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総合電機メーカー業界

夜空に広がる広大な宇宙。「人類に新たな進化をもたらすフロンティア」として、大きく期待される宇宙を舞台としたビジネスが、近年、世界中で本格的に始まろうとしている。三菱電機株式会社の研究員・小西麻緒さんも、人工衛星や惑星探査機の開発の仕事を通じて、宇宙ビジネスの最前線で働く一人だ。宇宙をテーマとする仕事のやりがいと魅力について、お話を聞いた。

小3で芽生えた宇宙への関心が現在の仕事に導いた

人類のフロンティア宇宙を舞台に働く喜び


三菱電機株式会社 先端技術総合研究所 

メカトロニクス技術部 移動体・宇宙システムグループ


小西 麻緒  (こにし まお)

1994 東京都生まれ。母の仕事の関係で、小学生のときにニューヨークで3年間を過ごす。その時の経験や、帰国後のインターナショナルスクールの先生の勧めで高校留学を決意2012 アメリカ・マサチューセッツ州 The Williston NorthamptonSchool 卒業。宇宙工学に強く、人類初の月面着陸を成功させたアームストロング船長の出身校パデュー大学に進学。2016 パデュー大学 工学部卒業。より専門的な勉強がしたいと、ミシガン大学大学院に進学。2017 ミシガン大学大学院 工学研究科修了。宇宙領域で日本のプレゼンスを高めたいと日本での就職を希望、帰国。2018 三菱電機株式会社入社。メカトロニクス技術部移動体・宇宙システムグループ に配属、現在に至る。

準天頂衛星システム『みちびき』が16万箇所のため池を測位
宇宙空間から人びとの安全な暮らしを見守る

 地上で暮らす私たちの目には見えない人工衛星は、カーナビに使われる位置情報や気象情報など、暮らしに役立つサービスの提供に利用されている。人工衛星は複雑なシステムであることから、現在手掛ける企業は限られている。そのうちの1社、三菱電機株式会社の先端技術総合研究所に勤める小西麻緒さんは、幼い頃から抱いていた天体への興味関心をエネルギーにして、新たな宇宙技術の開発に挑んでいる。

 「現在、私が担当する業務のひとつが準天頂衛星システム『みちびき』を利用したサービスの開発です。『みちびき』は日本を中心としたアジア・オセアニア地域での利用に特化したシステムであり、『みちびき』から配信されるセンチメータ級測位補強サービスを利用することで高精度な測位を実現できます」

 三菱電機は、内閣府から受注した『みちびき』の衛星システムの設計・製造を担当している。『みちびき』は現在4機体制にて運用されており、これまでに、土木工事の精密な測量、水上タクシーの自律運行、スマート農業、建設機械の自動運転などに活用されてきた。新たな用途として三菱電機が開発を進めるのが、「みなモニター」と名付けられた「ため池の水位を衛星で監視するサービス」である。

 「日本には16万箇所ものため池があり、農業用水として活用されています。しかし最近、豪雨で決壊して水害をもたらすことが増え、大雨の危険の中で人が点検に行かずとも、状況を確認できる仕組みが求められていました」

 そこで考案されたのが、ため池にブイを浮かべ、『みちびき』などから受信した信号を用いてため池の水位を測定し、管理者のスマートフォンに通知するシステムだ。小西さんは今、衛星から配信されたデータから正確に位置情報を割り出すアルゴリズムを開発する。

 「自分の仕事が、人々の安全安心につながることにやりがいを感じます」という小西さんは、宇宙というテーマとどのように出会ったのだろうか。

小3から3年間過ごした ニューヨークでの生活
博物館の展示をきっかけに宇宙や天体に関心を抱く

 小西さんは1994年に東京都に生まれた。その人生で最初の大きな転機となったのが、小学3年生のときだった。「母親の仕事の関係でニューヨークに引っ越すことになったんです。当時まだ幼かった私も母について行き、現地の小学校に通うことになりました」

 いきなりアメリカに引っ越し、英語だけが話される教室で学ぶことになった小西さん。最初は先生やクラスメイトの言っていることがまったく分からず、身振り手振りや絵を描いてやり取りしていたという。

「それでも1年目が終わる頃にはだんだん耳が慣れて、何となく相手の話が分かるように。小学5年頃からは学校にも馴染んで、積極的に授業にも参加するようになりました」

 小西さんが宇宙に興味を抱くようになるきっかけは、このニューヨークの暮らしの日々の中で訪れた。ある日、セントラルパークの横にあるアメリカ自然史博物館を見学したとき、その展示に目を奪われたのだ。

「アメリカ自然史博物館は一つのフロアがまるごと宇宙に関する展示で、宇宙船や隕石の模型などを見ることができます。併設されたローズ宇宙センターの中にある最新の天体物理学に基づくプラネタリウムもすごい迫力で、英語がわからなくても、宇宙の映像にすごくワクワクしました」

 小西さんは現在、衛星の軌道を計算する仕事に就いているが、衛星を地球上に周回させるのに必要な「秒速7.9㎞」、地球の重力圏から脱出するための「秒速11.2㎞」という2つの重要な速度を、この博物館の展示で初めて知ったという。

 3年間のニューヨーク生活を終え、日本に戻った小西さんは、東京のインターナショナルスクールに入学する。そこでは、日本語の授業以外は、すべての科目を英語で学んだ。

 卒業の時期が近づいたとき、小西さんはアメリカの高校に一人で留学することを決めた。進学したのは、インターの担任が「小西さんに向いていると思う」と勧めてくれたアメリカ・マサチューセッツ州にある「TheWilliston NorthamptonSchool」だ。パンフレットを取り寄せ、事前に見学にも行って「ここで高校生活を送りたい」と感じた。私立の全寮制の学校で、4学年約500人の生徒のうち、100人ほどが世界各国からの留学生。小西さんは勉強に励みながら、友だちとともにバレーボール、スカッシュ、ギターなどのクラブ活動も楽しみ、充実した高校生活を送った。

「一番の思い出は、高校2年生で履修した天文学の授業の天体観測です。普段は立ち入れない夜のフットボールフィールドに、先生やクラスメイトと入り、雲一つない夜空を見上げて星座や北極星を探したり、オリオン座の剣が見える、見えないと話したり- -。 冬の寒さを忘れるぐらいワクワクした夜でした。今でもふと夜空を見上げる度に思い出して、当時と同じように星座を辿っています」

 小学校で芽生えた関心から、高校でも天文学と物理学を好んで勉強していた小西さん。最初は「天文学者になりたい」と思っていたが、高校3年生で進路を考え始めたときに、「航空宇宙工学科に進学すれば、物理学の中でもいちばん興味のある衛星軌道を専門とした仕事ができる」ことを知り、エンジニア系の道を目指すようになった。

「最近はイーロン・マスク氏が設立したスペースXをはじめ、宇宙関連のビジネスが大きく盛り上がっていますが、当時は天文学を学んでも大学で研究の道に進むか、NASAやJAXAのような国の機関で働くか、選択肢が限られていると感じていました。宇宙工学を学べば、民間で宇宙開発に関わる企業でエンジニアとして働く道があると知ったのです」

火星の衛星探査の軌道計算も担当
宇宙ビジネスの大きな可能性に期待

 小西さんはアメリカの中でも航空宇宙工学の研究レベルの高さで知られるパデュー大学に進学した。パデュー大学は全米の大学中、最もたくさんの宇宙飛行士を輩出したことで知られ、人類で初めて月に降り立ったアポロ11号の船長、ニール・アームストロングの母校でもあった。

「大学の中にアームストロングビルと名付けられた研究棟があるぐらいパデューは宇宙工学に力を入れています。その分、勉強は非常に大変で、試験期間は毎日深夜まで図書館にこもっていました。そんな日々の中でもチームメイトとさまざまなプロジェクトに取り組み、TAとして後輩に教えたり、充実した日々を送りました」

 勉強以外では、サークル活動で「日本学生会( J a p a n S t u d e n tAssociation)」の運営に熱心に携わった。「日本の文化に触れてもらうこと・知ってもらうこと」を活動目的として、毎週ミーティングを重ねて月1回イベントを企画・実行するサークルである。サークルには日本人留学生以上に、日本文化好きのアメリカ人学生が集った。彼らとどうやったら参加者に楽しんでもらえるイベントにできるか、またどうすればより良い運営をできるか話し合うなかで、自分と違う視点を持つことの大切さと実行力を学んだ。

 その後、ミシガン大学の大学院を修了した小西さん。何不自由なく英語も話せることからアメリカの企業へ就職することも考えたが、「日本人として、宇宙の領域でもっと日本のプレゼンスを高めたい」という思いから、人工衛星を作れる数少ない日本企業・三菱電機への就職を決めた。

「みなモニターと並行して今、当社がJAXAから受注した火星衛星探査計画(MMX)探査機システムに携わっています」と語る小西さん。MMXは、火星の衛星フォボスのサンプルを採取し回収することを目指している。

「私が担当するのは、探査機がフォボスの表面に着陸する際、何らかのトラブルが発生したときのための退避用の軌道計算です。着陸予定地点は数か所あり、それぞれについて退避用の軌道をコンピュータで求めています」

 普段の仕事では一日中コンピュータに向かい合い、プログラムを組み続ける。画面を見続けるため目の疲労を軽減するブルーライトカットメガネが欠かせない仕事道具だ。だがそんな日々の中でも小西さんの心は常に、地球を離れた広大な宇宙の中を駆け巡っている。

 「最近、宇宙をテーマに新しいビジネスを始めるベンチャーが、次々に立ち上がっています。宇宙に興味がある高校生の皆さんが活躍できる場は、ますます広がります。ぜひ私たちと一緒に、宇宙をフィールドに仕事していきましょう」と小西さんはエールを送る。

Q&A

趣味はなんですか?

スノーボードとゴルフ、好きな日本のバンドのコンサートに行くことです。

人生のターニングポイントは?

高校でアメリカに留学したこと。日本語と同じぐらい英語が話せるようになったことは、私の世界を広げてくれました。