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2013年11月01日号 9面
  • 東進タイムズ 2013年11月01日号 9面
 
 去る9月27日、第3回フロンティアサロン「永瀬賞」の受賞を記念して、受賞者による特別講義「サイエンスセミナー」が東京の帝国ホテルで開催された。 「フロンティアサロン」とは、世界を牽引する「日本の若き頭脳」を支援する取り組みだ。東進はこれまで「フロンティアサロン」を応援し、各分野で最先端の研究を 行う若手研究者へ「永瀬賞」を贈呈してきた。
今回、栄えある永瀬賞最優秀賞を受賞したのは、京都大学iPS細胞研究所講師の高橋和利先生。高橋先生による当日の講義の様子を、早速レポートしよう。
再生医療の希望の星が抱える
2つの課題に挑む!
 今日は生命科学の最先端の話をします。緻密にプログラムされているようで意外と適当なところもある生物の不思議や、魅力を理解していただければと思います。

1998年、人類はヒトのES細胞の培養に成功しました。ES細胞とは、カラダを構築するすべての細胞になることができる細胞です。また、半永久的に増殖できるという特色があります。 つまり、やり方次第で欲しい細胞が欲しいだけ手に入り、再生医療や骨髄移植のドナー不足解消につながる、人類にとって希望の細胞です。

しかし、問題点もあります。他人の細胞を移植すれば、患者さんは拒絶反応を起こしてしまいます。受精卵からつくるために、命を犠牲にしているのではないかという倫理上の問題もあります。 では、どうするか。患者さん自身の細胞を使うことができれば解決します。患者さんの皮膚や筋肉の細胞を若返らせて、受精卵のように戻す――。僕たちはこれを「初期化」と呼んでいます。

「受精卵のように戻す」と言いましたが、実はほんの50年前まではそんなことは不可能だというのが科学界の常識でした。十九世紀の終わりにアウグスト・ヴァイスマンという研究者が唱えた 「運命が決まった細胞は決して他のものに運命が変わることはない」という説(ヴァイスマンバリア)がずっと信じられていたからです。仮に細胞が神経になったとすれば、筋肉や骨など神経 になる以外のプログラムは全部消去されます。つまり、当然後戻りもできないし、神経が皮膚になるということもない。神経は神経のままだと考えられていました。

クローンカエルの誕生で覆された
生命科学の常識とは!?
1962年は生命科学にとって大転換期でした。なぜなら、100年以上信じられていたヴァイスマンの定説が覆されたからです。証明したのは、山中伸弥先生と一緒にノーベル賞を受賞したジョン・ガードン先生です。

ジョン・ガードン先生は、おたまじゃくしの腸の細胞から遺伝情報を含む核を取り出し、カエルの卵に移植しました。ヴァイスマンの説だと、腸の細胞は腸に運命が決定されているので、腸にとって必要な遺伝 情報しか持っておらず、他の遺伝情報はすべて消去されています。ですから腸の遺伝情報を卵子に入れたところでせいぜい腸ができるぐらいのものだろうというのが大方の予想でした。

しかし、結果はどうだったか。なんと一人前のカエルが生まれてきたわけです。「クローン」の最初の成功例です。クローン技術は家畜分野に応用されているのでそちらで話題になることも多いですが、ジョン・ ガードン先生が本当に凄いのは、腸の細胞には腸になるための遺伝情報だけではなく「カエルになるためのすべての遺伝情報が眠っていた」ことを発見したことです。100年間、揺るがなかった定説をたった一つの実験で覆したのでした。
細胞という“チーム”の運命を
決める“名監督”を発掘せよ
ジョン・ガードン先生の功績により、現在では、細胞の運命は《細胞がどの遺伝子を使うか》によって決まると考えられています。

各細胞の中には「僕たち○○になろうよ! そのためには君と君が働いてくれ」と指示を出すチームスポーツにおける監督のような存在がいます。監督役を全く別の細胞に入れてやることで、 その細胞の運命を無理矢理変えられることも実験で証明されました。例えば、皮膚の細胞に「皮膚の監督」を上回る量の「筋肉の監督」を入れれば「皮膚の監督」の力が弱まり、筋肉になります。 これを「細胞の運命転換」と呼びます。

ここで僕たちのリーダーである山中伸弥先生の出番です。山中先生は、細胞の運命転換が可能であることを踏まえて、「ならば、受精卵における監督を皮膚に無理矢理入れてやったら、受精卵に よく似た細胞ができるのではないか」と考えます。そして、実際に実験で証明してみせました。

この実験のポイントは、「細胞の運命を決定する前段階の受精卵のような細胞においても監督の与える影響力が大きく、それが若返りの主役になるはずだ」と考えた点です。筋肉や神経になるため の指示を出す監督がいるということは、その監督を選出する協会の会長のような存在がいるはずだ、というのが山中研究チームの立てた仮説だったのです。

そして幸運にも、僕たちは受精卵のような細胞の監督役を見つけることができました。しかも驚いたことに、その正体は1人ではなくて4人でした。

4種類の遺伝子を皮膚の細胞に入れることでES細胞によく似た細胞ができる。つまり、これが《iPS細胞》です。
未来の医療を根底から変える、
夢のストックプロジェクト
iPS細胞はさまざまな応用が考えられますが、今まで出来なかったことで出来るようになることを二つだけ紹介します。

一つは病気の原因解明や新しい薬の発見がしやすくなることです。従来の病気研究では患者さんの人権や倫理上の問題からモデル動物を使用していました。しかし、ネズミの治療で成功しても人間 には通用しなかったという例も少なくありません。

しかし、iPS細胞の技術が入ると状況は変わります。患者さんの血液から病気になる変異を持った細胞をつくり、何万、何十万種類の化合物の効果を調べることができます。新しい薬を見つけて 治せる可能性が高まるのです。

もう一つは冒頭でも触れた再生医療、移植医療です。患者さん自身の皮膚や筋肉を若返らせてiPS細胞を作成するのが理想的だと言いましたが、実際にそれをやろうと思ったら億単位の費用や莫大 な時間が必要です。

そこで、僕たちが考えたのが「iPSストックプロジェクト」です。これはさまざまな種類のiPS細胞を大量につくり、個々の型が合うものを使ってもらうというものです。140種類のiPS細胞 をつくれば日本人の90%をカバーできると言われています。大学や医療機関と協力して10年間で実現したいと考えています。

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