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下園 美空 さん  (高2) 私立 N高校
東進衛星予備校 淡路洲本栄町校

題名:すべての子どもに平等な教育機会を提供するために

 日本国憲法第二十六条第一項に、こんな文がある。

 「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」

 また、教育基本法第四条に、こんな文がある。

 「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。」

 このように、日本国憲法や教育基本法においては、教育を受ける権利が平等であることが規定されている。

 ところが、現在の日本では、経済的な理由や家庭環境、住んでいる地域の違いによって、「教育格差」が顕著になってきている。つまり、満足に教育を受けられない子どもたちが少なからず存在するということだ。この格差問題を問題のまま放置したくない。そんな想いから、私は「教育格差のない未来」を実現することを夢に掲げている。

 私自身が、先に述べた格差問題を改善したいと思ったのは中学三年生の時、親戚と話しをしたのがきっかけだ。私の親戚は、全国的にもトップクラスと言われている中高一貫校へ通っていたため、興味本位で、学校でどんなことをしているのか聞いてみた。すると、「先取り学習は当たり前、学習塾や予備校にお金をかけるのも当たり前、トップクラスの大学に通う卒業生から受験の情報を聞くことも当たり前で、そうしないと有名大学に合格するのは厳しい」と話してくれた。それを聞いた瞬間、私は驚きを通り越して絶望した。なぜなら、当時の私は塾にも通っていなかったし、大学生と話す機会もなく、自分以外の学生もそれが当たり前だと思っていたからだ。

 加えて、「教育」を受験戦争で競争のアイテムとして使用していることに気づき、そのことにも絶望した。本来、「教育」というものは、世の中を豊かにするための「手段」であるはずなのに、別のものとして使われ始めている。それにより、子供たちを苦しめている。

 今の日本の教育は、教育の本質を見失っているのではないか。

 そんな疑問を感じ、この問題を深く調べるために多くの書籍や論文を読み漁り、社会的、経済的要因、家庭環境の事情などにより進学を諦めている人が多くいるという現実を知った。

 こういった格差問題を深く掘り下げるほど、日に日に絶望感が増していくばかりだった。

 しかし、その気持ちは次第に、次世代の子供たちに私と同じ絶望を味わってほしくないという気持ちへと変化していった。そしていつしか、自分がアクションを起こして教育をより良いものに刷新したいと考えるようになった。

 けれども、その当時の私は十五歳の少女。社会のことなんて微塵もわからない。井の中の蛙のようなものだ。そんな当時の私は、教育に関係する機関といえば文部科学省(以下「文科省」と称す)しか知らなかったため、とりあえず、「文科省に入って日本の教育格差をなくす」という目標を立てた。

 そして私は、N高等学校(以下N高と称す)へ入学した。入学理由としては、最先端の学校に在籍する生徒がどんな教育を受けているのかを知りたかったからだ。

 N高には、多くの課外活動プログラムがあり、私は同好会の運営委員や文化祭の実行委員活動などに積極的に参加した。その経験の中で、私はあることに気が付いた。それは、組織の中で働けば、自分のやりたいことを諦めざるを得ない場面があるという事だ。

 その後、私は文科省に入っても、自分が実現したい未来を実現できないのではないか、本当にやりたいことをやれる可能性は低いのではないかと思い、夢を諦めかけてしまっていた。

 そんな時に出会ったのが、N高の課外活動であるアントレプレナーシップを学ぶプログラムだ。このプログラムはビジネスや起業について基礎から学べるもので、講義でのインプットやディスカッション、自分自身でのリサーチなどを経て、最終的に自分が考えたビジネスプランの発表会へと臨んだ。このプログラムを終えた頃、私は教育格差問題を、起業を通して解決したいと強く思うようになっていた。

 けれど、私はただの高校生。突出した才能なんて持ち合わせていない。味方や仲間がたくさんいるわけでもない。起業資金もない。経営の専門知識もわからない。持っているのはたった一つ、絶対に成し遂げたい目標だけ。当時の私は誰に目標を話せばいいか分からず、時間だけが過ぎていった。

 そんな私に転機が訪れる。二年生になったタイミングで、N高起業部の部員募集のメールが届いた。N高起業部とは、入部を希望する生徒のうち、書類・面接審査などを通過した生徒たちが起業を目指す部活だ。また、ビジネスモデル構築や事業計画書の作成など、起業に向けた実践的なプログラムや特別顧問による指導に加え、部活動費用として年間最大一千万円の起業支援金で生徒をサポートする体制が整えられている。

 メール案内後、私はすぐにエントリーを決意した。起業部に入部すれば、同じ志を持った仲間を見つけられるかもしれない。味方が増えるかもしれない。支援金を頂ける可能性もある。学習コンテンツが豊富に揃っていて専門知識も学ぶことができる。そんな期待に胸を膨らませ、エントリーした。起業部は二次選考まである。一次選考では、自身が考えた事業計画を提出し、二次選考ではビジネスプレゼンと面接を行った。結果は、合格。審査員の方に私の想いが伝わったのだと安心し、とても嬉しく思った。これからも、この情熱を絶やさずに活動していきたい。

 ちなみに、私が考えている事業は「教育関連の情報を提供するプラットフォーム」である。受験は情報戦だと言われる今、学生が情報を調べることに時間を費やして学習の本質を見失わないよう手助けしたい。そのために、できる限り情報が見つけやすく、手軽に使えるプラットフォームにしたいと思っている。また、情報過多の現代においては、有益な情報を取捨選択して提供してくれるサービスの需要が高まると考えている。だから、このプラットフォームは多くの人に価値提供ができると信じている。

 私が、このサービスを世に送り出すことで社会に与えられる良い影響(価値提供できること)は二点ある。一点目は、個人の可能性の拡大。親や教師など、子どもの周囲にいる大人は、自分が知っている情報しか子どもに与えられない。しかし、インターネットを介したプラットフォームサービスであれば、誰でも手軽に情報が得られ、個人の能力や興味に応じて多様な進路・キャリア選択をできるようになる。二点目は、社会的損失の回避。教育格差は個人だけでなく、社会全体にも損失をもたらす。社会人になってからは、「そんな情報は知らなかった」では済まされない。だから、受験においてだけでなく、社会人になっても有益な情報を選り抜いて提供したい。例えば、「何のために教育を受けているのか」という問いは、教科書に記載されておらず、学校でも教えてくれない。けれど、それを知っている人とそうでない人とでは、生き方が百八十度違うはずである。

 このように、まずは情報面からアプローチしていく予定だが、将来的には、情報以外のコンテンツやサービスも提供できるプラットフォームに成長させていきたいと考えている。そういった新規ビジネスプランの構築に関しては、起業部のスタッフや仲間にアドバイスを頂いたり、顧客へのヒアリングをしたり、関連企業とミーティングをしたりして練り上げていきたい。

 最後になるが、私は未来を担う子どもたちに「何をどう教えるか」で、その子どもたちの人生、もっと言えば、国の将来や地球の未来が決まると思っている。だから、教育格差を無くし、そういった子どもたちが「教育を受けてよかった」と心の底から思えるような社会をつくるための手助けとして、私が考案したプラットフォームサービスが役に立つと幸いである。そして、私がこの世からいなくなったとしても、先述したサービスが教育格差是正に貢献できるものであれば、なお嬉しく思う。近い将来、楽しく教育を受けている子どもたちの姿が見られることを心待ちにしておいて欲しい。