大学入試センター試験

《日本史B》 設問別分析


 
第1問 :地名とその土地の歴史
2016年では大学生の日記、2017年では大学生の手紙という形式で問題文が構成されていたが、2015年までの会話形式が昨年復活し、今年も踏襲された。北海道史や沖縄史を正面からテーマとしているわけではないが、2013年第1問(北海道や沖縄を対象とする会話文)と類似した要素をもつ設問が目立った。
 古代から現代まで出題範囲が広いのは例年通りであるが、昨年と異なり、4つの図・写真を判断させる問題や、写真と地図を組み合わせる問題といった、やや複雑な形式の設問がみられなかったため、問3の史料読解に時間を割くことができたはずである。第1問特有の、複数の時代にまたがる設問(問2)に対応するためには、時代観を養っておく必要がある点に注意したい。

問2 時代判定の誤文と内容判定の誤文が混在しているため、熟読しなければ正誤判断しにくい選択肢群だった。例えば「江戸時代→寛永通宝」だけを確認して、短絡的に判断しないようにすべきである。

問3 長文の引用であり、読解にやや時間がかかっただろう。しかし、史料前半部がX、後半部がYに対応しており、注を読んでいけば、史料全体をほぼ現代語に置き換えることができるようになっている。そのため、遣唐使や円仁に関する知識を十分にもっていなかったとしても、時間さえかければ判断できる設問だった。

問4 北海道旧土人保護法に関連する設問は2002年第5問、自作農創設特別措置法に関連する設問は2016年第6問で出題されている。

問6 徳永直に関連する、プロレタリア文学についての設問は2012年第6問で出題されている。

 
第2問 原始・古代の歴史研究と資料
2017年、「世界の記憶」に「上野三碑」が登録された。そのうちの一つはBのリード文にある山上碑である。問題文は、近年の歴史研究を反映したものとなっていた。
史料問題については、鹿子木荘の史料(2015年度)・「魏志」倭人伝(2014年度)・『宋書』倭国伝(2013年度)というように教科書に記載されている基本史料が出題されるパターン、または、多くの受験生にとって初見となる史料(2018年の大仏開眼供養〔『続日本紀』〕など)が引用されるパターンがみられるが、今年は後者の初見史料(問5「那須国造碑文」)のパターンだった。

問1 「最も関係の深い出来事」という問い方は、センター試験日本史Bにおいて、やや珍しい出題形式である。史料は引用されていないものの、弥生時代の倭のようすを記した『漢書』地理志、『後漢書』東夷伝、「魏志」倭人伝の史料内容を把握していれば対応できただろう。

問5 史料読解問題は、純粋な日本語の文章読解力だけで解ける訳ではない。本問では、Yについては、(注2)「飛鳥浄御原宮の朝廷」を確認して天武天皇や持統天皇の時代を想起し、「大宝律令」(完成・施行は文武天皇の時代、当時の宮都は藤原京)とは時期的に異なると判断する必要がある。

問6 設問文を最後まで確実に読まなければ誤文を選択できない。設問文の前半は正文であっても、後半の部分に誤りがあることを見抜けなければならない。負名体制に関する理解を問う問題だったといえる。


第3問 中世の政治と社会
平成最後の年となった2019年には、年号(元号)に関する問題が出題されるだろうと予想できた受験生もいただろう。昨年は図(『大山寺縁起絵巻』)を用いた問題が出題されたが、今年は史料引用も図もなく、シンプルな問題群だった。

問2 「法や慣習を無視した専制的な政治」など、部分的には正しいが、設問文全体をよく読むと誤文と判断できるような選択肢がみられた。

問4 一見しただけでは、「『応永という年号』の時期の出来事」は、難しいと感じたかもしれない。しかし、問題文に「この年号が正長に改められたのは、元将軍義持の没後」とあり、これをヒントにできれば正解を導くことができる。なお、「寧波の乱」は、第2回センター試験本番レベル模試でも出題していた。

問6 室町時代から戦国時代の地方社会に関する正誤組合せ問題。やや判断しにくいが、この形式の設問は、a・b(もしくはc・d)のいずれかが正文または誤文であるため、2つの文を比較して判断すればよい。


第4問 近世の社会・政治・文化
昨年は、空欄補充が小問2つ出題されるパターンであったが、今年は1問のみに減少した。第4問での初見史料の出題は、定番となりつつある。問4は盲点ともいえる文化史分野からの出題で、得点差が開く問題だったと思われる。

問1 「小物成」は、第1回センター試験本番レベル模試で出題していたため、受験していた人は有利だっただろう。

問2 村請制、助郷役、村入用、結といった用語を正確に理解しているかが問われている。

問3 受験生にとって初見と考えられる史料。Xは史料と注を丁寧に読み進めれば正文だと判断できるが、Yについては「入会」から入会地(共同利用地)を想起し、「共同利用」は正しいと判断すべきだった。読解タイプの設問は、基本的な歴史用語の理解を確認する性格をもつものでもあると、認識しておきたい。

問3 空欄アの川柳と狂歌の判別で迷ったかもしれない。以前の問題になるが、「大田南畝」「狂歌」は1992年度本試験で出題されている。


第5問 近世・近代における公家と華族
日本史A(第2問)との共通問題。かつては、2013年度の「明治期の特許制度」・2014年度の「明治期の租税制度」のように、テーマ的に難易度の高いものが目立ったが、2015年度の「明治期の立法機関」、2016年度の「明治期の地方制度」、2017年度の「大坂(大阪)」、2018年度の「軍制改革と西洋医学」に続き、比較的取り組みやすいテーマ(「近世・近代における公家と華族」)が取り上げられた。
 第5問では、かつてグラフ・表を用いた設問がみられたが、昨年に続き史料や視覚教材を用いた問題が1問も出題されなかった。また、昨年と同様の範囲である「幕末から明治維新」が出題され、井伊直弼・孝明天皇・廃藩置県など同一用語も多く、過去問演習を徹底していれば容易に解答できたと思われる。

問1 幕末・維新期の歴史用語や、やや区別のつきにくい歴史用語の判断が求められている。理解を優先して学習を続けていた受験生にとっては易しいが、単純に用語を暗記する作業を繰り返していた受験生は苦戦したかもしれない。

問3 「明治初期の東京」は、2020年に東京オリンピックを控えていることを考えると、時事的要素も意識した設問といえる。


第6問 近現代の日米関係

日本史A(第4問)との共通問題。
第6問は、これまで、人物をとりあげた問題(「漫画家手塚治虫」〔2014〕、「作家林芙美子」〔2015〕、「石橋湛山」〔2018〕)と、テーマ史(「オリンピック」〔2016〕、「近現代の公園」〔2017〕)の2パターンがあった。今年は、テーマ史(「日米関係」)として出題された。日米関係は頻出テーマの一つであるため、多くの受験生が安心して取り組むことができたと思われる。

問2 大久保利通(2017年第5問)、吉田茂(2018)に引き続き、人物(幣原喜重郎)に関する設問が出題された。著名な政治家については、情報を整理しておきたい。

問3 広いスパン(明治期から昭和終戦直後まで)を対象とする設問。2015年度第1問では、海外移住者をテーマとする設問が出題されていた。過去問にしっかり取り組んでいた受験生は有利だっただろう。

問4 「抑制する」、「増加させる」、という歴史用語ではない語句の選択が求められている。用語を暗記しているかではなく、理解しているかを問う設問だった。

問6 昨年引用された史料(石橋湛山「池田外交路線へ望む」)は長文であったため、読解に時間が不足して焦った受験生もいただろう。今年の史料は引用部分が少なかったので昨年よりも取り組みやすかった。プレス=コードについて理解していれば読解の一助となったと思われるが、読解問題としては注も少なく、正誤判断のしやすい設問だった。