東進ではこれまで、世界を牽引する「日本の若き頭脳」を支援する取り組みである「フロンティアサロン」を応援し、各分野で最先端の研究を行う若手研究者へ「永瀬賞」を贈り、受賞された先生方にご講演いただいてきた。今回は2015年度の「永瀬賞 最優秀賞」を受賞された東京大学の柴田直哉先生に、研究が社会にどのような変化をもたらしていくのかについて、高校生に向けた特別講義を行っていただいた。
見えない世界に挑戦する柴田先生の研究とともに、チャレンジすることの大切さを、この講義から学びとってほしい。
![]()
皆さんの日常はさまざまな材料の部品から成立し、その部品を細かく見ていくと最後は原子に至ります。周期表をご存知だと思いますが、ここで大切なのはモノの性質は必ずしも原子の種類では決まらないということです。
鉛筆に使われる黒鉛とダイヤモンドは同じ炭素原子からできています。しかし結晶構造を詳しく見るとダイヤモンドは原子が立体的に繋がって強固な構造である一方、黒鉛は平面的な結合は強くても一枚ずつの結合が弱いという性質があります。つまりモノの性質は原子そのものではなく、原子が作る構造によって決まるのです。こうしたナノメートルの空間で起きる現象を見るための最も単純な方法、それが電子顕微鏡による観察です。
今後の私たちの目標は、磁性構造を磁場と原子分解能で見ることにあります。しかし電子顕微鏡の磁界レンズがこの観察の大きな障壁になっています。磁界レンズは磁場によってレンズ作用をもたせますが、実は原子分解能の観察では、電子線を細く絞るために非常に強い磁場のなかに試料を入れる必要があり、強い磁場によって試料の磁性構造が壊れてしまうのです。
そこで今、プロジェクトとして進めているのが、まったく新しいタイプのレンズによって、試料の周辺を完全に磁場がない状態にしながら、電子線を原子レベルまで絞れる電子顕微鏡の開発です。皆さんのなかには、広大な宇宙に興味のある方もいるでしょう。しかし原子という“ミクロの宇宙”にも多くの謎が残されており、そこには科学的な大発見がきっと隠されています。ナノテクノロジーによって新たな物質を作り出すことで、社会に新たな材料を提供できるかもしれません。ミクロの宇宙には無限の可能性が広がっているのです。
今日皆さんには、ミクロの宇宙が持つ魅力に触れていただきましたが、私はこれまで何かに打ち込み、いろんな人に出会う中でミクロの世界に道を見出しました。皆さんも大学でたくさんの人に出会い、さまざまな経験をしてください。今は自分の将来に漠然としたイメージしかないかもしれませんが、折に触れて自分が将来どうなりたいのか、自分の理想像とは何なのか、人は如何に生きるべきか、を考えながら勉強に取り組んでほしいと思います。その先に必ず皆さん自身の輝かしい道が開けるものと確信しています。