証券会社 インベストメントバンカー(M&Aアドバイザー) 編

 ここ数年、日本企業による海外企業のM&A(企業の合併および買収)が増加している。急速なグローバル化や海外市場の成長を取り込もうと、M&Aを事業拡大や海外進出への足がかりにしたいと考える企業が増えているからだ。とりわけ、世界規模の大型M&Aで存在感を見せているのが「グローバルな投資銀行」を打ち出している野村證券である。そこで今回は、同社企業情報部マネージング・ディレクター吉田俊哉氏と、入社7年目の上原直也氏にご登場頂き、M&Aの仕組みや仕事の醍醐味をお伺いした。

M&Aは新天地へのチャレンジ!
強い意志を持って日本企業の海外進出をサポートしたい

野村證券株式会社 インベストメントバンキング
企業情報部 アソシエイト

上原 直也  (うえはら なおや)

1986年 東京都生まれ
2004年 米国コネチカット州
     Darien High School 卒業
2008年  慶應義塾大学 経済学部 卒業
同年   野村證券株式会社 入社
     インベストメントバンキング
     IB業務部を経て現在に至る。

M&Aを成功させて新たなビジネスチャンスを生み出せ!

 「M&A」とは、複数の企業がひとつに合併したり(Mergers)、ある企業が別の企業を買収したり(Acquisitions)することを指す。あるいは現在では、企業間での業務提携を含める場合もある。いずれにせよ、複数の異なる企業がひとつになるためには、さまざまな問題や条件をクリアして、両者の間で合意に至る必要がある。そのための最適な解決策を提案したり、調整を行うのが、証券会社などの「M&A助言業務(M&Aアドバイザリー業務)」と呼ばれるサービスだ。

 「M&Aとひとくちに言っても、いろいろな手法があります。まず、そのなかでどんな方法が企業にとって最適であるのかということを議論するところから作業はスタートします。続いて、合併先の企業の価値を評価していくわけですが、そのためには、対象となる企業のビジネスを深く理解して、今後数年間で事業がどのように展開していくかということを、多面的に分析しなければなりません。こうした作業を経ながら、最終的に合意に至るように両者の間を取り持つことが、我々の仕事となります」

 そう語るのは、野村證券インベストメントバンキング企業情報部の上原直也だ。上原は入社7年目。M&Aは通常、「ディール・マネージャー」と呼ばれる責任者を筆頭に、3名から4名のチームで行う。上原の職務は、アソシエイトという立場でディール・マネージャーをサポートすることだ。

 「企業にとってM&Aとは、新たなビジネスであったり、新しい分野に踏み出すことを意味します。つまり、強い意志を持って前に進もうとする瞬間なのです。その瞬間に立ち会うことができる。それがこの仕事のやりがいであり、醍醐味です」

日本と海外とをつなぐ仕事がしたい!自らの使命に目覚めたアメリカ時代

 そんな上原がM&Aに興味を抱いたのは、アメリカの高校に通っていた頃。海外では、自分が日本人であるという考えを強く意識することが多い。当時の上原は日々、日本人として、どのように社会に貢献できるかを考え続けていた。

 「そんななかで、日本と海外とをつなぐ仕事がしたいなと思っていました。とくに、日本の企業が海外に出ていく際に手伝えることは何かと考えたのです。そうして思い至ったのが今の仕事でした」

 そこで上原は日本への帰国の道を選んだ。慶應義塾大学経済学部に入学したのも「国際的なネットワークを持っている大学」という点が決め手となったからだ。また、大学時代に打ち込んだジャズバンドでの経験も、社会人となってから役に立った。上原は17人編成のビッグバンドのリーダーを務め、見事、大会優勝を果たしたことがある。その際に、心を砕いたのは「17人からなるバンドの個性をどのように引き出すか」ということだった。そのうえで、より良い演奏をするという目標のためには、今、何をするべきかということに注力したのだ。

 「頑張っていい結果を出すか、頑張らないで悪い結果を出すか。どちらがいいかは歴然です。バンドの経験では、目標を作って、そこから逆算していくという考え方を身につけることができたと思います」

学生時代から「社会に貢献する仕事」「リーダーシップ」を意識してきた上原が野村證券に入社したのは、極めて自然な流れだった。しかし、当然のことながら、仕事をしていくうえですべてが順風満帆だったというわけではない。ときには肝を冷やす場面に遭遇することもある。

 「これは数年前の話ですが、とある案件に携わったときのことです。成立期限の一週間前になって、案件を根底から覆すような問題が突如発生したことがありました。その一点を解決しなければ、どうしても前に進むことができない。そんな事態に直面したのは初めてのことでした」

突然のトラブル発生!仕事で発揮した「問題解決能力」とは?

 では、どうやって上原はその困難を乗り切ったのか?

 「必死にやる、という以外に選択肢はなかったですね。問題を整理すると、いくつか回答が出るのですが、いずれも相応のリスクがある。それらのリスクが具体的にどのようなもので、そのなかのどれをお客様に選んでいただくのか。そのためには、我々のほうで限りなくベストの状態にまで問題を詰めきる必要があります。そのときは持てる時間すべてを注ぎ込んで、問題解決にあたりました」

 この「問題解決能力」は、仕事をするうえでの必須の力であると、上原は強調する。小さな問題さえも、放っておくとのちのち大きな問題となる可能性がある。そうした「ほころび」を事前に発見して、あらかじめ解決しておくことが、M&A成功の鍵となる。

 「自分の力で問題を発見し、対応する力は、大学受験にも生きると思います。大学選択の中で、いろいろな進路が見えてくることでしょう。迷うこともあるかもしれませんが、決断はしなければなりません。大事なのは、自分の選択であるという自覚をしっかりと持って、そのうえに何を重ねていくかということではないでしょうか」

 最後に、高校生へのメッセージを訊くと「自分なりの目標を持つこと」という返事が返ってきた。

 「目標を持っていれば、何をすればよいかということも自然と見えてきます。もうひとつ大事なことは、決して諦めないということです。たとえ困難に直面したとしても、解決できるのは自分しかいません。諦めないでやり続ければ、かならず目標へと近づくことができます。私もこの仕事をしている以上は、新しい価値を作り出している企業をしっかりと世界に羽ばたかせたい。そんなきっかけを与えられるような仕事をしていきたいと考えています」

 上原の眼には、若手から中堅へと成長しつつある実感と自信が垣間見えた。

M&Aは「正解」のない仕事
だからこそ大きなやりがいがある!

野村證券株式会社 インベストメントバンキング 企業情報部
マネージング・ディレクター 兼 企業情報四課長

吉田 俊哉  (よしだ としや)

1973年 北海道生まれ
1992年 北海道 札幌北高校 卒業
1996年 一橋大学 商学部 卒業
同年   野村證券株式会社 入社
     長崎支店、資本市場部、
     エクイティ・キャピタル・マーケット部、
     人事部、海外留学などを経て現在に至る。

5年先、10 年先の企業動向を予測せよ!

 「M&Aの出発点はまず、企業がどのように成長して自らの価値を高めたいのかという戦略が重要になります」

 そう語るのは、野村證券でディール・マネージャーとして陣頭指揮を執る吉田俊哉だ。すべての課題がM&Aで解決するというほど、ビジネスというものは単純ではない。自力での成長が可能なのか。それとも、他の企業と手を組むほうが得策なのか。まずはそこを見極める必要がある。その責を担うのが吉田たちの役割となるわけだが、そのためには依頼主となる企業以上にその業界に明るくなければならない。

 「お金を払って雇っていただくわけですから、それに応じたお客様の信頼を得なければなりません。そのうえで5年先、10年先までの事業予測についてお客様と議論し、その事業の価値を分析します。つまり我々の仕事は、正解のないものを予想していこうという極めて難しい仕事であるわけです」

 とかく高校大学では「正解」を求められることが多い。だが吉田たちの使命は、正解のないところでいかにベストな選択を提案するかにかかっている。そのためには、日々の勉強はもちろん、論理的な思考力も必要だ。M&Aは企業の命運を左右する大きな決断である。それだけに、生半可な提案では受け入れてはもらえない。確かな知識に裏打ちされた仮説を筋道立てて説明し、相当に説得力のある提案を打ち出す必要がある。

 「それだけに、我々のアドバイスが的中したときにはとても喜んでいただけます。私にとっても醍醐味であり、大きなやりがいですね」

「正解」のない課題を解決に導く4つの力とは?

 では「正解」のない課題に対して、より的確な「回答」を導き出すためにはどのような力が必要なのか。吉田は、大前提として「問題解決力」を挙げつつ、さらに4つの力が必要であると説く。「コミュニケーション力」「判断力」「本質を見抜く力」、そして他者に対する「気配り」ができる力だ。

 「M&Aというものは、企業にとってもそう滅多に起こる事案ではありません。一方で、法律や会計、税務などの専門知識を理解する必要が出てくる。その橋渡しをするのが我々の役目です。つまり、難解なことをわかりやすく伝えるコミュニケーション力が必須となるわけです」

 また、経営者が適切な判断を下せるように、吉田たちはあらゆる可能性を探り、取捨選択を繰り返している。メリット・デメリットを天秤にかけてジャッジ(判断)を下す。ときには「何が一番大事なのか?」という優先順位を明確にする必要も出てくる。「正解」がないだけに、あらゆるものが「正解」に見えてしまうことがあるからだ。そんなときには、「本質を見抜く力」が役に立ってくる。

 「社会人になるとなぜ?というところを突き詰めて考えることが、とても重要になってきます。

なぜという気持ちを大事にもっていると、勉強に際してもいろいろな応用ができるのではないでしょうか。また、気配りのできるひとは、やはり魅力的な人間になれると思いますよ」

Q&A

仕事をするうえで手放せない「三種の神器」を教えてください。

 「携帯電話」「会社四季報」「電卓」です。  携帯はブラックベリーのスマートフォンなのですが、世の中で何が起きているのか、案件の状況がどうなっているかをタイムリーに把握するために必要不可欠です。『会社四季報』は、日本企業の会社概要を調べるために必携です。普段は表計算ソフトを使用していても、確認の計算ができるように電卓は常に手元においています。

海外ではどんな勉強体験をしましたか?

【上原氏】  アメリカの高校では、常に「自分だったらどうするか?」ということを問われることが多かったですね。  例えば「もし自分がリンカーンだったとしたら、南北戦争をしたかどうか?」ということを問われる。それに対して「自分ならこうする」という意見がクラスメイトからたくさん出てくる。自分も遅れを取るまいと積極的に発言していくわけです。  そうした経験を通じて、自分の意見を周りに理解してもらうトレーニングを積むことができたように思います。 【吉田氏】  私はアメリカの大学院に留学していたのですが、たしかに自分の意見を求められる授業でしたね。日本の大学ではひたすら知識を吸収するばかりでしたので、スタイルの違いに驚きました。  けれども、ビジネスシーンでは自分の意見をしっかりと伝える、あるいは、お客様の立場だったらこう考える、ということをしなければなりません。そうした思考や自分の意見を発信する訓練は、実社会でとても役に立つと思います。

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■M&Aアドバイザーとは

 投資銀行や証券会社、コンサルティングファームや監査法人などに所属し、企業からの依頼に応じて企業のM&A活動の仲介役となる専門家のこと。M&Aは、経営戦略の決定から相手企業との契約締結まで、長く複雑なプロセスを要するため、さまざまな問題を抱える企業に対し専門的なアドバイスが必要となる。そのためアドバイザーが売却もしくは買収先企業を探し、交渉を行い、取引のための助言を行う。また、契約に伴って弁護士や税理士・公認会計士との調整や進捗状況の管理を行う。

■M&Aアドバイザーになるには

 大学・大学院を卒業後、銀行や証券会社などの金融業界で経験を積みながら、M&Aアドバイザーとして活躍するケースが一般的である。M&Aアドバイザーになるための国家資格はないが、証券、法律、会計など広く知識が問われるため、自己研鑽で修得する必要があるほか、入社後にMBA(経営管理学修士号)を取得するために留学する場合もある。また、専門知識のほかに、企業の経営トップから全幅の信頼を預けてもらうための高いコミュニケーション能力も必要だ。