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柿島 こころさん 
東京都立 南多摩中等教育学校 (高2)
東進ハイスクール 吉祥寺南口校

題名:「一人ひとりの「独自の思考」を育む教育システムを設計したい」

 「自分がここにいる意味、あるのかな?」社会課題を解決する課外活動に参加していた私は、壁にぶつかっていた。課題解決の方法論として学んだデザイン思考でロジックを追求すればするほど、自分の企画が他の人の案と似通っていく。どうせ他の人がやっても同じことだという虚しさが、じわじわと積み重なっていった。

 転機は父との会話で訪れた。課外活動での悩みを打ち明けると、父は「アート思考」を教えてくれた。自身の違和感や興味を起点に問いを立て、その問いを深掘りしてゼロから作品を生み出すアーティストの思考法だ。それを知った時「あれ、それでいいの?というか、それがいいの?思いっきり自分の考えでいいんだ!」と、気持ちが軽くなった。

 アート思考の話を聞いて、母が私に、頻繁に「なぜ?」と問い返すことを思い出した。なぜ、の答えに対して、また、なぜ、を重ねる。幼い頃は面倒だと思っていたが、私には物事を根っこまで掘り下げる癖がついてきている。私は日常で、ある意味、アート思考の訓練をしていたんだと思った。

 それからは企画する時に、自分が感じる違和感や興味を起点に問いを立てて深堀りするようにした。中3の夏休みに「だれかのワクワクを作ろう」というテーマのハッカソンに参加した。AIを使って課題を解決するコンテストだ。チームは最初、ゲームアプリを考えていた。しかし私は立ち止まった。そもそも自己肯定感が低い状況では、何かにワクワクすることは難しいのではないか。ワクワクを生むには、まずは本人の心の状態を整える必要があるはずだ。その気付きから「自己肯定感を高めるトレーニングアプリ」を企画し、受賞した。「根本的なところまでよく考えられている」と審査員に評価されたとき、初めて、自分の考えが社会と接続したと感じた。自分がここにいる意味を、確かに感じた瞬間だった。

 その後、学校で、成績優秀な友人が探究活動のテーマを決められずに困っていた。その友人の普段の違和感や興味を一緒に掘り起こしながら、テーマを考える手伝いをした。周囲を見渡すと、似たような状態の人が何人もいた。学業の成績と自分の視点で考える力は別のものだと実感した。

 なぜ日本の学校では、こうした思考を育む機会がないのだろう。日本の教育は正解を出す力を重視する。しかしAIが多くの正解を瞬時に示せるこれからの時代には「自分は何を問い、何を大切にして選択していくのか」を考える力が、より重要になる。確かに最近は探究活動がさかんに行われてはいるが、探究の入口となる、問いの立て方についての指導は手薄だ。このままでは問いを立てる力はつかない。私が以前感じた「他の人と同じという虚しさ」を感じる人が増えるだろう。自分を代替可能と感じる人を増やしたくない。

 そこで、私は、母が私にしてくれた、一人ひとりが自ら問いを立て、思考を深められる教育システムを作りたいと思った。そして、そのシステムが行き渡った先の未来は、一人ひとりが自分がここにいる意味を感じるだけにはとどまらないとも考えている。

 さらにAIが進化していくと、人間の価値は「何を問うか」「何を大切にして選択するのか」というような独創的な思考に、ますます移行していく。自ら問いを持ち、それを深める力を持つ人が社会に増えると、世界はどう変わるだろうか。

 まずは、「自分がここにいる意味」を感じられる人が増える。

 そして、今まで誰も思い描かなかったアイデアが社会にあふれるようになる。多様な独創的な思考が生まれれば生まれるほど、人は自分にはない視点や発想に触れる機会が増える。それは社会の生産性を高めるだけではなく、他者の独創性が自分の世界を広げるというワクワクする体験を、多くの人にもたらすはずだ。一人ひとりが自分の存在意義を感じ、他者の存在もまた輝いて見える社会になるだろう。それが私の目指す教育の先にある未来だ。

 私は現在「自ら問いを立て、思考を深める力を日本の学生にどう育むか」をテーマに探究を進めている。その一環として、アート思考で独自の視点から思考を深めるトレーニングアプリ「Art Think」を企画した。ニューヨーク近代美術館で開発された対話型鑑賞法VTSを参考に、アート作品を通じて、AIメンターがユーザーの思考を引き出し、深堀りしていく仕組みだ。しかし、探究テーマを決められずにいた学生の多くは、アプリにあまり関心を示さなかった。そこで私は、アプリを学校教育と連携させるアプローチにした。まず、学校教育の中で教員が学生の考えを引き出す声掛けを行い、評価に思考プロセスを問う論述式を部分的に加える。Art Thinkは思考深化を支えるサブツールとして組み込む。こうした仕組みによって、多くの学生が思考を深める習慣を身につけやすくなると考えている。

 この仕組みの設計のために、現在はスタンフォード大学のオンラインプログラムに参加し、教員の声がけや評価の仕組みを観察している。

 大学では、認知科学・教育工学・教育哲学・教育社会学などを横断して学び、「思考を深める」とはどういうことかを解明しながら、特に、教員の声がけが学生の思考にどう作用するかを研究し、教育現場でArt Thinkの実証実験も行いたい。

 「思いっきり、自分の考えでいいんだ」あの時感じた解放感の根っこには、幼い私に「なぜ」を問い続けた母がいた。その問いを、すべての学生が学校で経験できる社会を実現したい。それが私の志だ。