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貫井 大雅 くん 東京都 国立 筑波大学附属駒場高校(高1)
東進ハイスクール本郷三丁目校

題名:遺伝子工学を究めるということ

 僕は今、地理や言語文化といった文系分野から、生物や化学といった理系分野まで、様々な分野に興味があるが、特に生物の遺伝子工学にとても関心を持っている。遺伝子工学は遺伝子学とは少し異なり、遺伝子を人工的に操作して、それを役立てていく学問のことで、その内容は多岐に渡っている。今では、遺伝子組み換え作物などから、インスリンなどの薬学分野、また遺伝子治療といった医学分野にまで応用されている。

 初めて僕が遺伝子という存在、さらには遺伝子工学という学問を知ったのは、四歳の時、山中伸弥先生がノーベル賞を授賞された時である。その時は頑張ってニュースを聞いて、「iPS細胞という凄いモノが体をリセットしてくれるんだ!」と幼いながらも理解したことは今でも覚えている。そして去年、中学三年の学校の生物の授業で本格的に遺伝子を学ぶ機会があった。そこで、ハエを使った実験や講義を通して、メンデルの法則や伴性遺伝などを学ぶことができた。それまで僕は生物の授業があまり好きではなかったが、この遺伝子に関する授業の間は、生物が待ち遠しく感じられる程、この学問の面白さにハマっていた。その中でも僕は特に、X・Y染色体の話がとても好きだった。目に見えない、それらがもつ情報や組み合わせによって、我々の体の構造ができあがっているという事実はとても衝撃的だった。

 また、僕は大学に入ってからも遺伝子工学について学びたいと思っており、最近では日本の有名大学の研究所のホームページを見て、自分がやってみたい研究と近いような研究所を探している。その中で、東京大学の新領域創成科学研究所は、それぞれの分野が最先端の研究を行える場所であり、魅力的に感じた。さらに、ここには様々な分野が集結していることで、各分野が「学融合」の教育の理念のもとで、協力し合うことができ、より詳しく人類の発展に役に立てる研究ができる所も良い点だと思った。ここまでは日本の大学について書いてきたが、僕は外国の大学も視野に入れている。僕これまで二度、短期留学という形で、イギリスとオーストラリアに行った。そこで、様々な国の人と話したり、行動を共にしたりすることで、海外の文化など沢山の新しい学びを得られた。そして、イギリスではオックスフォード大学に訪問させて頂く機会があったのだが、その規模の大きさにとても驚かされた。言うならば、日本の大学が何個かまとまった感じだった。さらに海外の大学は、国籍が豊かで、様々な意見を持つ学生が集まっているので、深い学びにとても適していると思う。また遺伝子工学に目を向けると、アメリカにあるローレンスバークレー研究所は、この分野にとても強く、世界から沢山の情報が入ってくる所であり、こういった場所で研究できたら自分を高められるのではないかと思う。これからも、日本内外問わず、研究所は調べ続け、自分が本当に行きたいと思える所を探すつもりだ。

 これまで挙げた研究所、また自分の行きたい研究所で研究するためには、そこに入れる資格を得なければならない。そこで大事になるのは、やはり勉強であると思う。僕はまだ高一で、時間に余裕があるのではないかと思っていたが、この作文を考える段階で、将来設計を改めて立ててみると、思っているよりも遥かに時間は限られていた。そして、その時間は決して無駄にせず、自分の知見を深めるために使わなくてはならない。特に、僕の学校では高三は文化祭準備に相当の時間と労力を使うことで有名で、僕もステージ班で働いて、良いステージを作りたいという思いがあるため、他の人より圧倒的に時間がない。だからこそ、この高一の間に誰よりも頑張るつもりで勉強しようと思う。また、受験勉強だけではなく、遺伝子工学を追求するための活動も必要だと考える。僕には今年、主に三つの目標がある。一つ目は生物学オリンピックだ。去年は遺伝子系以外の問題がボロボロで、予選で落ちてしまったので、今年は他の分野も底上げして、本選、さらには世界大会の代表を目指したい。こういった大会に出ることは、点数などの他に、自分の意識の向上につながると思うので、積極的に出場していく。二つ目は、科学の甲子園である。ちょうど今、友達とチームを組んで勉強している最中であり、この大会では、数学から理科全般さらに情報までの多様な能力が試される。僕は主に生物を担当する予定だが、化学や物理などもこの大会を通じて知見を深めたいと思っている。主とする分野以外のことも学ぶことで、いつかその知識たちが合わさり、新たな気づきとなると思っているので、この大会が、自分にとって有意義なモノになると確信している。そして三つ目が、研究所訪問である。僕は去年、学校の系列である筑波大学に行く機会があり、そこで生存ダイナミクス研究センターの丹羽先生の研究所に訪問させて頂いた。そこで僕は、ショウジョウバエを用いた実験から、ヒトのがんについて教えてもらった。研究所という所に入ったことがなかった僕には、全てが新鮮で少し感動した。また、実際に麻酔やメスを用いた実験は難しくも、楽しかった。残念ながら実験には失敗してしまい、望み通りの組織の観察はできなかったが、先生自らが当時ちょうど行っていた研究を教えてくれたり、最先端の電子顕微鏡技術を使ったりすることができ、大変大きな収穫になった。また、それ以上に、実際に研究所を経験できたことで、「自分も将来こういった所で研究するんだ」と将来像がグッと鮮明になり、モチベーションを上げることができた。こういった経験から、今年はもっと大学や研究所を肌身で感じようと思う。具体的には、積極的にオープンキャンパスや学祭に行ったり、研究室が開催しているイベントに参加したりするつもりだ。これらの三つの目標をやりきることで、未だにぼんやりとしている夢を、はっきりとさせて、これから自分が何をするべきなのかを知ることができるだろう。

 最後に、僕の将来について書こうと思う。遺伝子工学を究めることは前提として、それをどういった形で活用していくかが重要だと思う。僕は去年、宮下洋一さんの「安楽死を遂げた日本人」という本を読み、初めて安楽死というモノを具体的に知った。その後、安楽死の現場を撮ったドキュメンタリーを見て、とても心が痛んだ。それだけでなく、この世界には未だに治らない病気がいくつもあること、そして若くして望んでいない死を選択せざるを得ない人がいることを知った。安楽死を望む人は、死を選択する時に必ずと言っていい程「これ以上迷惑はかけられない」や「これ以上痛みを感じなくて済むなら」と言うのだ。また実際に、安楽死は問題となっており、自殺ほう助が拡大したことで、急激に件数を増やしているのである。これらのことから、僕は、病気による安楽死を少しでも減らしたいと思うようになった。そのためには治療不可能な病気を可能にすることが求められる。現在、様々な難病に遺伝子的治療が使われている。僕は遺伝子工学を通じ、遺伝子治療を用いることで、一つでも多くの治療不可能な病気をなくしていきたい。しかし、これはそんなに簡単な話ではない。物事には表と裏があるように、遺伝子工学の研究には暗い面もある。それは、実験において、遺伝子投与を行うため、どうしても実験対象のネズミなどの命を軽んじているように思われるということで、しばしば非難の目にさらされる。しかしそれらは我々の発展や、救える命を増やすためには必要な犠牲なのだと僕は思う。だからこそ、地球上の全員にそう思ってもらえるとは思わないが、「命を決して軽んじてはいないんだ」というメッセージを発信していくことも必要になってくるのではないかと思う。

 最後になるが、よく人々は「100%などない」と言う。僕もそう思うし、そこにどんなに小さくても可能性がある限り、研究を続けようと思う。それがいつか成功につながると信じている。また、どんな研究をするにしても、自分の強みを粘り強く活かして、必ず人の役に立てるように努力していく。