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涙の体験記


初めての東大本番レベル模試はまさかの数学7点、物理4点…原理原則に目覚めてつかんだ奇跡の逆転合格


1日を最大限に活用


 那和大裕がクラリネットに出会ったのは小6の時だった。ある中学校の吹奏楽部演奏会に足を運んだ那和は、最前列に並ぶクラリネット奏者のカッコよさに鳥肌が立った。
 「以来6年間、ずっと吹奏楽部です。高校でも部活中心の毎日でした」
 高2の冬休み、予備校に通うと決めたときも「部活と両立できるところ」というのが大前提。有名実力講師の授業を自分のスケジュールで受講できる東進ハイスクールへの入学に全く迷いはなかった。
 那和の志望は東京大学理科I類。せっかく大学に進学するなら、トップの大学を目指して頑張りたいと思ったからだ。
 「部活でもそうですが、いつももっとやれたんじゃないか”って思うんです。だから性格的に東大に挑戦しないと悔いが残ると判断しました」
 また、那和は複数のことに興味があった。建築構造の研究にも惹かれたし、医療の麻酔領域についても勉強してみたいと思っていた。
 「これしかない! というものがあれば違う進路を考えたかもしれません。 でも僕にはまだ見極められなかった。だから学部選び”ではなく、大学選び”でした」
  那和は「自宅学習の日」と「東進の日」をほぼ1日おきに繰り返した。 「自宅学習の日」は部活練習後に自宅に戻り、夜9時過ぎから12時まで勉強。「東進の日」は30分ほど早く部活を抜け、東進でおおよそ7時30分から9時30分まで授業を受けた。
 那和は毎日、帰りの電車の中でその日の学習プランを綿密に立てた。「数学の問題集○頁から○頁」「国語は東進のテキスト予習」「英単語○個マスター」…。勉強に割ける時間は多くはなかったが、だからこそ逆に緊張感を維持できた。常に頭がフルスピードで動いているような感覚があった。





完全燃焼で部活引退


 3月。那和にとって忘れられない出来事があった。千葉県吹奏楽個人コンクールのクラリネット部門で優勝したのだ。演奏曲はモーツァルトの『クラリネット協奏曲』。中1の頃にはじめて聴いた時から、いつか挑戦してみたいと思っていた憧れの曲だった。
 「本選ではそれまでの人生で味わったことがない強い緊張を感じました。実は演奏中のことを全く覚えていないんです」 この優勝体験は那和の自信になり、東大受験に向けて背中を押してくれた。
 ところがわずかその2カ月後、東大本番レベル模試の採点結果を手にした那和は愕然とする。そこには今まで見たことない数字があった。数学7点、物理4点…。 2教科とも那和の得意科目だった。
東大の問題には自分のやり方が通用しない。一瞬、目の前が真っ暗になった。
 しかし那和には落ち込んでいる暇すらなかったのである。目前には高校生活最後の定期演奏会が迫っていた。那和は決断した。今は定演を成功させることを優先させよう。すべてはその後だ。

演奏会当日、渋谷教育学園幕張高校の大講堂には例年より多くの人達が足を運んでくれた。もうこのメンバーで一緒に演奏することはないと思うと胸が詰まった。 部活の方向性でもめることはあっても、できる限りレベルの高い演奏を目指して全力を尽くす点では全員一致していた。
 「一人でできないことが奴らとならできた。最高の仲間達でした」
 2004年6月27日。那和は完全燃焼で6年間の吹奏楽部生活に幕を閉じた。





解法から本質へ


 部活動を続けてきた者にとって、引退後は最もつらい時期のひとつだ。那和も例外ではなかった。高3の夏休み、脱力感からくる激しいスランプに襲われた。
 「部活を引退してしばらくは気持ちを切り換えられずに辛かった。10時間以上机に向かっていましたが、気持ちだけが空回りしてほとんど集中できませんでした」
 本来の自分を取り戻せたのは9月。きっかけは長岡恭史先生の授業を理解できるようになったことだった。
 7月。那和は1ケタ点数の数学を何とかしようと東進の担任・斎藤に相談し、薦められたのが『数学ぐんぐん』である。
「原理・原則を押さえて解くのが長岡流。
でも最初は理論と解法をどうやってリンクさせるのかがさっぱり理解できなかったんです。仕方がないのでひたすら解法を真似ていたら、ある日突然、先生の言っていることがわかるようになった」
 確かな感覚をつかんだ那和は、長岡先生の東大対策数学シリーズを次々と受講。さらに英・数は25年分の東大過去問演習にも取り組んだ。その頃の平均勉強時間は学校がある平日で8時間、休日は 14時間にも及んだ。食事や入浴など最低限のこと以外はずっと机に向かっている那和のことを心配し、両親は何度も「休め」と声をかけた。
 それでも那和はより過酷な状況に自分を追い込んでいく。なんと11月になってから苑田尚之先生の『トップレベル物理』1年分を受講することにしたのだ。
 「数学に悪戦苦闘して、物理に手がまわるようになったのが秋。今から思えば自分でも無謀だと思いますが、あの時はただただ必死だったから。まさに高速学習”とはあのことでしたね(笑)」
 決して自信満々だったわけじゃない。真夜中に一人で机に向かっていると不安に押しつぶされそうになった。
 そんな時、那和は個人コンクール優勝の時にもらった盾を見ながら自らに言い聞かせた。記憶がなくなるほどの緊張の中だって自分の演奏をやりきったじゃないか。努力は裏切らない。自分は本番に強いんだ! と。





授業の威力を実感


 高3の冬休みは『記述型答案練習講座』など1日3講を受講した。センター試験後は東進のテキストと過去問を繰り返し復習。2次試験に向けて着々と準備を進めていった。
 そして東大入試当日。「自分は本番に強い!」と言い聞かせていた那和にそれを確信させるようなことが次々と起こった。
 「数学は長岡先生に習った問題と90%似た問題が出題され、物理も苑田先生の方法を使って予想以上の出来だった。一番驚いたのは化学で、休み時間に腕ならしに解いた二見先生のテキストの問題がほぼ丸ごと出題されていたんですよ!」
 合格発表は母と二人で見に行った。試験終了後は手応えを感じたものの、やはり心が揺れた。赤門から掲示板へと続く人込みに身をゆだねながら、「ダメだったら後期試験もある。それがダメだったら来年がある」。そんなことを思ったりした。
 掲示板の前。母と子はほぼ同時にその番号を見つけた。母と目が合い、那和は何か言おうと思ったが言葉にならなかった。母はただただ泣いていた。
 那和はカラダのなかから熱いものがこみあげてくるのを感じた。
 部活の練習から東進にかけこんだ時のことや、東大模試で1ケタの点数を取り愕然したこと、秋から猛ダッシュで受けた物理の授業のことなどが懐かしく思い出された。
「自分は本番に強い!」。誰に向けてでもなく、那和は大きくガッツポーズをした。
雲ひとつない青空の下で…。



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