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検証・共通テスト(中) 公平性、自己採点…不安ぬぐえず

 大学入学共通テストでは国語と数学で記述式問題が導入される。その試験を巡って採点の公平性と受験生の自己採点の難しさが懸念されている。2021年1月の本番に備え、大学入試センターは課題の洗い出しと対策を進めるが、導入の目的を問い直し、延期を求める声は根強い。

 11月に入り、文部科学省で大学教員や現役高校生らが、相次いで共通テストの実施延期を求めて記者会見を開いた。

 「自己採点が難しく、公平に採点することも不可能だ」。国語の記述式問題に関して独自調査を実施した首都圏の高校生グループ代表で高2の男子生徒(16)はそう訴えた。

 グループは中高生や塾講師らの協力を得て、試行調査の問題と正答条件を使い検証。解答によって正答条件を満たすかどうかの判断がばらつく結果になったという。昨年11月の試行調査でも自己採点と実際の成績のずれは約3割に上った。

文科省、譲れない表現力

 課題が指摘される中で、文科省が歩みを止めない理由は何なのか。

 「狙いは高校までの学習指導要領の貫徹。そのため基礎学力を測る記述式問題の導入は譲れないと思っている」と、経緯を知る大学教員は打ち明ける。

 記述式問題は入試改革論議の中で、従来のマークシート式では測りにくいとされる受験生の思考力、判断力、表現力を問う重要性が指摘され、導入された。

 国語の記述式の成績を点数ではなく、段階的な総合評価とするのも「1点刻みの入試からの脱却」が求められたことを受けたものだ。その手法は、小中学生を対象にした全国学力テストにも似ている。

 大学側にも負い目はある。学生の基礎学力として「書ける力」の必要性は共通する。ただ、1991年の大学設置基準改正に伴って教養部を解体し、教養科目の問題作成などを担える人材がいない大学にとって共通テストの記述式問題への期待は高い。導入を巡り過去には国語の記述式で大学入試センターが作問し、一部をセンターが採点、残りは大学側が2次試験に利用する案も検討された。

 最終的にセンターは、50万人の受験生に対し1万人程度の人員が必要な採点は困難と判断、ベネッセコーポレーションのグループ会社、学力評価研究機構が請け負うことになった。

「民間任せ」の採点 リスクも

 ところが現在、問題視されているのは民間任せの在り方だ。採点については、細かい基準など採点者がどんなに事前研修を重ねても表現によるぶれは否めない。まして、作問者の想定を超える答えは、評価されるどころか誤答と判断されるリスクもある。

 学力評価研究機構は、設問ごとに3人以上で採点を担い「公平でぶれがない採点を行えるよう準備している。センターの指導の下、最善を尽くす」とする。

 センター側も、ぶれを少なくするために国語の試行調査では解答に指示された言葉を用いるといった条件を付した。数学では、試行調査の正答率の低さから本番では文章ではなく「数式等を記述する」出題のみとする方針だ。

 ただ、その方向性について「問われているのは表現力ではなく、与えられた条件に文字や数式を当てはめる画一的な答えだ」(西日本の大学教員)と導入の意義を問う声も多い。

 事前の採点マニュアル作成には実際の問題が使用され、漏えいへの不安はぬぐえない。自己採点の不一致も解消の糸口は見えない。九州の大学関係者は「民間の判定を大学が使う必要があるのか。採点は活用する大学が担うべきだ」と語る。記述式もまた、原点からの見直しが求められる。(編集委員・前田英男、一瀬圭司)

甘い想定、導入延期は必然

 大内裕和・中京大教授(教育社会学)の話 記述式試験について、現状で正確かつ公平な採点や正確な自己採点ができる環境は担保されていない。常識的に考えれば、導入の延期は必然だろう。1万人もの採点者の意思疎通をどう図るのか。答えがだいたい正確であればいいという妥協はあり得ず、それは試験とは言えない。国語の記述問題も、書き写す時間的余裕がなく解答を再現できない受験生も出てくるだろう。制度の詰めが甘い共通テストをこのまま押し進めていけばさらなる混乱を招き、大学入試自体の正当性の崩壊にもつながる。センター試験を継続させて、より良いやり方を検討すべきだ。これ以上、受験生を困らせてはならない。

【共通テストの記述式問題】国語で小問三つからなる大問一つ、数学1と数学1・Aで小問三つが出題され、それに伴い大学入試センター試験より国語で20分、数学で各10分、試験時間が延びる。国語で最も長い記述解答は120字が上限。マークシート式の得点とは別に、各小問の評価を組み合わせた総合評価をA~Eの5段階で示す。成績の利用は各大学の判断で、Aは40点などと得点換算し、マーク式と合わせて評価する大学が多いとみられる。数学は数式などを答えさせる問題でマーク式と同様に点数化される。

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