砂川 桜子 さん 東京都 私立 中村高校(高2)
東進ハイスクール人形町校
題名:「人」という資源
私の夢は、人と関わる仕事に就くことだ。
人と関わる仕事は教えきれないほどにある。中学生の頃、私はその中でも“経営”に関わる仕事に就きたいと考えた。今考えてみると、経営者である父の影響を知らず知らずのうちに受けていたのだと思う。そして“経営”に関わる仕事に就くことができれば、様々な人と繋がる・関わることができ、ひいては社会に貢献することができるのではないかと考えた。
高校一年生の春、学校で興味のある学問についての調べ学習、いわゆる学問探求の課題があった。経営に関わる仕事に就くためのスタンダードな学問は経営学だろう。が、調べている中で「経営工学」という言葉が目に入った。経営工学と聞いて、人がいてこその経営という仕組みに工学・数学がどのようにアプローチするのかとても気になった。
少し話は逸れるが経営資源という概念について触れさせてほしい。経営資源とは企業が事業を行う上で役立つ要素や能力のことを意味している。その中で特に重要視されるのが「ヒト」だ。経営資源には「ヒト」の他にも「モノ」、「カネ」、「情報」などさまざまな資源がある。しかし、それらは「ヒト」が活用して初めて経営資源になる。
私は経営資源という概念を知って人を資源として扱うという発想に衝撃を受けた。人の行動を数値化してそれぞれの事象に応用させるのか、けれど数値で表せないこともあるだろうから限界はないのだろうか、などと固い頭で考えていた私にはものすごい衝撃だった。人がいてこその経営という仕組みも、複雑なものとされる人を資源として扱い、ひとつひとつの事象や要素を細かく捉えていくことで科学的アプローチを可能にする。そして、効率的で合理的な経営システムを作り出すことを目指す、経営工学という学問がものすごく魅力的に映った。
高校一年生の夏休み、友人に誘われてカンボジアSDGs研修に参加した。縁もゆかりもないカンボジアに足を踏み入れるのは正直不安でいっぱいだったけれど、なんだか特別な出会いがありそうだという予感がして思い切って足を踏み入れてみた。
研修ではカンボジアの小学校で日本語の授業を行うというプログラムがあった。私が担当した小学六年生は簡単な日常会話ができるほど日本語を上手に話した。母国語以外の言語の習得は相当努力しないとできないだろう。英語学習、英語習得の壁にぶつかり続けている私は彼らの学習に対する意欲とその実力に感動した。
その一方、カンボジアでは学校に通えていない子供も多くいるのが現状だった。生活のため出稼ぎに出ていて学校に通えていないのだという。私が訪れた小学校はその現状を変えるために子どもたちに教育の機会を与え、将来の夢・職業の選択肢を広げることを目的に設立されたのだ。
この小学校が特に力を入れていたのは外国語の学習だ。観光産業で栄えるシェムリアップという地域の近くに位置することから、ガイドやホテルの従業員などとして働く機会に恵まれていることに目をつけたという。ガイドなどの仕事は安定した生活が送れる。その職に就くために知識を必要とするのだ。安定した生活を送れるようになれば、出稼ぎに行く子どもはいなくなるだろう。
出稼ぎの仕事内容は大方農作業だという。子どもたちに任される農作業は単純な力仕事であるため、体力さえあれば知識は必要ない。しかしそれでは地域の、社会の、国の経済成長は見込めないだろう。私は知識を必要とする職があってこそ人々の生活が発展してきたのだと思う。人々の生活が発展していけば、子どもを出稼ぎに行かせていた大人も知識を必要とする職の社会への貢献度、すなわち知識の重要性、教育の重要性に気づき、学校に通う子どもが増えると推測する。
しかし、それはそんなにも机上の空論で解決できるほど簡単なことなのだろうか。否、簡単なことではないから今こうして課題になっているのだ。
カンボジアの子どもたちは学ぶことに一生懸命だった。つたない私の日本語の授業でも、積極的に手を挙げて参加してくれた。彼らの目はきらきらと輝いていた。その学びに対する姿勢は、そもそも学校に行くことを当然のこととして捉えていた私に衝撃を与えた。そして私を当事者として「世界規模の課題解決に取り組む」という意識を後押ししてくれた。その意欲に火をつけてくれた。素敵な出会いをありがとう。
帰国後、『教育の重要性を伝えるには』というテーマで、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」・目標8「働きがいも経済成長も」についての小論文を書いた。私はこの小論文で教育の重要性を伝えるには、知識を必要とする職を増やしていくことが必要だと結論づけた。
知識を必要とする職を増やしていくこと。それはどういうことか。私は職を増やすには、需要を見つける・生み出すことが必要になってくると考えた。そして需要を見つける・生み出すとは、前述した「ガイドやホテルの従業員」などのようにそれぞれの地域や社会のニーズに沿った仕事を見つける、あるいはつくる・組み合わせるということだと考えた。
地域にあった仕事を見つける・つくる・組み合わせる。そのために需要を見つける・生み出す。私はこの複雑な工程を進めるにあたり、科学的アプローチから合理的で効率的なシステムを作り出し、答えを出す経営工学が役立つのではないかと考えた。
一例を挙げる。視点を変えればSDGs目標4「質の高い教育をみんなに」の課題の一つである出稼ぎからも、知識が必要となる職をつくるヒントが得られる。出稼ぎの主な仕事内容は農作業だ。しかし、カンボジアでは生産した農作物を販売するマーケットが未発達であるという。マーケットの問題点や課題解決のために必要になる新たな職業は必ず出てくるだろう。その新たな職業の役割や、それがどのようにアプローチすれば社会により良い影響を与えられるのか。社会により良い影響を与えるには、人を資源としてどのように活用していくべきか。そんなことを私は経営工学を通じて突き詰めていきたい。
日々、生活する中で何かを不便に感じることは多くない恵まれた環境にいる。私はどこかで今の社会はこれ以上発展させるまでもないと思っていた。けれど経営工学という学問を知った今、私もさらにより良い社会を構築する一員になれるのではないか、いや、なりたいという思いが強くなった。が、経営工学を知ろうと学校の先生や所属校舎の担任助手などさまざまな人に話を聞いて回ったが、私の知りたいほどの情報は得られなかった。そんな学問にこそ、私は飛び込みたい。
現在のカンボジアのマーケットの現状を経営工学の視点から課題解決にもっていくのは一例に過ぎない。この志作文では需要を生み出す・見つけることに「出稼ぎ」から着想を得た。きっと経営工学はこの一例に限らず、より多くの課題解決の鍵になる。私はそう確信している。しかし、文理問わずさまざまな知識を持っていなければ経営工学という学問は深めることができない。私自身が色々な方向にアンテナを張り巡らせることはもちろん、様々な分野に精通する友人と出会い、互いに切磋琢磨していきたい。
カンボジア現地に赴く経験をしなければ、私はただ単に興味のあった「経営工学」という学問を現在課題になっている事象と結びつけることはできなかったし、その面白さを知ることはなかった。そして今年の夏、もう一度、人生二回目のカンボジアへ行く。今年はやはりカンボジアのマーケットに焦点を当てたい。研修の中で、オールドマーケットという市場に行く。そこで並んでいる商品やそれを買う人に着眼し、今できる最大の現地調査をすることを目論んでいる。研修後も調査内容をさらに深掘りし、新たな考えにつなげたい。今から現地を訪れる日が待ち遠しくて仕方がない!
私はもっともっと年齢や思想など、自分と異なる人と関わりを持ち、互いに意見を交わし、見識を広げていきたい。国内にとどまらず多くの視点や考え、文化を直に触れたい。国境を超えて、みんなが人間らしく働きがいのある仕事をできるようにするための仕事づくりをしたい。これが今の私の夢であり、志だ。この夢・志を叶えるために、ひとつひとつの出会いときっかけ、与えられたチャンスに感謝しながら、日々自分の最善を尽くしていく。