天文学者自然科学研究機構国立天文台准教授
縣 秀彦先生
各界の最前線で活躍する経済人や研究者を講師に迎えて開催する「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は『面白くて眠れなくなる天文学』(PHP研究所)『地球外生命は存在する!』(幻冬社)などの著作で知られる国立天文台准教授の縣秀彦先生に登壇いただき「地球外生命は存在するか?」をテーマにご講演いただいた。果たして地球以外の星に我々のような知的生命体が存在する可能性はあるのか。最新の研究分野「アストロバイオロジー」を手掛かりとしながら果てしない宇宙の謎に迫った。
1961年長野県生まれ。信濃大町観光大使。東京学芸大学大学院修了(教育学博士)。東京大学教育学部附属中・高等学校教諭等を経て1999年より国立天文台勤務。現在、天文教育普及研究会会長などを務める。『面白くて眠れなくなる天文学』(PHP研究所)、『地球外生命は存在する!』(幻冬舎)、『星の王子さまの天文ノート』(河出書房新社)、『オリオン座はすでに消えている?』(小学館)など多数の著作がある。NHKラジオ深夜便「ようこそ宇宙へ」を担当、NHK高校講座「地学基礎」にも出演中。
宇宙人がいると思う人はどれぐらいいますか? 残念ながら現時点で、地球以外の星で生き物を見つけたという確たる証拠は何一つありません。近年では、天文学の進歩によって数多くの太陽系外惑星が発見されています。近い将来、生命が存在する可能性のある「ハビタブル」な惑星の発見や、生命の存在が確認されるかもしれません。
そこで今、宇宙物理学や生物学、化学などを融合した「アストロバイオロジー」という新しい学問が誕生しています。さまざまな分野の人が協力して、宇宙における生命の研究をしようというわけです。例えば、私の勤める国立天文台は南米チリにも欧米と共同で観測所を運営していて、そこには超巨大電波望遠鏡「アルマ」があります。アルマの目的の一つは、宇宙に存在する「アミノ酸」を見つけることです。アミノ酸は、生命に必要なタンパク質のもととなる有機化合物です。
地球上の生命がどこで誕生したのかについては諸説あって「深海底説」「温泉説」「宇宙説」の三つがよく議論されます。私は長野県生まれということもあって「温泉説」が好きなのですが、日本では「深海底説」を支持する研究者が多いです。一方で近年、彗星からアミノ酸が発見されたことで、地球外から生命がやってきたとする「宇宙説」も盛り返してきています。ただし、地球以外の星でいまだに生命が見つかっていないのに、宇宙から生命がやって来たと考えるのはナンセンスです。ですから国立天文台では系外惑星で生命を見つけようとしているわけです。
一方で、太陽系内の探査はNASAが熱心に続けていて、最近期待されているのは土星の衛星エンケラドスです。表面は氷ですがすぐ内側に海があり、地球の深海底と同じように温度の高い場所があるからです。
系外惑星については、現在3600個が見つかっています。例えば昨年、地球から39光年の場所にある「トラピスト1」という恒星の周りに7つの惑星が発見され、そのうちのいくつかは「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)」にあると考えられています。2020年代には系外惑星の大気のスペクトルを観測して生命の有無を調べる「TMT」という巨大な望遠鏡が完成予定です。皆さんが大学院生ぐらいの頃には完成しますので、ぜひ活用してください。
私は宇宙というものが身近な存在として人々の幸せに貢献するのみならず、これからの世の中が変化していくうえでのとても大事なツールになるだろうと考えています。例えば南米コロンビアで、こんな出来事がありました。コロンビアでは長く内戦が続き、子どもたちの心も荒んでいました。そんなときに、メデジンという町に近代的なプラネタリムが完成します。そこを訪れたギャング団の若者たちが、プラネタリウムの上映後に武器を捨てたのです。「自分たちのテリトリーは地球だ」ということに気づいたからです。その後、彼らは学校に通い始めたといいます。
これだけ広い宇宙の中で皆さんは唯一無二の存在です。これはすごいことです。そう考えると、試験で少しぐらい悪い点数を取ったなんていうことはたいしたことではありません。大事なことは夢を持ち続けること。そしてけっして夢を諦めないことです。
そのためには人の三倍の努力をしてください。天文学は今、人類史上もっともワクワクドキドキする時期に差しかかっています。皆さんはまさしく、そうした時代の申し子です。これからの活躍に心から期待をしています。
テーマは「知的生命体を想像し、その理由や生存する天体の条件を考察する」
「質問があればいつでも受けつけます」と縣先生。「今まで誰も見たことのないものを考えましょう」とアドバイスを送り、参加者たちの議論の行方に熱心に耳を傾ける。
意見を一つにまとめる
ここからはチーム力の見せどころ。各自の意見を一つにまとめてワークシートに記入していく。自分たちの考える知的生命体のイメージを伝わりやすくするため「イラストを添えてみてください」と縣先生。どんな奇想天外な生命たちが誕生するか。期待も高まる。
予選に挑む
総勢20チームの代表者が発表を行う予選会。平たいものや光合成をするものなど、さまざまな姿かたちの知的生命体が披露される。本選へ進むためには、大胆な発想力のみならず、テーマに含まれる「理由」と「条件」を論理的に説明する力も必要だ。
予選を勝ち抜いて、いよいよ本選。
いよいよ本選。予選を勝ち進んだ6チームが壇上でしのぎを削る。「手足が必要に応じて飛び出す」「超音波でコミュニケーションを取る」「骨がない」など、ユニークな生命体が次々と登場。「おもしろい」「生命をしっかり勉強していますね」と縣先生の講評にも力が入る。
表彰式
審査の基準は「今まで見たことのない生命体」であること。そして「皆さんがその生命体を何と呼んでいるか?」も重要なポイントだったと縣先生。優勝の栄冠に輝いたのは「気体」の生命体を想像したチーム。表彰式と記念撮影ののち、縣先生からは「けっして夢を諦めないでください」と参加者全員にエールが送られた。
茨城県 私立 茗溪学園高校 2年
久保木 明くん
縣先生の講演では、最前線で活躍する科学者たちの考える知的生命体の姿と僕たちの想像力とがそれほど離れてはいないというお話に驚かされました。ワークショップでは書記を担当したのですが、初参加ながらもチーム全体のまとめ役を担うことができたと思います。今日は知識はもちろん、自分の意見を積極的に伝えていくことが大切だということを学びました。将来は難病を解き明かす医師になりたいと考えています。
埼玉県立 所沢北高校 2年
保田盛 吏矩くん
初参加でしたがチームとして優勝することができて、とても有意義な経験をすることができました。「気体」の生命体のアイディアを提案したのは自分だったので、その点を縣先生に評価していただいたのはとても嬉しかったです。ですが優勝できたのはチームメンバーのおかげです。コミュニケーション能力に自信のない自分の意見を、みんながてきぱきとまとめてくれたからこそ優勝できたのだと思います。チームワークの大切さと、自分の課題を発見したワークショップでした。
東京都 私立 桐棚高校 2年
山下 凜太朗くん
昔から天文学が好きだったのですが、今日の縣先生の講演では地球生命の起源について諸説を丁寧に説明していただけたこと、そして「諦めずに努力する」ことを強調されていたことが印象に残りました。ワークショップには過去何度か参加していますが、今回初めて発表者に挑んでみました。みんなのプレゼン力の高さに負けたくないと思ったからです。経済学部志望なのですが「先の見えない世界の課題を解決するためにはどんな力が必要か」ということも今日は学ばせていただきました。
東京都 私立 吉祥女子高校 2年
坪井 美由花さん
ディスカッションでは、同世代の人たちのいろいろな意見を聞くことができてとても楽しかったです。縣先生の講演で印象深かったのは、コロンビアのプラネタリウムの話です。宇宙という壮大なものを扱う天文学が、私たちのすぐ身近な社会にも貢献することができると知ってびっくりしました。将来は英語力を磨いて、日本と世界を結ぶ架け橋になれるような仕事に就きたいです。
東京都 私立 武蔵高校 2年
斉藤 颯汰くん
僕は積極的に意見を言うタイプではないのですが、今日のワークショップでは進んで発言することができました。チームを引っ張る経験は自信になりました。ただし決勝には進めませんでしたので、もっと大胆な発想をすればよかったと反省しています。縣先生の講演では、多くの研究者同士が協力し合う「アストロバイオロジー」のお話に感銘を受けました。将来は、さまざまな社会の問題を解決することで誰かを助けるような仕事に就きたいと考えています。