道傳 愛子 NHK解説委員(国際情勢担当) NHKワールド チーフ・プロデューサー "格差"を超えて〜より良い世界を作るために |トップリーダーと学ぶワークショップレポートサイト|大学受験の予備校・塾・東進
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TOP東進タイムズ 2018年2月1日号

"格差"を超えて
〜より良い世界を作るために

NHK解説委員(国際情勢担当)
NHKワールド チーフ・プロデューサー 元NTTコミュニケーション科学基礎研究所 所長

道傳 愛子先生

ビジネスや研究の最前線で活躍する「現代の偉人」を迎えてお送りする「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回はNHK解説委員(国際情勢担当)、NHKワールド チーフ・プロデューサーの道傳愛子先生を講師にお招きして「“格差”を超えて~より良い世界を作るために」というテーマでご講演いただいた。その後のワークショップでは、世界の貧困問題を取材してきた道傳先生の講演を踏まえ「より良い世界を作るために『私』は何ができるのか?」を討論。国際社会の問題を自分自身に引き寄せ、課題解決に必要な能力やアイディアを模索した。

講演者プロフィール

上智大学外国語学部英語学科卒業後、NHK入局。米国コロンビア大学大学院留学、国際政治学修士号取得。「NHK ニュースおはよう日本」「NHKニュース9」キャスターなどを担当後、バンコク特派員としてタイ、ミャンマー、ラオス、カンボジア、ASEAN 情勢など東南アジアの政治・経済とともに地雷、HIV、難民など人間の安全保障に関わる問題を広域に取材。「NHKネットワーク」キャスターを経て2007年6月より国際情勢担当解説委員。2008年より2015年までNHK 国際放送・BS1英語のインタビュー・討論番組「AsianVoices」(アジアンボイス)キャスター、編集長。2017年よりNHK ワールド チーフ・プロデューサー、NHK 解説委員。

「こうあってほしいと思う世界」を
作ることができる

私はアナウンサーとしてNHKに入局し、ニュース番組のキャスターなどを務めました。ですがその後、2000年にバンコクの特派員になります。世界の現場でどんなことが起きているのかを、自分で取材して伝える仕事をしたいとずっと思っていたためです。そうした経験を生かして今、東南アジアや開発途上国の課題を担当する解説委員をしています。ただし、バンコクで特派員をしていたから東南アジアを担当しているという言い方は、もう古いのかもしれません。なぜなら昨今の貧困や飢餓、気候変動やテロの問題などは国境を越えていくものだからです。伝える側の人間が、ある特定の地域のみにしか目を向けていないようでは本質が見えなくなります。国境を越えた視点で、世の中を見ていく必要があるのです。

そこで皆さんにお伝えしたいのが"You cancreate the world youwant to have. So let's try and make it." というメッセージです。これは2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の言葉です。世界は今、ひどい状態だと諦めてしまうのではなくて、こうあってほしいと自分が思う世界に作り変えることができます。だからそうした世界になるように力を尽くしましょう、という呼びかけです。このような気持ちで世界に向き合うことが大事だと、私も思っています。

8億人が極度の貧困に
格差の実態を測る「ものさし」を持とう

世界の現状はそれほどバラ色ではありません。発展や開発の差、貧富の差、健康の差、教育の差などいろいろな「格差」があります。例えば、世界では今でも8億人あまりが極度の貧困にあります。開発途上地域では5人に1人が一日1ドル25セント未満での生活を余儀なくされています。飢餓が最も多いのはアジアで、全体の3分の2の人たちが集中しています。5700万人の子どもたちが学校に通えず、それどころか貧しい地域の子どもたちは豊かな国の子どもたちに比べて、5才の誕生日を迎える前に死亡する確率が3倍も高いのです。また、妊産婦の死亡率も先進国と比べると14倍も高くなっています。

国際社会ではこうした課題解決のための「ものさし」を作っています。国連による「持続可能な開発目標(SDGs)」というもので「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」といった17の目標を掲げています。格差や開発途上国の問題に興味があったり、国連やNGOなどで仕事をしたいと思っている人は、これらの目標を覚えておくといろいろな場面で役に立つと思います。

インスタントラーメンが世界を救う?!

実は「SDGs」以前には、「ミレニアム開発目標(MDGs)」という2015年を達成期限とした目標がありました。それを十分に達成できなかったので、ちょっと宿題の期限を延ばすような形で「SDGs」が設定されました。残念ながら飢餓や貧困はすぐに終止符が打たれるものではなく、私たちはずっと宿題をやり続けなくてはなりません。

そうした中で今、国連やNGOのみならず、企業も力を尽くそうとしています。例えばアフリカでは日本製のソーラーパネルを利用して、太陽光を農業と発電でシェアする試みが行われています。あるいは、日本の食品メーカーが安くて栄養価の高いインスタントラーメンを開発・販売していて、現地の学校給食にも提供しています。ボランティアではなくビジネスとして取り組むことで、持続可能な開発がもたらされるわけです。

もちろん、ソーラーパネルやラーメンの開発だけで現地の人たちの生活が格段に良くなるというわけではありません。けれども、こうした取り組みのおかげでお母さんが助かれば、子どももきちんと食事ができるようになるかもしれません。そうすれば学校にも通えるかもしれない。健康に仕事をして、家計を助けられるかもしれません。「小さな取り組みをひとつ行うことで、誰かを助けることができるのではないか」という「想像力」を持つことは、とても大事なことです。

課題解決のキーワード
「シビル・ソサエティ」とは?

世界の貧困や格差の問題は、けっして遠く離れた世界の出来事ではありません。「自分はその世界とどう関わるのか?」「自分が何か役に立つことはあるだろうか?」という気持ちを持って勉強をしたり、ニュースを見たりしてほしいと思います。地球上のさまざまな課題と、日本で生活をしている自分との間にどのような関係があるのか。そうしたことを意識しながら、世の中で起きていることに向き合う必要があります。そこで重要なのが「シビル・ソサエティ」(市民社会)というキーワードです。これは、NPOやNGOといった非営利組織、非政府組織、民間団体、ボランティアなどすべてを総称した「自発的・自覚的な集団としての市民のつながり」のことです。

どうすればもう少し世の中を良くすることができるのか。そうした意識を持った人たちの集まりがシビル・ソサエティです。今日ここに集まってくれた皆さんも、そうした自覚を持っているという意味で、十分にシビル・ソサエティの一員であるといえます。皆さんも、自分が作りたいより良い世界のあり方があると思います。その実現に向けてがんばりましょう。

ワークショップ【探る・話す】

ワークショップテーマは「より良い世界をつくる~『私』は何ができるのか」。

まずは各自の意見を発表しながら、チーム全体の方向性を決めていく。道傳先生も各チームの議論に熱心に耳を傾ける。

ワークショップ【発表する】

総勢23チームがしのぎを削る予選会。

2分間という短い持ち時間で自分たちのアイデアを的確、かつ論理的に伝える。緊張の中、声の大きさやスピードにも気を配りながらプレゼンを行う発表者たち。

ワークショップ【本選】

いよいよ本選。

予選会を勝ち進んだ6チームの代表者が壇上でプレゼンを行う。「世界情勢に目を向け、募金やボランティアなどの行動を起こす」「義務教育の段階で貧困問題を考える授業を作る」「インターネットを活用して多くの人に発展途上国の現状を知ってもらう」といったアイディアが披露された。

ワークショップ【結果】

表彰式

「どのチームも素晴らしいアイディアが詰まっていました」と道傳先生。そのなかでも「日本という先進国で育った高校生」という自分たちの立ち位置を明確に示したうえで論を進めて行ったチームが優勝した。

参加した高校生の

神奈川県 私立 浅野高校 2年

福島 魁くん

もともとメディアに興味を持っていて、道傳先生と同じコロンビア大学大学院へ留学したいと考えています。今日の「格差の是正」をテーマとした講演は、「SDGs」を始め、とりわけ自分の関心のある教育の問題とも密接に関わっていて、強く惹かれました。ワークショップでは発表者とまとめ役を務めましたが、グループメンバー全員が意見を言える雰囲気作りを心がけました。将来はAIと教育をうまく融合させた新しい仕組み作りに貢献できればと考えています。

東京都 私立 桜蔭高校 2年

藤山 瑶子さん

道傳先生の講演でとりわけ印象に残ったのは、貧困の解決が「SDGs」の他の目標の解決にもつながっていくのではないか、そうした想像力を私たちは持たなくてはいけないというお話です。高校生である自分の小さな行動にも価値がある。そんな勇気を与えていただいたように思います。グループディスカッションでは、今回初めて発表者を務めましたが、もっと理論立てて話ができればよかったと反省しています。将来は医療分野に進みたいと考えているのですが、今日の講義を聴いて「国境なき医師団」や赤十字などにも興味が湧いてきました。

埼玉県立 所沢西高校 2年

熊谷 勇汰くん

アナウンサーとして活躍されていた道傳先生の講演は、とても聞き取りやすく、わかりやすかったです。貧困や格差を解消するための取り組みといった複雑な国際情勢のお話も、するすると頭に入ってきました。グループディスカッションでは、自分の考えをしっかりと持っている人が多いことに刺激を受けました。今回は自分の意見をきちんと伝えられなかったもどかしさを感じたので、その点を課題として今後のワークショップや日常生活に生かしたいと思います。