-PROFILE-
川島 隆太(かわしま・りゅうた)
東北大学未来科学技術共同研究センター教授。
1959年、千葉県生まれ。千葉県立千葉西高校、東北大学医学部卒。同大学院医学研究科修了(医学博士)。スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学加齢医学研究所教授を経て、現職。
『自分の脳を自分で育てる』(くもん出版)、『読み・書き・計算が子どもの脳を育てる』(子どもの未来社)など著書多数。『脳を鍛える大人の計算/音読ドリ ル』(くもん出版)は100万部に迫るベストセラー。

 6月。受験の天王山である夏を目前に控えた高3生はもちろん、高2生・高1生にとっても効率の良い勉強法は気になるところであると思います。
 そこで編集部は、現在『脳を鍛える大人の計算/音読ドリル』が大ベストセラー中の、東北大学未来科学技術共同研究センター教授・川島隆太先生に脳科学的 な学習法を伺うべく、東北大学にお邪魔しました。
 広大な東北大学・青葉山キャンパスに降り立った私たちは、その緑の多さ、広さに感動。ところがそれ以上に、川島先生の口から次々と飛び出る最先端の脳科 学研究の視点から語られる学習法は、もっともっと驚きと感動があふれていました!

  脳はまだまだ未知なもの!
 私が大学で行っている研究領域は、生命科学という領域の中の「脳科学」と呼ばれるものです。100年ほど前まで、脳は人間にとって全く未知のものでした。 現在、世界中の研究者が総がかりで研究をしてますが、まだ10%くらいのことしかわかっていません。そのくらい、脳は奥深いものなのです。

 私の専門は、「脳機能イメージングを用いた脳高次機能研究」。人間がさまざまな行動や思考を行うときに、脳のどの部分が働いているか画像でとらえるとい う研究をしています。この研究により、人間が物事を覚えたり、思考したり、創造性を発揮したりするときに、脳のある部分が活性化することがわかってきまし た。その領域を、「前頭前野」と呼びます。
  人を人たらしめる、「前頭前野」の働き
 前頭前野は、行動の抑制、コミュニケーション、記憶、行動の選択、意欲、感情の制御を行っています。まさにこの前頭前野が「人を人たらしめている」と言 っても過言ではありません。人間の「こころ」に当たる場所が前頭前野なのです。

 事実、動物の中では人間が特別大きな前頭前野を持っています。

 この前頭前野が活性化することで、人間の思考力や創造性を発揮することができる。つまりは、この前頭前野がしっかり鍛えられれば、人間はよりよく思考で き、感情をコントロールでき、人とコミュニケーションをとることができるのです。
  「寝ない・食べない」では、記憶は定着しない。
 今の時期は、部活動も終わり、いよいよ本格的に受験勉強を開始する高3生も多いと思います。できるだけ早く、脳によい生活リズムを身につけるようにしま しょう。

 まず最初に言っておきますが、睡眠は受験勉強にとって非常に重要です。いや、むしろ睡眠をとらなければ、脳はきちんと働いてくれません。

 では、どのくらい眠ればよいかという疑問がわくかもしれませんが、睡眠の周期(約1・5時間)にあわせて、6時間〜7・5時間は確保したいところです。

 次に、朝ごはんをしっかり食べること。脳のエネルギー源はブドウ糖だけ、つまり糖分や炭水化物なのです。パンとごはん、どちらでもかまいませんが、朝食 抜きでは受験も乗り切れないということは頭に入れておいてくださいね。もちろん受験生だけではなく、高1生、高2生も同じです。今すぐにでも、脳によい生 活習慣を身につけるようにしましょう。
  夏休みに早起きできないヤツは負け組みだ!
 また、休み中はどうしても夜更かししたり、夜型の生活になりがちですが、理想はやはり朝型です。どんなに自分が夜型人間だと思っている人でも、人間の脳は 、午前中に最もよく働くようにできているのです。

 面白い実験結果をお話しましょう。大学生に、非常に平易な計算問題を、午前中と夜の好きな時間(本人が最も調子が良いと思っている時間)にやらせました 。すると、朝と比べて、夜は明らかに20〜30%も正答率や解答スピードが下がるんです。この結果を見れば、夜は、脳の処理能力が低下するということは明白す 。

 ですから、できるだけ脳が活発な午前中に多くのことが出来るよう、早起きをすることをオススメします。努力するなら、絶対に午前中です。私も、毎朝7時 には研究室に来て仕事を始めるようにしています。
  夏休みに塾や予備校に通うことは、脳科学的にもよい!?
 また、夏休みに予備校に通うか、自宅で学習するかということを考える人も多いかもしれません。

 私が仙台市で行った研究で、面白いデータが出ました。数百人の高齢者の方々に集まっていただき、勉強会を開きました。半分のグループは、週に1度、学習 の進捗状況を確認するために集まる機会を設け、もう一方のグループは、通信教育形式をとり、完全に自宅学習させたのです。

 その結果、明らかに週に1度集まったグループのほうが学習効果が高く、脳機能がアップしたのです。この理由としては、一緒に学ぶ仲間との競争原理が働い たり、進捗状況をチェックしてもらうため、モチベーションを保てるということだと思います。ですから、予備校や高校での夏期講習など、学習する場に足を運 ぶという機会は学習効果および脳機能を明らかにアップさせるということがわかったのです。長い夏休みを自宅学習で過ごすより、塾や予備校に通って学習する 機会を設けるのは脳科学的にもよいことなのです。
  「頭のよくなる」授業の受け方
 さて、いよいよここからが本題です。脳科学的な見地から、前頭前野を鍛える具体的な学習法をお話ししましょう。
 まず、皆さんが毎日受けている授業。この授業を受ける上で大切なこと、それは、手を使って板書をしっかりノートにとることです。この「手を使う」という 行為、これが大切なのです。

 耳で聞いたことを、手で書く。これは、情報がいったん自分の脳に入ってきて、それが脳で処理されて、手でノートに書き写す、つまり情報のインプットとア ウトプットという一連の流れができます。よく、授業を集中して聞くためにノートをとらないという人がいますが、これはみすみす脳を鍛えるチャンスを逃して いるということになります。
  難しいことを考えているときよりも、音読や簡単な計算をしているときのほうが脳を活性化させる!
 それから、私が脳を研究していく中で発見した、驚きの結果を紹介します。

 人間の前頭前野というのは、難しいことを考えると活性化するのではなく、単純な計算や音読をすることで活性化することがわかったのです。

 この研究結果は、もともと、「テレビゲームをすると頭が良くなる」という仮説を検証しようとしたときにわかったことです。私はテレビゲームが大好きです 。そこで、「テレビゲームは頭によい」ということを検証できたら、スポンサーとしてたくさん研究費を出してもらえるかなと企んだんですね(笑)。そこで、 テレビゲームと対極にあると考えたのが、一桁の足し算、引き算、掛け算です。こんなつまらないことをしているときは、きっと脳も活性化していないはずだと 思ったんですね。

 ところが、です。簡単な計算をすらすらと速く解くこと。そして、文章を音読することが前頭前野を含む脳の多くの領域を活性化することがわかったんです。 少しがっかりしましたが(笑)、結果的に、すごい発見をすることになりました。
  脳のウォーミングアップで、記憶力は20〜30%増、理解力は10%増!
 みなさんも、部活動の試合前には、ちゃんと準備運動=ウォーミングアップをしますよね。勉強もそれと同じで、脳をフル回転させたいと思うなら、きちんと準 備運動をしなければならないのです。いきなりハードな問題を解こうと思っても、脳がついていかない。逆に、準備運動をしておけば、とてもよく脳が働くので す。

 では、どのくらい脳の働きがよくなるのでしょうか。それを検証するために、ある実験を行いました。小学生や大学院生に、2分程度の簡単な一桁の計算や本 の音読を行った後、さまざまなテストを行ったのです。その結果、簡単な音読や計算の直後には、記憶力が20〜30%向上、理解力も10%以上向上することがわかり ました。

 受験生においては一桁の簡単な計算である必要はありません。普段の受験勉強の中で行う、簡単な微分積分の計算、因数分解など、考えなくてもすらすら解け るような問題をできるだけ速く解くことが大切です。また、音読は、その日にやる範囲の教科書を音読するとよいでしょう。英語や日本史など、どの教科でもか まいません。
  音読の二つの効果を知って、賢く勉強しよう!
 ところで、音読についての注意点があります。

 ウォーミングアップとしての音読は、知らない文章を読み、口から発声するということが大切です。なぜ、知らない文章を読むのがいいのでしょうか。これは 、脳に新しい情報をインプットし、処理し、口からアウトプットするという情報の流れができるからです。覚えてしまった文章だと、情報のインプットの部分が あまり働かず、アウトプットばかりが働いてしまう。これは、脳のウォーミングアップには残念ながらならないのです。

 一方、記憶するため、学習のための音読効果ももちろんあります。音読は、目で見て、口から発声し、その声が耳に入る、というふうに五感をフル活用できる 勉強法です。暗記したいときには、何度も繰り返して音読することと、紙に書くことが大事です。これで、より記憶を増強することができます。

 ですから、みなさんはウォーミングアップとして音読をするなら、知らない文章(天声人語などの新聞のコラムは、2〜3分で読める上、毎日違う情報が入る のでオススメです)を読むこと、そして、覚えるためには、慣れ親しんだテキストを何度も音読し、書くことが有効であるという二つの効果を使い分けて、賢く勉強しましょう。