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宇都宮 成騎くん 
東京都立 武蔵高校 (高2)
東進ハイスクール 武蔵境校

題名:「明日を信じるための希望」

 私の妹は、2週間に一度の頻度で、39度近い高熱に襲われ、それが3日間にわたって続くという症状を繰り返していた。私たちは数多くの、大学病院や専門機関をめぐり、ありとあらゆる検査を尽くした。しかし、その努力も虚しく、現代医学をもってしても診断名はつかず、有効な治療法が見つかることもなかった。熱に浮かされて苦しそうな呼吸を繰り返す妹の傍らで、私は何もできなかった。楽しみにしていた学校行事が、友人との遊ぶ約束が、得体の知れない病によって奪われていく。その姿をただ見守ることしかできなかった。その時の無力感を、今でもはっきりと覚えている。担当医の言葉を祈るように待つだけの日々の中で、私たち家族はいつも不安に囲まれていた。「この苦しみは、一体いつまで続くのだろうか。もしかしたら、妹はこの先も一生、この正体不明の病におびえながら過ごさなければならないのではないか」……そんな、ある種の絶望に心が折れそうになることが幾度もあった。

 その中で、私たちの心を辛うじて繋ぎ止めてくれたのは、対症療法として処方された数錠の薬だった。それは病の根源を断つものではなく、あくまで一時的に発熱を抑えるだけの錠剤だった。しかし、薬が妹の熱を下げ、つかの間の安らぎと笑顔を取り戻してくれたその瞬間、張り詰めていた家族の心に、一筋のほんの僅かな希望が差し込んだように思えた。もちろん、一時的な緩和にすぎないその薬が、私たちが抱えるすべての不安や絶望から瞬時に救ってくれたわけではない。それでも、その薬が私たちの日々を、心を支える救いとなったことは紛れもない事実だった。

 妹は、その薬を支えに学校生活を送り、病と対峙し続ける中で、少しずつその症状を克服していった。現在は、発熱の頻度も2カ月に一度へと落ち着き、私たちはようやく「年月が経てば、いつか完全な克服に至るかもしれない」という、その場しのぎではない、未来への希望を抱けるようになった。

 この経験を通じて、私は「創薬研究者」を目指すことを決意した。

 現在の創薬業界は、「創薬ターゲットの枯渇」と「研究開発費の高騰」という二重苦に直面している。新薬が誕生する確率は約1/30000。開発には、10年以上の歳月と、数百億から数千億円の巨額投資が必要とされる。このハイリスクな構造により、市場性が低いとされる希少疾患や原因不明の疾患の研究は後回しにされ、臨床試験に至る手前で開発が断絶する「死の谷」が大きな壁となって立ちはだかっている。

 私の志は、この困難な状況に対して、創薬のパラダイムシフトを起こし、これまで見過ごされてきた患者を救える社会を実現することだ。第一に、デジタル技術との融合による「死の谷」の克服である。AIを駆使し、膨大な化学物質の組み合わせから、病気の原因に適合する分子をコンピューター上のシミュレーションで正確に見つけ出すシステムを構築することで、開発のスピードを劇的に向上させ、コストを抑えることで、これまで見捨てられがちだった希少疾患への創薬を現実のものにできると考えている。

 第二に、「これまでの薬の概念を覆す分子の設計」である。体の異常サインを感知し、必要な場所と時間でのみ効果を発揮する、センサー付きの分子を人工的に組み立てる。これにより、従来のアプローチでは捉えきれなかった、複雑な病に対する「治らない」という諦めを、希望へと変えることを可能にしたい。

 この志の実現に向けて、私は現在、AIによるシミュレーションの得意・苦手分野や、化学物質が持つ固有の特徴について、自主的に文献やデータを調べ、知識の土台づくりに努めている。AIは膨大なデータからのパターン認識が高速な候補の絞り込みを得意とする反面、データのない全く新しい事象の予測や、生命体内での複雑な化学反応の再現には限界があり、多くの専門知識を要する。様々な文献を調べていくうちに、デジタル技術を正しく扱うには、基盤となる高度な化学の知識が不可欠であると痛感させられた。

 しかし、個人で学びきれる専門知識は限られている。そこで、私は、東京科学大学の応用化学科へ進学し、最先端の環境で学びを深めたいと思うようになった。同科は、物質の本質を分子・原子レベルから緻密に解き明かし、これまでにない機能性物質を自らの手で創り出す「合成化学」の専門的な知見を得ることができる。さらに学問の枠を超えて「医歯学」と「理工学」の知識が融合する独自の環境は、私が理想とする「生命内の異常なサインを感知して働くセンサー付きの分子」の設計において、化学的な合成アプローチだけでなく、実際の医療現場や生体シミュレーションを見据えた、実践的な研究を可能にしている。この医工連携の最前線である東京科学大学は、私の目指す次世代の創薬研究を成し遂げるための、唯一無二の大学である。

 大学で最先端の学問と技術を吸収した後は、実験室に閉じこもる研究者ではなく、視野を広く持ち、AIと化学、そして医療現場を繋ぐ先導者として行動していきたい。創薬における「死の谷」を乗り越えるためには、研究の高度化だけでなく、技術をいかに早く社会に実装するかという、仕組みそのものを動かす意思が必要だ。科学の最前線に立ちながらも、常に患者の視点を忘れずに業界のパラダイムシフトを牽引していくこと。そして、それによって、これまで「治らない」と諦められてきた病気に、もう一度光を当てること。それこそが、私が現在の創薬業界で実現したいことである。

 創薬業界を取り巻く環境は、決して楽観視できるものではない。しかし、私は効率や利益が優先されるこの世界の中にこそ、「誰かに希望を届ける」という考えを持ち込みたいと思う。どれだけ研究が高度化し、AIが進化しようと、未知の領域へ踏み出すのは人間の意志である。私は、妹の傍らで感じたあの無力感を、分子を緻密に設計する集中力へと転換し、世界中の不治の病に悩む人の元へ、一日でも早く、一錠でも多くの薬を届けたい。

 薬とは、「明日を信じるための希望」であると私は思う。科学の発展を、一部の人の利益ではなく、すべての人にとっての希望へと変えていくこと。それが、創薬研究者を目指す私の夢であり、志である。