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トップリーダーと学ぶワークショップ
TOP東進タイムズ 2022年1月1日号

「もうすぐ」かもしれない宇宙人と出会える日

自然科学研究機構国立天文台 上席教授・副台長
総合研究大学院大学教授 理学博士
国際天文学連合副会長

渡部 潤一先生

今回は自然科学研究機構国立天文台で副台長を務める渡部潤一先生をお招きして『続々見つかる「第二の地球候補」~地球外生命発見への期待~』をテーマに講演いただいた。

【ご講演内容】

渡部先生は小学校6年生のとき、ジャコビニ流星雨の観測に挑戦しました。残念ながら期待通りに流星を見ることはできませんでしたが、自分なりの大発見をします。見つけたのは「世の中にはわかっていないことがまだまだある」という事実です。

それ以来毎晩、自分で流れ星を観測するようになり、自然な成り行きの中で天文学者となりました。謎に満ちた宇宙で渡部先生は、第二の地球の存在と、そこにいる可能性の高い地球外生命の発見に取り組んでいます。人類は知的文明としては未熟であり、けっして宇宙の中心にいるわけでもないと語る渡部先生の、オンライン講義とワークショップの様子をお伝えします。

世界は未知にあふれている

小学生のときから天文学者になろうと思っていました。ちょうどその頃アポロ計画で月面に降り立った人を見て感激したり、火星の地球大接近で大騒ぎになったりした記憶もあります。なかでも決定打となったのが1972年10月8日、小学校6年生のときのジャコビニ流星雨騒ぎです。

雨あられのように流れ星が降ると聞いて、私は居ても立っても居られなくなりました。それでひと晩だけ広い校庭で流れ星を観察させてくださいと、友だちを集めて担任の先生にお願いしたのです。そしてわくわくしながら、1万個も降ってくるといわれた流れ星をじっと待っていました。

ところが結果はゼロ。たったの一つも流星は現れなかった。なぜだろうと思い、いろいろ本を読んだ結果、小学生なりに出した結論が「世の中には、まだまだわかっていないことがいくらでもある」でした。

偉い学者の先生が「今夜、たくさん流れ星が出ます」と言っても出ないのなら、逆に僕が予測されていない流れ星の大出現を発見できるかもしれない。もし見つけることができたら、自分がフロンティアに立てるのです。こんなおもしろい世界があるのだと夢中になり、天文学者になろうと決めました。

実際、未知の世界に挑戦するのが天文学者の仕事です。国立天文台には国内9カ所、海外にも2カ所の観測施設があり、宇宙を観測しています。ハワイにある『すばる望遠鏡』は口径8メートルもあり(資料1)、さらにチリのアタカマ砂漠にある『アルマ望遠鏡』は大阪にある1円玉を東京から見えるほどの視力です。こうした望遠鏡を使って私たちは、宇宙の謎に挑んでいます。

資料1

資料1

地球外生命体は存在するのか

なかでも最大の謎は「地球以外にも生命は存在するのか?」でしょう。その答えはもうすぐ出るはずです。しかも天文学者の「もうすぐ」は、通常なら1万年とか10万年ぐらいのスケールですが、わたしの言う「もうすぐ」は、これから先10年ぐらいの感覚です。実際いつ「宇宙で生命発見!」の報告があってもおかしくない状況です。

天文学では次の五つの観点から、地球外生命体についてアプローチしています。
1 .生命を育む材料はあるのか
2.水はあるのか
3.第二の地球はほかにもあるのか
4.第二の地球に生命は生まれているのか
5.どの生命でも、進化し文明を持つのか

まず生命の材料とは何でしょうか。生物の細胞を細かく解析していくと、タンパク質からアミノ酸にいたり、最後は元素に行き着きます。生物を構成する元素は、主に酸素、窒素、炭素、水素です。これらの生命材料を合成する工場、それは星です。星の中で水素がくっついてヘリウムができ、ヘリウムから炭素、窒素、酸素などが作られていく。星の中で作られた生命の材料は、超新星爆発などによって宇宙にばらまかれます。

私たちの体は、星によって作られた物質によってできているのです。実際にアルマ電波望遠鏡で探索すると、今まさに惑星が作られつつある領域で、単純な糖類分子が見つかっています。

タンパク質のもとになるアミノ酸が、地球に降ってくる隕石の中からも見つかっています。生命を育む材料は、すでに宇宙にいくらでもあるのです。

では水はどうか。水素原子2個と酸素原子1個からなる水分子は、やはり宇宙のどこにでもあります。

水素は宇宙ができた頃から存在していて、酸素は星の中で作られています。だから宇宙には水もたくさんある。彗星の正体は氷の塊だし、はるか遠くの宇宙でも水は確認されています。

数十億もある第二の地球

第3のポイント、第二の地球はほかにもあるのか。かつては身近な太陽系の中で、地球の隣りにある火星や金星なども温暖な気候の惑星ではないかと考えられていました。より太陽に近い金星には、旧ソ連が探査機を飛ばしたものの、毎回故障してしまう。なぜなら金星の表面温度は470℃と鉛でさえも溶ける高温のうえ、90気圧もある。とても生命が住める環境ではありません。

火星は、表面温度がマイナス55℃、気圧は0.003気圧しかない。太陽系には地球のように表面に液体の水をたたえた惑星はないのです。

まさに地球は人間のような生命にとってちょうどよい場所であり、これを「ハビタブル・ゾーン」と呼びます。ただ天体の表面ではなく地下まで含めて考えると、状況は変わる可能性があります。例えば木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドゥスなどの地下には海がありそうです。

地球でも深海の熱水噴出孔には生命がいます。そしてエンケラドゥスの地下には、熱水噴出孔と極めて似た環境があるとわかりました。そもそも地球の生命は熱水噴出孔で誕生したともいわれています。だとすればエンケラドゥスでの生命誕生の可能性は否定できません。

太陽系の外、ほかの恒星のまわりに第二の地球はないのでしょうか。宇宙において地球のような惑星の存在が、初めて明らかになったのは1995年でした。惑星を発見する方法には大きく二つ、ドップラー法とトランジット法があります(資料2)。NASAのケプラー宇宙望遠鏡を使いトランジット法ではくちょう座付近を観測した結果、2015年までに約5000個の惑星候補を見つけました。その中から第二の地球候補となる惑星が見つかっています。

第二の地球の候補はどれぐらいあるのでしょうか。系外惑星の数は2021年5月の段階で約7200個見つかっています。少なく見積もっても、そのうちの6分の1は地球型の惑星です。さらに、その22%、ざっと4分の1がハビタブル・ゾーンに入っていると考えられます。6分の1×4分の1=24分の1だから、惑星のざっと4%ぐらいは第二の地球の可能性があるわけです。

これがどれだけすごい数になるかといえば、天の川銀河だけで少なくとも1000億の惑星がある。つまり第二の地球候補は40億個以上であり、地球はその中のたった一つに過ぎないのです。全宇宙にある星の数を考えれば、天の川銀河系の1000億倍にもなる。宇宙にはとてつもない数の第二の地球があるのです。

資料2

資料2

大宇宙の中では、とても未熟な地球

先ほどのトランジット法で惑星を見つけるのは、例えるなら、新宿から100キロ離れた富士山の頂上にある100ワットの電球のまわりを飛んでいるショウジョウバエを見つけるようなものです。これで惑星の存在がわかりました。では、その惑星に生命体がいるかどうかはどうやって探すのか。惑星の大気の成分を探査する、つまり先の例の飛んでいるショウジョウバエの表面を調べるのです。

そのためには現在の口径8メートルのすばる望遠鏡では力不足です。そこで次世代の超大型望遠鏡、鏡の直径が30メートルあるTMT(Thirty Meter Telescope)を作り、第二の地球上にあるはずのバイオマークを探そうとしています。TMTが完成しバイオマークが見つかれば、そこに生命がいるとわかる時代が来る。

そのとき5番目の観点が問われることになります。どの生命も地球上と同じような進化を遂げて、文明を持つようになるのか。こればかりは、まったく予想がつきません。けれども、探す努力は続けています。例えば電波を使っている生命を探す「知的生命探査(SETI)」を行い、知的生命体に宛てた手紙を送ったりもしました。

天文学者は楽観的です。私たち人間がこうやって地球上にいるのだから、第二の地球のいずれかには地球外生命がいて、文明を作っているに違いないと考える。そもそも我々自身が、宇宙についてようやく理解し始めたばかりです。138億年にもなる宇宙の長い歴史からみれば、せいぜい数千年しかない人類の知的文明など「ひよっこ」に過ぎません。

宇宙のどこかには、成熟した大人の知的文明が必ずあると思います。それを思えば、いまだに戦争を繰り返している地球の人類など、いかに未熟なのでしょうか。アンドロメダ銀河には120億の第二の地球があり、その1%で生命が誕生したとして1億2000万、さらにその1%に文明があれば120万にもなるのです。

ぜひ皆さんには、広大な宇宙のどこかにいるはずの生命に思いを馳せながら、夜空を眺めてもらいたい。見上げれば、そこには必ず宇宙があり、そのどこかには地球をはるかに上回る文明があるはずなのです。

資料3

資料3
ワークショップの写真

ワークショップ【探る】

【地球外知的生命体を思い描き、その形や生息環境を考えてください】

渡部先生の講演後は、それぞれのチームにわかれてワークショップを開始。渡部先生から与えられたテーマは【地球外知的生命体を思い描き、その形や生息環境を考えてください】。講演内容を基にメンバー一丸となって考え、発表を行った。ここでは、優勝したチームのプレゼン内容を紹介します。

ワークショップの写真

ワークショップ【優勝したチームのプレゼン内容】

陸と海の地球外生命体を定義

まず地球外生命体の定義を、コミュニケーションを取れることとしました。生息地域は陸と海に分けています。陸にいる生命体は、人間と共存しています。一つの胴体に顔がいくつもあり、さまざまなことばを、それぞれの顔がずっと話し続けています。触覚もたくさんあり、電波によって仲間とコミュニケーションをとり、大きな足で地面を移動します。海にいる生命体はスライムのようにプルプルした水っぽい感じです。移動しながら海中のミネラルや塩分を取り込み、最終的には海と同化しながら、海全体を支配していきます。コミュニケーションには音波を使います。

ワークショップの写真

ワークショップ【講評】

渡部先生の講評

陸と海の2種類の環境での生命体を考えたこと、なかでも陸にいる生命体については、人間との共存を想定しています。これは飛び抜けてユニークな発想で、人間の進化を前提とすれば、将来の地球に起こりうる状況かもしれないとの気づきを得ました。

未来発見サイト

タイトル

ナガセの教育ネットワーク

教育力こそが、国力だと思う。