中高一貫 ハイステージ数学 代数 下

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 いよいよ下巻である.そろそろ数学にも慣れてきただろうか.

 上巻では,様々な数・式の変形法や方程式・不等式の解法を学んだ.数学的背景を念頭に置いた説明をしたつもりだが,その部分が理解できなかったとしても,計算法さえ身につけてしまえば各分野はクリアできて,例えば試験で点数を取るのにも支障はなかっただろう.この下巻を読み始めるのにもそれで事足りるので,(このシリーズの上巻でなく)他の本で勉強してきた諸君にも本書は役立つはずだ.しかし,下巻はそれほど甘くない.例を多くしてわかりやすくなってはいるものの,やはり内容は高度なので,じっくり取り組む必要がある.下巻から新しいストーリーが始まるつもりで,気持ちをリフレッシュして臨んでもらいたい.

 新しいスタートなのに,残念ながらもう数学が嫌いになっている人もいるかもしれない.勉強する目的を見失い,“新しいこと”は“知らないこと”だから“難しい”と思い込むと,先に進めば進むほど未知のものに囲まれて苦痛を味わうことになる.初心に戻り,新しいことに触れてわくわくしていた頃を思い出してみよう.

 古来,数学者たちは,知的好奇心を満たし,様々な基礎的事実の論理関係を整理するために研究を続けてきた.我々も,他分野へ応用するための道具としてだけではなく,数学そのものを楽しむのでなければならない.

 ものを区別したり分類したりするとはどういうことか,因果関係を客観的に記述するにはどうすればいいか,物事を優位に進めるにはどの選択肢を選べばいいか,といった素朴な疑問に対する先人たちの答えが,集合,関数,確率の理論に隠されている.このような根本的問題をじっくり考えて,どこに難所があるかを自分なりに把握してからあらためてこれらの理論を勉強すれば,そのような難所のいくつかがうまく整理されているのがわかるだろう.表面的な理解にとどまらず,理論を作り上げた天才たちの工夫点を味わえたとき,大いに感動するはずだ.

 また,座標を使った直線や円の扱いは,難しい幾何の証明を万人が機械的に解けるようにするという魔法のようなテクニックである.一見関係の無さそうな分野どうしが協力して発展していくさまは,数学の醍醐味でもある.

 ただ公式を覚えて機械的に問題を解いておしまい,というのではもったいない.本書を通して,自分の頭を使って考える習慣が身につけば幸いである.そしてともかく,些細なことでもいいから,数学で感動してほしい.

藤村 崇

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