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検証・共通テスト(下) 翻弄される高校生たち

 2020年度に始まる大学入学共通テストで英語民間検定試験の導入見送りが決まって1カ月。変わる入試に向けて対策を進めてきた高校生たちにとっては、思わぬ冷や水を浴びせられる事態となった。民間事業者が担う記述式問題の採点の在り方などあらためて課題が指摘される中、制度改革に翻弄(ほんろう)される現場はどう受け止めているのか。

「なぜ自分の学年だけ…」

 福岡県の県立高校入試は、今の高校2年が受験した18年3月から試験時間が延長され、思考力や判断力、表現力を問う問題が充実した。大学入試制度改革を見据えたものだったが、福岡市の高校2年男子は「過去問があてにならなかった。なぜ自分の学年ばかり影響を受けないといけないのか」と不満を口にした。

 男子生徒は英語の民間試験見送り後、大学受験について民間業者から話を聞く機会があったが「全然決まっていないから詳しい対策が立てられない」と歯切れが悪かったという。「自分自身も何が起きているのかよく分からない」と語る。

 理系志望で大学進学後は留学を希望する。「海外で学ぶには『読む・聞く・書く・話す』の4技能が必要なのは理解している。平等性などの問題をきちんと改善してほしい」と願う。

 福岡市の私立高2年の女子は模試の傾向の変化に戸惑う。選択式問題で正誤を“すべて”選ばせるような問題が増えたという。「勉強のやり方を変えないといけないと思うけど、具体的にどうすればいいのか」と悩みを口にした。

 同市の高校2年女子が通う公立高では、民間試験の見送りが決まった日に学校から「詳しいことが分かり次第、お伝えします」と言われたきり、何の話もない。授業内容が変わった感じもなく「本当に延期になったのだろうかと思うほど、変化がない」と言う。

 首都圏では高校生のグループが共通テストの中止を求める活動をするなど活発な動きが見られた。「自分はまだ受験生としての実感があまりないのかもしれない」。少し温度差を感じている。

民間業者に不信感

 現役合格できなければ、共通テストの当事者になる高校3年生。3年女子生徒が通う福岡県の高校では、安全志向から本年度は推薦入試の出願者が例年になく多かったという。女子生徒と同じ大学を志望していた生徒の中には別の大学の指定校推薦入試に切り替え、既に内定を得たケースも。「もし制度改革がなかったらと思うと複雑な思いです」と漏らした。

 共通テストの記述式問題の採点は、大学入試センターから受注したベネッセコーポレーションのグループ会社の学力評価研究機構が請け負う。民間に全面的に委ねることには高校生からも疑問の声が上がる。

 福岡県内の公立高3年の男子生徒は、過去にベネッセが実施する模試の複数の教科で明らかに正解の解答を不正解にされたという。学校の教師に尋ねても正解と認められたが、ベネッセ側は採点業務についての問い合わせには応じないとのことで、もやもやした思いが残った。

 ベネッセでは14年、通信教育サービスの顧客情報が漏えいしたことが発覚。男子生徒も該当者で、家庭教師などの勧誘の電話が相次いで掛かってきたり、塾のダイレクトメール(DM)が送られてきたりした経験がある。「正直あまり信用できない」と語った。

子どもたちは“実験台”ではない

 問題点が相次いで浮き彫りになる一方、今までとどこが変わるのかは曖昧なまま入試本番は刻一刻と近づく。授業で対策に力を注いできた長崎県の公立高に勤める50代男性教諭は「今までやってきたことが損になることはないと生徒には言い聞かせている」と話す。

 その上で現状を踏まえて訴えた。「民間試験も導入の結論ありきだった。生徒も保護者も教師も困惑しているのを、文部科学省はどう認識しているのか。子どもたちは“実験台”ではない。入試の被害者とならないようにしっかり議論を進めてほしい」

(金沢皓介、本田彩子)

 

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