• 東進タイムズ 2017年11月01日号 8面
 
   2017年第7回永瀬賞最優秀賞を受賞した、東京大学生産技術研究所教授である竹内昌治先生の講義内容を紹介する。我々の身の回りにあるさまざまなエレクトロニクス製品にある「ものづくり技術」を生命に適用し、細胞を部品の組み合わせとしてとらえる新たな立体組織構築法「細胞を使ったものづくり」の研究と、再生医療から創薬、バイオセンサー、食品分野など最先端分野での幅広い応用について特別講義を行っていただいた。異分野融合を目指し、新しい発見を社会に役立てたいとする竹内先生から、協力して新しいことへ挑戦することの大切さについて学んでほしい
研究の発想はロボコップ、ターミネーター
科学の力で細胞をつくる!
   私が今の研究に興味を持ったのは、高校生のときです。当時観た洋画、ロボコップやターミネーター、マトリックスに登場するサイボーグや生体の中に電気回路を入れたものなど、生体と機械の融合(バイオハイブリッドシステム)を作りたいと思い、大学での研究テーマにならないかを真剣に考えました。

   大学では機械工学に進み、4年生の時に初めてハイブリッド昆虫ロボットを作りました。切り取った昆虫の脚を紙の胴体につなぎ電気刺激で筋肉を動かすというもので、今までで一番興味深い研究でしたが、それだけでは社会に役立つものではありません。そこで、生物と同じ構造をどうやって一から作ればよいかを考えた結果、現在の研究にたどりつきました。

   研究内容としては大きく二つあります。一つ目がゼロから分子を組み合わせて細胞を作れないか、二つ目が生きた細胞を組み合わせて組織や臓器が作れないかです。今日は二つ目の研究についてお話します。

   これまでの立体組織を作る研究では、足場のようなものの上に細胞をばらまき定着させて組織を作るという手法でした。一見完成したようでも、中が空洞であったり、細胞は1種類だけだったりします。実際の組織は複数の細胞が階層化されており、同じものではありません。そこで、それまでになかった発想ですが、機械工学の発想で自動車部品のように細胞を部品(ブロック)としてとらえて、部品を組み合わせて階層化できないかと考えました。

   具体的には、点型、線型、面型の細胞を作ります。点型の組織はコラーゲンのビーズを押し寿司のように鋳型に入れて24時間おくと、細胞が固まった組織ができます。この形には機能はありませんので、ここに神経や血管を作って入れる必要があります。神経や血管の細胞となるのが、線型の細胞です。人工イクラの製造と同じ原理を使い、細胞とコラーゲンをカルシウムと結合するとゲル化するアルギン酸ナトリウムで囲いファイバーを作ります。新聞報道にも出ましたが、人のiPS由来の細胞から作った線型の神経細胞を脊髄損傷患者に移植し、代替神経として使えないかという研究を具体的に進めています。面型の細胞は折紙のように使うと立体的な構造ができ、この代表的なものが皮膚です。まだ実現はしていませんが、点・線・面型のさまざまな組織を組み合わせることで一から複雑な立体組織を作ることもできると考えております。夢の「生きものづくり」です。
細胞で病気を治す
新時代の治療法の確立へ
   では、このような要素や技術を使って何ができるでしょうか。立体組織は「治す(医療)」、「測る(環境計測)」、「食べる(食品)」の三分野で応用できます。まず、「治す」については1型糖尿病患者のための膵島移植療法に使うためのカートリッジ型の移植片の開発を進めています。移植において重要なのは、他人の細胞に対する免疫反応から組織を守ることと、炎症が起きたときにすぐに取り出せることです。線型組織を使えば、周囲のゲルによって、免疫細胞が組織内部に浸潤することを防ぎながらグルコースやインスリンなどの小さな分子のみを通すため、免疫系から組織を守るカートリッジ型移植片が実現できます。現在国のプロジェクトとして、人のiPS細胞をインスリンを出すβ細胞にしてファイバーに入れ、移植する研究を進めています。

   次に「測る」ですが、みなさんの五感は細胞膜のタンパク質センサーによって実現されています。その中でもイオンチャネルという、特定の物質とくっつくと変形し莫大な信号を発信するスーパーセンサーの膜タンパク質があります。現在、人工の細胞膜を作製し、その膜にタンパク質センサーを埋め込むことによって、さまざまな物質を検出することに成功しています。これをロボットの匂いセンサーに応用することを考えています。実現すれば血液一滴からの病気診断や災害現場で人を探すことができるようになるかもしれません。

   三つ目の「食べる」については異論もありますが、培養肉を作る研究が進んでいます。世界人口の増加に伴い、近い将来肉の供給量が限界に達する、また家畜を育てるには大量の水や飼料等が必要となり、環境破壊につながることが海外では議論されています。数年前3,800万円の培養肉ハンバーガーが発表されました。みなさん食べてみたいですか? 実は脂肪もなく、かたくて味もイマイチでした。私たちの研究では、脂肪細胞や筋線維が整った培養肉を作ることができるようになってきておりますので、実現に向けてさまざまな分野の方と共同研究を進めていきたいと思っています。
研究分野も異分野融合のハイブリッド
一つの分野、発想にとらわれるな!
   私の研究室のウェブサイトのロゴには、ThinkHybrid と書いてあります。ハイブリッドは自動車でなじみのある言葉ですが、それよりも前から研究室では「別々のものを組み合わせて新しい機能や機構を生み出していく」ことを目指してきました。実際に50名以上いる研究室はハイブリッドで、化学、生物、医学、経営工学、芸術などさまざまな分野の専門家が一緒に研究しています。研究室のメンバー全員の日々の努力と成果なしでは私の研究は成り立ちません。

   異分野が融合すると、新しい発想が生まれます。私自身、機械工学のバックグラウンドが生物学や他の分野と結びついたことで今の研究につながっています。みなさんにはさまざまな進路があると思いますが、まずは自信をもって行きたいと思う分野に進み、勉強してください。どんな進路を選んだとしても、そこでスペシャリストとなれば、後から他の分野に入ることや学ぶことはいくらでもできます。

   東京大学生産技術研究所 教授 生産技術研究所 統合バイオメディカルシステム国際研究センター長
1995年東京大学工学部卒業、1997年東京大学大学院工学系研究科修士課程修了、2000年同博士課程修了、東京大学生産技術研究所講師、同助教授、同准教授を経て、2014年より現職。

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