大学入試センター試験

《日本史A》 設問別分析


 
第1問 歴史のなかで音楽が果たした役割(会話文)
第1問は昨年同様に、会話文形式で出題された。「合唱」という特殊なテーマ設定で、その時々に流行した音楽の時代背景を考察させる内容となっていた。独創的なテーマであるが、設問自体の内容は基礎力を試す問題が大部分を占めた。

問1 芸能に関する空欄補充(語句選択)問題。作曲家「滝廉太郎」と新劇運動の「島村抱月」を比較させる問であった。空欄イは内容的に易しかったので、迷わずに解答を出せたであろう。

問3 「歌詞」の内容から世相を読み取る史料の読解問題。(注)をしっかり分析して、史料の内容にあてはめて考える問題だった。

問6 写真から、年代順を判断する年代整序問題。形式的には珍しい問題設定だが、I・II・IIIの写真の説明から判断できる基礎的な内容なので、確実に得点したい。


第2問 近世・近代における公家と華族
日本史B(第5問)との共通問題。かつては、テーマ的に難易度の高いものが目立ったが、今年も比較的取り組みやすいテーマ(「近世・近代における公家と華族」)が取り上げられた。形式面では、昨年に続き史料や視覚資料を用いた問題が1問も出題されなかった。また、昨年と同様の範囲である「幕末から明治維新」が出題され、井伊直弼・孝明天皇・廃藩置県など同一用語も多く、過去問演習を徹底していれば容易に解答できたと思われる。

問1 幕末・維新期の歴史用語や、やや区別のつきにくい歴史用語の判断が求められている。理解を優先して学習を続けていた受験生にとっては易しいが、単純に用語を暗記する作業を繰り返していた受験生は苦戦したかもしれない。

問3 「明治初期の東京」は、2020年に東京オリンピックを控えていることを考えると、時事的要素も意識した設問といえる。


第3問 明治期に活躍した浮世絵師・小林清親
第3問は明治期に活躍した浮世絵師・小林清親が生きた時代がテーマだった。昨年の人物史は日本史Bと共通問題として第4問で「石橋湛山」が出題されたが、今年は人物史が日本史Aで単独でみられた。政治史が少なく、労働問題を中心とした社会経済史や文化史・女性史とバリエーションに富んだ出題であった。

問2 明治初期の生活様式や思想の変化に関する正誤判定問題。煉瓦造りの建物や、ガス灯は文明開化の象徴である。また、「福沢諭吉」の事績を問うた基礎的な内容であった。

問4 風刺雑誌『団団珍聞』に掲載された風刺画と資料を分析する問題。「足尾」から「田中正造」を判断することは容易だか、史料の内容は設問文や(注)に留意しながら注意深く判断する必要があった。


第4問 近現代の日米関係
日本史B(第6問)との共通問題。第4問は、これまで、人物史とテーマ史の2パターンがあった。今年は、テーマ史(「日米関係」)として出題された。日米関係は頻出テーマの一つであるため、多くの受験生が安心して取り組むことができたと思われる。

問2 大久保利通(2017年第5問)、吉田茂(2018年)に引き続き、人物(幣原喜重郎)に関する設問が出題された。著名な政治家については、情報を整理しておきたい。

問3 広いスパン(明治期から昭和終戦直後まで)を対象とする設問。2015年度第1問では、海外移住者をテーマとする設問が出題されていた。過去問にしっかり取り組んでいた受験生は有利だっただろう。

問4 「抑制する」、「増加させる」、という歴史用語ではない語句の選択が求められている。用語を暗記しているかではなく、理解しているかを問う設問だった。

問6 昨年引用された史料(石橋湛山「池田外交路線へ望む」)は長文だったので、読解に時間が不足して焦った受験生もいただろう。今年の史料は引用部分が少なかったので昨年よりも取り組みやすかった。プレス=コードについて理解していれば読解の一助となったと思われるが、読解問題としては注も少なく、正誤判断のしやすい設問だった。


第5問 近現代の港湾
日本史Aは昨年度同様、第5問が最終問題であり、設問数も8問と変更はなかった。
日本の「港湾」を題材としながら、産業革命・貿易・労働・公害など多岐にわたる内容が問われた。社会経済史が中心で、政治史を真正面から扱った出題は少なかった。昨年にはみられなかった、グラフ・表を用いた問題が問8で復活した。
日本史Aは時事的な内容が盛り込まれる傾向が強い。今年度は、政府が推奨する「働き方改革」を意識しての出題といっていいだろう。

問4 人物の事績を問う内容。それぞれ、選択肢の人物は活躍した時期が異なっており、あまり時間をかけずに解答できたと考えられる。また、「学問・文学」に関する出題とはいえ、大正時代の労働問題が深く関連しているので、第3問の問4・問5と類似している内容といっていいだろう。なお、プロレタリア文学は、日本史B・第1問の問6でも出題された。

問7 戦後に日本が加盟した世界経済に関する機構についての設問。池田勇人内閣が推進した経済政策についての理解が問われている。

問8 統計表の数値や国名から、その地域について考察させる内容。国名を見て、どの国がアジアNIESに含まれているかを判断するなど、現代の世界に関する基礎知識の重要性を示唆している問題だった。