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細川 紗椰 さん  (高2)東京都 私立 雙葉高校
東進ハイスクール 荻窪校

題名:宇宙に挑む

 私の理科への興味の発端、それは私が中三の時に読んだ、ある一冊の本だった。

 『三体』(劉慈欣著、早川書店)という中国のSF小説だ。題名の「三体」とは、天体力学の“三体問題”に由来しており、三つの天体が互いに万有引力を及ぼし合いながらどのように運動するかという問題で、一般的には解けないことが証明されている。もしもそんな三つの天体を三重太陽として持つ惑星に文明が生まれたら…というのがこの話の基本設定となる。

 話を読み進めていくと、まずスケールの大きさに驚かされる。次元だって四次元どころではなく、十一次元まで展開される。こうなってくると、もう頭は追いつかない。専門性が高く、多少理解できないところがあってもどんどん読み進めた。

 話の中には天才物理学者や宇宙論研究者、天体物理学者など、たくさんの科学者たちが登場する。彼らの理論や考察、技術を目の当たりにすると、科学という世界に秘められた無限の可能性を感じ、私は「なんて理科は面白いんだ!」と一人で三体世界にのめり込んでいった。

 猛烈に科学者に憧れを抱いた私は、パソコンを開き、理科系の研究プログラムを探しまくった。そして、コロナ状況下にも関わらず、自らの足で全国各地の大学を飛び回り、大学生に混じって研究や講義に参加しまくったのである。

 北海道では人工衛星と通信するための独自のアンテナを作り、宮城では超伝導体を作成し、広島では加速器を実際に見学してきた。さらに、多摩六都科学館で開かれた、カブリ数物宇宙連携機構の研究員であるコナー・ボットレルさんの講演会へ足を運び、講演後にはコナーさんと宇宙誕生について英語でディスカッションもした。

 ある日、一つのプログラムが目に止まった。とある大学が主催の宇宙研究プログラムだった。冬休み中に、一週間合宿形式で大学に通って宇宙についての研究活動を行うというもので、全国の高校一年生・二年生を対象に募集がかかっていた。参加できるのは、応募作文による選考を通過した十二人のみで、作文のテーマは、自分の知りたい宇宙の謎について、オリジナルな解決アイデアを考えなさい、というものだった。

 私は、宇宙は一つではない、と思っている。今私たちの生きる宇宙はn代目の宇宙であり、今までもこれからも、ずっと繰り返されていくのだ。

 私は宇宙が本当に「無」の状態から始まったのかに疑問を抱いている。そこで私は、超ひも理論ならぬ「腸詰め理論」なる独自の宇宙論を提唱した。一つ前の世代の宇宙物質が互いの重力によって引きつけ合い収縮し、その結果、高温高密度の火の玉状態となりビッグバンを引き起こし宇宙膨張が始まったのではないか。そして将来、宇宙に働く重力が宇宙膨張の力に勝る時、今の宇宙は再び収縮を始める。このように宇宙が、収縮・爆発・膨張を何度も繰り返す。絵に描くと腸詰めが連なった形、これが私の考える宇宙の姿だ。これを検証するには、ビッグバンが起こる以前の宇宙を知る必要がある。ビッグバン時に発せられた波長四ギガヘルツの宇宙マイクロ波背景放射が観測されているが、違うギガヘルツや異種の波形を持つマイクロ波が観測できれば、それはビッグバンより前の、宇宙収縮時に発したエネルギーの存在を示すことになるかもしれない。そう結論づけた私は、提出期限までになんとか作文を完成させた。大学へ、恐らく史上初であろう、ビッグバン理論に対抗する独自の理論を打ち出し、自分の宇宙への熱い想いを乗せたフォームが送られた。

 二か月後、合否結果がメールで届いた。そろそろ結果が発表されるという頃、一日三回はメールを確認する毎日だった。ついに来たのだ!結果は、合格だった。私と同じく宇宙に興味を持つ仲間とともに、思う存分宇宙について深く研究できる環境に行ける!と思うと、胸の高鳴りが抑えきれなかった。

 そんなこんなで私は冬休みに一週間泊まり込みで、大学での研究活動を行った。早朝にスタッフとしての大学生が、受講生が宿泊する宿舎まで迎えに来てくださり、みんなで電車に乗って大学へ向かう。大学に着いたら、大学の一室を借りて十二人の高校生が三つの班に分かれ、それぞれの班を担当する大学生や、教授から沢山のアドバイスを頂きながら、研究を進める。三日目と四日目の夜は、天文台の望遠鏡を用いて観測を行う。研究の成果は最終日に大学で研究発表会という形で行われた。

 私たちの班は、クェーサー(成長し続ける銀河の中心にある、超巨大質量ブラックホール)という天体について研究した。クェーサーは現在、近傍の銀河で観測されておらず、遠方の銀河でのみ観測が確認されている。この事実に疑問を抱いた私たちは、なぜクェーサーが近傍銀河で見つかっていないのか、を解き明かそうと研究を進めることにした。

 初めはクェーサーが何かも全く分からなかった私だが、班の仲間たちに何度も助けられ、無事に研究発表までやりきることができた。最終日を迎えるまで、何度も他班や教授たちに研究過程を発表する会があり、沢山の鋭い質問と厳しいコメントを頂いていた。望遠鏡を使わせて頂くための審査(プロポーザル審査)も、厳粛な雰囲気の中、自分たちの研究を教授たちにプレゼンするのはすごく緊張したし、実際に望遠鏡を使っての観測は、当日の天気に大きく左右され、私たちの班は夜中の二時まで観測が続いた。その後も、最終日の研究発表に向けての準備や議論は膨らむ一方で、最終日の前夜はみんなで明け方四時頃までパソコンに向かい続けた。そして迎えた最終日。なんとか大勢の前で発表しきることができた。大成功だった。発表後、大学の教授からは、最優秀班を決める上で、私たちの班に票を入れたとのコメントまでいただけた。なんとか、なんとかやりきったのだ。途中、議論が行き詰ってしまうこともあったし、班の仲間とのコミュニケーションが上手く取れないこともあったけれど、四人で、ともに助け合い、走り抜いたのだ。発表後は信じられないくらい大きな達成感と、研究や仲間たちに会えなくなるという喪失感がごちゃ混ぜになった気分だった。

 とにかくこの一週間は、今までの人生の中で最も濃密で、最高に楽しい日々だった。言葉で言い表せない程に。帰りの新幹線で私は号泣していた。いつもそばで助けてくださった大学生の皆さんからいただいた手紙は、たった一週間での思い出とは思えないほどに温かく、深いものだった。その手紙への感動と、仲間たちとの別れへの寂しさで涙が止まらなかった。でもそれと同時に、私は、自分が本当に何をやりたいのか、一生をかけて臨みたいと思える強い夢を見つけていたのだ。自分の「本物」の興味が何なのか、それが分かった瞬間は、ずっと探し続けていた何かにやっと出会えたような、そんな感動で、胸がいっぱいだった。

 私は、宇宙に関わる仕事に就きたい。それが研究者になることなのか、宇宙開発のための会社を起業することなのか、はたまた宇宙飛行士になることなのか、具体的には自分もよくわかっていない。いずれにせよ、大学では天文学や、今一番興味のある宇宙論について学び、博士課程まで進みたい。しかも、海外の大学で。世界の様々な文化や価値観を持つ人々と、共に学び、研究し、宇宙について語り合いたい。日本では得られない視点や考え方を手に入れることができるはずだ。そしてその経験は、生涯、どこでも通用する自分の強みになるだろう。現状、日本では、多くの研究者が金銭的に困難な状況に直面している。世界を自分の目で見つめることは、自国の改善すべき点を見つめる事にも繋がるのではないか。研究者がもっと自由に研究できるようになれば、この日本はさらに進歩する。自分が生まれ育った母国をより良い国にするためにも、私は、世界に飛び込みたいのだ。

 きっと、この地球にいる人類は誰でも、一度は空を見上げたことがあるだろう。その空の先には何が広がっているのか。この宇宙はどうやって始まったのか。ビッグバンの元となったものは何なのか。そして、この宇宙はどこへ向かっているのか、加速膨張?それとも収縮?こんな話を世界中の人々とやりとりできたら、どんなに楽しいことだろう。宇宙の全物質のうち、九十五パーセントが謎の物質(暗黒物質)で包まれている広大な宇宙に、世界中の科学者・研究者・技術者が一つのチームとして一丸となって挑む。そんな世界に、私も一人のメンバーとして加わりたいと強く思う。そしてこれが、私の夢でもある。

 もちろん、自分の興味の矛先がこれからの人生において変化することが無いとは言い切れないのは事実だ。でも私はどんなときも、宇宙のことを考えている時が人生最高の瞬間なのだ。このどうしようもない宇宙への胸の高鳴りを、私は「本物」だと信じている。今は自分が進みたいと思う道を全力で目指したい。

 自分の夢を掴むには険しい道が待っているということは重々承知だし、第一に、今の自分の英語力で世界を目指すなんて、と周囲から思われるのも分かっている。それでも私は最後まで目指し続けようと思う。私には、一生をかけて臨みたい、大きくて強い夢があるのだから。

 宇宙、今はどんなに手を伸ばしても届かない場所かもしれない。これからの人生、届かそうと伸ばした手が思いもよらない形で切られてしまうこともあるかもしれない。でもいつか必ず、自分の力で辿りつけると私は信じている。