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サイエンスセミナー 永瀬賞特別賞 林 悠 先生

サイエンスセミナー 永瀬賞特別賞 林 悠 先生
サイエンスセミナー 永瀬賞特別賞 林 悠 先生
永瀬賞特別賞
『夢の意義を追究し、夢の医療の実現へ』
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 准教授林 悠先生
 
11月号に続き、2019年第9回永瀬賞特別賞を受賞した、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構の林 悠准教授をお招きし「進化した睡眠ー夢の意義から夢の医療へ」をテーマに講演いただいた。生存に不可欠であることはわかっていながら、その機能が未だに解明されていない「睡眠」。最先端の科学を駆使し眠りの謎に挑む先生のお話は、誰も居眠りすることのないほど刺激に満ちた内容となった。
なぜ、人は眠らなければならないのか?

もし、皆さんが何日も眠ることができなかったら、どうなるでしょうか?「眠らないと死ぬ」ことは科学的に明らかになっています。例えば1980年代にラットで行われた「断眠実験」では、眠りを断たれたラットは死んでしまいました。けれども、なぜ眠らないと死ぬのか、その理由やメカニズムはまだ解明されていません。

眠っている間に私たちの身体の中では、一体何が起こっているのでしょう。過去の実験により明らかになっているのが、「成長ホルモン」の分泌量の増加です。またストレス反応を引き起こす「ストレスホルモン」の分泌が、睡眠中抑えられていることもわかっています。つまり眠りとは、身体をメンテナンスしている状態と考えられます。

さらに眠っている間の脳の働きについても研究が進められており、2013年には眠っている間に脳内の細胞の隙間が少し広がり、そこから老廃物が排出されていると報告されました。記憶と睡眠の関係についての2014年の研究によれば、睡眠中に脳の神経細胞同士を繋ぐ配線「シナプス」がつくり変わっています。

このように眠っている間に起きている「現象」については少しずつ明らかになっているものの、眠りの「機能」は大部分が謎のまま。だから、私は眠りの機能を解明したいのです。

脳の発達過程や老化と深い関係にあるレム睡眠

睡眠は「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」の2種類に分けられます(資料1)。ノンレム睡眠は全体の80〜85%を占め、心拍や呼吸が安定し「デルタ波」が計測されるなどの特徴があります。レム睡眠は心拍や呼吸は不安定に変化し、夢を見やすいのが特徴です。

これまでの睡眠研究でわかっているのはノンレム睡眠中の現象であり、レム睡眠についてはほとんど何もわかっていません。そんな中で私の関心は、ある論文をきっかけとしてレム睡眠に向かいました。レム睡眠と加齢の関係を報告したその論文には、レム睡眠は赤ちゃんのとき非常に多く、生後半年で激減、その後も加齢に伴って減り続け、成年期で23%、70歳以上の高齢者では13%まで減ると記されていたのです。

レム睡眠と学習能力は加齢や疾病に応じて変化し、しかも学習能力の極めて高い時期にレム睡眠が多い。だとすれば学習能力とレム睡眠には深い関係があるのではないか。この疑問が新たな研究へと私を導きました。

レム睡眠の研究を進める画期的な技術を開発

レム睡眠の研究を進めるためには、難題を一つ解決する必要がありました。研究ではマウスを観察しますが、マウスがレム睡眠に入る度に起こす、という方法でレム睡眠を阻害すると、起こす刺激によるストレスとレム睡眠阻害の効果を切り分けられないのです。この問題を解決するため遺伝子操作技術を駆使して、マウスのレム睡眠の「オン/オフ」を切り替えるスイッチになる細胞を発見しました。この細胞を使えば、人為的にレム睡眠を増やしたり無くしたりしたマウスをつくれます。ただ、この細胞を発見するまでには4年の歳月が必要でした。

レム睡眠をせずノンレム睡眠だけのマウスを観察すると、デルタ波が弱くなりノンレム睡眠の質が明らかに低下しました。レム睡眠には、ノンレム睡眠の質を支える機能があったのです。

レム睡眠を活用し「夢の医療」実現へ

次の研究課題は、睡眠に関連する病気の解明や治療法に役立つ研究を進めることです。例えば認知症とレム睡眠には関係があり、認知症の方と健常者を比べると認知症の方にはレム睡眠の減少傾向がみられます。また一定数の集団を対象とした睡眠に関する「前向き調査(※)」によれば「健常者のうちレム睡眠の少なかった人たちが、19年以内に認知症を発症するリスクが高い」と報告されています

これらの研究成果をもとに私は「レム睡眠が増えれば認知症の予防になる」という仮説を立てました。そして現在、慢性的にレム睡眠が長くなっているマウスを用いて、アルツハイマー型認知症の原因物質「アミロイドβタンパク質」やレビー小体型認知症の原因物質「αシヌクレインタンパク質」に注目する研究を進めています。もし仮説を実証できれば、高齢化が進む日本はもとより、世界中で増えている認知症患者の治療法につながる可能性があります。

※前向き調査研究を立案、開始してから新たに生じる事象について調査する研究。例えば、タバコを吸うグループと吸わないグループを対象として,数十年後の肺癌発生率を比較するような調査のこと。

1999年4月東京大学教養学部理科一類入学。2003年3月東京大学理学部生物学科卒業。2003年4月東京大学大学院理学系研究科修士課程生物科学専攻入学。2005年3月同上修了。2005年4月東京大学大学院理学系研究科博士課程生物科学専攻入学。2008年3月同上修了。日本学術振興会特別研究員(DC1)、理化学研究所脳科学総合研究センター基礎科学特別研究員(糸原重美チーム)、理化学研究所脳科学総合研究センター研究員(糸原重美チーム)、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)若手フェロー、助教。科学技術振興機構さきがけ研究者(兼任)を経て、2016年1月より現職。

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