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トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2020年12月1日号

情報に溢れる現代で、
“真偽を見極め”“正しく表現”せよ

読売新聞グループ本社 代表取締役社長

山口 寿一先生

今回は読売新聞グループ本社で代表取締役社長を務める山口寿一先生をお招きし、「情報、表現、コミュニケーション」をテーマに講演いただいた。山口先生は読売新聞に入社して以来、記者として社会部で司法担当などを長く務めてこられました。インターネット、なかでもSNSの発達により多層的コミュニケーション社会となった今、私たちはどのような危機にさらされているのか。情報とコミュニケーションに絡む問題に対して、どのように対処すればよいのか。オンライン講演とワークショップの様子をお伝えします。

情報に隠された意図や目的

私は読売新聞社に入社以来、19年間新聞記者を務めてきました。新聞記者とは情報をとる仕事、それもできる限り特ダネをとってきて書く仕事です。その情報は、人が持っています。ですから、どうすれば特ダネを話してもらえるかを考えるようになり、ひいては相手を理解すると同時に、自分をも理解してもらうコミュニケーションの大切さに意識が向かうようになりました。

ところで改めて、情報とは何でしょうか。個人情報、情報公開の対象となる情報、スパイの情報、SNS上に飛び交う膨大なニュース情報など、世の中にはさまざまな情報があります。けれども、あらゆる情報には一つ共通点があります。それは、情報とは必ず人が生み出すものであるということ。

従って情報には必ず、それを生み出した人の目的や意図が投影されていて、なかには悪意が込められた情報や虚偽の情報もあります。

種類のあるコミュニケーション

「コミュニケーション」は非常に幅広い意味を含む言葉です。そのコミュニケーションのあり方が、デジタル化の進行によりとても複雑になっています。現代のコミュニケーションの構造を私は「多層的コミュニケーション社会」と呼んでいます。従来からあるマスメディアと直接対面のコミュニケーションに加えて、急速に膨張しているネットメディアによるオンラインコミュニケーションが、多層的・重層的に併存しているのです。

資料1:(出典) 遠藤薫(2018)『ソーシャルメディアと公共性 リスク社会のソーシャル・キャピタル』
東京大学出版会。多層的コミュニケーション社会

資料1

ニセ情報でイギリスEU離脱

ネット上でSNSなどを通じて、情報がマスメディアよりも速く、さらに広く強く拡散するようになった結果、イギリスなどでは政治が「ポスト・トゥルース」の時代に入ったといわれています。「真実か否か」ではなく、「虚偽であっても感情に訴える情報」がしばしば強い影響力を持つ。そのため情緒や感情に訴える情報が、世論を形成し政治を動かしていく。こうした時代認識を背景に「ポスト・トゥルース」という言葉が2016年、イギリスのワード・オブ・ザ・イヤーに選ばれました。

この言葉に象徴される出来事が、2016年には二つ起こっています。一つはイギリス国民投票でのEU 離脱派の勝利、もう一つはアメリカ大統領選でのトランプ氏の当選で、いずれも予想を覆す事件として世界に衝撃を与えました。

イギリスでは国民投票を前に、残留派と離脱派が宣伝活動を活発に行いました。残留派は、客観的なデータに基づく3000ページに及ぶ報告書を公表したものの、内容が難解で多くのイギリス国民には理解されませんでした。これに対して離脱派は、EUがイギリスに不利益をもたらしているというニセ情報を盛んに流しました。

その結果、真実に基づいて国民を説得しようとした残留派が負け、ポスト・トゥルースの手法を使い虚偽の情報で感情に訴えかけた離脱派が勝ったのです。その後離脱派は、アピールしていた内容が誤っていたことを認めて、自分たちの主張を撤回しています。けれども、離脱派を支持した国民の多くは、自分たちが騙されていたとは未だに気づかないそうです。なぜなら、彼らの多くが情報源をSNSに頼っているからです。

SNSでは、自分と同じ意見を持つユーザーをフォローするから、自分とは異なる意見を目にしなくなります。これを「エコ・チェンバー」効果と呼びます。そこに検索アルゴリズムにより自分が好む情報が選択的に優先表示される「フィルターバブル」効果が加わります。そのため情報源をSNSだけに頼っていると、真偽に関係なく自分の好みの情報ばかりに取り囲まれてしまうのです。

資料2:読売新聞 2020年10月2日 東京版、朝刊

資料1

情報が攻撃や疑心暗鬼を生む

日本では幸いにしてポスト・トゥルースの政治は行われていません。けれども、真実を冷静に見つめることなく、感情に引きずられた情報の暴走は起きています。つい最近あったのが、新型コロナウイルスの感染者に関する情報拡散です。

ある県で家族全員が感染したケースで、子どもが通う学校名が発表されました。これを機に情報が一気に拡散し、家族全員の実名が暴かれるばかりか、親の勤務先から住んでいる住所までもがSNS上で広まったのです。

人が恐怖を感じているときに、詳しすぎる情報を提供すると、人々は感情的・攻撃的になり差別や偏見につながりやすくなります。だからと言って情報が乏しいと人々は疑心暗鬼に陥り、不安をかきたてられます。

新型コロナウイルスのような感染症が流行したときに「人権の尊重」と「感染予防のための情報提供」をどのように両立させるのか。やるべきことは明らかであり、「温かい思いやりを広げて、攻撃的な恐怖心を和らげる」のです。そのためにはどうすればよいのでしょうか。

話す書く力は聞く読むで伸びる

私たちはポスト・トゥルースの時代を生きています。ネット上に不純な情報、悪意ある情報、無責任な情報が溢れかえっているうえに、フィルターバブルにもさらされている。そんな環境にいるからこそ、何より求められるのが「真偽を見極める力」と「正しく表現する力」です。

真偽を見極めるためには、何よりもまず詳しく知る必要があります。ある事柄について正しく知ろうと思うなら、ネットだけに頼らず、本や新聞などでたくさん情報を集めるのです。

一方で正しく表現するためには、受け手の受け止め方を考えながら表現する必要があります。相手を思う気持ちや心構えを身につけ、正しく表現する訓練が欠かせません。「話す力」「書く力」は「聞く力」「読む力」を磨くと身につきます。そして正しく表現するためには、あえて表現しない心構えも持ってほしい。

情報の真偽を見極めて、表現を含めて情報を使いこなす力を情報リテラシーといいます。ぜひ高い情報リテラシーを身につけてください。もう一点、皆さんに身につけてほしいのがアジェンダ設定能力です。アジェンダとは、課題や議題を意味します。すなわち情報リテラシーに基づいて、いま何が課題なのかを考える。正しくアジェンダを設定できる力を、ぜひ意識して養ってください。

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ワークショップ【探る】

テーマは「理想の情報流通とコミュニケーション」~これからの情報社会における、望ましい情報流通の仕組み、コミュニケーションのあり方とは~

山口先生の講演後は、それぞれのチームにわかれてワークショップを開始。山口先生から与えられたテーマは「理想の情報流通とコミュニケーション」~これからの情報社会における、望ましい情報流通の仕組み、コミュニケーションのあり方とは~。講演内容を基にメンバー一丸となって考え、発表を行った。ここでは、優勝したチームのプレゼン内容を紹介します。

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ワークショップ【優勝したチームのプレゼン内容】

「中学生からタブレット・新聞を活用した授業によりものごとを多面的に見る能力を養う」

授業において時事ネタを扱い、ニュースに対して各自が自分の意見を考えて発表する。他の人の発表を聞くことで、多様な意見が存在するのを認識できる。たとえ偏った情報であっても興味のあるニュースについて自分の意見をまとめて発表する。その際に新聞・タブレットを活用してバイ・リテラシーと、長い文章から情報を読み解く力を身につけます。

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ワークショップ【講評】

山口先生の講評

中学生の時に多面的に見る能力をつける。これを軸に据えたうえで、非常に広く目配りをして、まとまった意見になっていると思いました。物事を多面的に見る能力とは、意見の多様性を認める姿勢につながります。多様性に対して寛容であることは、より良い社会を作るうえで極めて重要だと思います。

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