一般・教育


最新脳科学が教える 高校生の勉強法


高校の授業についていけなくなる理由

 中学生のころまでは、試験の前に一夜漬けでテストに臨む、という無謀な作戦で何とかなっても、高校生になったころから、それまでのような丸暗記作戦では通用しなくなって、だんだん授業について行けなくなったという人が急に増えてきます。
 皆さんは、その原因を高校の履修科目の内容が中学よりも難しくなることや分量が多くなることに押しつけて、仕方がないとあきらめていると思います。また、文部科学省もこの現状に気づき、必修単元をどんどん削減してその解決を図ろうとしています。
 しかし最新の脳科学によれば、そのどちらも間違っていることが分かりました。人間の脳力は、年齢とともに低下するようにはできていません。そうではなくて、皆さんの年齢の頃がちょうど脳の性質の転換期に相当していて、記憶のパターンや種類が変化するのです。
 したがって、高校生になったら、高校生に合った勉強の仕方に変える必要があります。この事実に気づかずに、いつまでも中学生までと同じような勉強法にこだわり続けていると、自分の記憶力に限界を感じるようになります。そういう人に限って、「もう中学生の頃のようには覚えられない」と記憶力の低下を嘆き、まわりの人もみんな、「わたしもそう。仕方がないよ」と慰めあって終わってしまうのです。
 現代脳科学の成果によれば、小・中学生までの脳は丸暗記が得意で、意味のない文字や数字の羅列でもキュウカンチョウのように覚えてしまいます。ところが、高校生になったあたりからは、丸暗記よりも論理だった記憶能力が発達してきます。つまり、ものごとをしっかり理解して、その理屈を覚えるという能力です。
 ですから、高校生の皆さんは、自分の勉強方法をこれに沿った方針に変えていかなければなりません。もし、この努力を怠ると、もはや効率的な学習はできません。授業についていけなくなって、最悪のケースでは落ちこぼれてしまう可能性もあります。
 この本の目的は、高校生の頭脳に適した学習方法を伝授することにあります。勉強方法を変えなければいけないと言われたところで、おそらく皆さんは、大海原に投げ出された小舟同然、路頭に迷ってしまうことでしょう。大洋で目的の島を見つけだすのは大変なことです。この本では、皆さんがいち早く正しい勉強方法を身につけられるよう、そしてまた、貴重な時間をムダにしなくてもすむよう、脳科学の観点から皆さんの年齢に合った勉強法を具体的に伝授します。

 ところで、皆さんは、記憶が脳でどのようにして作られ、どこにたくわえられるのかを知っていますか。脳の仕組みを知らずして勉強することは、ルールを知らずして野球の練習に励むようなものです。スポーツは、ルールを理解すればそれだけ効率よく練習できて上達します。
 同じように、効率的な勉強方法を見い出すためには、まずは脳のルールをしっかりと理解することです。そして、脳の仕組みに逆らわず、むしろそれをうまく利用して能率的に勉強することが肝心なのです。
 本書では、これまで漠然と流布していた「言い伝え」や「迷信」について、最先端の脳科学の裏づけをもってその真偽を厳然と判定していきます。そのためにまず、一般的な記憶の正体を明らかにし、記憶のメカニズムを説明します。そのあとで、高校生の皆さんにとって、中学生までとはまったく異なる「記憶力を鍛える方法」についてアドバイスをしたいと思います。

 現在の教育改革の指針では「使える知識を身につける」とか「生きるカを養う」などというスローガンが掲げられていますが、言い換えれば、教育の目的および学習の目標は、ものごとの中に共通な法則性を見つけ出して、生活上出くわす新しい場面でそれを上手に応用する能力を身につけることなのです。
 それは教室での学習に限りません。上手な勉強の仕方を知っていることは、日常のあらゆる場面で対応の仕方が上達するということなのです。この本では、あえて高校生の勉強法に焦点をしぼりましたが、高校生の脳の構造はもう大人の脳と同じです。つまり、皆さんは、いまや脳の仕組みの面からも、大人の仲間入りを果たしているのです。子供の勉強法が通用しないのはあたり前です。
 逆に言えば、この本を通じてこれから皆さんが学ぶノウハウは、高校を卒業したあとも、ずっと使いつづけることができます。皆さんの当面の目標は志望校への合格でしょうが、その後の皆さんの可能性はまさに前途洋々です。その可能性を最大限に発揮して自己実現を図るために、皆さんの長い生涯においてこの本が少しでも役に立てば、私としては望外の幸せです。

池谷裕二

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