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検証・共通テスト(上) 民間試験、不透明な導入経緯

 2020年度から始まる大学入学共通テストを巡る混乱が続いている。導入が先送りされた英語民間検定試験に加え、国語と数学の記述式問題にも懸念の声が広がる。民間試験と記述式問題は新テストの柱。存在意義が揺らぎかねない事態に、海外の事情も含めてその背景と課題を検証する。

知るのは文科省のみ

 そもそも英語民間試験導入のきっかけは、安倍晋三首相が設けた教育再生実行会議による13年の提言だ。これからの日本や世界を支える人材の育成に向けて、高校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的な改革の必要性を訴えた。

 その中で現行の大学入試センター試験について、1点刻みの合否判定を助長しているほか、多数の出題科目の準備や運営の負担が増して、限界に達していると説明。代わりに高校で学ぶべき基礎レベルと、大学で学ぶための素養を測る発展レベルの2段階のテストを行い「外部検定試験の活用」などの方向性も示した。

 提言を受けて中央教育審議会は14年12月、センター試験を廃止して新テストの実施を提案。これまでの知識と技能を単独で評価するのではなく「思考力・判断力・表現力」を中心とした評価への転換を求めた。

 具体的には記述式解答の導入、年複数回実施など。特に英語は4技能(読む、聞く、話す、書く)を総合的に評価できる出題や民間試験の活用を挙げた。

 その後、新テストを検討する専門家会議も4技能の評価は追認したが、最終報告は「民間試験の知見の積極的活用」。機器の整備や採点の煩雑さから開始時期が遅れる可能性にも触れつつ、あくまで民間任せではなく現行のセンター試験の枠内を前提とした。

 ところが17年7月、文部科学省の作業グループの非公開論議を経て出された大学入学共通テストの概要は、民間試験導入と将来的な共通テストの英語の廃止方針だった。当時を知る大学教員は「さまざまな小部会が設けられ、どこでどうなったかを知るのは文科省だけだ」と言う。

 今後、論議内容は明らかになる予定だが、なぜ民間試験でなければならないのか、まずは決定経緯の再検討が見直しの第一歩だ。

韓国では独自試験白紙に 

 英語の4技能について必要性を議論してきたのは韓国も同じだ。厳しい受験競争で知られ、14日には日本のセンター試験に当たる大学修学能力試験(修能)が実施されたが、その修能を巡って4技能を測る新たなテストの開発が進められてきた。

 韓国の入試制度に詳しい長崎大の井手弘人准教授(教科教育学)によると、韓国では英語能力の証明をTOEICやTOEFLなど外国の資格試験に求める傾向があった。その流れを是正するため、自国の実態に合わせた試験を目指し、2000年代以降、パソコンを使って4技能を測る国家英語能力評価試験(NEAT)の開発が進んだという。

 居住地に関係なく受験できるとして期待が高まったが、導入目前の13年にシステム上のトラブルが発生して白紙に。都市部でNEAT対応の塾が目立つようになり、富裕層に有利な環境も批判の的となった。

 修能の英語試験はその後、評価手法が変わったものの、日本と同様に「読む、聞く」の2技能を主に問う形式で継続。井手氏は「日韓共通の課題として入試の制度設計が先走り、伝統的に『読む』能力を重視してきた学校の授業改善のスピードとかみ合わない現実がある」と分析する。

 日本での英語民間試験導入は、民間事業者と国や現場との“近さ”に批判の声も上がる。井手氏は「日本を含めた東アジアは文化的特性として、民間が入学試験に積極的にかかわることへのアレルギー感が強い」と説明。その上で「単に仕組みを変えればうまくいくわけではない。国が主導して民間や学校現場の知見を取り入れながら、官民共同で研究開発を進められるよう熟議を重ねるべきだ」と指摘した。

非公開の議事録開示へ

 大学入学共通テストへの英語民間検定試験導入見送りの余波は、なおも収まる気配を見せない。

 見送りの端緒となる「身の丈」発言をした萩生田光一文科相は6日の衆院予算委員会の集中審議で改めて陳謝。民間試験の活用を決めた経緯を検証するため、非公開で行われた関連会議の議事録を公開する意向を示し「きちんと説明させていただきたい」と述べた。

 導入見送りとなった民間試験は、受験生が6団体7種類から選び、2020年4~12月に最大2回まで受ける形式だった。多数の受験が見込まれたGTECについて、運営するベネッセコーポレーションは13日、共通テストの枠組みで20年度に予定していた試験は行わないと発表。従来の試験は新たな高校3年専用の検定日を設ける。

 日本英語検定協会は、導入予定だった英検S-CBTの20年4~7月分について1日現在で29万4534人の受験予約があったと発表した。実施は取りやめず当初の設定額よりも500~2900円値下げする。受験しない人への予約金3000円の返金は近く詳細を示す。 (編集委員・前田英男、金沢皓介)

 

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