株式会社NTTドコモ
執行役員5Gイノベーション推進室長
中村 武宏先生
研究やビジネスの最前線を走る“現代の偉人”を講師に迎える「トップリーダーと学ぶワークショップ」。今回は、株式会社NTTドコモで5Gイノベーション推進室長を務める中村武宏先生をお招きし、「携帯電話の 歴史と発展」をテーマに講演いただいた。中村先生は、日本の携帯電話・スマートフォン業界を牽引するNTTドコモで5G普及の最前線で活躍されています。高速で大容量のデータ通信技術が、私たちの生活をどう変えるのか。さらに5Gの次に控える6Gが実現する世界とは一体どんなものなのか。通信技術の進化が社会に与える影響の大きさに多くの高校生が熱心に聴き入った、当日の様子をお伝えする。
携帯電話のサービスが始まったのは今から40年前、1980年頃です。最初はショルダーフォンと呼ばれ、肩にかけて持ち運びする単なる電話でした。これが1G、つまり第1世代でまだアナログ方式です。それから携帯電話は概ね10年ごとに大きな進化を遂げ、第2世代ではデジタル方式となり端末もずいぶん小さくなりました。
第3世代からは通話に加えて、本格的なデータ通信もできるようになります。そして現在、皆さんが使っているスマホが第4世代、今では電話としてのみ使う人は少数派で、用途のほとんどはデータ通信、データ量の多くが動画に使われています。
この間に国際標準化がなされ、スマホは世界中で使えるようになっています。今ではスマホはみんなが持っていて当たり前、いつでもどこでも普通に使える、そんな存在になっています。けれども、どこでもつながるようにするためには、基地局を全国で増強するなど陰で地道な努力を重ねてます。
そしていよいよ2020年の春から、次の世代つまり5Gのサービスが始まります。
資料1
5Gの特長は、大きく3つあります。高速大容量、高信頼低遅延、多端末接続です。
まずデータの伝送速度が、ダウンロードで20Gbps,アップロードで10Gbpsになります。現状の4Gの最新機種でダウンロードが1Gbpsぐらいですから、20倍ぐらい倍ぐらい速くなるわけです 。
さらに低遅延です。データの塊「パケット」を端から端まで送るのにかかる時間が、0.5ミリセカンドつまり2000分の1秒ぐらいまで短くなります。すでに人間の感覚を超えていますが、5Gの用途を考えると遅延はこのレベルに抑えなければなりません。通信の信頼性については、成功率が99.999%です。通信を送れば届くのが当たり前のように思われていますが、実は100%完全というのは現実問題としてありえないのが正直なところです。多端末接続については、1キロ平方メートルあたり100万デバイスまで接続可能となります。
これほどまでの規格を導入する意義は、第一にひたすら増加し続けるパケットトラフィックに対応するためです。皆さんがスマホでデータ量の多い動画をストレスなく扱えるようにするには、これぐらいの規格が必要なのです。さらに5G導入により、さまざまな業界とのコラボレーションが期待されています。そうして新たな産業を創出するためにも、この規格必要なのです。
こうした規格を実現するため通信技術も大きく進化していて、最先端の無線技術を導入しています。5Gで使われる無線はビーム状になっていて、高速移動中でも通信可能です。5Gのエリアを広げるため、今後4年ぐらいで1兆円を投資する予定です。
資料2
5Gを使えるようになると、世の中はどのように変わるでしょうか。皆さんがスマホを使って楽しむほかに、5Gには多くの社会問題の解 決が期待されています。
まずは医療の地域格差の解消です。地方では大きな病院が少なく、専門医の数も限られています。そこで大都市の病院の専門医が、5G による高精細な映像通信を使って地域の医療施設を支援します。遠くにいる専門医が患者さんを撮影した映像を見て診断し、患者さんのそばにいる医師に処置を指示できるようになるのです
遠隔操作に関しては、建設機械への活用も期待されています。建設業界では働き手不足に悩んでいますが、建機を遠隔操作できれば人 手の問題を解決できる可能性があります。ただし遠隔操作するためには、高精細な映像を見ながら、操作が低遅延で伝わる必要があります。レバーを動かしたときに、建機の動きがワンテンポ遅れるようでは作業性が一気に悪くなるからです。
ロボットの遠隔操作についても確実にニーズがあります。例えば工場などでの事故対応です。有毒ガスが吹き出し、人間が入ったら危険な空間でも、ロボットを活用すれば安全に対処できます。モノをうまくつかめるように、指先の触覚までコントロールできるロボットも開発されています。いずれにしても遠隔操作では、手元での操作と実際の動きのズレを無くすこと、つまり低遅延性が決定的に重要です。
ドローンとの組み合わせも期待されています。ARスマートグラスを使ってドローンから送られてくる映像を見ながら、オペレーターがビルや鉄塔など危険な場所の点検をします。農業でも遠隔操作への期待は高まっていて、農業用の機械を室内からコントロールできるようになれば、きつくてつらい農作業から人は解放されます。
近い将来、実用化が期待されているクルマの自動運転では、危険時には基本的にクルマを止めるルールになっています。止まってしまったクルマを再び動かす仕組みとして考えられるのが、通信を使った遠隔操作です。ほかにもクルマに積まれたセンサーからの情報に加えて、交差点などのデータもすべて吸い上げてコントロールできるようになれば、自動運転はより安全になり、交通問題の解消につながります。データ収集には5Gが欠かせません。
もちろんエンターテイメント、リアルなスポーツの新しい楽しみ方やeスポーツなどの楽しみも広がっていくでしょう。
まだ5Gのサービスが本格普及する前なのに少し気の早い話ですが、すでに私たちはその次、6Gのサービスを10年後には開始する予定です。2030年といえば、ちょうど皆さんが社会の主役となって活躍するタイミングですね。
6Gは5Gをさらにパワーアップしたシステムとなります。まず超高速・超大容量通信が可能になり、具体的には100Gbpsを超える仕様と なります 。遅延性については1ミリ秒以下の超低遅延で、信頼度は99・99999%、多数接続に関しては1平方kmあたり1000万デバイスです。さらにエリアカバー率100%に加えて、新たなサービスエリアとして高度2万mの上空から海中、そして宇宙空間までをカバーする予定です。
5Gからさらに飛躍的に高性能化した6Gにより期待されるのが次の4点、社会課題の解決、人とモノの通信、通信環境拡大、フィジカル・サイバー融合の高度化です。社会課題については、今後ますます広がりかねない都市と地方の社会格差や文化的格差が解消される可能性があります。超高速通信が実現すれば、距離の隔たりを感じずに済むようになるため、地方に暮らしていても都市と変わらない生活環境を手に入れられます。
ウェアラブルデバイスがより高機能になり、五感通信なども実現するでしょう。そしてIoTが普及し、あらゆるモノがインターネットにつながります。8Kの高精細な映像や1ミリ秒以下の超低遅延は人間の感覚の限界を超えた世界を実現します。サイバーフィジカルの融合が高度化し、人体にデバイスが埋め込まれる可能性も出てくるでしょう。
距離と時間の隔たりを通信がゼロにするとき、今よりはるかに安心安全で豊かな暮らしが実現すると、私は信じています。この6Gをまだ10年も先の話と受け止めるのか、あとわずか10年で世界が変わると、今からワクワクするのか。いずれにしても、その社会の主役は皆さんです。
資料3
テーマは「2030年代の通信社会を創造する」
❶まずは自分の考えを予備シートに記入してからディスカッションスタート。役割分担を行なって各自がチームへの貢献を意識する。「人体と通信機器の融合」「ARとVRで医療改革」な ど、それぞれのチームがテーマに対する自分たちの方針を明確にして、予選会に挑む。
予選会
❷リハーサルを済ませてから、いざ予選会。原稿を作成し、自分たちの意見をしっかりと伝えるために口調やスピード、声の大きさにも気を配る。口頭で説明する箇所と図で示す箇所を整理するなど、ワークシートの書き方にも工夫が必要だ。
決勝プレゼン
❸決勝戦。予選を勝ち進んだ5チームが壇上でプレゼンを競う。「VR世界」「どこでもグルメ」「テレパシーの実現」など、多種多様で個性的な意見が出そろう。良いアイデアだと評価しつつ、質問を投げかける中村先生。
優勝チーム集合写真
❹いよいよ、優勝チームの発表。「どのチームも素晴らしくて困った」と語る中村先生が選んだのは、VR学校についてプレゼンしたチーム。東進にフィットしたプレゼンが評価を得た。表彰式と中村先生を囲んでの記念 撮影のあと、全体講評を頂戴してワークショップは締めくくられた。
神奈川県 私立 桐光学園高校3年
三橋 茉由子さん
新しい技術「5G」に興味があって参加しました。未来につながる技術で、今までできなかったことができるようになる一方でプライバシーの問題があるというお話が一番印象に残りました。 ワークショップでは自分から発表者になって良い経験になりました。
東京都立 駒場高校3年
樋口 蒼太朗くん
建築系の学部学科を目指しています。夢でしかなかったことが新技術で近い将来には実績にできるというお話にとても感動しました。グループディスカッションも盛り上がって深い話ができたので参加してよかったです!
東京都 私立 晃華学園高校3年
板倉 歩里さん
他校の参加者と討論することが新鮮で貴重な機会なので3回目の参加です。どんな進路に進むにしろ新しい通信手段や技術をうまく使っていくことが大切なのだと、中村先生のお話を聞いて強く感じました。