーション実験に成功。2006年には、『Nature』で東大の古澤研究室が紹介されている。2016年紫綬褒章受章。ノーベル物理学賞の候補として世界から注目されている。

ミクロの世界での力学法則
「量子力学」とは?

現代の物理学は、ニュートンの運動方程式やマクスウェルの方程式といった古典力学ではなく、量子力学の世界となっています。

量子力学とはミクロの世界における物理学です。我々は今、原子や電子といった小さなものを観測できるようになりました。そうなるとそれまで古典力学では考えてこなかったことも織り込んでいく必要が出てきます。

例えば仮に、小さな水素原子に光を当てて肉眼で観察できたとします。観察とはつまり、小さな光子が水素原子に当たって私たちの目まで跳ね返ってくるということです。ですがこのとき、水素原子には作用反作用の法則が働きますから、元の場所から動いてしまいます。つまり観察することそれ自体が、相手の状態を乱してしまうのです。位置と運動量は同時には決まらない。これが量子の世界のルールで「不確定性原理」といいます。「不確定性原理」のもとでは、「重ね合わせ」という不思議な事が起こります。この「重ね合わせ」と「量子もつれ」という量子の特性を用いたのが、量子テレポーテーション、あるいは量子コンピューターになります。

実は量子テレポーテーションは、最も簡単な量子コンピューターでもあるのです。

量子コンピューターは
省エネルギーで速い!

ではどうして今、量子コンピューターの研究を進めなくてはいけないのでしょうか。理由は2つあります。

皆さんは、Google が自動運転と量子コンピューターの研究を進めていることを知っていますか?彼らは、映画『アイ・ロボット』のような未来世界を実現しようとしています。そこでの移動手段は、自動運転のタクシー。ですが従来のコンピューターでは、何十万台というタクシーを最適経路で同時に動かすということは不可能です。

もうひとつの理由は、エネルギーの問題です。スーパーコンピューターを動かすのには、原発数基分もの電力が必要です。このままインターネットを利用し続けると地球が滅びかねません。しかし量子コンピューターであれば、少ないエネルギーで膨大な計算を行うことができるのです。

量子テレポーテーションは、2つに分裂した量子の、片方の量子の測定の影響がもう一方の量子にも及ぶという「量子もつれ」という特性を生かして、ある種の情報通信を行うというものです。大規模な量子もつれを作れば非常に大きな量子計算も可能で、私の研究室では、従来比1000倍を超える超大規模量子もつれの生成に成功しています。

世界をリードする3つの理由

現在、世界中でさまざまな方式の量子コンピューターが研究されています。

ですが、我々の研究が本命だと考えています。なぜなら、私の研究室で開発している量子コンピューターは「クロック周波数を上げられる」「小型化が可能」「常温で動く」という3点において、世界をリードしているからです。11年ほど前は世界にたくさんのライバルがいて、毎日戦々恐々としていました。ですが現在では我々の独壇場になっています。

研究を始めて20年になりますが、諦めずに続けてきてよかったと思っています。皆さんにお伝えしたいのは、母国語で勉強することの大切さです。なぜなら私たちは、論理的な思考をするときには、必ず日本語で考えているからです。さらに大学院レベルの教科書が母国語で揃っているのは、英米を除く先進国では日本ぐらいです。また研究者にとって博士号はグローバルに活躍するうえでの「称号」です。

ぜひ博士号を取って、世界で活躍してください。

ワークショップ【探る・話す】

テーマは「20年後の情報通信・コンピューターはどのようになっているか?」

ワークショップテーマは「20年後の情報通信・コンピューターはどのようになっているか?」6名1組のチームに分かれ、まずは自分の意見をしっかりとシェアするために予備シートに記入。それを元にチーム内で議論を深めていく。「量子コンピューター」「ビッグデータ」「AI」といったキーワードが飛び交うなか、古澤先生も各チームの様子を伺いながら気さくに声をかける。

ワークショップ【練る】

意見を一つにまとめる

各自の意見を一つにまとめて、チームとしての考えをワークシートに記入していく。「オリジナリティのある提案をして下さい。ネットで見たことがあるようなものはダメです」という古澤先生のアドバイスを受けて、急きょプランを変更するチームも。状況に応じて臨機応変に対処していくこともリーダーにとって必要な力だ。

ワークショップ【発表する】

予選に挑む

総勢24チームがしのぎを削る予選会。持ち時間はわずか2分。そのなかでいかにわかりやすく、論理的、かつ丁寧に自分たちの考えを伝えることができるかが鍵となる。内容のオリジナリティのみならず、ワークシートに図表を加えて見やすくしたり、声の大きさや速度にも気を配るといった工夫が必要だ。

ワークショップ【決勝】

予選を勝ち抜いて、いよいよ決勝。

いよいよ決勝戦。予選を勝ち抜いた6チームの代表者が壇上でプレゼンを行う。いずれのチームも「脳の外部化」「VRの発展」「未来予測の精度向上」「犯罪予防の推進」といった独創性に富んだテーマで勝負をかける。古澤先生は、その背景に見える「人類はこのままでいいのか?」「AIと共生する未来は明るいか?」といった問題提起に視線を向けつつ講評を加えていく。

ワークショップ【結果】

表彰式

優勝したのは物理法則を自分で決めることができるという未来像を描いたチーム。「人間が成長する」という「明るい未来」を提案した点が他チームと一線を画した。「どのチームも私が考えもつかない視点をもたらしてくれました」と古澤先生。表彰式と記念撮影のあと、盛況を博したワークショップは閉幕を迎えた。

参加した高校生の

埼玉県 県立 浦和高校 3年

保坂 歩くん

僕は工学部を志望しています。将来はロボット開発を手がけたいと考えているので、研究の最前線で活躍する古澤先生のお話にとても感銘を受けました。ワークショップへの参加は初めてだったのですが、チームリーダーに挑戦。緊張はしましたが、メンバーとはすぐに打ち解けることができて、みんなの意見を参考にしながら自分の考えを深めるいい機会になりました。他のメンバーの意見を聞くなかで、リーダーとしてはまだまだ勉強すべき点があると感じました。

東京都 私立 駒場東邦高校 1年

中居 城大くん

量子コンピューターがとても速いことは知っていましたが、その仕組みの奥深さに驚かされました。ワークショップでは進行とタイムキーパーを務めました。普段は自分から意見を述べるほうではないのですが、率先して役割を引き受けることができたのは大きな収穫です。理科が大好きで、将来は科学者になろうと昔から思っています。古澤先生の講演を聴いて、量子コンピューターの研究も進路の選択肢として考えたくなりました。

東京都 私立 豊島岡女子学園高校 3年

吉葉 友希さん

実際に研究に携わっている先生のお話をお聞きする機会はなかなかないので、今日はとても有意義な時間を過ごすことができました。とりわけ興味深かったのは、新薬の開発にも量子コンピューターが期待されていることです。なぜなら私は薬学部を志望していて、薬の開発には膨大な費用と時間がかかることを知っていたからです。ワークショップでは書記を務めました。みんなの意見を一つにまとめるのは大変で、チーム力の大切さも学ぶことができました。

東京都 私立 駒場東邦高校 1年

福井 寛之くん

「量子」に関する知識が少ないままに参加したのですが、古澤先生に丁寧に講演をしていただいたおかげで、今までにない貴重な知識を得ることができました。とりわけ、離れた場所にある量子の情報が一瞬で伝わる量子テレポーテーションはとても神秘的で、感動しました。ワークショップでは書記、タイムキーパー、進行の三役を務めました。普段から積極的、主体的に行動することを心がけていて、リーダーとしての練習を積んでいきたいと考えているからです。

東京都 私立 三輪田学園高校 3年

本山 実穂さん

量子コンピューターがどんな未来をもたらすのか。例えば、私たちが持っているスマートフォンなどもどのように変化していくのかを考えるととてもワクワクしました。グループディスカッションでは、同年代のひとたちのレベルの高さに改めてびっくり。私たちのチームでは、量子コンピューターが、気象や犯罪などのあらゆる予測を可能にする未来を想像しました。一人では出ないようなアイディアも、グループで話し合うことで飛び出しやすくなることも今日の気づきの一つです。