西村 源斗 くん 兵庫県立 豊岡高校(高1)
東進衛星予備校JR豊岡駅前校
題名:『人』として選ばれるための使命
将来の夢―自分の夢について考えるとき、いつも必ず想起される言葉がある。
“自利利他” “経済”
ここ兵庫県の最北端、人口八万人に満たない“豊岡”という小さな町で、僕は税理士の父に育てられた。小さな頃から一緒に生活してきた祖父も税理士で、祖父の書斎でよく遊んでいた僕だったが、その部屋は分厚い本で溢れていた。経営、経済、税理士、幼い僕にとっては難しい言葉の並ぶ書斎に僕は興味を持つようになっていた。いつしか僕は“税理士”になりたいと思い始め、詳しいことはわからなかったが税理士の仕事に憧れを抱いていた。そして、「将来の夢は?」と問われたとき、自信をもって「税理士になること!」と答えられる喜びと共に僕の熱気は高まっていった。
そんな中、僕は衝撃を受けることになる。『THE FUTURE OF EMPLOYMENT』[雇用の未来](Carl Benedikt Frey and Micheal A. Osborne/2013)という論文がオックスフォード大学の二人の教授によって発表された。この論文ではAIの発達によって将来無くなる可能性が高い職業が挙げられていた。その中で上位にランクインしたのが“税務申告代行者”であり、これはまさしく税理士のことを表している。ここでは税理士のいない国“エストニア”のことも注目され、税理士の将来は暗いように思えた。
それから僕は税理士のあるべき姿について深く考えるようになった。AIに仕事が取って代わられるかもしれない中で、どうすれば「人」として選ばれる税理士になれるのか―。
『企業を守ること』僕はこれこそがこれからの税理士の使命だと考える。税理士の仕事先の多くは中小企業だ。そして今、日本中の中小企業の大半は存亡の機に立たされている。少子高齢化により人員は不足し、町も過疎化。若者は都市部に流出し、次なる担い手もいない。そこにまた新型コロナウイルスが襲いかかった。父の知人の中小企業の社長さんなどと話す中で、現実味を帯びた中小企業の苦悩が見えてきた。「将来は大きな都市に出て頑張るんだぞ。」「こんな田舎ではもう。人もいない。」僕はこの状況を見て、胸が痛んだ。中小企業には中小企業にしかない“人の温かさ”や地元に根差した“商売・技術”がある。一度これらを失った町を考えてみてほしい。これほどまでに地域の温かさに欠ける町はないだろう。日本国内でこれまでのやり方ではやっていけない企業や職種が多くなる中、大企業はもちろん、豊岡にも多い中小企業は生き残る術を考えていかなければならない。少子高齢化が進み、人工知能が日に日に進化する中でも、まだ間に合う、まだ守れる、今。僕はこれらの中小企業を守っていかなくてはならないという強い思いに駆られた。
ではどうすれば、町の企業を救うことができるのか。僕が注目したのはコンサルティングとマーケティングの重要性だ。コンサルティングは税理士の業務の中にも含まれており、企業経営についての新たな打開策を講じていくというもの。また、マーケティングとは商品がよりよく売れる市場を形成するというもの。日本の市場は縮少しつつあるが、世界市場は人口の増加により拡大を続けている。そこで地域の企業・商店の現状に寄り添った経営支援の実現と、中小企業でも国際的な市場をもてるネットワークを創造するという二本柱の理論を組み立てた。日本は国際的に注目される魅力を溢れるほどに持っている。この持ちうる魅力を、より必要とされる社会に直接的に発信することで世界と地域をつなげることができれば、中小企業を救い、この国の経済を復活させることができると確信した。町の企業を盛り上げることから地域の経済を活性化させ、いわゆる『下からの経済革命』を実現する。地域の中小企業でも“国際的な商品化”ができるあらゆる環境を創り上げることが僕の目標である。
これらを今、大企業で実際にやり遂げているのが、USJやネスタリゾートを復活させた森岡毅さんだ。彼は“マーケティング”で企業、そして消費者の購買行動を決定的に変革させた。これこそが日本社会を劇的に活性化させるための鍵であると著書の中でも書いている。変化の激しい世の中で“持続可能なマーケティング”のノウハウを企業にたたき込み、世代を超えて存続する企業に作り変えることで彼は日本社会の活性化を実現させようとしている。
今日の変化の激しい時代で、変化に適応できる中小企業にするためには経済動向の把握は必須である。ましてや新型コロナウイルスによるパンデミックのような劇的変化がいつ起こるかわからないこの時代。社会動向や経済の傾向を捉え、持続可能な中小企業にするために、現状とこの先、十年、二十年を見据えた経済支援をしていきたい。そして、分野を超越した複合型の企業体系の実現も支援していきたい。
ここまでは“経済”に向けた自分の夢であるが、もう一つ僕の中には人生の軸としたい志がある。『不撓不屈』(高杉良著/2006)で描かれたTKC創業者の飯塚毅先生、彼こそ僕が生涯目標とする人物である。正義と真理を貫き、『自利利他』の精神で税理士として顧客に対する彼の姿に圧倒された。
―自利と利他は並列の関係ではなく、“利他こそ自利であり、自利こそ利他である“。世のため人のため精神努力の生活に徹すること、それがそのまま自利すなわち本当の自分の喜びであり幸福なのだ―自利とは利他をいう。
ひとつの言葉にこれほど感銘を受けたことはなかった。人を助けることが自分の幸せに繋がる。つまり、“ありがとう”に込められた相手の喜びを受け取ったとき、ただ単なる自利だけでは得られない幸福を得る。利他こそ自利と感じる。ここに僕は自分が生きる喜びと楽しさを感じた。ここ数十年、機械やAIといった人に代わるものが生活の中に増えていく中で、“人”として選ばれる、“人”として尊敬されることは今までの時代以上に大切になってくると思う。この強い志を持って夢に挑戦する。
―この国を経済から再生する―
ここに自分が生涯追いかけ続けるべく目標を見つけた。そして、人と関わり、人を愛し、人を支える“自利利他”の精神で、生きていく。人との繋がりを大切にし、お互いで協力し合える人間関係をつくる。国内及び世界の経済において、国を超えて交流し、つながりを広げることができればこれほど幸福なことはない。
現代社会の中で、人とのつながりはコロナ禍を経てより希薄になり、また世界経済の見通しは短期的には改善しているものの、歴史的水準からすると依然として低調である。二〇二四年~二〇二五年には、世界人口の八割以上を占める六〇%近くの国で、成長率は二〇一〇年代の平均を下回ると言われている。この、経済が停滞している社会で、人々が何を必要とし、市場が何を求めているのか。そんな市場の動向を読むには、国籍を問わない多くの人々と交流し、多様な考えを理解すること。そして、国際的な市場創生を図るためには、データから動向を読み取り、問題点と打開策を導き出すための発想力や想像力、論理的思考力、それを行動に移す行動力も身につけていかなくてはならない。その中で、人がすること、AIに任せられる部分を的確に区別し、AIを戦略的かつ柔軟に活用していく力も必要であるが、AIの活用方法については信憑性の面からも慎重に考えていかなくてはならない。自分自身が人間力を磨き、海外でも通用する英語力を習得し、三年間の高校生活を通して国際的な見方を身につけられるように日々の努力を積み重ねたい。
まずは、この国の中心である東京で日本を学び、その先の世界を学ぶために高校生活を捧げて勉強に向かい、大学に合格する。
僕はいつかこの国が国際競争の先頭に立ち、世界を担い、世界経済のトップに上り詰めることを信じている―