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TOP東進タイムズ 2018年6月1日号

漫画家・編集者という職業

漫画家

弘兼 憲史先生

日本の第一線で活躍する「現代の偉人」とともに、世界のさまざまな課題解決を考える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は累計発行部数 4,000 万部を超える大ヒット作『島耕作』シリーズを手がける漫画家・弘兼憲史先生を講師にお迎えし、「漫画家・編集者という職業」及び「15年後の日本の高齢化社会」についてご講演いただいた。続くワークショップでは200名を超える参加者が、来るべき高齢化社会について熱心に議論を交わした。盛況を博した当日の模様をお送りする。

講演者プロフィール

1947年山口県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)勤務を経たのち、1974年に「風薫る」で漫画家デビュー。「人間交差点」で小学館漫画賞、「課長島耕作」で講談社漫画賞、「黄昏流星群」で文化庁メディア芸術祭優秀賞と日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年には紫綬褒章を受章。現在、「島耕作シリーズ 学生島耕作~就活編~」や「黄昏流星群」を連載中。

『島耕作』シリーズの原点となった
会社員時代

「漫画家・編集者という職業」、そして「15年後の日本の高齢化社会」という二つのテーマでお話ししたいと思います。

私は子どもの頃から漫画ばかり読んでいました。小学生の頃には真剣に漫画家になろうと思っていましたが、中学生の頃から「漫画家というのは、なりたいと思ってなれる職業ではない」 ということに気づきます。それで当初は新聞記者になろうと思い、早稲田大学の法学部へと進学します。大学では「漫画研究会」に入るのですが、やはり漫画家になろうとは考えていませんでした。ですが絵を描くことはできましたので、卒業後は松下電器産業(現パナソニック)に入社して、ポスターやカタログなどを企画制作する仕事をしていました。ここでの経験が、のちの『島耕作』シリーズの原点となるわけです。

転機の一つとなったのは、仕事でお付き合いのあった漫画家志望のデザイナーとの出会いです。ある日飲み会の帰りに彼の家に泊まらせてもらうと、真夜中に一生懸命漫画を描いている。夢に向かって努力している彼の姿が私の心を動かしました。思いきって会社を辞め、フリーランスでデザインの仕事を請け負いながら漫画家を目指すことにしたのです。

多くの人に支えられたフリーランス時代
そして漫画家へ

フリーになって改めて感じたのは、仕事というのはまず「人間関係」が大切なのだということです。松下電器に勤めていたころ、新入社員ながら取引先の方々と一緒に仕事をする中で、人間関係を築くことができました。退社しフリーになってからも、以前の取引先の方々がたくさん「弘兼さんに頼んでみよう」と仕事を回してくれました。会社員時代の良好な人間関係があったからこそ、フリーになってから大いに助けていただけたわけです。信頼のもとに築き上げた人間関係は一生の財産になります。

こうしてフリーの仕事を続けながら、私はようやく漫画を描きはじめます。とはいうものの、長いストーリー漫画を描くためは、物語の作り方を学ばなくてはなりません。そこで一日8本ぐらい映画を観て、印象に残ったシーンを必死でメモしました。起承転結の作り方、伏線の張り方や構図の取り方など、映画には漫画に役立つことがたくさんあります。こうして退職の翌年、新人賞に応募した作品が入選し、私は漫画家としてデビューしたのです。

漫画家・編集者に必要な力とは?

漫画家として成功するには、第一に「才能」は必要でしょう。ですが「画力」よりも「物語を作る力」があるほうが売れる漫画家になれます。それから「精神力」「体力」も必要です。駆け出しの頃の私は「プロの漫画家が一日12時間以上描いているのなら、自分は14時間描くぞ!」という気合いで臨みました。デビューから40数年が経つ現在でも睡眠時間は5時間ほどで、大晦日とお正月に数日休む程度です。好きな仕事だからこそ、続けていられるのです。

さらに「好奇心」も必要です。あらゆるものに広く浅く知識を得ておくことが大事です。そして意外に思われるかもしれませんが「協調性」も必要です。編集者との付き合い方が下手で消えていく漫画家もいます。才能だけで勝負するようなこの世界でも、人間関係というのはとても大切なのです。

一方で編集者の仕事をひと言でいうなら「出版社所属のプロデューサー」です。漫画家や小説家と一緒に打ち合わせを行い、ヒット作を作っていく。勉強ができるだけではだめで、自由な発想が求められます。ヒット作をたくさん生み出す編集者もいれば、そうでない編集者もいます。ヒット作を出せなければそのうち編集以外の部署に変わっていきます。こちらも厳しい世界です。

来るべき高齢化社会そのとき
日本はどうなる?

次に「15年後の日本の高齢化社会」についてお話しします。15年後というと2033年です。日本の平均寿命は現在男性81歳、女性が87歳でどんどん延びています。しかし一方で、2030年頃から団塊の世代が死を迎えるようになると、現在よりも1000万人以上の人口が減るといわれています。さらに皆さんが60歳ぐらいになる2060年には、日本の人口は8600万人まで減り、100年後には4300万人というかなり小さな国になってしまいます。人口が減れば、国内総生産(GDP)が減るわけですから国力が落ちます。日本のGDPは現在世界3位ですが、今世紀半ばには10位ぐらいになってしまいます。

高齢化の問題は日本だけでなく、アメリカや中国なども同様です。医学の発達によって寿命が延びている一方で、若者の数が減っている。これでは国家経営が成り立ちません。人類は今、自分で自分の首を絞めるような究極の二律背反に直面しているということです。この困難を日本がどう乗り越えていくのか、世界が注目しています。

そうした中で誰もが直面するのが「介護」の問題です。親を介護する、あるいは自分が介護されるという二つの関門を避けて通ることができません。85歳以上の4割、90歳以上の8割が痴呆になるといわれていて、誰かが面倒を見なければいけません。寿命は延びたけれども働けない。まったく生産をしないで税金だけで養ってもらう人間が増えると、その税金は誰が賄うのかということになります。

「在宅死」「安楽死」「延命治療」
――生と死の課題を考えよう

さらに問題なのは、高齢者が病院のベッドを占領してしまうことです。そこで今、自宅で死を迎える「在宅死」が議論されています。戦後間もない頃は、およそ9割の人が在宅死でした。「家族を看取る」ということの意味を学校でも教えていましたし、実際に子どもたちも体験していたのです。在宅死には家族の介護が不可欠で、相応の覚悟や気力、体力が必要です。介護する側が倒れてしまう事態にならないようにサポートしなければいけません。例えば私が今考えているのは、高齢者の「見守りボランティア」です。家族が仕事などで留守の間、元気なシニア層が話し相手になったりするのです。

加えて「延命治療」の問題もあります。非常に厳しい言い方かもしれませんが、病院のベッドでチューブにつながれた状態で生き続けることは幸せでしょうか。「安楽死」を望む人は、今後世界でも増えてくることでしょう。

高齢化社会の行き先には、「死ぬ権利」「安楽死」「人口調整」というたいへん難しい課題が待ち受けています。在宅死を進めるには、在宅医療に限定して医療行為を行う「準医師」を作る必要があります。医療行為のできる外国人も受け入れていく必要があるでしょう。これから若い皆さんが、高齢者に対してどのように向き合っていかなければならないのか。大いに議論していただきたいと思います。

ワークショップ【探る】

ワークショップテーマは「15年後の日本の高齢化社会について」。

講演の前に東進ハイスクール・東進衛星予備校の永瀬昭幸理事長より挨拶。ビジネス漫画の第一人者である弘兼先生の経歴や代表作『島耕作』シリーズについて紹介。「ものすごく忙しい先生ですから今日はとても貴重な時間です。

ワークショップ【話す】

チームに分かれてディスカッション。

各チームに分かれて行われたディスカッションでは、介護の問題、AIの活用など現実的な問題について活発な意見が飛び交う。制限時間のなかで意見をまとめ、発表の準備までチーム一丸となり進めていく。

ワークショップ【発表する】

総勢200名余り35チームが競う予選会。

45分間のディスカッションを経ての予選会。総勢200名余り35チームが熱戦を繰り広げる。「15年後の日本の高齢化社会」では何が起きているか。弘兼先生の講義でのキーワード「消費税」「在宅死」「延命治療」などを踏まえつつ、自分たち独自の視点や考えをいかに打ち出せるかが勝負の鍵だ。

ワークショップ【本選】

予選を突破した6チームによる決勝戦。

いよいよ決勝戦。予選を突破した6チームの代表者が壇上でプレゼンテーションを行う。「地方分権を進めて福祉特区を創る」「税と年金の改革を行う」など多彩なアイデアに、弘兼先生も「面白い」「大胆な発想ですね」と賛辞を贈る。

ワークショップ【結果】

表彰式

弘兼先生による厳正な審査の結果「在宅死」の問題を「認知」「財政」「個人」という三つの側面から分析して対策を考えたチームが優勝。「現実的でバランスの取れたアイデア」であったことが評価された。「この問題にどんどん興味を持ってください」と弘兼先生。最後に表彰式と記念撮影が行われ、ワークショップは盛況のうちに幕を閉じた。

参加した高校生の

東京都 私立 早稲田高校 3年

齊藤 光祐くん

弘兼先生の講演で印象に残ったのは「協調性」が大事だと仰っていたことです。また、昔は「在宅死」が一般的だったというお話にも衝撃を受けました。ワークショップでは、議論を引っ張るよりもチーム全体の調整役を意識していました。次回はもっとリーダーシップを発揮していきたいと思います。将来は広告関係に進みたいと思っているので、今日はプレゼンの経験ができてとても良かったです。

埼玉県立 浦和西高校 3年

吉岡 麻衣さん

ワークショップへの参加は今回が初めてです。先生の講演では、とりわけ「安楽死」や「延命治療」における意思表示を、あらかじめ家族に伝えておくことの大切さを痛感しました。ディスカッションでは書記を務めたのですが「延命治療の意思表示カード」「安楽死用の保険を作る」など、自分と異なるいろいろな意見を聞けたことがとても刺激になりました。大学では経営学を学びたいと考えています。

東京都 私立 豊島岡女子学園高校 2年

松﨑 史楓さん

漫画家や編集者についてのお話はとても具体的で、こんな世界があるんだなと驚きました。それでも「締切を守る」といった、一般社会においても基本的なルールを大切にすることを説かれていたのが印象的でした。ワークショップでは人前で話すことを以前からやってみたいと思っていたので、発表者に立候補しました。幸い決勝に進むことができましたが、ものすごく緊張しました。壇上では、論点を明確にするように心がけましたが70点ぐらい。機会があればまた挑戦したいです。