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TOP東進タイムズ 2018年8月1日号

「女性研究者」という選択
〜幸福な社会の実現を目指して〜

お茶の水女子大学学長

室伏 きみ子先生

研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は、女性のための国立高等教育機関として1875年に誕生した東京女子師範学校、現在のお茶の水女子大学学長、室伏きみ子先生をお招きし、女性研究者という職業と直面する課題についてご講演いただいた。理工系女性人材の輩出を目的とした「生活工学共同専攻」の設立や、自国で教育が受けられない開発途上国から女性を受け入れて、研究指導や教員向けの研修を行うなど精力的な活動を行っている室伏先生。すべての人が活躍できる社会をつくるために私たちは何ができるのか、ワークショップを通じて考えた。

講演者プロフィール

お茶の水女子大学理学部生物学科卒業後、東京大学大学院博士課程修了(医学博士)。1996年お茶の水女子大学理学部教授。理学部長、理事・副学長を経て2015年学長に就任。政府関係やNHK経営委員など公職多数を歴任。2013年フランス政府より教育功労章シュヴァリエ授与(同章は1808年ナポレオンにより創設された由緒ある章)。

女性は本当に研究職に向いていないのか
無意識の偏見に縛られた日本人

日本の保険会社が今年行った調査では、小学生男子のなりたい職業の1位は研究者でした。しかし残念なことに、女子では10位以内にも入っていませんでした。日本で研究に携わっている人は約80万人といわれています。しかし、ノーベル賞を受賞した日本国籍の研究者20名の中に女性はいません。

なぜ、日本には女性研究者が少ないのでしょうか。この問いの答えとなるのが「アンコンシャス・バイアス」という概念で、「無意識の偏見」や「無意識の思い込み」を意味します。例えば、女子生徒を囲む家族や学校の先生が、「女の子は理工系に向いていない」「女の子が理系に進むなら食物や栄養分野だろう」などの旧来の考え方を持っていたらどうでしょう。無意識に、女子生徒も同じような思い込みをしてしまうのが自然ではないでしょうか。

そして、結婚、出産、育児、介護などのライフイベントも大きな壁になります。日本では、出産、育児、介護を女性が担う割合が多く、進歩の速い科学技術の世界では一度仕事を辞めてしまうと復職が難しくなります。

日本には、そもそも理工系を目指す女子生徒が少ない。そしてせっかく頑張ったのに辞めなければならない機会が多く、一度辞めてしまうと復職しにくい。結果、女性研究者が少ないという現状が生まれているのです。

自ら「考える」ことが勉強の醍醐味と楽しさ

現在、国を挙げて科学技術分野や学術分野で女性研究者を増やそうと考えています。これは、「男女共同参画社会」の実現の為でもあります。例えば、皆さんの友人、クラスメイトを想像してみてください。男女で能力の差や資質の違いがあると思いますか。思い込みをはずせば、そのような違いがないことがきっとわかるはずです。男性も女性も性別に関係なく、自分の能力に基づいて、それらの力を十分に開花させて幸せに過ごせるのが「男女共同参画社会」です。

私自身が研究の道に進んだ理由をお話しましょう。私が通っていた公立小学校では、当時では珍しい理科の専科の先生がいました。とてもおもしろい先生で、毎回実験をしてくれました。先生は毎回の実験をする前に「今度こういう実験をするから、どんな結果になるか考えてごらん。わかったら先生に耳打ちしに来なさい。当たったら校庭で遊んでいいよ」なんていうのです。子どもだから遊びたくて必死に考えて、その結果一生懸命考える習慣が身につきました。こんなに楽しいならば理科の先生を目指したいと思ったのが、研究者を目指すきっかけでした。

多様性を受け入れるアメリカで学んだこと

その後も環境に恵まれ、お茶の水女子大学を卒業後に東京大学に進学して学びました。そして、博士課程の間に結婚・出産をし、ある大学に研究職として就職した頃に、夫のニューヨーク留学が決定しました。

私も夫と共にアメリカに行くことを決めたところ、博士論文の指導教官が、NY公衆衛生研究所の女性科学者であるSarah Ratner先生を紹介してくれ、そちらに留学が決まりました。Ratner先生は優秀な研究者であることはもちろん、他国から亡命してくる科学者たちさえも受け入れる心優しい方でした。

加えて、同じ部門には、イギリス、フランス、チリ、オーストリアなど多様な国の女性研究者たちもいて、違った文化を学び、多様性のある考え方を学ぶこともできました。アメリカにはゆったりとした時間が流れていて、日本で子育てをしていたらきっと得られなかったであろう、子どもと過ごす時間を十分に確保できた点は、渡米前には想像していなかった嬉しいことでした。

自分の努力が世界の役に立つ
それが研究者のやりがい

2年半の留学で3本の論文を執筆し、帰国後はお茶の水女子大学の教員に就任。子育てをしながらでも続けられ、少ない研究費でもできる研究対象、人々の幸せに役立つような研究をと考え、「脂質メディエーター」に注目しました。悪いイメージを持つ脂質ですが、細胞膜の構成成分として重要な役割を果たしています。「脂質メディエーター」とは、生物が何らかの危険にさらされたときに、細胞膜の脂質から一部分が切り出されて作られる微量な物質をいい、がん、糖尿病、免疫疾患、炎症性疾患、感染症、また精神・神経疾患までを広く制御する物質です。

ところがこの物質の存在を発見したものの、超微量な新物質であったため、当時の最高技術を駆使しても、構造を決めるまでには7年という月日を要しました。ただし、きっとおもしろい物質に違いないと確信していたので、長い暗いトンネルの時代だった訳ではありません。

その後一般的な形としてサイクリックPAと呼ぶことにしたこの物質は、今、根本的な治療薬がなかった変形性関節症の治療薬としての開発を進め、今年から臨床実験に入っています。ほかにもパーキンソン病、アルツハイマー病などの疾患にも効果を示すことが判明しつつあり、さらに研究を進めていきたいと思います。

現代は、これまでにない
グローバルでボーダレスな世界

高校生の皆さんにとって、目の前に迫った大学受験は大きな課題だと思います。ただし、まずは受験にとらわれずに、長期的なビジョンを持って人生を考えてほしいと思います。例えば、自分の性格や趣味、得意なこと、やってみたい仕事、これから取り組みたいことや大切にしたいこと、今は無理だけど後でやりたいこと、今すぐできることを書きましょう。上手くいかないときも訪れるかもしれませんが、状況は絶えず変化します。一つの考えに固執せず、フレキシブルに生きていくことで、突破口が見えてくるはずです。

また、海外留学や、国内でも留学生との交流などの機会を積極的につくってください。世界のさまざまな文化や社会環境、異なる考え方や習慣の人たちと共に、この地球で暮らしていることを自覚してください。今の世の中ほどグローバルでボーダレスな時代は、人類は過去に経験していません。広い視野と豊かな想像力、確かな学力とものごとを多角的に探究する創造力を身につけて、才能を開花させてほしいと思います。

ワークショップ【探る】

研究者を目指す女性が直面する課題とその解決策は?

テーマは「研究者を目指す女性が直面する課題とその解決策は?」。まずは自分の考えを予備シートに記入してから議論スタート。女子生徒のみのワークショップということで、女性ならではの意見が飛び交う。「男女差別」「結婚・出産」など、チームの問題意識を明確にして予選会へ臨む。

ワークショップ【話す・発表する】

チームに分かれてディスカッション。

リハーサルを十分に済ませ、いざ予選会。自分たちの意見をしっかりと伝えるために、口調やスピード、声の大きさに気を配り、具体的な内容も加えながらプレゼンする。口頭で説明する箇所と図で示す箇所を整理し、聞き手の印象に残るようなワークシートの作成にも工夫が必要だ。

ワークショップ【本選】

予選を突破した5チームによる決勝戦。

決勝戦。予選を勝ち進んだ5チームが壇上でプレゼンを競う。「幼少期からの教育」「研究者との交流」「大学・企業の研究所訪問」「ライフイベントに合わせた企業の支援」など、研究者に興味を持ってもらうとともに、不安をなくすための方策が出そろう。「よく分析していますね」と室伏先生。

ワークショップ【結果】

表彰式

いよいよ優勝チームの発表。「本当は全員を表彰したい」と語る室伏先生が選んだのは、年代別に課題を分析し、解決策を具体的に提案したチーム。表彰式と室伏先生を囲んでの記念撮影のあと、全体講評で「みなさんが熱心に議論する姿に感心した」という言葉を頂き、ワークショップは締めくくられた。

参加した高校生の

埼玉県立 川越女子高校 2年

上田 実寿紀さん

私は文系なのですが、女性が社会で活躍していくために必要なことについて学びたいと思い、参加しました。お話の中で印象的だったのは、先生が留学された当時のアメリカでは、女性の子育てに対して周りが寛容で、日本でももっと取り入れるべきだと思いました。ワークショップでは、他の人の意見を聞き、ディスカッションをすることで、一人で考えるよりも幅広く、いろいろな視点から課題を考えることができました。

東京都 私立 トキワ松学園高校 3年

佐々木 花月さん

研究者はずっと研究している印象があったのですが、本日の講演では先生が職場に子供連れで和気あいあいとした雰囲気の中でお仕事をされていて、印象が変わりました。ワークショップではグループの進行役と発表者を担当しましたが、発言しやすい雰囲気の中、みんなで意見交換をすることができ、おもしろかったです。本が大好きなので、将来は書籍に関わる仕事をしたいと思っています。

埼玉県立 川越女子高校 1 年

塩松 祐華さん

私は小さいころから科学が好きで、将来研究職に就きたいと思っています。女子高のため理系の女子が少ないと意識したことがなかったのですが、先生の講演で女性の科学者の割合が少ないことを具体的な数値で知り、現状を変えるために私も何か影響を与えられる人になりたいと思いました。一方で、研究とプライベートを両立することの難しさを耳にしたことがあったので、先生が育児と研究を両立されているお話はとても興味深く、さまざまな選択肢があることがわかり視野が広がりました。