大学受験|数学


数学の真髄 -論理・写像-

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 私は若いころ,北海道の公立高校で定時制・通信制に通う生徒(10代~50代)に数学を教えた経験があります。彼らはほぼ全員が「高校卒業」という資格が欲しくて通ってきていました。つまり,彼らにとって「数学」そのものはおそらくどうでもよく,定期試験である程度の点数が取れ,単位がもらえれば十分だったわけです。当時,まだ純粋で素直で真面目だった私は,そんな彼らに「どうしたら数学の面白さを伝えられるだろう」と悩み,授業の準備に相当な時間を費やしたものです。

 あれから時が流れ,なぜか現在「東進」で「スーパー・エリートコース」とか「東大特進コース」というハイレベルな授業を担当しています。しかし,その授業の中で語っている「数学の面白さ」「数学の考え方」には,当時北海道で四苦八苦していたあの頃の経験が間違いなく生きています。その核心は,

  「ただ解き方を覚えて点数をとる」だけじゃつまらん

ということ。そのことを伝えたくて,もう30年以上教壇に立ち続けています。

 人間には,「単位が欲しい」「志望校に合格したい」と同時に「できるだけ苦労したくない」という本能(?)があるため,「どの問題が出るのか知りたい」「出そうな問題を暗記すればいい」という発想になるのは無理もない話です。私も車の免許を取るときはそのように考え,一夜漬けで問題を丸暗記したものです。
 しかし,こと「難関大学に合格する」という目標に対しては,それほど甘
くはありません。東京大学の入試問題ともなると,私が見ても

  はじめて見る問題

しか出題されないのですから。

勉強法は十人十色で,「これがBEST!」というものが何かは私にもわかりません。ただ私が常に意識していることは,

  社会に出てからどうしても必要になる「論理的思考力」を鍛えるのが高校数学の一番の目的である

ということです。sinやcos,微分や積分はそのための道具でしかありません。数学は「大学に合格して終わり」という性質のものではないのです。そういうポリシーで参考書を書きたいと若い頃から思っていましたが,今回東進ブックスから出版の機会を頂き,ようやく実現したというわけです。うまくまとめられたかどうかは相当に怪しいですが,「授業してる方が全然ラクだなぁ」と感じながらも,何とか完成することができました。

 本書が想定している生徒の前提条件は,次の通りです。

  • 難関大学に合格したいと思っている(文理は問わない)。
  • 教科書は一通り終え,その知識を十分に保持している。
  • 教科書の章末問題や教科書傍用の問題集はある程度スラスラ解ける。

 解説の中で,一部「ベクトル」を用いたものがあります。文系の生徒で「ベクトルなんて知らん」という方は,その部分をスルーしていただいて構いません。1題1題,問題の解き方を覚えていたら,100回勉強しても100題しか解けるようになりません。賢い人は

  1つの概念を理解して100題解けるようになるには……

ということを常に考えています。決して易しくはありませんが,みなさんが将来,

  高校時代,数学を学んだおかげで,志望校に合格できた。

 そればかりではなく,物事を自分の頭で論理的に考えられるようになった。

  そしてそれが,今の仕事・生活の中で脈々と生き続けている。

と堂々と言える人になってくれたら,それに勝る喜びはありません。

2022年7月 青木純二

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