• 東進タイムズ 2018年12月01日号 14面
 
   2018年第8回永瀬賞最優秀賞を受賞した、理化学研究所統合生命医科学研究センター チームリーダーである茂呂和世先生に特別講義を行っていただいた。これまで誰も着目しなかった脂肪組織を研究することによって、B細胞、T細胞、NK細胞などに次ぐ6番目のリンパ球「ILC2」を発見した。茂呂先生が発見したこの「ILC2」は、アレルギーを解き明かす鍵となる重要な要素であることが判明。さらに、糖尿病や肥満などの病気の解明につながることが期待される重要なリンパ球であることもわかった。当たり前のものの中に眠っていた新発見とはーー茂呂先生ご自身の姿勢や最先端の研究内容について紹介する。
名もなき脂肪組織に眠っていた
新しいリンパ球
   私が現在取り組んでいる研究は、人間の身体の中に流れている「リンパ球」がテーマです。リンパ球とは血液中にある白血球の成分の一種で、ウイルスなどの外敵から体を守る免疫の役割を担っています。

   私たちの研究チームは、2010年に「2型自然リンパ球(Group2Innate Lymphoid Cell以下、ILC2)」という新しいリンパ球を発見しました(資料1)。リンパ球は、これまでにT細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞、LTi細胞の5種類が発見されていましたが、それらに次ぐ6番目のリンパ球を見つけたことになります。このリンパ球が、アレルギーの発症を解明する重要なものであることがわかり、現在はアレルギーに関わる免疫の研究をしています。

   通常、リンパ球の研究をする際はリンパ節に着目します。リンパ節は、身体中に張り巡らされているリンパ管の所どころにあり、体外のばい菌が中枢に入ってこないよう食い止める関所のような役割を果たしています。しかしILC2はリンパ節ではなく、身体中のどこにでもある脂肪組織にあるリンパ球集積の中に存在していました。

   話は、私が大学院生だった頃に遡ります。私は研究テーマとしてリンパ球の移動に興味を持ちました。調べるうちに、「なぜリンパ節は脂肪細胞に包まれているのだろう?」と疑問がわき、免疫と脂肪組織には相関があるのではないかと考えるようになりました。

   そこでマウスの腹腔の脂肪組織を調べたところ、腸間膜にリンパ節より未熟なリンパ球の集積を見つけました(資料2)。標本を作り、これが何なのか専門家の先生に質問すると、「君ね、これは身体のどこにでもあるもので、誰も名前なんてつけようと思わないよ」と。その存在が当たり前すぎて、研究対象になるどころか名前さえなかったのです。このリンパ球集積を見つけたとき、新しい発見をしたと思っていたのでがっかりしたものの、「名前がないなら私がつけちゃおう」と、「FALC( F a t - a s s o c i a t e dlymphoid cluster)」と名づけました。

   詳しく調べていくと、FALCには、B細胞が30% 移動、T 細胞が20%、NKT細胞とNK細胞が5%程度ずつ、LTi細胞はほとんどいないことがわかりました。合計すると60%程度で、残りの40%はリンパ球の形をしているものの、正体がわかりません。この正体不明の細胞について解析を進めたところ、これまでのリンパ球にはないc-KitやSca-1 といったタンパク質を発現する細胞であることが判明しました。それが、後に「ILC2」と名づけられるリンパ球です。さらに、そのリンパ球が発現する遺伝子を網羅的に調べた結果、ILC2はさまざまな2型サイトカイン(※)関連遺伝子、つまり、寄生虫を排除する物質を多く出していることが明らかになりました。※サイトカインとは、細胞が他の細胞に対して発信する司令のようなもの。具体的には、1型サイトカインはウイルスや細胞内細菌に感染したとき、2型サイトカインは寄生虫感染やアレルギー疾患が起きたとき、3型サイトカインは細胞外細菌感染時に分泌されることが知られている。
アレルギーの原因とは?
新しいメカニズムが明らかに
   従来、寄生虫感染機構は、細菌感染などほかの免疫応答と似た現象が起こると考えられていましたが、私たちの研究によって、寄生虫に対する免疫機構には独自のメカニズムがあることがわかりました。

   例えば、腸に寄生虫が入ってくると、上皮細胞が傷ついて死んでしまいます(資料3)。腸管の上皮細胞の核の中には、IL -33というサイトカインがたくさん入っていて、上皮細胞が「殺された」ときにIL -33を細胞外に放出します。ILC2は、IL -33によって活性化すると、IL -5というサイトカインを出して好酸球を呼び寄せます。好酸球は、寄生虫と戦うためのタンパク質をたくさん出せるので寄生虫がいると一気に寄ってきて、寄生虫を取り囲んで動けなくさせます。そのままだと寄生虫は身体の中に残ってしまうので、次にILC2はIL -13という別のサイトカインを出し、上皮細胞から「ムチン」という粘液を産生させます。ムチンはぬるぬるした成分で、寄生虫を体外に排出させてくれます。このように、この細胞が「寄生虫感染が起きた際の強い好酸球誘導及び寄生虫排除能を持っている」ことが明らかになりました。

   後に、ILC2は寄生虫感染だけでなくアレルギーに重要な役割を果たしていることがわかります。

   カビ、ダニ、花粉などのアレルギーを引き起こす「アレルゲン」の酵素は、寄生虫の酵素に非常によく似ています。そのため、アレルゲンは身体にとって害のないものなのに、酵素が似ているがゆえに寄生虫感染したときと同様、ILC2が好酸球を誘導します。今は寄生虫がいないため、代わりに好酸球は自分の細胞を壊し始めてアレルギー性の炎症を起こしてしまいます。
ILC2は肥満を紐解く鍵!?
未解明の疾患の解決策を探れ
   現在ではカビ、ダニ、ペット、花粉がIL -33の産生を誘導してILC2を活性化させることが明らかになっていますが(資料4)、最近の研究では、ほかのサイトカインもこの活性化に関わっていると発表されています。さらに、炎症の結果出てくる脂質やストレス物質である神経ペプチド、ホルモンもILC2のサイトカイン産生を誘導できることがわかってきました。今後の課題は、「なぜ薬剤性のアレルギーが起こるのか」「どうしてストレスによってアトピーが悪化するか」など、ILC2の研究を通じてアレルギーのさらなる理解につなげていきたいと思っています。

   また、ILC2はアレルギーだけにとどまらず、肥満や糖尿病などの代謝疾患、関節リウマチなどの自己免疫疾患に関与していることを示唆する論文がどんどん出てきています。ILC2が活性化すると、肥満やさまざまな病気の原因にもなることが示されているのです。これらの研究によって、これまで未解明だったさまざまな病気の理解が進むと考えています。

   私は、ある新しい物事を発見したときに、「自分しか知らない真実」を誰かに話すまでの瞬間が大好きです。世界中の誰も気づいていない真実を、自分ただ一人が持っている瞬間。この一瞬を味わいたくて研究を続けていると言っても過言ではありません。研究職の魅力はいろいろありますが、非常にクリエイティブで、おもしろい仕事です。さまざまな疾患で苦しむ多くの方々に新しい薬が届けられるよう、今後もワクワクしながら研究に取り組んでいきたいと思います。

   理化学研究所統合生命医科学研究センターチームリーダー2003年日本大学歯学部卒業。2010年、慶應義塾大学医学研究科博士号取得(医学)。2011年より科学技術振興機構さきがけ研究員となり、2012 年より理化学研究所上級研究員となる。2013年より横浜市立大学大学院客員准教授を経たのち、2015年より現職。また、2016 年より横浜市立大学大学院 客員教授も務める。

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