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東出 尚己くん 
石川県 国立 金沢大学人間社会学域学校教育学類附属高校 (高2)
東進衛星予備校 金沢有松校

題名:「構造理解型AIでつくる未来」

 7歳の夏、私は打ち上げ貝で有名な能登の増穂浦で貝殻を拾っていた。自然がつくり出す造形と模様の不思議さに惹かれ、その日から私は新たな貝との出会いを求めて各地の海岸を回ることとなる。感動は次第に疑問へと変わった。「なんで人が作った訳じゃないのに、貝殻はこんなに美しいのだろう。」貝はオシャレを求めている訳ではないのに、どうして種ごとに全然違う模様が自然に生まれるのか、どうやったらこんなユニークな形になるのか。貝の模様は威嚇や求愛などの明確な意味をもたない。感覚的に矛盾する、貝殻の機能性と模様に謎を感じ惹かれた。小学生時代の休日は暇さえあれば、集めてきて種類ごとに分類した貝殻を一つ一つ手に取って何時間も観察していた。当時私のコレクションは200種類あるかどうかだったが、私を「美しさ」の裏にあるものに気づかせるには十分だった。「フラクタル性」――当時はそんな名前は知らず、ただ「広がる模様」「ルール」などと呼んでいたが――自己相似性とも呼ばれる、図形を全体から拡大していくとその一部分が全体と同じ形をもっている構造で、特に私が気に入っていた貝殻では顕著にみられた。これは実は、貝殻の形状にとどまらず、雲の形や地形など、自然界全体を支配するといわれる偉大な法則である。単純なルールをくり返すだけなので「理想的な複雑さ」と呼ばれ、複雑系の数学的記述を可能にしているという。貝殻のルールが自然界全体に当てはまることに強く驚いたのを覚えている。

 そして貝殻に出会って約8年後、私は画像認識AIの開発を行うなかで、フラクタル性と再会する事になった。現在、米中の巨大企業を中心にモデルの開発競争が激化している。そこでは学習に必要な大量のデータセットや天文学的なGPUコストを投入できる者が覇権を握る、いわば「力技」の競争が主流だ。しかし、そこに一石を投じた日本の研究がある。彼らは自然界にフラクタル構造が多くみられるという事実から、実世界の画像を一切使わず、数式で生成した幾何学図形を代わりに学習させるという思い切ったアプローチをとった。驚くべきことにこの手法は、実画像での学習を超える精度を示したという。大量データに依存しない開発手法への大きな可能性を私は感じた。

 私は以前から、人間の論理的思考のステップもまた、一種のフラクタル性を示すのではないか、という仮説を持っていた。私は昔から、周りの人に勉強、特に数学や理科を教えるのが大好きだ。根本的な概念どうしのつながりの本質を自分なりに言語化し、相手が理解して喜んでくれる瞬間がたまらなく幸せだからだ。そのような経験を重ねるうちに、数学の問題を解くときの思考のプロセスなど、多くの場面で「大きな問題を小さな部分問題に分割し、その構造が再び同様に現れる」という再帰的な過程を含んでいる、という事に気づいた。人間も自然の一部であり、その脳の物理的構造がフラクタルである以上、思考のロジックそのものが自己相似性を持つのは必然ではないか。現在の深層学習が論理性や説明可能性の面で限界を迎えているのなら、この「論理の流れ」という抽象的な概念に対するフラクタル性の利用こそが、AI時代の次のブレイクスルーになり得ると確信した。

 この仮説を単なる思想で終わらせないため、私は現在、記号推論と深層学習を組み合わせた「ニューロシンボリックAI」の具体的実装に挑んでいる。数学の解法を、命題をノード、論理的な推論(定理の適用など)をエッジとして、明示して与えたエッジのルールに基づいてグラフとしてモデル化して記述するアプローチだ。これまでに、実際の高校生の記述の答案データを収集するためのSNSを制作した。現在は、この構造化のアプローチを搭載し、実験を重ねながら、答案の論理に対する透明性のある正確な評価を返すWebシステムの開発を進めている。本質的に論理的で、大量データを必要としない新しい知能の形が、私の手元で少しずつ形になり始めている。答案の画像から数式や図を読み取り、論理の流れを人間が明示して与えた数学の定義・定理などを用いて検証し、生徒の思考の軌跡に対して正確なフィードバックを返すシステムだ。現在のAI、たとえば生成AI等の主流は確率的な結果の予測であり、AIが結果に至ったプロセスは誰にも説明できないブラックボックスだ。また、教育現場を見てみると、AIを用いた個別最適化を自称するサービスは多くあるものの、その中身は大手通販サイトと同様の、問題単位での協調フィルタリングであるものが多い。一つの問題でも間違え方はほぼ無限にあり、その具体的な中身こそが生徒の成長につながるにもかかわらず、だ。答案の論理を一つ一つの変形の過程まで分解して本質的なミスを突き止めそのデータから最適化を行うレベルにはまだまだ達していない。どちらも本質的に実現できる技術がまだ世にないからこそ、私が自ら開発している。研究の本来の目的であるニューロシンボリックAIの第一歩の実現と、生徒や教員、指導者という現場の視点からの幸せを両立し、透明性・説明可能性のあるAIの開発と本質的な個別最適化をどちらも実現する。先程も述べた通り、高校数学という分野に対する私の現在の取り組みは、推論過程そのものを構造として理解し、説明し、再構築できるニューロシンボリックAIのほんの第一歩、実験段階にすぎない。その仕組みと開発手法は、論理性と説明責任が極限まで求められる医療に応用可能だ。私がよく貝殻を拾いに訪れた、半島の先端にあるような小さな町に、最先端かつ迅速な地域医療を届けられるかもしれないという思いが、さらに私をこのAIの開発へと駆り立てる。医療だけにとどまらず、法学、科学研究、さらには国家の行政判断など、応用でき支えられる意思決定は多いだろう。そしてそれは同時に、巨大なデータ量とGPUの暴力に依存しない、日本発の「構造理解型AI」という新しい土俵を世界に対して確立することを意味する。今のブラックボックス型AIでは決して担うことのできない、意思決定の過程が論理的に説明可能で、誰もが信頼して責任を持てるAI社会の基盤を創り上げる。思考を理解し、説明し、拡張できるAIは、人間の知性のあり方そのものを高めていくはずだ。私はこの分野の先頭に立ち、失敗や困難を恐れずに実験と改良を重ね、社会の意思決定の土台をより透明で公正なものへとつくり変えていくリーダーになる。