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ライセンス・ビジネス業界編

MG(インターナショナル・マネジメント・グループ)は、世界25カ国以上にオフィスを構えるグローバル企業。1960年にプロゴルファーのアーノルド・パーマーのマネジメントからスタートした同社は、以来、スポーツマネジメント事業を柱に、エンターテインメント、ファッションなどのあらゆる領域でビジネスを展開している。その一つが、キャラクターなどの著作物を運営管理する「ライセンシング」事業だ。そこで今回はIMG Japanのライセンシング部門でアジア地域の統括責任者を務める山本美樹氏と、ライセンシングコーディネーターの谷口瑞幸氏にご登場いただく。同社が日本における総代理人を務める「セサミストリート」にまつわるお話を中心に、ライセンス・ビジネスの舞台裏をお伺いした。

キャラクターの生きざまを語りつぎ「セサミストリート」の世界をより身近なものへ

IMG JAPANライセンシングコーディネーター
ライセンシング ジャパン

谷口 瑞幸  (たにぐち みゆき)

2002年 静岡県立吉原高校 国際科 卒業
2006年 英 Bath Spa University Graphic Design /Illustration学部 卒業
2007年 ムーランサールジャパン 入社
2014年 IMG Japan 入社セサミストリートほか、ブランドのライセンス管理業務を担当、現在に至る。

「セサミストリート」は誰のもの?著作者の権利を守る「ライセンス・ビジネス」とは

 エルモやクッキーモンスター、オスカーにビッグバード――。世界150以上の国と地域で愛され続けている「セサミストリート」。「東進こども英語塾」のキャラクターとしても活躍中だが、彼らを広告に登場させるために英語塾を運営するナガセと、彼らの生みの親であるアメリカのNPO「セサミワークショップ」との間には「ライセンス契約」が結ばれている。

 単語の「license」とは「許可」や「承認」といった意味。一般的に「ライセンス契約」とは、キャラクターなどの著作物の使用許可とそれに付随する権利を著作権者から得ることを指す。そうして、関連グッズの製造販売や英語塾のようなサービスの提供が可能となるのだ。

 「この仕事は、日常生活ではあまり聞くことのない世界だと思います。私自身もそうでした。もともとは『タンタンの冒険』のキャラクターが大好きで、それに関われる仕事がしたいという気持ちで、同作のライセンスを扱う会社に飛び込んだんです。そこで仕事のやりがいを知り、『タンタンの冒険』以外のいろんなブランドも手掛けていきたいと考え、IMGに転職したんです」

 そう語るのは、ライセンシングコーディネーターを務める谷口瑞幸だ。アメリカに本社を置くIMGは、浅田真央、錦織圭といったトップアスリートのマネジメント事業を中心に、スポーツ、ファッション、エンターテインメントなど幅広い分野で顧客のブランド価値を高める手助けを行うグローバルカンパニーである。谷口の仕事である「ライセンス・ビジネス」の草分けでもあり、その事業の始まりがプロゴルファーのアーノルド・パーマーのスポーツブランドの確立であったことは有名な話だ。四色の傘のマークをあしらった同ブランドは、いまや老若男女問わず人気のファッションブランドとなっている。

ブランドのコラボレーションでブランドの世界を広げる

 そして現在、IMGは日本における「セサミストリート」の代理人としてキャラクターたちの管理運営を任されている。「キャラクターは生きている」と考える同社では、英語教育番組というカテゴリーから「セサミストリート」を飛び立たせ、従来にはない新たな価値を生み出そうとチャレンジし続けているのである。例えば、人気ファッションブランド「アベイシングエイプ」とのコラボレーションや、ユニクロとの提携などがそれだ。

 つまりそれだけ「セサミストリート」にはまだまだ未知の可能性がたくさんあるのだ。谷口も、日常のリサーチからビジネスを生み出したことがある。

 「あるとき、とても素敵なネイルステッカーを見つけたんです。さっそく製作会社に電話をして訪問したら、とても小さなオフィス。それでも先方にお話しをしたら、検討しますと言っていただけました。ところが契約を締結しようとしても、思うように話を進めることができませんでした。このときは本当に途方にくれました(苦笑)」

 それでも谷口は、諦めなかった。十代二十代の女子にとって、ネイルは一番取り入れやすいファッションだ。しかしそれだけではなく、そのネイルステッカーがセサミストリートの世界観にマッチしているという確信が、谷口にはあった。

 「そこで、上司に同行してもらい、先方の社長に直接お話を聞いていただくことにしたんです。そうしたら、とても大きな可能性を感じていると仰っていただけました。それどころか、SHIBUYA109で期間限定のポップアップショップを開きましょうというお話にまで一気に発展しました」

 一つひとつのアイテムへのこだわりと、意志決定者へのトップアプローチにより、谷口は新しいビジネスを形づくり、「セサミストリート」の世界を広げる一翼を担った。

「セサミストリート」45周年フェアから更にブランド価値を高める

 現在、谷口に求められているのは、「セサミストリート」というブランドを日本にさらにしっかりと根づかせることである。そのためには、緻密な戦略を要する。グッズ一つを取ってみても、どのような商品が好ましいのか。どういった場所で販売すればよいのか。誰に買ってもらうのか。これらの要素を著作権者のセサミワークショップと話し合いながら決めていく。それだけではない。グッズの製造業者の選定と交渉、さらには、品質管理や売上の推移などにも目を配る。その過程で、仕事の醍醐味を感じると谷口はいう。

 「セサミストリートの場合は、アパレルやフィギュア、出版物等、関連グッズはさまざまな分野にまたがります。ですからいろんな業界の方との接点ができる。その中での新しい発見が常にあります。また、教えてもらうばかりではなく、自分なりに考えて提案することもありますね」

 例えば、エルモのフィギュアを製作することになったとする。そこでもし、あの独特の鼻の形を忠実に再現するのが技術的に難しいとわかったら、別の手段を模索する。それでも難しい場合は、セサミワークショップに相談して打開策を探る。著作権者と使用者とがWin-Winの関係になるように「橋渡し」するのが谷口の役割だ。

 「ちょうど今、日本橋髙島屋を皮切りに、セサミストリート45周年フェアを開催しています。その実現に向けて、セサミワークショップ側も強い要望があり、一方の髙島屋さんにもこのように作り上げいという希望がありました。双方の考えを汲み取りながら、より良いものを作り上げるのが、我々の仕事です。やり遂げたときの達成感を想像するだけで、今からとても楽しみです」

 自分が生み出した企画やアイテムが世に出たときには、すぐに販売店まで出向いて写真を撮ってくるという谷口。キャラクターへの「好き」という強い気持ちが「仕事」に直結する。「自己実現」と「仕事」とがWin-Winの関係となっている谷口の姿は、まさに「憧れの職業」だ。(文中敬称略)

たくさんの「経験」を積んで柔軟で多様な発想力を磨く

IMG Japanシニアバイスプレジデント
ライセンシング・アジア部門統括

山本 美樹  (やまもと みき)

1963年 京都府生まれ
1981年 京都聖母学院高校 卒業
1986年 同志社大学 法学部 法律学科 卒業
同年 コロネット商会株式会社 入社ユナイテッド・メディア社、カルバン・クライン社にてキャラクターからファッションまでのライセンス管理業務を経て、2000年 IMG 入社 現在に至る。

グローバル企業で活躍するための3つの要素

 IMGのライセンシング部門でアジア統括責任者を務める山本美樹は、日本、中国、韓国、東南アジア各支社のスタッフを束ねるリーダーだ。そんな山本が彼らに求めるのは「積極的に外へ出て行くこと」である。

 「私たちの部署で扱うものの多くは、衣料や生活用品など身近な消費財です。ですから、オフィスで頭をひねるばかりでは不十分です。それを使う人たちを実際に目にしなければいけません。例えば海外からの旅行者が日本でどのような商品を欲しがるのか。これも現地で見なければわかりません。ですので、日本のスタッフには頻繁に上海や韓国へ行ってもらっています。逆に海外のスタッフに日本に来てもらうこともあります。この点は、グローバルに事業を展開するIMGだからこそできる人財育成法かもしれませんね」

 グローバル企業だからといって、IMGでは「語学力」や「海外経験」ばかりが重要視されるわけではない。山本自身、英語は堪能だが、アジア統括に任命された当時、中国語や韓国語はまったく話せなかったという。

 「もちろん、言語や文化の違いによる困難はあります。けれどもそれより重要なのは、be creative(創造的であれ)、be energetic(情熱的であれ)、be strategic(戦略的であれ)という三点です。クリエイティブな発想力と、ものごとをとことんまで突き詰める情熱、そしてそこから生まれる戦略。これが備わっていないと、いくら語学に秀でていても役に立てることができないのです」

スタッフの成長こそが一番の醍醐味

 IMGで期待されているのは即戦力だ。新卒社員のように、一から手取り足取り、仕事を教えてくれるわけではない。自ら考え、率先してビジネスを推し進めていく行動力が求められる。そのうえでスタッフの成長が、仕事の「一番の醍醐味」であり「喜び」であると山本はいう。

 「人が伸びていくというのは、単純に戦力が一人分増えるということではありません。その人が今度はほかの人を育てることもできるわけですから、1.5倍ぐらいになります。人の成長って、ブドウのツタがどんどん伸びていくみたいに加速していくんですね。それを見ていくのがとても楽しみなんです」

 では、高校生の「成長」にとって必要なものは何だろうか。山本に訊いてみると「経験」というキーワードが返ってきた。

 「学生時代にはいろんな絵を観たり、音楽を聴いたり、進んで旅行に行ったりするとよいでしょうね。そうした体験を通じて、例えば絵を観る人は何を感じるのだろうとか、あるいは、海外に行ってお金を落としてしまったときに自分で対処するにはどうしたらよいかと思いをめぐらせるでしょう。柔軟で多様な発想を得るためには、いろいろなことを経験することが大切だと思います」

 国際社会で活躍する人財を多く率いてきた山本の言葉だけに、強い説得力がある。(文中敬称略)

 

Q&A

商品開発に必要な世の中の動きや流行はどうやってウォッチしているの?

 最近では「Instagram(インスタグラム)」などのソーシャルネットワーク、あるいは影響力のあるブロガーのブログなどを定期的にチェックしています。高校生がどんなファッションをアップロードしているのか、あるいはブロガーがどんな商品を手に取っているか。そんな点に目を向けていますね。また、実際に量販店などに出向いて、気になった商品をメモして帰ることもあります。

最近開発した商品でユニークなものは?

 来年、30周年を迎える、映画『エイリアン』の記念グッズシリーズということで、エイリアンのお箸を作りました。エイリアンのグッズというとフィギュアが定番だと思いますが、それだとおもしろくない。エイリアンといえば「気持ち悪い」「怖い」というイメージですが、それを逆手に取ったんです。食べ物を口に運ぶたびに自分とエイリアンがにらめっこになるという(笑)意外に売れたんですよ。きっと、逆転の発想が功を奏したのだと思います。

高校時代の経験で今も役に立っていることは?

 オーストラリアでのホームステイ体験です。高2生のときでしたが、日本語以外で、自分の伝えたいことをどうしたら表現できるのかを必死で考えました。言葉が通じないから関われないというのではなく、自分から積極的に向かっていかないとコミュニケーションが取れないんだということを、そのときの経験から学びましたね。それは現在も役に立っていると思います。

もっと詳しく

ライセンス・ビジネスとは

 「ライセンス・ビジネス」とは、著作物や商標の権利を持つ側(ライセンサー)が、その使用を第三者(ライセンシー)に許可することで、双方の利益を図るビジネスのこと。ライセンサーにとっては、ブランドイメージを傷つける無断使用やコピー商品の排除につながり、著作権や商標を守ることができる。  一方で、ライセンシー側にとってはライセンサーの持つ知名度の高い著作物や商標を借り受けることで、販路の拡大ができるなどの利点がある。

ライセンス・ビジネス業界に入るには

 特別な資格が必要というわけではないものの、コミュニケーション能力、企画力、語学力をはじめ、各業界についての専門的な知識と経験なども問われる。  ライセンサーとライセンシーとの折衝役を務めることになるので、とりわけ、交渉力は必須である。なお、IMGではインターンの受け入れはあるが、新卒採用はしていない。