<はじめに>
私たちは、いつから人の夢を信じなくなったのでしょう?
私たちは、いつから人の善意を信じなくなったのでしょう?
世の中は悪意に満ちた陰湿な情報のみが一人歩きしています。
学校の教育でも善意の「動機」は否定されます。人間はすべて冷徹な計算で動くとされるのです。
そればかりか、例えば、私の主なフィールドである「高校世界史」では、三〇〇ページを超える教科書の中に、「夢」はおろか、「友情」「勇気」「希望」などの言葉すら登場することはありません。
歴史をつくってきたものが、人間の「夢」であるにもかかわらず、です……。
歴史を動かしてきたのは、「夢」です。
一人ひとりの「夢」の集約が、歴史なのです。
この大切なことを、私たちは長らく忘れてきました。「夢」を支えたのが、「友情」であり、「勇気」であり、「希望」であったことも忘れてきました。それらが教科書で語られることがなくなったのは、「客観性」なるものを重要視する、とされたからです。
しかし、そのことが果たして本当の歴史を映し出すことになるのでしょうか?
本書『つたえたい、夢の伝記』は、歴史をつくった人々の物語です。
彼ら一人ひとりは、若き日に抱いた「夢」を一途に追いかけ、様々な困難と遭遇しながらも、自らの夢を「実現」させました。彼らの一生をたどると、「夢」がいかに尊いものであり、気高く、実に愛おしいものかがわかります。
本書では、一般に有名であること、そうでないことを問わず、「夢」に向かってまっすぐに歩み、真摯に取り組んだ二〇名の人物を選びました。
科学者・探検家・政治家・起業家・経済学者・発明家・冒険者など、あらゆるジャンルから、「夢」を実現させた人物を選んでいます。
是非、あなたが好きな人を見つけてください。あなたが憧れる人を見つけてください。一人でもいいのです。きっと、彼らの「夢」への軌跡が、あなたの人生の支えになってくれるはずです。
<本書の構成について>
① 章のはじめ――「夢」の言葉
人物紹介の冒頭に、ひとつの「言葉」を載せています。日記や自伝、伝記などから引用したものです。短い言葉ですが、その人の「夢」を支えた言葉であり、「夢」を実現させた魔法の言葉でもあります。これらの言葉は成功への道筋であり、その人の個性を表しています。私たちは、クーベルタンの意志の強さに圧倒され、モンゴルフィエ兄弟の素直な「夢」に驚き、マリー=キュリーのしなやかさに包み込まれることでしょう。辛いと思った時、道に迷ってしまった時、あなたの人生の指針になってくれるはずです。
② 本文――「夢」の「読む伝記」
本書は小説ではありません。希望に胸をふくらませ、「夢」の道を歩み始め、「夢」を叶えるまでの苦難の道のりを、できるだけ数多くの資料に目を通し、史実に正確な描写をするように心がけて描きました。特に、日付や人数などの数字には細心の注意を払いました。いくつかの説がある場合は、信頼できる第一次資料の数字や表記を用いています。発言や言葉づかいも同じような配慮を行いました。
ただし、本書は人物の「夢」と「心」に迫ろうとした、今までにない「夢」の伝記です。資料が欠如した部分は、著者である私の想像で補っています。心の内側を描く際には、大胆な解釈も施しています。よって、厳密な客観性を満たさないかもしれません。けれども、私が「真実である」と考える人物像を描き出しました。
③ 地図――「夢」の「見る伝記」
各人物の一生を地図でたどることができます。交通機関が十分に発達していなかった時代であったにもかかわらず、彼らの行動範囲の広さには、ただただ驚かされます。彼らの移動した距離とは、彼らの「夢」実現への足跡であり、道筋です。本文のストーリーと一緒に目で追いかけてみると、さらに楽しく、イメージが湧いてくることでしょう。
④ 参考文献とコラム――「夢」の「学ぶ伝記」
「もっと知りたい!」という期待に応えられたらと、参考となる書籍を取り上げています。現在発行されているものを中心に選び、特におすすめの一冊については紹介文を書きました。残念ながら、すでに入手困難なものもありますが、良書と考えたものは取り上げています。お気に入りの人物が見つかったら、これらの本をさがしてみてください。また、本文に載せられなかったエピソードもまとめています。歴史上の人物たちが身近に感じられるかもしれません。
それにしても、なんと人生とは「きわどい」ものなのでしょう!
皆さん、決して忘れないでください。
「夢」の実現とは、「もうダメだ」とあきらめた、その一歩先にあるのです。何人もの人たちが、その一歩手前で「夢」を断念したことか! 手を伸ばせばあと数センチ、数ミリで、幸運の女神が差し出す指に手をかけられたものを……。
もしも、あなたが「夢」をあきらめそうになった時、本書を紐解いてください。「夢」は、あなたに叶えてもらうのを、じっと、そっと、待っているのですから。
「大震災後」に生きる、すべての若者たちへ
二〇一二年 斎藤 整
Hitoshi Saitou 2012