久永 風楽くん 兵庫県立 長田高校 (高1)
東進衛星予備校 北鈴蘭台校
題名:教育を“設計”するエンジニアになりたい
小学校四年生のころ、私はパソコンで英単語クイズをつくり、クラスで披露しました。正解すると電子音が鳴り、友だちは「もう一回!」と列をなし、休み時間の教室が小さな語学塾になりました。「勉強が楽しくなるスイッチは自分でつくれる」。この体験が、私の夢――教育を“設計”するエンジニアになりたいという志の原点です。
中学に進むと、世の中は「AIが仕事を奪う」というニュースであふれていました。でも私は悲観よりも好奇心が勝ち、「変化の速い時代だからこそ、自分で学び続ける力が必要だ」と感じました。以来、テストの点より学び方そのものに興味が移り、授業中も「この説明をグラフにしたらもっと分かりやすいのでは」と考える癖がつきました。
今、高校一年生として理数探究クラスに所属し、SSH理数探究の授業では実験データを扱う機会が多く、帰宅後も家族との食卓で散布図やグラフの読み解きについて語り合うほど、データ分析が日常の話題になっています。散布図一枚で議論が盛り上がるたび、小学生のときの高揚感がよみがえります。同時に、日本の教育現場が抱える課題――家庭環境による学習機会の差や先生方の長時間労働――も目に入りました。「どうすれば解決の糸口を見つけられるのか」と考えていたとき、中室牧子先生の「『学力』の経済学」に出会い、「教育は経験談ではなくデータで語るべきだ」という言葉に強くうなずきました。
最近では、他の分野と教育を比べたときの違和感にも気づくようになりました。たとえばスポーツやビジネスでは、選手の貢献度や売上の変動要因がデータで分析され、戦略や改善に役立てられています。けれど教育の世界では、名門大学への合格者の合計数だけで高校がランキングされたり、在籍生の人数を無視した平均偏差値だけで塾が評価されたりすることが多く、合格者数を生徒数で割った割合や入学時点からの学力の伸び率、学習のプロセスに注目する取り組みはほとんど見かけません。確かに、どの教育内容がどんな成果につながったかを数値で示すのは難しいと思います。でも、複雑だからこそ、むしろデータで考えてみる価値があると私は感じています。
私は学習成果を総合的に測る指標として、LCV(Learning Contribution Value)を考案しました。短期記憶の保持率、応用問題の正答率、学習に費やした時間という三つの要素を組み合わせ、一時間当たりどれだけ“使える知識”が残ったかを数値化する試みです。この指標が普及すれば、教材や授業をシンプルに比較でき、経験と勘だけに頼らない改善サイクルが回り出すと確信しています。
もっとも、現時点でのLCVは「記憶と正答」に重きが置かれすぎており、理解の深さや思考の柔軟性といった学びの本質にはまだ十分に迫れていないという課題も自覚しています。
最近では、この指標を「記憶力」だけでなく、「自分の言葉で説明する力」や「学んだことを少し違う状況で応用する力」まで含めたものに改良したいと考えています。たとえば、自由記述や口頭での再表現を評価に加えれば、表面的な理解ではなく“本当に使える学び”を見える形でとらえられるのではないかと思います。
私の夢が実現すれば、まず授業の科学的な改善が進みます。学習ログを分析しやすくなり、先生は指導の手応えを数値でつかめるようになります。次に、オンライン教材と組み合わせることで、地域や経済状況に関係なく高品質な教材にアクセスできる環境が整います。学び直しの遅れが社会問題になっている成人にも、LCVを基準にした自律学習パッケージを提供できれば、所得や年齢に左右されないキャリア形成を後押しできるはずです。また、教材配付や成績処理を自動化すれば、先生は対話や伴走に時間を割けるようになり、非認知能力の育成も進むと考えています。
夢を現実にするため、私は具体的な行動を積み重ねています。現在は統計検定二級に挑戦すべく、分析の基礎を固めています。英検準一級の単語帳で語彙を補強し、週末には英字記事を要約して定着を図るなど、英語力の土台づくりにも取り組んでいます。クラスを二群に分け、一夜漬けと間隔反復の学習法を比較する実験も準備中で、結果をLCVで整理し、校内の探究発表会で報告する予定です。実験設計の妥当性を検証するため、数学の先生に分散分析の手ほどきを受けています。
大学進学後は、教育経済学・認知心理学・情報工学を横断して学び、学習ログ解析の研究室を早い段階で訪ね、LCVの改良を相談したいと考えています。夏休みには、教育先進国としてICT活用が進んでいるフィンランドの学校を短期訪問し、授業とテクノロジーの結びつきを自分の目で確かめる計画も立てています。三年次には大学と中学校を結ぶ共同プロジェクトを企画し、LCVを使ったフィードバックシステムを試運用し、その成果を教育系学会で発表することが目標です。
四年次には、学部での集大成としてこのフィードバックシステムの改良と実証に取り組み、卒業研究としてまとめる予定です。学校現場で収集した実データを用いて、指標の有効性や汎用性について検証を進め、次の研究段階である大学院での長期フィールド実験への橋渡しとしたいと考えています。
大学院ではヒューマン・コンピュータ・インタラクションと教育データサイエンスを組み合わせ、自治体と協働した長期フィールド実験に挑戦したいと考えています。オンライン教材を導入して学習履歴と非認知能力を追跡し、LCVと関連づけることで教育の総合的な質を測る枠組みを整え、得られた知見を先生がすぐ使えるマニュアルとして現場に還元するつもりです。その後はEdTech企業や研究機関で自律学習パッケージを開発し、オープンソース化して国際共同研究を促進します。
私は「読んだら試す、情報収集したら比べる、違いを示せたら共有する」という三拍子を学びの習慣にし、失敗も数値で検証して次の改良点として歓迎します。この姿勢こそ、夢を必ず実現するための道筋だと信じています。
そもそも私がこんなにも「学び」にこだわるのは、自分の得意なことや興味が、ほんの少しでも誰かの役に立つ瞬間がとても嬉しいからです。これまで家族や先生、友人にたくさん支えられてきたからこそ、自分もまた、誰かの背中をそっと押せるような存在でいたい。たくさんの夢がある中で、今の自分にできること、つまり「得意を活かして人や社会に貢献すること」から進んでいきたいと心から思っています。
教育は未来をデザインできる最高のツールです。私はその設計図を描くエンジニアとして、年齢や国境を越えて「もう一回!と」学びに挑む人々の笑顔が広がる世界に貢献したいと願っています。学びを支える側へと歩む私の一歩一歩が、やがて誰かの「わかった!」を生み、それが社会を少しずつ変えていく。学びを設計することは、私にとって「人の可能性を信じ続ける生き方」そのものです。失敗を検証し、希望を組み立てる――そんな姿勢を生涯手放しません。そんな未来を信じて、この道を進み続けます。