大学受験|数学・情報
数学の真髄 -ベクトル-
教え子の間では有名な話ですが,むかーしむかし,私は北海道の高等学校で教員生活を送っていました。もう30 年以上前の話です。父親が教師だったこともあり,私にとって教師は少年の頃から夢の職業でした。「数学」という教科を選んだ積極的な理由はありません。特に数学が大好きだったわけでも,得意だったわけでもなく,教師になれるなら教科は何でもよかったというのが本当のところです。ところが「数学」という教科を選んだことが原因で,私の教員生活はわずか3年で幕を閉じます。辞めた理由,それは1 つではないのですが,最大の理由は
「教科書を使って教えなければダメ」
という縛りに耐え切れなかったことです。現在は少し変わってきたようですが,当時指定された教科書には,
【1】証明の付いていない定理や公式がたくさん
【2】例題の後に「解き方と解答」が載ってはいるが,なぜそのように考えるのかについての説明はほぼ皆無
【3】単元間の数学的なつながりの説明が皆無
など,私にとっては大いに苛立つ内容でした。私は心の中で
• ただ「解き方を覚えましょう!」って教えろとでも言うんか?
• 加法定理,丸暗記しろってかぁ?
•【 3】なんて,数学の一番面白いところだべ!
• 先にベクトルを学べば,「点と直線の距離公式」も「三角関数の加法定理・合成公式」も当たり前なのに……。
などと叫ぶ悶々とした日々に耐え切れず,上京し,この生き馬の目を抜く「塾・予備校業界」に身を置く羽目になったわけであります。それがよい選択だったのかどうかは微妙なところですが……。
2022年に,東進ブックスから『数学の真髄 ―論理・写像―』という本を出版させていただきました。執筆の動機は上記【2】に対する叫びです。そしてこのたび,本書『数学の真髄 ―ベクトル―』を出版させていただくことができました。本書は上記【3】に対する叫びです。「数学的なつながり」のすべてを書き記すのは到底無理ですが,「ベクトル」を学ぶことで見えてくる高校数学を自分なりにまとめてみました。現在(2024年時点),教科書からは「行列」「線形変換」などの数学的に重要で,かつ楽しい内容が消えうせていますが,その真髄は「ベクトル」だけでも十分伝わるのではないか,という思いで書き上げました。(現在の)教科書には載っていない「言葉」や「概念」も登場しますが,私が30 年以上,高校生に授業してきた内容をさらけだしたつもりです。
本書が想定している生徒の前提条件は,次の通りです。
ⅰ 難関大学に合格したいと思っている(文理は問わない)。
ⅱ 教科書は一通り終え,その知識を十分に保持している。
ⅲ 教科書の章末問題や教科書傍用の問題集などはある程度スラスラ解ける。
ⅳ ∧,∨,⇒,∀,∃などの論理の基本を理解している。
ⅳについては,前出の拙著『数学の真髄 ―論理・写像―』の基本を理解していることを想定しています。また,教科書ではベクトルの成分表示を,
(x, y),(x, y, z)
と「横書き」の表記をとっているものが多いですが,本書では「縦書き」の表記に統一しています。
「ベクトルの問題を解くためにベクトルを学ぶ」だけではなく,
「ベクトルを学んだおかげで,いろいろな数学的事象が当たり前に見えてきた」
と思う高校生が一人でも増えてくれたら,こんなにうれしいことはありません。
2024 年7 月 青木純二