大学受験|英語

名人の授業


名人の授業シリーズ 今井の英文法教室 上

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Ⅰ この本の目的

●受験勉強は英語から
 本格的に受験勉強を始めようと思ったとき、多くの人は「まず英語から」と考える。現在の大学受験の状況を考えれば「英語から」という選択は、確かに正解である。文系でも理系でも英語から逃れることはできないし、膨大な問題量や質の高さを見ても、英語の負担は他の科目より圧倒的に大きいからである。

(1) 英語の何から始めるか?
 「まず英語から何とかしよう」という決意は正しいとして、次に問題になるのは「英語の中の何から始めるか?」である。まさか英作文や長文読解から始めるという人はいないだろうが、「単語集からやるか」「英文法からやるか」で意見が分かれるだろう。中には「熟語から」という先生もいるし、まず音声面を鍛えなければいけないのだから「リスニングから」などと思い切ったことを言う人もいる。

(2) 単語熟語より、まず英文法から始めるべきだ
 筆者はこの20年近く、いろいろな予備校で教えながら、「受験勉強は、まず英文法から」と一貫して主張してきた。理由は簡単で、英文法ほど楽しくて英語を好きになりやすい分野は、ほかに見当たらないからである。
 「英語の力は、単語の力」といって「まず単語集から」という人も多いが、英単語だけ一覧表のようにズラッと並べて全部丸暗記、というのはいくらなんでもつらすぎる。出発点で単語集を無理矢理やらされて、それで英語がキライになり、受験勉強全体のモチベーションが下がってしまったというケースも非常に多いのである。

(3) いまさら「アメリカの赤ちゃん」にはなれない
 もっと乱暴な議論もあって、そこには「赤ちゃんになれ」と書かれている。「英文法なんかやるから英語ができるようにならない」「アメリカの赤ちゃんは文法を知らなくても英語が聴き取れ、英語が話せる」「だから英文法なんかやらずに、多聴多読をやるべきだ」というのである。ワケもわからず猛スピードで聴き続ければ「いつかきっと聴き取れるようになる」。ひたすら猛スピード
で読むマネをしていれば「いつかきっと読めるようになる」。そういう主張である。
 しかし、そんな目的地の見えない努力の継続は、まるで僧侶の厳しい修行のようなものである。「いつかきっと」という夢と希望が遠くで星のように瞬いていても、他の科目も勉強もしなければならない受験生には、そんな「キラキラお星さま」に憧れているヒマはないのである。

(4)「英文法はすべての土台」
 英文法は、英語学習すべての土台である。英文法を無視して「アメリカの赤ちゃんになる」というヒマのある人はともかく、「早く土台を築き早く基礎を固めて本格的な長文読解対策を始めたい」という受験生には、是非この本で英文法学習を始めてもらいたい。
 長く予備校で教えていると「よく笑う生徒、よく反応する生徒ほど成績が早く伸びる」ということに気づく。要するに彼ら彼女らは勉強を大いに楽しんでいるのだ。英文法は、「英語大好き」になる高級なオモチャだと考えるといい。赤ちゃんになるのはイヤでも、ゲームやオモチャ遊びで英語が得意になれるなら、それに越したことはないだろう。
 幼い子供が砂場で砂まみれになり、泥んこ遊びで泥まみれになって遊ぶうちに大人になっていくのと同じように、英語という高級オモチャで英語まみれになって真剣に夢中で遊ぶといいのだ。そのオモチャとして、長文読解では苦しすぎるし、英単語集では退屈すぎる。

(5)「英語まみれ」で遊び、健康で力強い英語運用能力を養成する
 英文法は、受験生の精神年齢にピッタリの学習オモチャである。これを使って毎日楽しく「英語まみれ」になって遊ぶ。そうして知らず識らずのうちに英語に慣れ、英語に親しみ、英文法しかやっていないのに、単語も覚え長文読解やリスニングも強化されている、これが理想である。予備校で教えていると「英文法の講座しか受講していないのに、読解や作文もできるようになった」という生徒にたくさん出会う。そういう生徒たちこそ、英語まみれになって楽しく懸命に遊んだ生徒たちだったのである。
 つまり「英文法がすべての土台」というのは「英文法のルールを丸暗記して、それを読解や作文に応用していくしかない」という暗い考え方とは少し違うのだ。英文法で英語まみれになって遊ぶうちに、ルールに従って英語を運用する能力も高まり、会話やコミュニケーションの能力もついていく。それがひいては長文読解能力向上にも直結する。そういういかにも骨太な英語運用能力をつける最高のステージが英文法学習なのであり、「英文法がすべての土台」の真の意味はそこにある。
 この本の目的は、以上の考えに基づいて、健康で力強い英語運用能力を養成することである。

Ⅱ この本の使い方
「36日完成コース」か「72日完成コース」かの選択
 この本は、短期間で一気に通読して、一気に英文法をマスターしてしまうスタイルの使い方を想定して書かれている。まず、36日で完成するのか、72日じっくり取り組むのかを選択してほしい。

①「36日完成コース」:
 この本は、通読して学習しやすいように全体を同じ構成の6~7ページずつの72講に分けた。1日に2講ずつ進めば、36日で完成する。もし夏休みに本書に取り組めば、次の始業式の日には「英文法がしっかり身についた」「初めて参考書を最後までやりぬいた」という大きな自信をもって登校できるはずである。模擬試験の成績が悪くてショックを受けている人も、今日からこの本に取り組めば、次の模擬試験を受ける朝には「英語は、まあ大丈夫」という自信をいだいているはずである。
 勉強は、ゆっくりやればやるほど、その分だけつまらなくなる。どんどん勢いをつけて、どんどん進めばその分だけ楽しくなる。やり始めてみればわかることだが、「どんどん進みすぎると消化不良をおこす」などというのは、怠け者の言い訳に過ぎない。やればやるほど、もっとどんどん進みたくなる。スナック菓子は、食べ始めたらなかなか途中でやめられなくなる。筆者が子供の頃には「やめられない、止まらない」という広告があったぐらいである。ちょうど同じように、英文法だって「やめられない」「止まらない」「どうしてももう1ページやりたい」という自分の気持ちを「他の科目も勉強しなければならない」と自分に言い聞かせて鎮めるのに苦労するほどになるのだ。遠慮はいらないから、どんどん進みたまえ。1ヵ月ちょいで読了して、友人たちにもどんどん自慢したまえ。

②「72日完成コース」:
 まだ入試までの時間がたっぷり残されている諸君は、「1日1講」でも構わない。それでも3ヵ月もかからずに英文法をマスターできるのだ。普通の塾や予備校に通ったら、英文法マスターだけで丸1年かかってしまうことを考えれば「2ヵ月ちょいでマスター」は、交通費がかからないことだけでも、素晴らしい親孝行になるのだ。見事2ヵ月ちょいでマスターして、友人たちばかりでなく、両親や兄弟を驚かせてやりたまえ。

(1) 辞書の使用について
 本書で学習する際には、辞書の使用はできる限り我慢することをオススメする。英文法学習では、辞書を過度に使用することが返って学習の妨げになることが多いからである。
 辞書には、大学入学前の学習者にとっては全く不必要な情報も膨大に掲載されている。「方言」「隠語」「古語」「幼児語」「まれな表現」など、さまざまである。これをいちいち学習していては、成績向上という目標からは、かえって遠ざかってしまう。
 「参考書」とは、辞書に書かれている膨大な情報を、学習者のレベルと目標にあわせて取捨選択し、わかりやすく配列しなおし、理解しやすい平易な説明を加えたものである。「辞書に書かれていても参考書に載っていない情報」もたくさんあって当然なのだ。それをいちいち辞書で確認して「これが載っていない」「あれが書かれていない」と言って不満顔をしているのは、明らかに勘違いである。辞書と参考書とを照らし合わせ、参考書をほとんど検閲でもしているかのような態度の者も存在するのであるが、そういう学習者に限って成績はふるわないことが多い。

(2) 繰り返し味読・熟読すること
 1回目の通読が終わったら、本棚の一番左側に、第一志望校の過去問題集などと並べて、キチンと飾っておくこと。「模試の成績が悪かった」など、何かイヤなことがあったときに、「読み通した参考書」の姿は何よりも心の慰めになってくれるものである。参考書にはそうした効用もあって、それも「味読」の1つである。
 通読した後、3ヵ月後に1回、6ヵ月後ぐらいにもう1回、通学の電車やバスの中や学校の休み時間に読み直すのもいい。本書は「1回読めばすべてわかる」ように書いてはいるが、「わかってからもう1度読み直す」というのは最も効果の高い学習法である。2度目3度目には、気楽にサッと活字をたどるだけでも、大いに効果が上がるものであるが、基本文の音読なども取り入れるといっそう高い効果が期待できる。

Ⅲ この本の構成・特色
 何よりも学習者が学びやすいことを第一に、各講は全て6~7ページで統一した。「基本文」「基本文解説」が見開き2ページ、「例題」「例題解説」が4~5ページという構成も、全巻を通じて統一してある。「36日」を目標にする者も「72日」を目標にする者も、安心して日々の学習に取り組むことができる。以下に本書の構成と特色を列挙する。

(1)「基本文」「基本文解説」:
 その講の基礎基本を簡潔にまとめてある。「基本文」はすべて「次の英文を日本語に訳せ」という問題形式をとっているから、学習者はできる限り辞書を引かずに訳文を書いてみてから「基本文解説」で必須の基礎事項を確認すること。

(2)「例題」「例題解説」:
 本書の例題は、センター試験や有名大学入試で過去に出題された問題を中心に良問約1000題を精選した。学習に便利なように改題したものも少なくない。学習の際は、できるだけ辞書を引かずに自力で解答し、その上で解説を熟読すること。解答時間は約10分。それ以上かかってもいいが、余りに丁寧にやりすぎると、長続きしないおそれがある。解説はあくまで「親切」「丁寧」を心がけ、ただ単に文法用語を羅列しただけの「ぶっきらぼう」なものにならないように工夫した。

(3) ESSENTIALS:
 本文中、随所にESSENTIALSと名づけたコーナーを挿入した。関連項目をまとめたもの、より深い理解のために必要な予備知識、熟語表現の整理、解説の補足や角度を変えた説明など、豊富なESSENTIALSが並んで、これが本書の特色の 1 つとなっている。

(4)「板書」:
 筆者による予備校での「板書」を本文中に多数掲載した。これはこの本の大きな特色のうちの 1 つであり、言葉や活字だけでは理解しにくい事柄について、いわば直観的に理解する強力な手助けになるであろう。

(5) 索引:
 巻末に詳細な索引をつけるので、大いに活用してほしい。筆者が意図しているのは、第1講か第72講までを短期間に通読して、一気に英文法をマスターしてしまう読み方であるが、索引や目次を頼りに、定期テスト対策や不明なことがらの解決のために使用する方法も、もちろん可能である。その場合、巻末の詳細な索引が非常に役立つと確信する。

(6)「親切」「丁寧」な説明の徹底
 本来、英文法の学習書は1巻にまとめて「これ1冊やればOK」と言ってあげたいところなのであるが、無理して1冊にまとめようとすれば説明がぶっきらぼうで舌足らずになり、受験生はよく理解できずに、結局投げ出してしまう。「これ1冊」のはずが、いつのまにか書棚には読みかけの文法書がたくさん積み重ねられる結果になりかねない。
 本書が上下2巻になっている理由はそれである。思い切ってスペースをたくさんとって、あくまで親切丁寧に、必ずわかる説明を心がけたから、この上下2巻を熟読すれば、もうこれ以上英文法に時間やお金を費やす必要はなくなるものと信じる。例えば四者択一の問題では、正解になる選択肢ばかりでなく、できるだけ全ての「間違い選択肢」について、それが何故ダメなのか、出題者はどういう意図でその選択肢を作ったか、そういうことまで説明した。
 生徒は教師が思いつかないような疑問をもつものであるし、教師がまさかと思うようなところでつまずいていることも多い。「関係副詞節は、形容詞節だ」というのは教師から見れば余りにも当たり前なのであるが、生徒の多くは「関係副詞節は、副詞節だ」と思い込み、それがつまずきの原因だったりする。
「前置詞の目的語に準動詞が来るときは動名詞」と説明して、生徒全員が理解したものと教師は思ってしまうが、そんなぶっきらぼうな言い方で理解できるのは上級の生徒だけである。「前置詞の直後に動詞がくるときは、…ing形にする」というような、あくまで生徒の目線に立って説明しなければならないのだ。

Ⅳ まとめ
 今この本を手にした受験生諸君は、以上に述べてきたことをよく理解して、積極的に英文法学習に励んでほしい。目の前にあるのは英文法だが、それはそのまま英単語学習や長文読解演習でもあって、決して瑣末な「重箱の隅」ではないのである。
 英文法について、また受験勉強全体について、何かズルい特別な勉強法や特殊なテクニックがあるように誤解する者が多い。中には「こういう枝葉末節の知識を勉強しなければならないから、本格的な勉強が出来ない」などと嘆く者もある。しかし、そんなものは怠惰な夢想・空想に過ぎない。「英語の実力をつける」ということこそ学習の秘訣なのであって、英文法を道具に「英語まみれ」になって本格的な英語学習をすることこそ、合格の王道である。
 本書は、いまはもう「赤ちゃん」に戻れない諸君のために、本格的な英語学習を開始するラストチャンスとして書かれたものである。怠惰な弱音を吐くことなく、「英語まみれ」を大いに楽しみ、36日後または72日後に「英語が好きになった」「もっともっと英語を本格的に勉強していきたい」という人が、たくさん出てくることを願っている。

今井 宏

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