医療業界で働くために。医療技術の進歩とDX時代に生きる
すでに少子高齢化が加速している日本において、さらなるニーズが高まっているのが医療業界です。
医療技術・医薬品の進歩やウェアラブル型スマートデバイスなどの医療機器の発達にともない、今後の医療業界はますます高度化していくことが予想されます。
そこで今回は、医療業界が直面する現状を踏まえ、これから医療業界に求められる人財やサービスを解説します。また、今後10年で活躍が期待される医療技術や新たな職種についても併せて紹介します。これから医療業界を目指す方は、ぜひ参考にしてください。
少子高齢化社会を担う医療業界の現状
劇的なスピードで高齢者が増加している日本は、医療および介護関連にかかる費用も上昇傾向にあります。医療業界は景気に左右されない安定した業界のため、今後さらなる成長が期待されています。
日々進歩している医療技術や医薬品
医療技術や医薬品が日々進歩するなか、私たちが病気にかかったときの治療法一つとっても変化が起きています。例えば、同じ病気の患者さんであっても、患者さんの体質や病気に関連する遺伝子を調べ、一人ひとりに合った治療への取り組みが始まっています。それが「ゲノム医療」や「遺伝子治療」といったものです。
ウェアラブル型スマートデバイスなどの医療機器の発達
医療機器の発展も見逃せません。例えば、ウェアラブル型スマートデバイスは、腕時計のように手軽に身につけるだけで、運動時間や睡眠時間などの健康管理ができます。これらの最先端技術を用いた健康管理は、これからの予防医療の中心となるでしょう。
地域をサポートする地域包括ケアシステム
劇的なスピードで少子高齢化を迎えるなか、現在、高齢者ができるかぎり住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを続けていくための支援システムの構築が進められています。これが「地域包括ケアシステム」です。それぞれの地域の特性に合わせて、病院や介護施設、自治体が手を取り合い、高齢者のより良い生活を支援していきます。
●地域包括ケアシステムとは?
重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で暮らし続けられるために、「住まい・医療・介護・予防・生活支援」が一体対に提供されるのが「地域包括ケアシステム」です。団塊の世代が75歳以上となる2025年を目処に、構築が進められています。
新型コロナウイルスによる医療従事者の需要拡大
2019年末に起きた新型コロナウイルス感染症は急速に世界中に広がり、2020年にパンデミックに陥りました。2021年現在でも新型コロナウイルス感染者の増加はとどまることを知らず、入院者数・重症者数も急激な増加が続いています。このような状況のなか、医療現場では患者に対応する医師・看護師などの医療従事者のニーズがさらに高まっています。
医療業界で求められる人財
それでは、現在の医療業界ではどのような人財が活躍しているのでしょうか。
医師だけでなく多職種による「チーム医療」にシフト
現在の医療業界は、医療技術や医薬品の進歩や、ウェアラブル型スマートデバイスなどの医療機器・地域をサポートする地域包括ケアシステムの発展などにともない、複雑な医療ニーズへの対応が求められています。そうしたなか、これからの医療業界で注目されているのが、医師だけではなく多職種によるチーム医療を実現できる人財です。
医師1人が患者さんを診るのではなく、看護師・薬剤師・臨床検査技師・管理栄養士などの多くの医療職種がお互いの専門知識を活用しあい、チームとして患者さんを支援していきます。チーム医療が充実しているため、患者さんにとってもさらに質の高い医療サービスを受けられるメリットがあります。
●チーム医療とは?
チーム医療とは、医師や看護師をはじめ、薬剤師・管理栄養士・理学療法士(PT)・作業療法士(OT)・言語聴覚士(ST)・放射線技師・検査技師・臨床工学技士などの医療従事者が互いの専門性を尊重し、1つのチームを結成して診療にあたり、患者さんにより良い医療を提供するための医療現場の取り組みをいいます。
医療業界に関わる職業別年収ランキング
続いて、医療業界で活躍している方たちの現在の年収について見ていきましょう。
厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査」によれば、医療業界において最も高い職種は、医師の1,161万円です。歯科医師の848万9,000円、獣医師の584万9,000円、薬剤師の543万6,000円、看護師の479万9,000円と続いています。
●医療業界に関わるおもな職業の年収
医師 |
1,161万円 |
歯科医師 |
848.9万円 |
獣医師 |
584.9万円 |
薬剤師 |
543.6万円 |
看護師 |
479.9万円 |
准看護師 |
402万円 |
診療放射線・診療エックス線技師 |
513万円 |
臨床検査技師 |
473.5万円 |
理学療法士 作業療法士 |
408.5万円 |
歯科衛生士 |
363.9万円 |
歯科技工士 |
410.9万円 |
栄養士 |
346.1万円 |
介護支援専門員(ケアマネージャー) |
385.4万円 |
ホームヘルパー |
333.4万円 |
福祉施設介護員 |
339.6万円 |
参考:厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」をもとに算出
※算出方法は「決まって支給する現金給与額×12ヵ月+年間賞与その他特別給与額を足した金額(年収)」です。
少子高齢化にともない医療ニーズはさらに高まる
社会的背景から急増する医療のニーズ
医療業界では「2025年問題」が話題を集めています。戦後に生まれた第1次ベビーブーム(1947年~1949年)の子どもたち=団塊の世代が、2025年に75歳の「後期高齢者」に達します。15年後、後期高齢者の人口は約2,200万人まで膨れ上がり、国民の4人に1人が75歳以上になるといわれています。
また、65歳以上の高齢者の数は、2025年に3.657万人を迎えると予測されています。この数字は生産年齢人口(20〜64歳)が、約2人で高齢者1人を支えるという割合になります。そして、2050年には1人の若者が1人の高齢者を支える社会になるでしょう。
●高齢者1人に対する生産年齢人口の割合
1965年:9.1人
2012年:2.4人
2025年:2.0人(推計)
2050年:1.2人(推計)
参考:厚生労働省「今後の高齢者人口の見通しについて」
また、高齢者が増えるとともに、医療費も増え続けています。医療費は毎年約1兆円単位で上昇しており、2025年には54兆円に達するといわれています。
●最近5年間の医療費の動向
2015年 41.5兆円
2016年 41.3兆円
2017年 42.2兆円
2018年 42.6兆円
2019年 43.6兆円
参考:厚生労働省保健局調査課「令和元年度 医療費の動向」
高齢者・医療費が増えると、医療や介護のニーズが急増することが予想されています。ヘルスケア市場も年々拡大しており、2020年には26兆円産業へと成長するのです。
●ヘルスケア市場の売上動向
2011年:16兆円
2020年:26兆円
2030年:37兆円(推計)
参考:内閣官房日本経済再生総合事務局「日本再興戦略2016」
医療には未来の可能性がある!医療業界の今後について
このような社会的背景を受けて、医療業界の未来はどうなっていくのでしょうか。
すでに応用・活用される医療技術
まずは、現時点ですでに応用・活用されつつある医療技術をいくつか紹介します。
遠隔診療
インターネットなどの通信技術を利用して、オンライン上で医療行為を行なう診療法です。医師が足りていない地方などの地域では、遠隔診療がすでに実施されており、全国的にオンライン診療は広く利用されるようになっています。実際に山形県ではオンライン診療が進んでおり、全国トップとなる30%以上の普及率を誇っています。
再生医療
幹細胞という特殊な細胞を取り出して増やし、目的とする組織や臓器などにしてから、患者に移植する治療法です。複雑なヒトの身体の臓器を再生するのは課題が多く、誰もが利用できる状況ではないものの、徐々に再生医療が活用できる場面が増えています。
AI(人工知能)
近年、AI(人工知能)の活用は多くの分野で急速に進んでいますが、医療業界でもAI活用が積極的に行なわれています。最近では、患者の状態に関する質問の回答から病名を診断する「自動問診」、MRI(磁気共鳴画像)・CT(コンピュータ断層撮影)・レントゲン・超音波・内視鏡・病理組織などの各種画像データから異常を発見して診断する「画像診断」、人間のように複数回の会話ができ、患者とのコミュニケーションをサポートする「会話ロボット」などが導入されています。
IoT
IoTとはInternet of Thingsの略称で、身の回りのさまざまな「モノ」がインターネットにつながる仕組みのことです。医療業界でも上記の「遠隔診療」をはじめ、IoTはすでに活用されています。その他、体温・脈拍・血圧・排尿などのバイタルデータをリアルタイムに送信し、スイッチのON/OFFなどの機器動作を制御する「生体データ測定」や、薬の飲み忘れや過剰摂取といった服薬エラーを防止する「服薬確認」などが実用化されています。
5G
日本でも2020年3月から商用サービスが開始された第5世代移動通信システム(5G)も、医療の進歩に活用されています。5Gは、2時間の映画を3秒でダウンロードできるほどの超高速化・大容量化の実現が可能です。前述の遠隔診療におけるストレス解消につながるほか、「デジタル聴診器」と遠隔診療の組み合わせによる呼吸器疾患の早期発見への試みも始まっています。
手術支援ロボット
手術を行なう医師をサポートする「手術支援ロボット」も存在しています。医師はコックピットのような機械のなかでロボットを操作し、ロボットのアームを精密に動かして手術を行ないます。手術支援ロボットは精密で精度が高く、低侵襲治療(※)が可能です。そのため、従来の開腹手術に比べ、患者さんへの負担を軽減できることから、特に外科手術でニーズが拡大しています。
現在の市場はアメリカのIntuitive Surgical社が開発した「ダヴィンチ」が独占していますが、この牙城を崩すべく、川崎重工業とシスメックスの共同出資会社メディカロイドが国産初の手術支援ロボット「hinotori サージカルロボットシステム」を開発・販売し、注目が集まっています。
※低侵襲治療 手術・検査などにともなう痛みや発熱、出血などを可能なかぎり少なくする治療のこと。
今後10年で活用が期待される医療技術
続いて、今後10年で活用が期待されている医療技術をいくつか紹介します。
生体埋め込み機器
体内に通信末端を埋め込み、それを医療に活用することを目指しています。神経の電気信号などを検出することで組織や臓器の状態を診断したり、神経や筋肉に電気刺激を与えて患部を治療したりすることが期待されています。
ゲノム編集
ゲノム編集とは、特定の遺伝子のみを「編集する」技術のことです。いわゆる難病と呼ばれる病気のなかには、遺伝子変異が原因であることが判明しているものがあります。そのような遺伝子疾患に対し、原因である遺伝子をゲノム編集によって改変することで根本的に治療することが期待されています。
細胞医薬
2006年に京都大学の山中伸弥教授らによる「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」の発明は再生医療を飛躍的に進歩するきっかけになりましたが、2018年には京都大学医学部附属病院が京都大学iPS細胞研究所と連携し、iPS細胞から作った細胞医薬品の実用化に向けた医師主導臨床試験(治験)をスタートさせました。近い将来、細胞医薬品の製品化が期待されています。
さまざまな職種が活躍するダイバーシティ時代の働き方へ!
医師だけでは、未来の医療業界を担っていくことはできません。これからは、私たちの知らない多くの職種が活躍すると予想されています。
進歩するテクノロジーとさまざまなデバイスの活用
「AR」「VR」といった言葉をご存知でしょうか。AR(Augmented reality)はバーチャルな情報を現実の風景に重ねて表示する「拡張現実」と呼ばれ、VR(Virtual reality)はゴーグルやヘッドセットなどの専用デバイスを用いて、CG(Computer Graphics)で描く仮想空間をリアルに体験する「仮想現実」と呼ばれています。
こうした新たなテクノロジーの活用は、医療分野でも進んでいます。例えば、手術や診察では、CT画像の3D化により、ゴーグル越しで患者の状態をより詳細に診ることができます。医師が行なう手術や診断のサポート手段として、さまざまなデバイスの活用が期待されています。
また、医療分野の学習手段としてもAR/VRが活用されており、人間の身体のなかの動きなどの仕組みを知ることができます。
医療業界に求められる新たなスペシャリスト
新たな技術を活用するには、それらを扱える人財が必要です。日々進化する医療業界においても、次のような新たな人財=スペシャリストが台頭しています。
再生医療研究者
再生医療研究者は、すでに利用されつつある「再生医療」をさらに発展させる重要な人財です。再生医療に関する知識を豊富に持ち、これまでの薬では治療が難しいものや、そもそも治療法が確立できていない病気を根本的に解決する職種として、大きな期待が寄せられています。
データサイエンティスト
今の世の中は、さまざまなビッグデータと呼ばれる情報が溢れています。データサイエンティストはこれらのデータを正しく分析し、意思決定の場でデータに基づく合理的な判断を行なうためのサポートを行ないます。
例えば、患者さんの問診情報・各種検査結果・画像記録・薬の処方記録・手術記録などの膨大な量のデータを分析・活用し、さらにEBM(根拠に基づいた医療)の実践を目指しています。
AR/VRエンジニア
AR(拡張現実)・VR(仮想現実)を創り出すAR/VRエンジニアも、医療業界には欠かせません。医師が手術や診察でAR/VR技術を使うために、プログラミング・動画編集の技術を持ったAR/VRエンジニアがサポートします。AIの進歩によって高度化・複雑化する医療業界において、AR/VR技術の発展が見込まれています。
【まとめ】今後の医療業界を意識した学び方を
健康に生きていくために、私たちと医療は切っても切れない関係にあります。その医療はさまざまな研究により日々発展しており、その環境は大きく変化しています。
医師・看護師をはじめとする医療従事者には患者の求めるニーズの変化に合わせ、より高度な専門性が求められる傾向にあります。
また、医療技術の進歩により、今後の医療業界を担うのは医療従事者だけではなく、さまざまな職種が活躍することが予想されます。
少子高齢化社会を支える医療業界には、多くのチャンスが広がっています。今後の医療業界を意識した幅広い知識と高度な技術を身につけ、あなたもチーム医療に求められる人財を目指してみてはいかがでしょうか。