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トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2017年10月1日号

歴史に学ぶ、
日本人のこころ

法相宗大本山 薬師寺 管主

村上 太胤先生

第一線で活躍する経済人や研究者を講師にお招きして開催する「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は、奈良薬師寺管主の村上太胤先生をお招きし、「歴史に学ぶ、日本人のこころ」と題してご講演いただいた。その後のワークショップでは「こころを鍛えるためには」というテーマで討論。1,300年に及ぶ薬師寺と仏教の歴史から見えてくる「日本人のこころ」とは?その教えの一端をご紹介する。

講演者プロフィール

昭和22年岐阜県生まれ。昭和44年龍谷大学文学部仏教学科卒業。昭和52年薬師寺執事に就任、平成19年法相宗宗務長に就任、平成28年薬師寺管主に就任し現職。平城遷都1300年の際には広報活動としてフランスでの声明公演や、イギリス大英博物館などでの講演など「まほろば奈良」の顕彰に努める。玄奘三蔵の足跡を訪ねて、毎年インドや中国・中央アジアの巡礼を行っている。

会得に11年!?
薬師寺で学ぶ「こころ」とは?

私は9歳のときに奈良の薬師寺に出家しました。

当時は早朝4時半からお勤めをして、掃除をして、ようやく朝食です。朝食といってもお粥が一碗だけの質素なものです。

そのあと、お師匠さんから講義を受けます。「唯識」というとても難解な教えです。「唯識三年倶舎八年」という言葉があるほどで、教義を会得するまでに11年もかかるといわれています。薬師寺の宗旨である法相宗では「識」の字を「こころ」と読みます。すべての世界は「識」によって作りだされる。それが唯識の教えなのです。

私はそうして、唯識のこころを小学生の頃から学びました。「千日聞き流し」といって、3年ほどひたすら講義を聞き続けるのですが、初めは何を言っているのかさっぱりわかりません。まるで、宇宙の言葉を聞いているようでした。

けれども毎日聞いているうちに少しずつわかってくるんですね。実はお師匠さんは「こころが大切だ。こころがすべての世界を作りだしているんだ」と仰っていたのです。

日本のために祈る
1300年続く奈良仏教の伝統

日本という国は、ご承知のように神様の国です。山の木や岩などに神様が宿っていると考えられていました。

そこへ百済から仏教が伝来します。諸説ありますが538年のことです。当時の有力な豪族であった蘇我氏が、大陸文化の仏教を受け入れ、日本に取り込みました。この画期的な出来事をもとに、やがて推古天皇のもとで摂政となった聖徳太子が仏教に基づく政治を行います。

こうした仏教精神に基づいた国づくりをさらに推し進め、日本という国の骨格を作りあげたのが天武天皇や持統天皇です。薬師寺の建立が発願されたのは、この天武天皇が即位して8年後の680年のことです。

平城遷都に伴い現在の地に移って以来、およそ1300年にわたって、多くの伝統儀式が今も残っています。例えば毎年3月に行われる「花会式」。これは10種類の造花をご本尊の薬師如来にお供えする盛大な法要で、そこでは10人の僧侶による「声明」という独特の節のついたお経が唱えられます。

薬師寺には檀家はありません。国家や国民のために日々お祈りをしているのです。

「目に見えないモノ」が
「こころ」を育む

奈良はシルクロードの終着点で、さまざまな宝物が正倉院に伝わっている国際都市なのです。私もフランスや大英博物館などで講演をさせていただいています。

私が初めてインドの聖地を訪れたのは18歳のときでした。9歳からずっと厳しい修行をしてきて、実は当時はお坊さんになるのが嫌でした。

でもそんな私に、ある老夫婦が「あなたは本当に幸せですね。その若さでお釈迦様の聖地に参拝ができて」と声をかけてくださいました。はるか昔、志半ばにして命を終えた多くの僧侶たちの思いに、このとき初めて私は気づきます。「本気で僧侶にならなければ」と心から思いました。

日本人は神様や仏様、ご先祖様といった「目に見えないモノ」を大切にしてきました。例えば「お経」と「経営」に共通する「経」の字は「縦糸」という意味です。縦糸は目に見えませんが、大事なものをつなぐ役割を持っています。

経営者やリーダーにも「見えないモノを感じる力」が必要です。仏教の教えとは、自分が今生きていることに感謝する「ありがとう」「ごちそうさま」「いただきます」といった基本をきちんと繰り返すことです。皆さんもぜひ仏教の「こころ」を育んでいただきたいと思います。

ワークショップ【探る・話す】

テーマは「こころを鍛えるためには」

ワークショップテーマは「こころを鍛えるためには」。進行役や書記などの役割分担を決めて、予備シートに記入した自分の意見をもとに討論を始める。初対面の緊張もほぐれ、徐々に笑顔も。「苦手なことに挑戦する」「過程が大事なのでは?」「いろいろな人と出会おう」など率直な意見が飛び交う。

ワークショップ【練る】

意見を一つにまとめる

個人の意見を一つにまとめてワークシートに記入。書体を工夫したり、イラストを交えたり。大きな文字を切り貼りしてオリジナリティを出すチームも。「こころを鍛える」という幅広いテーマに対して、チーム全体でいかに説得力を持ったユニークな切り口を打ち出せるか。ここからはチーム力の勝負だ。

ワークショップ【発表する】

予選に挑む

総勢20チームが臨む予選会。2分の持ち時間でいかに聴衆の心に響かせることができるか。発表者の責任は重大だ。声を張り、メリハリのある口調を心がけるもリハーサル通りにはいかないことも。最も印象に残ったチームを投票で決めて、決勝進出チームを選出。

ワークショップ【決勝】

予選を勝ち抜いて、いよいよ決勝。

いよいよ本選がスタート。予選を勝ち抜いた6チームがしのぎを削る。こころを鍛える「プロセス」に着目するチーム、こころを鍛えるとはどういうことかという「定義」を明らかにするチーム、具体的な「努力の方法」を提案するチーム。視点は百花繚乱。村上先生の講評にも熱が入る。

ワークショップ【結果】

表彰式

厳正な審査の結果「目標」「強い意志」「経験」「感情」の4つのサイクルを繰り返しながらこころを鍛えていく提案をしたチームが最優秀賞に輝いた。「お経を覚える際にも常に原点に立ち戻り何度も基本を繰り返すことが大切です」と自身の経験から講評を加える村上先生。熱戦を繰り広げたワークショップは、参加者と村上先生の笑顔で締めくくられた。

参加した高校生の

東京都立 墨田川高校 3年

福田 怜菜さん

講演とワークショップを通じて「こころを鍛える」ということは仏教に限らず、人間である以上、とても必要なことなのだと再確認しました。とりわけ共感したのは、村上先生が18歳で初めてインドを訪れた際に、自分がどれだけ恵まれていたかを悟ったというお話です。私も何度かの海外経験で、日本では当たり前のことが当たり前ではない世界があることを見てきました。将来は、貧しい人たちを助けられるような外交官になりたいと思っています。

東京都 私立 本郷高校 2年

家田 淳史くん

生まれたときから仏教に関わってきた村上先生の半生に、まず圧倒されました。9歳で出家して以来、ずっと薬師寺で生活するという生き方は、自分の想像のまったく及ばない世界だったからです。村上先生のお話で特に心に残ったのは「信じたことをきちんとやり続けること」の大切さです。ワークショップでは発表者を務めましたが、みんなの意見を引き出したり、話をまとめたりする貴重な経験ができました。

東京都 私立 渋谷教育学園渋谷高校 1年

中林 佳奈子さん

村上先生の講演では、とりわけイギリスでの講演やシルクロードの国ウズベキスタンのお話など、世界各地での巡礼の様子がおもしろくて、とても興味を持ちました。なぜなら、私自身も将来は海外で活躍できる医師になりたいと思っているからです。ワークショップへの参加は初めてだったのですが、先輩たちにうまくリードしていただいたので、普段は話下手な私でも積極的に意見を言うことができました。

東京都 私立 海城高校 2年

竹澤 太格くん

お坊さんのお話ということで少し身構えていたのですが、村上先生の講演はとても親しみやすい内容でびっくりしました。特に心に残ったのは「常に原点に立ち返って反復する」ことの重要性です。お経を覚える大変さを痛感するとともに、受験勉強にもそれぐらいの忍耐力が必要だと思いました。ワークショップでは「こころの強い」人とは「自分に自信を持っている」「他人の意見をきちんと聞ける」人であるという結論に達しました。世界で活躍する弁護士になりたいと考えていますので、今日の気づきをこれから役立てていきたいと思います。

東京都 私立 東京都市大学付属高校 1年

雪竹 創太くん

薬師寺という歴史あるお寺の管主を務めていらっしゃる村上先生のお話をお聞きしたくて今回初めて参加しました。宗教と聞くと堅苦しいイメージがありましたが、先生のお話はユーモアたっぷりでとてもおもしろかったです。そのなかで「大学受験は手段。目的はもっと先にあります」といった受験勉強のアドバイスもしていただけて、とても有意義な時間でした。ワークショップではチームメンバーだけではなく、「0から0.1を見出して積み重ねていく」と主張した他チームの発表にも大きな刺激を受けました。